国際保健用語集

用語 国連エイズ合同計画
概要 (英語訳 : UNAIDS the Joint United Nations Programme on HIV/AIDS) 

初めてのエイズ患者の発見以来エイズ対策においてはWHOがその中心を担っていたが、次第にエイズの及ぼす社会的・経済的な影響が明らかとなり、社会全体の問題として取り組む必要のあることが強く認識された。その結果1994年に行われた国連経済社会理事会において国連エイズ合同計画(UNAIDS: the Joint United Nations Programme on HIV/AIDS)の設置が承認され1996年1月に正式に発足した。国連エイズ合同計画は複数の国連機関が協同し、国連システム全体として、HIV新規感染の予防、感染者へのケア、エイズによる様々な影響の軽減など、世界におけるエイズ対策の強化に取り組んでいくことを目的としており、2008年4月現在、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)UNICEF(国連児童基金)?、WFP(世界食糧計画)、UNDP(国連開発計画)UNFPA(国連人口基金)、UNODC(国連薬物犯罪事務所)、ILO(国際労働機関)、UNESCO(国連教育科学文化機関)、WHO(世界保健機関)WB(世界銀行)ら10の機関が共同スポンサーとなっている。本部はジュネーブにあり、22の理事国、共同スポンサーである国連機関、および5つのNGOからなるプログラム調整理事会(PCB:Programme coordinating board)によって、政策などの重要事項が決定される。国連エイズ合同計画では2年毎にThe UNAIDS Unified Budget and Workplan (UBW) とよばれる統合予算および行動計画案を策定しており、この中で定められた共通の優先課題に対して、それぞれの機関とUNAIDS事務局の協調のもと活動が実施されている。主な活動としてはアドボカシーやリーダーシップの動員、方針策定や情報発信、モニタリング、市民組織の巻き込みとパートナーシップの構築、効果的なエイズ対策を支援するための人的・技術的資源及び財源の動員などがあげられる。 (石川尚子)
用語 国連難民高等弁務官事務所
概要 (英語訳 :United Nations High Commissioner for Refugees) 

国連難民高等弁務官事務所規定に基づき、1951年に設立された。高等弁務官は、その権限の範囲にある難民に対して、国連の権威のもとに国際的保護を提供し、これら難民の自発的帰還または新しい国の社会への同化を促進することによって難民問題の恒久的解決を図る。また緊急時には難民に対して法的、物的両面での保護、支援を与えることを目的とする。

難民の保護に加え、国際条約の締結及び国際条約の批准の促進などを実施している。1950年に国連総会で採択された規定によれば、UNHCRが保護を与える難民とは、『人種、国籍、宗教、もしくは政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがあるため、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることが出来ない者、または国籍国の保護を受けることを望まない者』を言う。具体的な内容としては、自発的な帰還、受入国における定住、または第三国における定住を図ることにある。その他、難民の発生を未然に防ぐ予防措置に留意した活動、紛争終了後の復旧・復興への円滑な移行のために支援を行う。2003年の時点で世界約120カ国、277カ所に現地事務所を持っている。1990年代にはアフリカのソマリアやルワンダ紛争による難民の援助活動を行い、1999年にはユーゴスラビアにおけるアルバニア系難民の援助、インドネシアの東ティモールからの避難民の援助、などを行った。1954年と1981年にノーベル平和賞を受賞した。本部はスイスのジュネーブに置かれている。 
用語 災害時迅速評価
概要 (英訳 Rapid Assessment、もしくはRapid Needs Assessment)

災害時のニーズ・アセスメントは、災害対応を成功させるために不可欠である。その目的は、第一に対応の優先順位の決定と計画策定のためであり、第二に、外部の援助者に対して災害の程度を知らせる目的もある。迅速評価では、災害状況をレポートし、初期対応として最適なものを提言する。その情報としては、心象、具体的な数、事実が含まれ、時間や場所を特定でき、特定の目的に対して意味があるときに、有益な情報となる。緊急対応の優先順位としては、まず災害を被った生命を助けることであり、次いで、生命維持のために必要な飲み水、衛生、十分な食料、適切な医療援助、シェルター(住居や衣服)、燃料などが挙げられる。また、肉体的暴力や攻撃などから特に難民や国内避難民を含む被災民を守り、さらには、心理的、社会的なストレスから被災者を守らなければならない。(明石秀親)
用語 疾病負荷
概要 (英語訳 : Global Disease Burden) 

世界中で、疾病により失われた生命や生活の質の総合計を「疾病負荷(GBD: Global Burden of Diseases)」という。

傷害や生活の質の度合いを考慮した健康指標として「健康寿命」、「質を考慮した生存年数(QALY: Quality -Adjusted Life Years)」、「失われた生活年数(YPLL: Years of Productive (or Potential) Life Lost)」、「障害と共に生活する年数(YLDs: Years Lived with Disability)」などの指標が使われている。

QALYを使った事例として、ガンによる生存年数が3年であった場合、後遺症が残れば効用値(重み付け)である0.5を掛けて3×0.5=1.5年と計算する。QALY等の効用により重み付けされた健康指標は費用効果分析などに活用される。 
用語 障害を調整した生存(人生・生命)年数
概要 (英語訳 : Disabilty adjusted life years) 

疾病により失われた生命や生活の質を包括的に測定するための指標として「障害を考慮した生存年数(DALYs: Disability-Adjusted Life Years)」 は開発された。

生活の質を調整した指標であるQALYに社会的価値判断(年齢による重み付け)等を加えている。

生活の質を調整した死亡・障害の度合いをあらわす指標はいくつかあるが、その中でもDALYsは1993年に世界銀行が発表した「World Development Report (世界開発報告) -Investment in Health(健康への投資)」 でハーバード大学のMurrayらがその中で使用したことをきっかけに、WHO世界銀行などの国際機関が保健政策の優先度を決める場合の指標として広く使われるようになった。
現時点では発展途上国における下痢症急性呼吸器感染症によるDALYsの損失が全世界では大きいが、今後生活習慣病や喫煙による呼吸器疾患等の非感染性疾患や精神疾患によるDALYsの損失が増えることが予測されている。  
用語 ステークホルダー
概要 (英語訳 : stakeholder)

利害関係者と訳される。「ステーク」とは「何かの結果によって失う危険のある大事なもの」で、通常は賭け金や投資など金銭を指す。企業活動などで使われる場合は、「ステークホルダー」とは企業の意思決定によって直接的に大きな影響を受ける人々で、投資家や株主である。他にも間接に金銭的な利害が生じる対象としてビジネスパートナー、取引先、従業員、組合、利用者(消費者)などがある。

最近では、ステークの内容は名声・生活環境・安全など有形無形なものに拡大して解釈される。社会秩序や倫理、自然環境に与えるリスクを考慮すると、全人類や次世代までステークホルダーに含まれることもある。

国際保健の領域で使われるステークホルダーは、介入やプロジェクトを担当する援助機関・相手国実施機関、直接的に便益を受ける対象となるグループや組織、さらにプロジェクトの対象とならないが間接的に便益や不利益を受けるグループや組織である。プロジェクトが及ぼす影響を拡大して解釈すれば、ステークホルダーの範囲も拡大して考えなくてはならない。また、プロジェクトが意図的に影響を与える集団をターゲット・グループと呼び、ステークホルダーよりは限られた集団である。 
用語 世界抗結核薬基金
概要 (英語訳:GDF Global Drug Facility ) 

Global Drug Facility (GDF)は、目下のところ「世界抗結核薬基金」と日本語に訳されているものが多いが、未だ定訳はなく、「国際医薬品購入機関」と訳されているものもある。GDFは、DOTSを推進する上で欠かすことができない良質な抗結核薬へのアクセス改善を目指すイニシアチブとして2001年の世界結核デーに設立された。ジュネーブのWHO本部内に設置され、ストップ結核パートナーシップ事務局のメンバーがその管理・運営にあたっている。

従来型の医薬品調達組織とは異なり、GDFは抗結核薬の需要と供給の把握とそのモニタリング、競争入札による安価で確かな医薬品の買い付け、資金管理、結核対策プロジェクトの運営などを各国で実践し、これらの点に関して技術支援を提供する組織である。(奥村順子)
用語 たばこ規制枠組み条約
概要 (英語訳 : Framework Convention on Tobacco Control) 

喫煙の健康への影響が明らかになり、先進国で喫煙率が低下する一方でたばこ産業は販売促進の対象を途上国に移しつつある。途上国ではその健康に及ぼす影響が比較的若年齢から現れる傾向にある。

WHOはたばこ対策を最重点施策の一つとしてとりあげ、たばこが健康・社会・環境及び経済に及ぼす影響から現在及び将来の世代を保護することを目的として、たばこ規制枠組み条約の制定を目指した。その内容は、健康警告の表示、間接税の増税、たばこの広告や催し物のスポンサーとなることの禁止、販売促進活動の禁止、公共の場所や職場におけるたばこ規制(受動喫煙からの保護)、自動販売機に関する措置、喫煙の健康に与える悪影響についての普及・啓発、教育、喫煙指導の実施などである。2003年5月の世界保健総会において全会一致で合意され、2005年に発効した。我が国は2004年6月に批准した。なお、2008年4月現在、128ヶ国が批准している。(江上由里子)
用語 デング熱
概要 (英語訳 : Dengue fever) 

デング熱は蚊が媒介するウイルス感染症で、病原体にはフラビウイルスに属しDEN-1からDEN-4の4種の血清型がある。主要な媒介蚊は昼間活動性のネッタイシマカ(Aedes aegypti)で、都市に生息してヒトを好んで吸血する。

感染者は不顕性感染から重篤で致命的となる出血熱型まで多様で、血管の透過性が亢進し血小板が減少するものをデング出血熱と診断する。デング熱対策は媒介蚊対策が基本となる。

ネッタイシマカが発生する水場環境をなくす住民教育、蚊の幼虫駆除などが実施されている。デング出血熱になれば早急に入院管理しなくてはならない。
デング熱は人類の活動にあわせて盛隆と衰退の歴史を繰り返した。大航海時代にネッタイシマカとデングウイルスは世界に拡散し、18世紀後半にはアジア、アフリカ、北アメリカに定着し、周期的に流行した。

現在の世界的流行は第二次世界大戦後に発生した東南アジアでの流行が発端で、この頃にデング出血熱の症状が出現した。

アメリカのデング熱流行はドラマティックで、黄熱対策としてネッタイシマカの駆除を徹底し、デング熱も激減したが、1970年に黄熱対策を中断してから徐々に復活した。その復活に拍車をかけるのが1980年代にアジアからアメリカに生息域を拡張した第二の媒介蚊ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)の存在がある。
アフリカでもデング出血熱の大流行が懸念され、現在は再興感染症と考えられる。 
用語 人間の安全保障
概要 (英語訳 : Human Development Index) 

経済開発中心の開発論が反省され、社会開発・人間開発へとパラダイムシフトしてきたのに合わせ、国家の発展をGNP(国民総生産)だけを基準として測るのではなく、より包括的な社会経済指標を用いて測る方法として、1990年UNDP(国連開発計画)による「人間開発報告書」初版で発表された。より多くの国から入手できるデータとして、寿命、知識、生活水準の3つを基本的な要素として総合して算出している。

寿命には出生時平均余命を、知識には成人識字率(3分の2の比重)と平均就学年数(3分の1の比重)、生活水準としては1人当たり実質GDPに基づく購買力(購買力平価またはPPP)が用いられる。

2001年のHDI順位(UNDP2003)は1位がノルウエーで0.944、日本は9位である。1人当たりGDP順位からHDI順位をひいたものがマイナスであると、経済開発されている割に人間開発が遅れていることを示すが米国は-5である(HDIは7位)。
社会格差を拡大せず縮小していく開発という意味からこのHDIだけでは、不十分であるとして用いられているのがGDI(Gender Development Index)でHDI の各指標にジェンダー格差の有無を考慮して算定しなおしたものである。 
用語 橋本イニシアチブ
概要
 (英語訳 : Hashimoto Initiative) 

1997年、デンバーで開催されたG8サミットで、橋本龍太郎首相(当時)は寄生虫症の国際的対策の重要性を訴え、G8各国が協力分担して当たるべきことを強調した。

翌1998年のバーミンガムサミットでは、橋本首相のこの提言が「感染症及び寄生虫症に関する相互協力を強化し、これからの分野における世界保健機関(WHO)の努力を支援すること」とコミュニケに盛り込まれ、世界は21世紀に向けた国際寄生虫戦略を、国際政治上の最も高いコミットを受けて展開してゆくこととなった。この提唱を「橋本イニシアチブ」と呼ぶ。

日本は様々な社会的・経済的困難を克服し、寄生虫症の流行を制圧した経験を持っているので、この経験を生かすことで、わが国がG8各国の中にあって国際寄生虫戦略でリーダーシップを発揮してゆくことを橋本首相は切望された。現在まで、独立行政法人国際協力機構(JICA)を通した「橋本イニシアチブ」としては、アジアに1カ所(タイ・マヒドン大学)、アフリカに2カ所(ケニア・ケニア中央医学研究所、ガーナ・野口記念研究所)の寄生虫対策の拠点「Centres of International Parasite Control: CIPACs」が開設され、人材開発プロジェクトを中心とした寄生虫対策が拠点周辺諸国を含めて展開されている。

「国際寄生虫対策ワークショップ2004」では、日本政府は「橋本イニシアチブ」の一層の充実をめざし、厚生労働省、外務省、文部科学省、JICA、日本寄生虫学会等を中心とした専門家会合を続け、WHOWorld Bank等と情報交換を行いながら、さらなる効果的な国際寄生虫対策の実施に向けて、他のドナー機関との連携を強化していくことが重要であると確認された。  
用語 必須医薬品
概要 (英語訳 : Essential MedicineまたはEssential Drug*) 

「必須医薬品とは、大多数の人々が健康を保つために必要不可欠なものであり、決して不足することなく、必要とする人々にとって適切な投与形態で、誰もがアクセスできる値段で提供されるべきものである。」と世界保健機関 (WHO) は定義している。必須医薬品という概念は、1978年のアルマ・アタ宣言における8つのプライマリヘルスケア戦略のひとつとして内容にもりこまれ、必須医薬品が人々の健康にとって必要不可欠なものであることが再確認された。

1977年以来、WHOは必須医薬品モデルリストを定期的に改訂・発行しており、2007年3月には、第15版が発行された。新薬の開発、新興再興感染症の罹患率の変化などから新たな医薬品が追加されてきたが、単に品目数を増やすのみでなく、削除医薬品も検討され収載薬品は増減を繰り返しつつ近年は320種類前後で推移している。また、2007年10月には12歳以下の小児を対象とした小児用必須医薬品モデルリストも初めて発行された。これらのWHOのモデルリストは各国がその国独自の必須医薬品リストを選定する際の参考資料として活用されている。

各国がそれぞれの疾病構造に応じて、治療指針と合わせて必須医薬品リストを作成することで、一部のビタミン剤などのように必要不可欠とはいえないにも関わらず使用されている医薬品を排除することが可能になる。また、同リストは通常、一般名(成分名)で記載されるものがほとんどであることから、ジェネリック医薬品の使用を推進するなど、医療費の削減にも貢献すると考えられる。(奥村順子)

【*注】 近年では麻薬などを意味する‘Drug’と区別するため、‘Medicine’を使うことが多い。
用語 ビタミンA欠乏症
概要 (英語訳 : Vitamin A Deficiency) 

ビタミンAは視覚の重要な機能物質といえる。また、細胞分化、細胞膜の安定に必須の物質で、感染防御、創傷治癒転機、骨・歯の発育、成長発育に関わっている。

ビタミンAの欠乏は夜盲症を招き、さらに眼球乾燥症から角膜軟化症へと進行し、最悪の場合は失明する。また、麻疹や下痢などの一般的な感染症で死に至る可能性が25%も高くなるとも言われる。

ビタミンA欠乏症はアフリカや東南アジアを中心に途上国では公衆衛生的問題とされる。発症リスクが高いのは途上国の乳幼児と妊婦である。特に、新生児の肝臓にはビタミンAの貯蔵が少なく、母乳などによる補充が必要であるが、途上国の女性では母乳中ビタミンAが少なく完全母乳でもビタミンA欠乏症が起こることがある。2000年のデータでは1億4000万人の未就学児と700万人の妊娠期女性がビタミンA欠乏状態にある。出産に関連した原因で死亡する妊産婦死亡の大部分は、ビタミンAを含む母体の栄養状態改善によって改善が可能である。 

ビタミンA欠乏症の予防のため多くの途上国では拡大予防接種計画(EPI)の一部として生後9ヶ月に接種される麻疹のワクチンと一緒にビタミンAの補給(Supplementation)が行われている。途上国の6~59ヶ月齢児の59%がビタミンAの補給をうけていると推定されている。(石川みどり)
用語 包括的PHCと選択的PHC
概要 (英語訳 : Comprehensive PHC and Selective PHC) 

アルマ・アタ宣言(HFA)(1978年)で打ち出されたプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)を「包括的PHC」と呼んでいる。「すべての人に健康を!」という目標のもとで、人々がエンパワーすることを重視し、より公正な社会づくりを視野にいれていた。一方の「選択的PHC」は、目標を「子どもたちの生存を!」に変え、限られたコストですぐに目にみえる効果が得られるいくつかの保健プログラムを選んで、それを組み合わせた保健プログラムのことをいう。「子どもの生存革命」などは、「選択的PHC」の典型的なものである。   
用語 補完代替医療
概要 (英語訳 : Complementary and Alternative Medicine)

補完代替医療とは、科学的に検証されておらず、西洋医学を実践する通常の病院では行なわれていない医療をさす。

補完代替医療は、インドのアーユルヴェーダや中国医学など長い歴史を持つ伝統医療から、食事療法、リラクセーション、マッサージ、カイロプラクティックにいたるまで非常に多岐にわたる。そのため、現代西洋医学以外の医療という以外に共通する特徴をあげることは困難である。近年、補完代替医療を求める患者が世界的に増加しており、それと平行してその研究も活発に行なわれるようになっている。

たとえばアメリカでは、1992年米国国立衛生研究所内に年間予算200万ドルが設立された代替医療事務局(OAM)は、1998年に国立補完代替医療センター(NCCAM)に格上げされ、2005年には年間予算1億2110 万ドルで運営されるにいたっている。補完代替医療が地域の文化に根ざしていることが少なくない。その意味で、国際医療保健に携わる者は、活動する現場でどのような補完代替医療が行なわれているかを知ることが望ましいと考えられる。 
用語 メジナ虫症
概要 (英語訳 : Medina (Guinea) worm disease、Dracunculiasis) 

メジナ虫症(ギニア虫症)は線虫Dracunculus medinensisによる寄生虫感染症である。飲み水の中にいる線虫の幼虫を有するミジンコを摂取して感染する。腸管から腹腔に出た幼虫は、約12ヶ月で成虫に発育する。産卵期のメス成虫(長さ:60-100cm)は下腿皮下に移動し、感染者の皮下に水泡や潰瘍を形成して、感染者の下腿が水場などに入った時に外界に幼虫を放出する。メス成虫が下腿に移動すると灼熱感、掻痒感を伴う疼痛がある。潰瘍が細菌などに二次感染すると疼痛は激しくなり農作業が困難になる。この時期が農繁期に重なり収入が低下するため、やがて貧困を悪化させ経済問題となる。

対策はミジンコに汚染された水を飲まない教育が基本である。1)池などの飲料水は避け、井戸などの汚染されていない水を飲料水とし、2)ろ過などの方法でミジンコを排除する、3)下腿に水泡や潰瘍のある感染者は患部を治療し、池などの水場には入らない、などの予防対策が有効である。WHOユニセフ?、カーター財団など複数の国際組織が協力してメジナ虫症の対策に乗り出し、1986年には毎年350万人が感染していたが、現在ではサハラ以南アフリカの12カ国の約3万人に限局され、対策は最終段階である。メジナ虫症対策はワクチンや治療薬を使わない、教育と行動変容を基本とする予防対策が成功していることに意義がある。残された流行地の多くは都会から隔離された田舎で、63%スーダンからの報告である。 
用語 ロジスティックス
概要 (英語訳:logistics)

ロジスティックスとは、もともと「兵站(へいたん):戦闘部隊の後方にあって、人員・兵器・食料などの前送・補給にあたり、また、後方連絡線確保にあたる活動機能(大辞林)」を表す軍事用語であり、経済において原材料調達から生産・販売に至るまでの物流を企業が合理化するための手段をいう。「材料の調達から, 生産,最終ユーザーへの製品の配達,廃棄/回収までのトータルなものの流れを扱う活動」と定義される。

国際保健の分野では医薬品や医療機材の試薬等の消耗品におけるロジスティックスが問題であり、拡大予防接種計画におけるワクチンのコールドチェーン(cold chain)整備もロジスティクスの1例である。ロジスティックスには施設配置、需要予測、生産計画、調達、輸送、倉庫・保管、在庫管理など多くの過程が関係しており、また、中央レベルから地方、コミュニティレベルまで広範囲でかつ、多くの施設・機関が関係するため、その整備や改善は容易ではないが、ロジスティックスの改善は病院やヘルスセンター等の医療施設のパフォーマンスに直接、関係し、その医療サービスの質の改善と深く結びついている。(三好知明)
用語 国際保健規約
概要 (英語訳 : IHR, International Health Regulation) 

1951年、世界保健機関(WHO)憲章第21条に基づき、感染症の国際間の伝搬を阻止することを目的として、国際衛生規則(ISR)が制定された。1969年にそれが国際保健規則(IHR)と改名された。対象疾患は黄熱、コレラ、ペスト、天然痘の4疾患であった。天然痘は、その後1980年に世界から根絶されたため、2005年の改定まで、IHRの対象疾患は残る3疾患のみであった。しかし、エボラ出血熱、SARS等の新興感染症や、生物、科学、核テロが大きな健康上の脅威と認識されるに及び、この古い枠組では、国際的な健康危機の伝搬阻止に全く無力であるとの認識が共有されるようになった。

2005年のWHO総会において、IHRの根本的な改正案が決議され、2007年6月に世界中で発効した。新しい枠組みは、国境における疾病発生の通知のみならず、加盟国の国内での「国際的に脅威となる公衆衛生緊急事態(public health emergencies of international concern: PHEIC)」全てをWHOに通知するシステムとなり、WHOの国際的な検知、対応活動に国際法上の根拠を与えるものとなった。各加盟国は、PHEIC検知、対応能力を向上することが求められている。2007年6月に発効したものの、我が国を含め多くの国が未だ(2008年初頭段階)具体的な国内法整備や包括的な実施措置を取る段階には至っていない。(村上仁)
用語 汎米保健機構/WHOアメリカ事務局
概要 (英語訳:PAHO, Pan American Health Organization)

PAHO(汎米保健機構)は、WHO(世界保健機構)のアメリカ地域事務局であり、南米アメリカ大陸の住民の健康と生活状況の改善を目的に活動を実施している。その原則は、限られた資源のもと、効率的に公共の保健医療サービスを住民に届ける事であり、近年、再興新興感染症のみならず、生活習慣病や癌疾患への対策にも目を向けるようになっている。歴史的には、1902年にアメリカ大陸におけるペストなどの感染症対策を地域として取る事を目的に11カ国が集まり、The Pan American Sanitary Bureau (PASB)として設立された。WHO本部より40年以上の長い歴史を持っており、他の地域事務所と違い、WPRO、AFRO、EMRO、CEAROなどように地域事務所という名称を用いていない。

WHO本部とは別の独自の活動も多く、特に災害対策分野での対策、活動は秀でており、対策の為の様々なマニュアルを発行している。また、会議で主に用いられる言語はスペイン語である。 PAHO本部は、アメリカ合衆国のワシントンDCにあり、27カ国に国事務所(Country Office)をもち、多くの国において、第二保健省とも称されることもあり、国の保健政策、またその実施に大きな影響を持っている。(仲佐保)