国際保健用語集

用語 国立国際医療研究センター
概要 (英語訳:NCGM, National Center for Global Health and Medicine)

国立国際医療研究センターの前身は、1929年に設置された陸軍の病院である。戦後に厚生省の最初の国立病院として東京第一病院となり、その後、国立病院医療センターと改称、1986年には、国際協力への医療者を派遣する事を目的に国際医療協力部を設置し、1993年には国際医療協力を旨としたナショナルセンター 国立国際医療センターとなった。地球上の全人類が悩まされている疾病の克服と健康の増進に貢献している。センターには、約50名の国際協力専任の医療者(医師32名、看護・助産師13名、薬剤師1名、検査技師1名)をかかえる国際医療協力局、全専門科を網羅するベッド数800の病院、国際保健や感染症などの研究を行っている研究所、人材育成を行う看護大学校を持ち、日本における国際保健の中核施設として位置づけられている。現在、WHOなどの国連機関、10を超える世界中の国々へ、医師、看護師らの医療従事者を派遣し、母子保健、感染症、保健システム分野において、国際医療協力を実施している。2015年には、研究開発法人国立国際医療研究センターと名称が変わり、研究開発を行うとともに、日本における国際保健分野における政策提言、人材育成、情報発信、国際保健ネットワークの核となっている。(仲佐保)
用語 安全な妊娠イニシアティブ
概要 (英語訳 : Making Pregnancy Safer Initiative) 

安全な妊娠イニシアティブはWHOが進める母児の死亡率減少を目指した主導であり、安全な母性イニシアティブ(Safe Motherhood Initiative)を発展させたものである。安全な母性イニシアティブは、1987年にケニアで開催された「家族計画を通じた女性と子供のよりよい健康に関する国際会議」(International Conference on Better Health for Women and Children through Family Planning)において提唱された、女性の安全な妊娠、出産を目的としたものである。UNFPA,UNDPUNICEFWHO, World Bank, NGOなど10機関が共同で実施し、家族計画、妊婦健診、清潔で安全な分娩介助、必須産科ケア(Essential Obstetric Care: EOC)などを主要な活動として取り組んできた。

その後、2000年にミレニアム開発目標の1つに妊産婦の健康改善が盛り込まれるようになると、安全な母性イニシアティブを進めるためのより具体的な戦略として、WHOは”Making Pregnancy Safer”を掲げた。この安全な妊娠イニシアティブは、安全な母性イニシアティブと同様、妊娠・分娩・新生児のリプロダクティブ・ヘルス・ライツに焦点をあてているが、より妊産婦と乳児の死亡削減に有効な、エビデンスに基づいた介入を実施しようとするものである。(柳澤理子)
用語 国連開発計画
概要 (英語訳: UNDP, United Nations Development Programme)

 国連システムの中で、国連総会と国連・経済社会理事会の管轄下にある開発に関する中心的な組織で、約170か国を対象に貧困の撲滅や不平等の削減などのために、政策立案、リーダーシップ能力の醸成や能力強化の支援を進めている。国レベルにおいては、当該国の開発に関する国連システムの調整機関として、国連内の意見調整と相手国の優先課題の調整を図っている。本部は米国のニューヨーク。
支援分野としては、ミレニアム開発目標に引き続き、持続可能な開発のための2030アジェンダの実現に向け、「持続可能な開発」、「民主的ガバナンスと平和構築」、「気候変動と強靭な社会の構築」に重点を置いた支援に取り組んでいる。
UNDPの資金規模は49.15億ドル(2017年)に上り、各国からの拠出金、多国間協力機関や国際機関から構成されている。使途に最も柔軟性がある通常資金(Regular Resource)は全体の12.5%を占めており、日本は通常資金に対して4番目に大きい拠出国となっている(その他の資金を合わせると総額3.05億ドルで2番目に多い)。
UNDPは「人間開発報告書(Human Development Report)」を毎年発行し、開発に関する重要な課題に焦点を当ててその状況を解説するほか、解決に向けての方策の提案などを図っている。(平岡久和)
用語 国連児童基金
概要 (英語訳 : UNICEF, United Nations Children’s Fund)

第二次世界大戦後の子どもに対する食糧、衣料品及び医療などの緊急援助を目的として1946年に国際連合によって国連国際児童緊急基金(United Nations International Children's Emergency Fund: UNICEF)として設立された。1953年の国連総会において常設の機関として改組されたが、略称はUNICEFが継続して用いられている。本部は米国ニューヨークにあり、7つの地域事務所、150以上の国事務所を中心に、190か国・地域での活動が実施されている。ワクチン・医薬品の調達などを行う物資供給センター(Supply Division デンマーク、コペンハーゲン)も整備されている。

2017年の支出実績額(管理費等を含む)は58.35億ドルであった。事業支出(54.49億ドル)の内訳としては保健分野が25.2%(13.8億ドル)、教育分野が22.1%、水と衛生(Water, Sanitation &Hygiene: WASH)分野が18.7%、子どもの保護、栄養といった分野が続く。地域的にはサブサハラアフリカの46.6%(25.4億ドル)で事業支出の約半分を占め、中東・北アフリカ、アジアが続いて多くなっている。

2017年の資金調達は65.77億ドルであったが、政府からの拠出金、国際機関間等公的部門が7割、民間・NGOからの寄付等が3割を占めている。日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)を通じた寄付は1.3億ドルで米国に次いで2番目に多い(日本政府からの拠出は1.7億ドルで政府・政府間機関で7番目)。(平岡久和)
用語 再興感染症
概要 (英語訳 : re-emerging infectious diseases) 

「公衆衛生上ほとんど問題とならない程度まで患者が減少した後、ふたたび流行し患者数が増加した、または将来的に再び問題となる可能性がある感染症」と定義されている。これまで知られていなかった新しい感染症(新興感染症; emerging infectious disease)と対比して使われることが多い。

感染症が再興する原因は様々であるが、個々の例において原因を特定することは難しい。渡り鳥によるウイルス運搬(ウエストナイル脳炎)、保菌者の高齢化(結核)、抗微生物薬の不適切な使用(多剤耐性菌)などは特異的な原因といえるが、交通網の発達、都市化に伴う人口密度の上昇、気候変動など非特異的な環境要因も再興感染症の登場に寄与しているといわれている。

近年の日本では、デング熱(2014年、ヒトスジシマカが東京の代々木公園を中心に媒介)、麻疹(2016年、関西空港におけるウイルスの拡散)、風疹(2012~2013年に流行し45例の先天性風疹症候群、2018年9月現在患者数が急増中)、結核、梅毒などがあり、世界的にはマラリアが大きな問題となっている。国際化が進む現代において病原微生物は日々国境を越え、再興感染症はどの国においても現実的なリスクになっている。再興感染症の把握、予防、制圧には、国際保健規則などによる緊密な国際協力が必要である。(蜂矢正彦)