概要 |
(英語訳:Safe Motherhood)
「安全な母性」とは、妊娠・出産時にすべての女性が、安全で健康的な状態にいられるために必要なケアを受けられる権利を有するという考え方である。世界では1年間に約50万人が妊産・出産に関連した原因がもとで死亡しており、その大半は開発途上国で起きている。その要因には、住民の妊産婦の健康に関する意識の低さ、非熟練者による分娩介助、緊急産科ケアサービスの不足、産科ケアの質の低さ、危険な人工妊娠中絶などがあり、これらが社会、文化、政治的な背景の中で相互に関連し生じている。1987年ナイロビで「Safe Motherhood Initiative」が発表され、100ヶ国以上の政府、専門機関、NGOなどがこれに賛同し「安全な母性」を確保するためのプログラムを展開している。プログラム内容には、思春期の若者のためのリプロダクティブヘルスに関するサービスの提供、訓練された熟練者による安全な妊娠・出産のケア、緊急産科ケア体制の整備、家族計画に関するサービスの提供、危険な中絶の予防ならびに中絶後のケアなどがあり、単に妊娠・出産自体に注目するのではなく、ライフサイクルを通した女性の保健、栄養、福祉、地域社会における女性の地位や教育レベルの向上などを含めた取り組みが行われている。国の状況により「安全な母性」に関する課題は異なり、開発途上国では周産期死亡が大きな課題となっている一方で、先進国では出産における医療の過剰介入などが問題となっている。その違いを理解しつつ、「安全な母性」は世界的な共通課題として認知されている(渡邊聡子) |