国際保健用語集

用語 障害を調整した生存(人生・生命)年数
概要 (英語訳 : Disabilty adjusted life years) 

疾病により失われた生命や生活の質を包括的に測定するための指標として「障害を考慮した生存年数(DALYs: Disability-Adjusted Life Years)」 は開発された。

生活の質を調整した指標であるQALYに社会的価値判断(年齢による重み付け)等を加えている。

生活の質を調整した死亡・障害の度合いをあらわす指標はいくつかあるが、その中でもDALYsは1993年に世界銀行が発表した「World Development Report (世界開発報告) -Investment in Health(健康への投資)」 でハーバード大学のMurrayらがその中で使用したことをきっかけに、WHO世界銀行などの国際機関が保健政策の優先度を決める場合の指標として広く使われるようになった。
現時点では発展途上国における下痢症急性呼吸器感染症によるDALYsの損失が全世界では大きいが、今後生活習慣病や喫煙による呼吸器疾患等の非感染性疾患や精神疾患によるDALYsの損失が増えることが予測されている。  
用語 ステークホルダー
概要 (英語訳 : stakeholder)

利害関係者と訳される。「ステーク」とは「何かの結果によって失う危険のある大事なもの」で、通常は賭け金や投資など金銭を指す。企業活動などで使われる場合は、「ステークホルダー」とは企業の意思決定によって直接的に大きな影響を受ける人々で、投資家や株主である。他にも間接に金銭的な利害が生じる対象としてビジネスパートナー、取引先、従業員、組合、利用者(消費者)などがある。

最近では、ステークの内容は名声・生活環境・安全など有形無形なものに拡大して解釈される。社会秩序や倫理、自然環境に与えるリスクを考慮すると、全人類や次世代までステークホルダーに含まれることもある。

国際保健の領域で使われるステークホルダーは、介入やプロジェクトを担当する援助機関・相手国実施機関、直接的に便益を受ける対象となるグループや組織、さらにプロジェクトの対象とならないが間接的に便益や不利益を受けるグループや組織である。プロジェクトが及ぼす影響を拡大して解釈すれば、ステークホルダーの範囲も拡大して考えなくてはならない。また、プロジェクトが意図的に影響を与える集団をターゲット・グループと呼び、ステークホルダーよりは限られた集団である。 
用語 世界抗結核薬基金
概要 (英語訳:GDF Global Drug Facility ) 

Global Drug Facility (GDF)は、目下のところ「世界抗結核薬基金」と日本語に訳されているものが多いが、未だ定訳はなく、「国際医薬品購入機関」と訳されているものもある。GDFは、DOTSを推進する上で欠かすことができない良質な抗結核薬へのアクセス改善を目指すイニシアチブとして2001年の世界結核デーに設立された。ジュネーブのWHO本部内に設置され、ストップ結核パートナーシップ事務局のメンバーがその管理・運営にあたっている。

従来型の医薬品調達組織とは異なり、GDFは抗結核薬の需要と供給の把握とそのモニタリング、競争入札による安価で確かな医薬品の買い付け、資金管理、結核対策プロジェクトの運営などを各国で実践し、これらの点に関して技術支援を提供する組織である。(奥村順子)
用語 たばこ規制枠組み条約
概要 (英語訳 : Framework Convention on Tobacco Control) 

喫煙の健康への影響が明らかになり、先進国で喫煙率が低下する一方でたばこ産業は販売促進の対象を途上国に移しつつある。途上国ではその健康に及ぼす影響が比較的若年齢から現れる傾向にある。

WHOはたばこ対策を最重点施策の一つとしてとりあげ、たばこが健康・社会・環境及び経済に及ぼす影響から現在及び将来の世代を保護することを目的として、たばこ規制枠組み条約の制定を目指した。その内容は、健康警告の表示、間接税の増税、たばこの広告や催し物のスポンサーとなることの禁止、販売促進活動の禁止、公共の場所や職場におけるたばこ規制(受動喫煙からの保護)、自動販売機に関する措置、喫煙の健康に与える悪影響についての普及・啓発、教育、喫煙指導の実施などである。2003年5月の世界保健総会において全会一致で合意され、2005年に発効した。我が国は2004年6月に批准した。なお、2008年4月現在、128ヶ国が批准している。(江上由里子)
用語 デング熱
概要 (英語訳 : Dengue fever) 

デング熱は蚊が媒介するウイルス感染症で、病原体にはフラビウイルスに属しDEN-1からDEN-4の4種の血清型がある。主要な媒介蚊は昼間活動性のネッタイシマカ(Aedes aegypti)で、都市に生息してヒトを好んで吸血する。

感染者は不顕性感染から重篤で致命的となる出血熱型まで多様で、血管の透過性が亢進し血小板が減少するものをデング出血熱と診断する。デング熱対策は媒介蚊対策が基本となる。

ネッタイシマカが発生する水場環境をなくす住民教育、蚊の幼虫駆除などが実施されている。デング出血熱になれば早急に入院管理しなくてはならない。
デング熱は人類の活動にあわせて盛隆と衰退の歴史を繰り返した。大航海時代にネッタイシマカとデングウイルスは世界に拡散し、18世紀後半にはアジア、アフリカ、北アメリカに定着し、周期的に流行した。

現在の世界的流行は第二次世界大戦後に発生した東南アジアでの流行が発端で、この頃にデング出血熱の症状が出現した。

アメリカのデング熱流行はドラマティックで、黄熱対策としてネッタイシマカの駆除を徹底し、デング熱も激減したが、1970年に黄熱対策を中断してから徐々に復活した。その復活に拍車をかけるのが1980年代にアジアからアメリカに生息域を拡張した第二の媒介蚊ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)の存在がある。
アフリカでもデング出血熱の大流行が懸念され、現在は再興感染症と考えられる。