国際保健用語集
用語 | ヘルスシステム |
---|---|
概要 |
(英語訳 : Health System) ヘルスシステムはヘルスケアシステムとも呼ばれ、人々に保健医療サービスを提供するために必要な資源、組織、財政およびマネジメントを組み合わせた複合的な活動とされる。また、その目的のために割り当てられた資源を用いて、具体的なヘルスプロモーション、疾病予防、疾病治療および機能回復サービスを人々に提供するために組織されたアレンジメントをヘルスシステムという。 WHOではヘルスシステムを、第一の目的が健康の増進、回復、維持であるようなすべての活動を含むものと定義し、その中に含まれる活動として、 (1)公的なヘルスサービス、 (2)伝統的治療師による活動、 (3)医薬品の使用、 (4)疾病の家庭治療、 (5)ヘルスプロモーション、疾病予防および健康改善のための公衆衛生活動、 (6)健康教育、 を挙げている。 ヘルスシステムの核となる活動は、先進国、途上国を問わず、さまざまな種類のプログラム形成であり、これは資源、すなわち人材、施設、必要物品および知識の複合体の活用に基づいて行われ、そこから人々に保健医療サービスが提供される。また、資源の活用、プログラム形成および保健サービス提供のすべての面において、経済支援とマネジメントの両面からサポートが必要である。 人々の保健医療に対するニーズへの対応は、このようなヘルスシステムのプロセスを通じて行われ、その結果一定の健康水準がもたらされることになる。 現在、途上国のヘルスシステムが直面する主要課題として、 (1)保健医療分野で働く人材の不足による保健医療労働力の危機、 (2)劣悪な保健医療情報システム、 (3)不十分な保健財政、 (4)公平性に向けたヘルスシステムの構築 が挙げられている。これらの課題に対応するために、さまざまな形のヘルスセクターリフォームが実施されている。(中野博行) |
用語 | インフルエンザ |
---|---|
概要 |
(英語訳:Influenza) 原因となるインフルエンザウイルスにはA・B・Cの3つの型があるが、ヒトで流行するのはA型とB型である。 A型インフルエンザウイルス表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、これらの型の様々な組み合わせにより、ウイルスの抗原性が決まる。 ブタやトリなどヒト以外の宿主に分布するウイルスもあるが、ヒトに感染するA型インフルエンザウイルスは数10年ごとに突然別の亜型が出現する。これが、新型インフルエンザの登場である。 人々は新型ウイルスに対する免疫がなく、大流行となり多大な健康被害につながる。1918年には新型のスペインかぜ(H1N1)が世界各地で猛威をふるい、全世界での罹患者6億、死亡者は2000~4000 万人にのぼったといわれる。昨今は、トリの高病原性ウイルスA/H5N1が、ヒトの間で新型インフルエンザとして流行するのではと危惧されている。 インフルエンザの臨床症状は、急に現れる発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛などであり、通常の感冒と比較して全身症状が強い。高齢者では呼吸器系合併症により死亡する場合がある。小児では脳症の合併が特に日本で多いとされている。 抗インフルエンザウイルス剤としては、現状ではM2イオンチャンネル阻害薬(アマンタジン)とノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル)が入手可能である。(中野貴司) |
用語 | R&D(研究開発) |
---|---|
概要 |
(英語訳:Research and Development) 保健研究開発の潮流は、世界保健総会 World Health Assembly (WHA) の決議を見ると理解しやすい。 2016年5月の WHA では、23号決議 (WHA69.23「研究開発に関する専門家諮問作業部会:資金調達と調整」の報告のフォローアップ) でR&D に言及している。これは 2013 年の同名の決議 (WHA66.22) に沿ったものである。 全ての人が過不足なく医薬品を使用するためには、適正な R&Dが重要である。そのためには高価な医薬品のみでなく安価な医薬品を開発し、先進国で問題となる疾患のみならず、開発途上国で影響の大きい疾患も研究する必要がある。 このような R&D の不均衡を避けるための組織が「保健研究開発 グローバル・オブザーバトリー (Global Observatory on Health R&D)*1」である。そのウェブサイトでは、人口統計や研究資金など、様々なデータが得られる。これによって、それぞれの地域や疾患に対して、適切な研究開発が行われているかというモニタリングが出来る。 しかし、R&D の公平性は必ずしも保たれているとは言えず、例えば、主に低所得国および低・中所得国で問題となっているマラリアと結核は、保健研究開発に関するグローバルファンドの 1% が費やされているに過ぎない*2。資金の確保とのその配分は、現在グローバルヘルスが抱える大きな課題である。(神作麗) *1 : http://www.who.int/research-observatory/ *2 : http://www.thelancet.com/pdfs/journals/lancet/PIIS... |
用語 | アジアインフラ投資銀行 |
---|---|
概要 |
(英語訳:AIIB, Asia Infrastructure Investment Bank) アジア地域の相互接続性及び経済統合並びに既存の多国間開発銀行との協力を理念として中国が主導して2013年に設立が提唱され、2016年1月に開業した国際開発金融機関。本部は中国の北京。初代総裁は世界銀行(WB)やアジア開発銀行(ADB)での勤務経験がある金立群(Jin Liqun)が2016年1月から5年間の任期で選任された。 創設時は57か国であったメンバーは、2018年10月時点で87か国(手続き中を含む)となっているが、ADBを主導する日本と米国は加盟していない。2018年10月現在で中国は約31.0%を出資し、議決権は約26.6%を占めている。議決権が2番目に多いのはインドの約7.6%、アジア域外加盟国全体では約25.0%である。 2016年6月に最初の事業として、バングラデシュの電力改善融資及び3件の協調融資案件の総額約5億ドルが承諾されて以降貸出しが展開され、2017年末までに23件が承諾されている。(平岡久和) |
用語 | Unmet Need |
---|---|
概要 |
"need"の定義は、「プロフェッショナルの視点から捉えた、ある対象集団の課題」である。したがって"unmet need"は、「課題があるにもかかわらず、それが解決されない状態である」ことを記述的、定性的、あるいは定量的に示す。つまり、対象集団の"need"が確定してはじめて"unmet need"を示すことができる。 "need"と"unmet need"の考え方は、どの保健医療サービスにも適用することができる。本項では、一例として母性保健で用いられる"unmet obstetric need"を例にとって解説する。 ベルギー・アントワープ熱帯医学研究所に事務局を置くUnmet Obstetric Need Networkは、妊産婦死亡低減のための政策決定およびプログラム策定等に資する臨床疫学研究を世界各国で実施し、その系統的解析を行うことで、公衆衛生学的知見を集積・活用する目的で設立された。ここで"need"は「妊産婦死亡に至る重篤な合併症を発症した妊産婦のうち、救命のために帝王切開などの外科的医療介入を要する事態」と定義し、その発生率は全分娩のおよそ1.1-1.3%と推定されている。 ある地域・期間を設定した場合、その条件下での分娩数は推計が可能である。また、その地域からアクセス可能な産科医療施設で調査をすることで、当該期間中に対象地域に居住する妊産婦に対して実施された帝王切開などの医療介入数、およびその適応疾患名を調査し集計することができる。したがって出産数の一定割合(1.1-1.3%)を"need"、実施された医療介入数を"met need"とすることで、外科的医療介入が必要であったにもかかわらず、その利用ができなかった妊産婦数を"unmet need"として計算することができる。今回の文脈では、重症合併症を有したにも関わらず、救命のための外科的手段が受けられなかった妊産婦、すなわち把握することができなかった妊産婦死亡数の代替指標として用いることができる。 妊産婦死亡率は一般的に国という地理単位でしか推計できず、またその経時的変化を有意に検出することが難しい。一方で上述のunmet obstetric need指標は、より数が少ない対象集団の数年間の推移を観察することができ、また推定死亡を県・郡別に示すことができるため、政策決定、プログラム策定およびモニタリング・評価に用いやすいという特徴がある。(松井三明) |