国際保健用語集

用語 ジェネリック医薬品
概要

(英語訳 : Generic Medicine)

医師の診断によって処方される医薬品は、開発の経緯によって「新薬(先発医薬品)」と「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」とに分類されまる。

医薬品を人に使用するのに先立ち、期待する効能・効果を有するか(有効性)、効能効果に比して著しく有害な作用を有しないか(安全性)などを証明する必要がある。そのため主成分である「有効成分に関する試験」と投与用に加工された「製剤化された医薬品に関する試験」が必要である。毒性試験、薬理試験及び治験と呼ばれる人による臨床試験など、新薬開発に要する期間は約9~17年、費用は約300億円以上かかる。国はデータに基づいて審査し、厚生労働大臣が承認したものだけが医薬品として流通が許される。

一方、ジェネリック医薬品は先発医薬品の長年の臨床使用経験を踏まえて開発、製造され、先発医薬品と同一の有効成分を同一量含有しており、対象とする疾病や発揮する効能・効果や使用方法・使用量(用法・用量)も基本的には変わらない。添加剤の成分や配合量が先発医薬品と異なるが有効性や安全性に違いが出ることがないように、ジェネリック医薬品の承認審査においては、生物学的同等性試験のテータの提出を求め、主成分の血中濃度の挙動が先発医薬品と同等であることが求められる。 有効性・安全性の評価が先発医薬品により既にある程度確立しているため、ジェネリック医薬品の開発期間は、約3-5年、費用も約1億円ですみ、情報収集・提供等に関する販売管理費も少額のため、低価格での提供が可能である。政府の政策的後押しにより、2005年から2015年の10年間にジェネリック医薬品の販売数量は1.7倍に増加している。(木村和子)  

用語 オペレーショナルリサーチ
概要

(英語訳 : operational research [英], operations research [米])

オペレーショナルリサーチは、国際保健分野においては、アクションリサーチやインプリメンテーションリサーチと同じ意味で使われることが多いが、数学的・統計的モデル、アルゴリズムの利用によって、複雑なシステムにおける意思決定を支援し、また意思決定の根拠を他人に説明するためのツールとして用いられるなど、複数の用法が混在するため、注意が必要である。そのため、定義も標準化に至っていないが、提案されている定義の多くに共通するのは、その研究の目的を、研究対象のプログラムの質、有効性、または適用範囲を高めることができる介入、戦略、またはツールに関する知識の検索をするため、あるいはより具体的に保健プログラム実施上の課題に対して対応策を検討するため、と定めている。つまり、オペレーショナルリサーチの重要な要素は、保健プログラムの活動(予防、ケア、または治療)の実施中に遭遇する制約と課題を特定することによってリサーチクエスチョンを同定し、これらの質問に対する回答が直接的・間接的に問題を解決し、ヘルスケア提供の改善に寄与することである。もちろん、これは一度に起こるわけではなく、しばしば連続的かつ反復的なプロセスとなる。

その方法論としては、記述研究 (もし強力な分析要素が存在する場合、横断研究)、症例対照研究、後ろ向きまたは前向きコホート研究の3つが主に用いられ、基礎科学研究やランダム化比較研究は通常含まれない。また、データ収集方法に着目し、既存のデータ収集メカニズムを通じて収集されたデータを用いる調査・研究をオペレーショナルリサーチとして、インプリメンテーションリサーチと区別する定義を提案するものもある。いづれにしても、伝統的な科学研究が、全ての状況にあてはまる「一般化」される成果をめざすのに対し、特定のプログラムの実施上の課題に対する対応策を検討するため、特殊な状況や地域特性などに焦点をあてることを目指すことに特徴付けられると言える。

一方、数学的・統計的モデルを用いて意思決定を支援する、古典的な意味でのオペレーショナルリサーチの保健への適用も、保健システム管理や病院管理などの分野で試行されているが、先進国での実施が多いようである。(野崎威功真)

用語 ロールバックマラリア
概要 (英語訳 : Roll Back Malaria)

1998年5月、WHO中島宏事務局長(当時)の後任にGro Harlem Brundtland前ノルウェー首相が就任し、新規のWHOキャビネットプロジェクトとして宣言されたマラリア対策が、「Roll Back Malaria (RBM) Initiative」と呼ばれた。RBMイニシアチブは従来のようなマラリア撲滅運動ではなく、2010年までにマラリアによる死亡率を半減させるという具体的数値目標を持った対策案であった。RBMで強調されることは、マラリアの治療を必要とするあらゆる人、マラリアの対策を必要とするあらゆる地域にそのサービスがゆき届くよう努力すること、そしてこのRBMの旗頭が、各マラリア流行国の保健システム強化の先導役(path finder)になることである。 

RBMの具体的な戦略は、マラリアサミット(1992年)で起草されたGlobal Malaria Control Strategyのフォーミュラーを応用し、(1)マラリア患者の早期診断と迅速な治療、(2)突発性流行の検出と対策、(3)薬剤含浸蚊帳を用いた媒介蚊対策、(4)妊婦のマラリアの予防、の4項目を基盤に展開するものである。そのうえで流行国と多くの国際機関との連携、開発支援2国間援助の推進、研究グループとの協力、製薬会社などの民間セクターや非政府組織(NGO)、財団、マスメディアとのいわゆる「パートナーシップ」を築き上げてゆくことである。現在では、正式にUNICEFUNDPWorld BankWHOが完全連携して、「RBM Partnership」という新しいフレーズが使われることが多い。

RBMのビジョンは、マラリアによる負担がない世界の創出である。2020年までの具体的なビジョンとしては、全ての国々とRBMパートナーによる努力を加速化することである。2015年と比較して、マラリアによる死亡率と罹患率を少なくとも40%減少させること。また、2015年までにマラリアの流行が消失した国々において、マラリアの再興を起こさせないこと。および10か国でマラリアの流行を消失させることである。2030年までには、2015年と比べて、マラリアによる死亡率を少なくとも90%減少させ、さらに35か国でマラリア流行を消失させることを掲げている。(野中大輔)  
用語 国連人口基金
概要 (英語訳:UNFPA, United Nations Population Fund)

国連人口基金(UNFPA)は、1969年に設立された国連の人口問題を扱う専門的開発機関である。設立当時は国連開発計画(UNDP)の一部門として「国連人口活動基金」(United Nations Fund for Population Activities)と呼ばれていたが、国際社会で人口問題対策の重要性が認識されるようになり、期待される活動範囲が拡大してきたため、1972年に独立した国連機関となった。本部は米国のニューヨーク。活動は、(a) 国レベルの開発途上国の支援プログラム、(b) 中南米やサハラ以南のアフリカなどの地域全体に共通する課題に取り組む地域プログラムと(c) 政策提言活動などを含む世界全域を対象としたプログラムの3種類がある。本部に置かれていた各地域局は、2007-08年にかけて、アフリカ局はヨハネスブルクとダカールへ、アジア局はバンコクへ、中南米局はパナマへ、アラブ局はカイロへ、東欧・中央アジア局はイスタンブールへと移った。これは、UNFPAによる技術サポートおよびプログラムの実施調整が、より活動現場の近くに置かれるようになったことを示す。

現在、開発途上国の人口問題対策分野では世界最大の国際援助機関であり、150以上の国と地域で支援活動を実施している。重点活動領域は、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス、リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」、「人口と開発(国勢調査を含む)」、「ジェンダーの平等」で、開発途上国において、より暮らしやすくゆたかな社会を作っていくための「開発支援活動」と、自然災害や紛争の被災地における緊急性の高い「人道支援活動」のいずれにおいても活発に活動している。(池上清子)
用語 産科救急ケア
概要 (英語訳 : Emergency Obstetrics Care) 

妊産婦死亡を減らすために熟練した専門技能者(Skilled Birth Attendant:SBA)による分娩介助が必要であり、その熟練した専門技能者の分娩介助の下で緊急時に必要とされるケアを緊急産科ケア(Emergency Obstetric Care:EmOC)という。また、分娩周辺期のケアは新生児死亡にも大きく関わることから、緊急産科新生児ケア(Emergency Obstetric and Newborn Care: EmONC)ということが多い。

緊急産科新生児ケアは基礎的ケア、包括的ケアとレベルによって分けられている。
1)基礎的緊急産科新生児ケア(Basic EmONC)
抗生剤・子宮収縮剤・抗痙攣剤の使用、胎盤の用手摘出、流産等の子宮内遺残物の除去、吸引分娩等の器械的分娩補助、基礎的な新生児蘇生
2)包括的緊急産科新生児ケア(Comprehensive EmONC)
帝王切開、安全な輸血、仮死児の蘇生や低出生体重児のケア

人口50万人につき緊急産科新生児ケアを提供できる施設が最低5施設あること(うち1施設は包括的緊急産科新生児ケアが提供できる)、すべての女性が直接的産科合併症のケアを受けられること、全分娩に占める帝王切開率が5-15%であること、直接的産科合併症による死亡が施設で1%未満であること、が指標として最低限目標とすべきレベルとされている。(松本安代)