国際保健用語集

用語 人獣共通感染症
概要

(英語訳:Zoonosis, Zoonotic disease)

人獣共通感染症は、微生物(細菌、ウイルス、真菌、寄生虫)が種の壁を超えて、動物と人の両方に感染する感染症である。動物には、野生動物、家畜、ペットが含まれ、ヒトには病気を引き起こすものの、動物は無症状である微生物も含まれている。人獣共通感染症には、野生動物との接触でエボラウイルスに感染するエボラウイルス感染症、イヌなどの哺乳類に噛まれて狂犬病ウイルスに感染する狂犬病、蚊に刺されてデングウイルスに感染するデング熱、鶏を生で喫食することでカンピロバクター菌に感染するカンピロバクター腸炎などがある。このようにヒトの感染症の60%は人獣共通感染症であり、新興・再興感染症の殆ど全てが人獣共通感染症である。急速な経済発展と人口増加により森林が伐採され、ヒトと動物の接触機会が増え、ヒトが国境を超えた移動をすることで、短時間で世界的に広がる人獣共通感染症が増えている。多くのヒトに免疫がないため、大規模なアウトブレイクや重症化につながり、国際的な脅威となっている。このため、Global Health Security Agendaの中にも人獣共通感染症がアクションパッケージの中に明記された。世界が協調し、One Healthのアプローチで人獣共通感染症に立ち向かうことが必要である。(法月正太郎)

用語 人間の安全保障
概要 (英語訳 : Human Development Index) 

経済開発中心の開発論が反省され、社会開発・人間開発へとパラダイムシフトしてきたのに合わせ、国家の発展をGNP(国民総生産)だけを基準として測るのではなく、より包括的な社会経済指標を用いて測る方法として、1990年UNDP(国連開発計画)による「人間開発報告書」初版で発表された。より多くの国から入手できるデータとして、寿命、知識、生活水準の3つを基本的な要素として総合して算出している。

寿命には出生時平均余命を、知識には成人識字率(3分の2の比重)と平均就学年数(3分の1の比重)、生活水準としては1人当たり実質GDPに基づく購買力(購買力平価またはPPP)が用いられる。

2001年のHDI順位(UNDP2003)は1位がノルウエーで0.944、日本は9位である。1人当たりGDP順位からHDI順位をひいたものがマイナスであると、経済開発されている割に人間開発が遅れていることを示すが米国は-5である(HDIは7位)。
社会格差を拡大せず縮小していく開発という意味からこのHDIだけでは、不十分であるとして用いられているのがGDI(Gender Development Index)でHDI の各指標にジェンダー格差の有無を考慮して算定しなおしたものである。 
用語 人間貧困指数
概要

(英語訳: HPI, Human Poverty Index)

人間開発指数(HDI Human Development Index)が人間開発の達成度を示すのに対し、人間貧困指数(HPI Human Poverty Index)は基本的な人間開発の剥奪(Deprivation)の程度、つまり、短命、初等教育の欠如、低い生活水準、社会的排除について測定した指数である。開発途上国を対象としたHPI-1と、経済協力開発機構の国々を対象としたHPI-2の二つがある。具体的には、40歳(HPI-1の場合)または60歳(HPI-2の場合)未満で死亡する確率、成人の非識字率、安全な水資源を利用できない人口の割合と5歳未満の低体重児の割合との平均(HPI-1の場合)、貧困所得ライン以下で生活する人々の割合(HPI-2の場合)、長期失業者の割合(HPI-2のみ)の変数をもとに計算される。

貧困を測定する上で、所得だけに着目した場合に忘れがちな側面を組み合わせ一つの貧困指数にまとめたことが画期的であった。人間開発報告1997に採用されて以降毎年公表されてきたが、人間開発報告書2010からは多元的貧困指数(Multidimensional Poverty Index, MPI)が採用されている。(白山芳久)

用語 人間開発指数
概要

(英語訳:HDI, Human Development Index)

国連開発計画(UNDP)の総裁特別顧問であったマブーブル・ハックは1990年、社会の豊かさや進歩を、経済指標にのみ注目して見るそれまでの経済中心の開発に対し、「人間が自らの意思に基づいて自分の選択と機会の幅を拡大させる」ことを目的とする「人間開発」という新しい開発概念を提唱した。その度合いを測るために設定されたのが人間開発指数であり、「健康で長生きすること」「教育を得る機会」「一定水準の生活に必要な経済手段が確保できること」の側面を指数化することによって、時間の経過による改善や後退、またその達成度の国際比較ができるようにしている。そのために各国の出生時平均余命、成人識字率と総就学率、一人当たりGDP(PPP US$、米ドル建て購買力平価)が指標として用いられ、0から1の間の指数が算出されて、毎年出版されるUNDPによる「人間開発報告書」の中で公表されている。

2018年人間開発報告では日本の2017年HDI値は0.909で、順位は188の国と地域のうち19位となっている(白山芳久) 

用語 伝統医療
概要 (英語訳 : Traditional medicine or Indigenous medicine or Folk medicine) 

伝統医療とは、近代的医学が発達する遥か以前から世界各地に存在する、健康に関する実践、方法、知識、信条などの総称であり、植物・動物・鉱物などを素材とする薬や霊的療法、各種用手治療・運動などを単独あるいは組み合わせて治療・診断・予防あるいは健康維持に用いる体系全般のことである。

アフリカ、アジア、ラテン・アメリカなどの国々では、伝統医療は今でも人々のプライマリーヘルスケアへのニーズに応えるために活用されている。特にサブサハラの多くの国では人々の大半が初期治療に伝統医療を利用している。先進国でも、伝統医療は“補完”ないし“代替”医療として受容されており、各地の伝統医療が様々な形で取り入れられている。また、中国、韓国、べトナムなどでは、国策として、伝統医療を公的医療システムに組み入れている。

WHOは安全で効果的かつ廉価な伝統医療の利用を推進しており、鍼治療や幾つかの薬草・用手治療の効能を認めているが、一方で、「伝統医療の不適切な適用は有害な事もあり、伝統医療の実践や薬用植物などに関し、その効果と安全性に関する更なる研究が必要である」としている。そして、アフリカ、アジアの幾つかの国々に協力して、伝統医療の開発・研究やワークショップ開催などを行っている。(清水利恭)