国際保健用語集

用語 カナダグローバル連携省
概要 (英語訳:Global Affairs Canada)

カナダにおける国際協力の窓口機関であったカナダ国際開発庁(Canadian International Development Agency: CIDA)が、外務国際貿易省(Department of Foreign Affairs and International Trade: DFAIT)と2013年に統合されて外 務 貿 易 開 発 省(Department of Foreign Affairs, Trade and Development: DFATD)となった後、更に改組されて設立された、国際開発大臣のもとで開発について取り組むカナダの政府開発援助の主要な実施機関。全実施機関の*1約53.4億カナダドル(2016~17予算年度)のうち、約39.1億カナダドル(約73.2 %)がGlobal Affairs Canadaを通じて提供されている。

カナダ全体では、アフリカへの協力が中心となっており、2016年のODAは34%を占め、アジア(大洋州含む)の18%と続いている。二国間で見ると、2016年はアフガニスタン、エチオピア、マリの順で多くの支援を行った。分野別では保健分野に対しての協力は二国間協力総額の約20.4%を占めている。さらに、カナダの知見と組織の活用も積極的に進めており、2016年の二国間ODAのうち、市民社会組織(CSOs)を通じた協力が28.9%を占めている。(平岡久和)
用語 オーナーシップ
概要
 (英語訳:Ownership)

オーナーシップとは、一般的には「所有者であること、所有権」などを指しているが、国際保健の分野では、「援助機関が考えて途上国の人々に何かをさせる(donor-driven assistance)」という考え方に対して、「途上国の人々が自分で考えて、自分で実施していく」という考え方を指す。すなわち、例えば世界銀行はCDF(Comprehensive Development Framework)の中で、Country ownershipについて「途上国やその政府が運転席にいること」と表現しているが、別の言い方をすると「途上国主導で計画策定・実施・モニタリング・評価がなされること」であり、さらに現場に近いレベルでは、途上国の機関や職員のオーナーシップを指す場合もある。すなわちオーナーシップとは、取りも直さず「途上国(の人々)が主体的に事業を行うこと」あるいはそのような「意識」を指す場合が多い。(明石秀親) 
用語 オペレーショナルリサーチ
概要

(英語訳 : operational research [英], operations research [米])

オペレーショナルリサーチは、国際保健分野においては、アクションリサーチやインプリメンテーションリサーチと同じ意味で使われることが多いが、数学的・統計的モデル、アルゴリズムの利用によって、複雑なシステムにおける意思決定を支援し、また意思決定の根拠を他人に説明するためのツールとして用いられるなど、複数の用法が混在するため、注意が必要である。そのため、定義も標準化に至っていないが、提案されている定義の多くに共通するのは、その研究の目的を、研究対象のプログラムの質、有効性、または適用範囲を高めることができる介入、戦略、またはツールに関する知識の検索をするため、あるいはより具体的に保健プログラム実施上の課題に対して対応策を検討するため、と定めている。つまり、オペレーショナルリサーチの重要な要素は、保健プログラムの活動(予防、ケア、または治療)の実施中に遭遇する制約と課題を特定することによってリサーチクエスチョンを同定し、これらの質問に対する回答が直接的・間接的に問題を解決し、ヘルスケア提供の改善に寄与することである。もちろん、これは一度に起こるわけではなく、しばしば連続的かつ反復的なプロセスとなる。

その方法論としては、記述研究 (もし強力な分析要素が存在する場合、横断研究)、症例対照研究、後ろ向きまたは前向きコホート研究の3つが主に用いられ、基礎科学研究やランダム化比較研究は通常含まれない。また、データ収集方法に着目し、既存のデータ収集メカニズムを通じて収集されたデータを用いる調査・研究をオペレーショナルリサーチとして、インプリメンテーションリサーチと区別する定義を提案するものもある。いづれにしても、伝統的な科学研究が、全ての状況にあてはまる「一般化」される成果をめざすのに対し、特定のプログラムの実施上の課題に対する対応策を検討するため、特殊な状況や地域特性などに焦点をあてることを目指すことに特徴付けられると言える。

一方、数学的・統計的モデルを用いて意思決定を支援する、古典的な意味でのオペレーショナルリサーチの保健への適用も、保健システム管理や病院管理などの分野で試行されているが、先進国での実施が多いようである。(野崎威功真)

用語 オタワ憲章
概要

(英語訳:Ottawa Charter)

1986年、カナダのオタワにおいて第1回ヘルスプロモーション世界会議が開催され、その成果がオタワ憲章としてまとめられた。憲章のなかで、ヘルスプロモーションは、「自らの健康を決定づける要因を、自らよりよくコントロールできるようにしていくこと」と定義し、健康とは「・・・日々の暮らしの資源の一つであり、生きるための目的ではない」としている。このようにオタワ憲章では、健康を目的としてではなく手段ととらえている。健康の改善には必要な条件があることも示している。平和、シェルター(住居)、教育、食料、収入、安定した生態系、持続可能な資源、社会正義、公平である。

オタワ憲章は健康改善のための以下の5つのヘルスプロモーション戦略を示している。1) 健康的な政策づくり、2) 健康を支援する環境づくり、3) 地域活動の強化、4)個人の技術の開発、5)ヘルス・サービスの方向転換。この5戦略はその後のWHOによる、健康都市や包括的学校保健活動など、世界規模のヘルスプロモーション活動の基盤をなしている。

さらに、ヘルスプロモーターの新たな役割として、以下の3点をあげている。1) advocating(政策提言を行う):健康は社会的、経済的、個人的発展のための資源であり、目的ではないという立場をとる、2) enabling(能力をひきだす):すべての人が、健康になるために自らの潜在能力を発揮できるような支援を行う、3) mediating(調停を行う):他分野間との協調をはかる。(渡部明人)

用語 オゾンホール
概要

(英訳名:Ozone hole)

オゾン(O3)は酸素(O2)が紫外線のエネルギーを受けることで作り出され、さらに自然と分解される反応を繰り返している。大気中のオゾンの9割は成層圏に存在し、標高20-30kmに層状になっており、オゾン層と呼ばれる。オゾンは紫外線を吸収する性質があるため、地球に降り注ぐ太陽からの紫外線を吸収する役割を担ってその97-99%は吸収される。かつて1970年代にオゾン層が-約4%一定に減少し、また春期に南極・北極上空にて大量に減少-が観察されたりした。オゾンホールとは、後者の事象を指しているが、その原因は、オゾンを分解する化学物質(フロンやハロン)が人間の活動で大量に消費されたことで、オゾン生成と分解のバランスが崩れたことがあげられる。1987年、問題解決を目指し、モントリオール議定書により、オゾン層を破壊しない代替物質の利用が推し進められた。現在、それら代替物質の使用が広まり、オゾンホール問題は解決の兆しがみえてきた。現在の状態が継続すれば、オゾンホールは2050年頃までに完全に閉じるとされている。(星知矩(門司和彦))

用語 エンパワーメント
概要 (英語訳:Empowerment)

WHOヘルスプロモーションにおけるエンパワーメントを、「人々が自分の健康に影響のある意志決定と活動に対し、より大きな支配力(原語control)を得る過程である」と定義している。開発途上国の開発分野では、1970年代以降ジェンダーの視点が取り入れられ、1980年代以降は自助・自立を通して女性たちが力を付け、変革の主体となっていくことをめざす女性のエンパワーメントが重視されるようになった。1995年に開催された国連社会開発サミット(コペンハーゲン)では、貧困が女性に与える影響が指摘され、貧困対策、健康と教育への投資、人々の福祉の増進、女性の開発過程への参画が重要課題となった。女性のエンパワーメントとは、女性が主体的に判断し行動する能力、自らの力で計画・決定・運営していく能力を伸ばし、女性たちの置かれている状況を自ら変えていく能力を高めていくこと、換言すれば女性が様々な能力を修得し、社会参画のために力を付けること、すなわちエンパワーすることを意味している。このことが就業の機会、教育、医療などにおいて、女性と男性の格差を無くし、ジェンダーの平等につながるのである。(丹野かほる)
用語 エンパワメント
概要 (英語訳:Empowerment)

エンパワメントは、一般に個人や社会集団が当事者のニーズや関心を表明し、意思決定に参加する手段を講ずることによって、当事者のニーズが満たされるような政治的、社会的、文化的行動を起こすことができるようになることを意味する。個人のエンパワメントでは、たとえば健康を事例とすると、自分の健康に関する意思決定ができ、健康の保持増進のために自分の生活をコントロールする能力を身につけることに該当する。一方、コミュニティ・エンパワメントでは、コミュニティに属する人々が集団として行動し、自分たちの健康やQOLに関わる要因に対して自発的に調整することに該当する。エンパワメントは、ヘルスプロモーションを達成するための重要な方略でもある。人々は、外部者からエンパワーされるのではなく、自分が本来もっている力を用いて自らをエンパワーするのであり、外部者はそのプロセスを促進するファシリテーター、触媒、あるいは伴走者としての役割を果たす。(柳澤理子)
用語 エンデミック、エピデミック、パンデミック
概要 (英語訳:Endemic, Epidemic, Pandemic)

エンデミック、エピデミック、パンデミックはいずれも疾病の罹患状況(流行状況)を疫学的に説明する用語であり、違いを理解しておくことが重要である。これらは流行規模の違いがあり、地域的規模なものはエンデミック、中規模なものはエピデミック、そして大規模で広範囲にわたるものがパンデミックである。
エンデミックは、一定の地域または対象人口において、ある疾患が、継続的(慢性的)に発生している状況を意味する。たとえば風土病と言われるものがこのエンデミックにあたる。

エピデミックは、ある地域または対象人口において、ある疾患で、通常より多数の罹患が一定期間に急に発生する状況を意味する。その地域や対象人口に今まで存在しなかったまたは過去に存在していたが最近は曝露することが少なかった病原体が外部から流入すること、つまり集団免疫が成立していない状況で生じることが多い。突然生じるため、予測が困難なことが多いが、早期に状況を察知するシステムを確立し、察知した場合には早期に対策を講じることで、拡大を防ぎ、社会への影響を軽減することができる。

パンデミックは、エピデミックとなった疾患が、ある地域、国、大陸を超えて広範囲で同時期に流行し、大多数の人々がその疾患を罹患する状況を意味する。疾患によっては多数の死者を出す場合もある。パンデミックについてもエピデミックと同様に、国際的にその状況を早期に察知し、対策を講じる必要があり、世界保健機関(WHO)を中心に、各国政府、自治体、経済産業団体などが行動計画を作成し、パンデミックに備えている。(宮野真輔)
用語 エンデミック、エピデミック
概要 (英語訳 : endemic、epidemic) 

エンデミックとエピデミックはどちらも「流行・地方流行」などと訳されることが多いが、明確に区別しなくてはならない。感染症のエンデミックは一定の地域に一定の罹患率で、または一定の季節的周期で繰り返される常在的な状況である。特定の地域に強く限定される場合は「風土病」と呼ぶ。

一方のエピデミックは一定の地域にある種の感染症が通常の期待値を超えて罹患する、またはこれまでは流行がなかった地域に感染症がみられる予期せぬ状況で、一定の期間に限られた現象である。エンデミックは予測することができるが、エピデミックでは予測は困難である。エピデミックの規模が大きくなった状況をoutbreakと呼び、エピデミックが同時期に世界の複数の地域で発生することをパンデミック:pandemicと呼ぶ。

エンデミック, エピデミック, パンデミックの使い分けは感染症の種類や通例によって厳密ではない。デング熱では、周期的(典型的には4年周期)に出現するデング熱の流行をエピデミックとして、流行が一層進行し毎年デング熱が流行している状況、さらに通年的に流行している状況をエンデミックとする。通常の感染症対策はエンデミックに対して対策法を計画する。エピデミックは予期せぬ流行であるため対策は一層困難である。

エンデミックと同様に前もって対応を準備するだけでなく、エピデミックでは予想される流行にインパクトを軽減(減災)する対策やエピデミックを予知する、または迅速にエピデミックを判断する方策を開発しなくてはならない。  
用語 インフルエンザ
概要 (英語訳:Influenza)

原因となるインフルエンザウイルスにはA・B・Cの3つの型があるが、ヒトで流行するのはA型とB型である。

A型インフルエンザウイルス表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、これらの型の様々な組み合わせにより、ウイルスの抗原性が決まる。

ブタやトリなどヒト以外の宿主に分布するウイルスもあるが、ヒトに感染するA型インフルエンザウイルスは数10年ごとに突然別の亜型が出現する。これが、新型インフルエンザの登場である。

人々は新型ウイルスに対する免疫がなく、大流行となり多大な健康被害につながる。1918年には新型のスペインかぜ(H1N1)が世界各地で猛威をふるい、全世界での罹患者6億、死亡者は2000~4000 万人にのぼったといわれる。昨今は、トリの高病原性ウイルスA/H5N1が、ヒトの間で新型インフルエンザとして流行するのではと危惧されている。

インフルエンザの臨床症状は、急に現れる発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛などであり、通常の感冒と比較して全身症状が強い。高齢者では呼吸器系合併症により死亡する場合がある。小児では脳症の合併が特に日本で多いとされている。
抗インフルエンザウイルス剤としては、現状ではM2イオンチャンネル阻害薬(アマンタジン)とノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル)が入手可能である。(中野貴司)
用語 アルマ・アタ宣言
概要

(英語訳:Declaration of Alma Ata) 

1978年9月、旧ソ連邦のカザフ共和国の首都(当時)アルマ・アタに、WHOUNICEFの主導で、世界の134カ国、67国際機関の代表が集い、プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)について出された、歴史的な宣言である。同宣言によれば、「PHCとは、実践的で、科学的に有効で、社会に受容されうる手段と技術に基づいた、欠くことのできない保健活動のことである。 PHCは国家の保健システムの中心的機能と主要な部分を構成するが、保健システムだけではなく、地域社会の全体的な社会経済開発の一部でもある。 PHCは、国家保健システムと個人、家族、地域社会とが最初に接するレベルであって、人々が生活し労働する場所になるべく近接して保健サービスを提供する、継続的な保健活動の過程の第一段階を構成する。」*1

PHCは以下の4つの原則に立つ(Kaprio LA)。即ち1)住民のニーズ尊重、2)住民参加、3)地域資源の有効活用、4)包括的保健システムを地域で担うことである。
アルマ・アタ宣言は、東西冷戦の谷間の短い平和の時期に起きた一つの奇跡と言えるが、当時の中ソ対立の結果として、中国の保健ボランティア(はだしの医者)の養成と活用といった、PHCのモデルを作った中国の参加を得られないなどの皮肉を生んだ。

21世紀においてアルマ・アタ宣言は、MDGs(ミレニアム開発目標)やUHC(Universal Health Coverage)、更に2015年新たに確定された、グローバルな持続的開発目標SDGsの達成に、不可欠な戦略と考えられるようになった。(本田徹)

*1 : 高木史江訳

用語 アジア開発銀行
概要

(英語訳:ADB, Asian Development Bank)

1966年にアジア地域の経済発展と域内協力を推進するために設立された国際金融機関で、本部はフィリピンのマニラにある。2017年末現在で67か国(アジア域内48、米国、英国など域外19か国)で構成され、日本はその中で最大の出資国であり、議決権数も最大、さらに設立以来9代にわたって日本人が総裁を務めている。

事業では、融資、技術支援、無償支援など(2017年コミットメント額約203億ドル)により、主にエネルギー、金融、運輸・交通セクターなどの分野の開発を推進している。また、信託基金や協調融資(2017年コミットメント額約119億ドル)を積極的に取り入れて事業規模の拡大が図られている。

保健分野では2015年9月に「保健事業計画2015-20」が立案された。同計画においては、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage: UHC)実現にむけて、保健インフラ、ガバナンス及び財政部門への投資を優先課題として協力を推進することとしている。また、2017年のコミットメント額が約2.1億ドルに留まっている保健分野への事業に関しても、ポートフォリオ内訳としてアジアで1%、大洋州で2%(ともに2014年)であるものを、2020年までにそれぞれ3%、5%まで拡大することが企図されている。(平岡久和)

用語 アジアインフラ投資銀行
概要 (英語訳:AIIB, Asia Infrastructure Investment Bank)

アジア地域の相互接続性及び経済統合並びに既存の多国間開発銀行との協力を理念として中国が主導して2013年に設立が提唱され、2016年1月に開業した国際開発金融機関。本部は中国の北京。初代総裁は世界銀行(WB)やアジア開発銀行(ADB)での勤務経験がある金立群(Jin Liqun)が2016年1月から5年間の任期で選任された。

創設時は57か国であったメンバーは、2018年10月時点で87か国(手続き中を含む)となっているが、ADBを主導する日本と米国は加盟していない。2018年10月現在で中国は約31.0%を出資し、議決権は約26.6%を占めている。議決権が2番目に多いのはインドの約7.6%、アジア域外加盟国全体では約25.0%である。

2016年6月に最初の事業として、バングラデシュの電力改善融資及び3件の協調融資案件の総額約5億ドルが承諾されて以降貸出しが展開され、2017年末までに23件が承諾されている。(平岡久和)
用語 アウトリーチ活動
概要 (英訳:Outreach activities)

アウトリーチとは、一般的に言って「コミュニティーにいる人々、特に事務所や病院などに来ることができない、あるいはあまり来ない人々に対して、ある機関がサービスやアドバイスを提供する活動」(オックスフォード現代英英辞典)をいう。国際保健の分野では、医療従事者や職員が病院やヘルスセンターなどの保健医療施設から外に出て、それらの医療施設にたどり着くことが地理的、経済的、社会的、文化的など様々な理由で困難な地域の住民に、直接、診療や予防接種、あるいは健康教育などの保健医療サービス提供を行うことを指す場合が多い。(明石秀親)
用語 たばこ規制枠組み条約
概要 (英語訳 : Framework Convention on Tobacco Control) 

喫煙の健康への影響が明らかになり、先進国で喫煙率が低下する一方でたばこ産業は販売促進の対象を途上国に移しつつある。途上国ではその健康に及ぼす影響が比較的若年齢から現れる傾向にある。

WHOはたばこ対策を最重点施策の一つとしてとりあげ、たばこが健康・社会・環境及び経済に及ぼす影響から現在及び将来の世代を保護することを目的として、たばこ規制枠組み条約の制定を目指した。その内容は、健康警告の表示、間接税の増税、たばこの広告や催し物のスポンサーとなることの禁止、販売促進活動の禁止、公共の場所や職場におけるたばこ規制(受動喫煙からの保護)、自動販売機に関する措置、喫煙の健康に与える悪影響についての普及・啓発、教育、喫煙指導の実施などである。2003年5月の世界保健総会において全会一致で合意され、2005年に発効した。我が国は2004年6月に批准した。なお、2008年4月現在、128ヶ国が批准している。(江上由里子)
用語 う蝕経験歯数
概要 (英語訳:DMF, Decayed, Missed, Filled)

1938年にKlein Hらによって開発されたう蝕(むし歯)(dental caries)を評価する指標である。う蝕に罹患すると自然治癒が期待できないために、経験歯数として表すべきだとして、未処置歯、処置歯、喪失歯の合計をDMFと表記された。この指標は地域や集団におけるう蝕状況を表す指標として広く用いられている。大文字のDMFは永久歯のう蝕を表すのに対して、小文字のdmf(def)は乳歯う蝕を示している。

D(d):Decayedの略で保存可能な未処置歯
M(m):Missing because of cariesの略でう蝕が原因の抜去歯
F(f):Filledの略でう蝕が原因で修復した歯
e:乳歯の未処置歯の要抜去歯

乳歯は、う蝕の有無に関係なく生理的に脱落するので、永久歯のMに相当する歯の計上は困難であるとからdefを使用する。ただし、永久歯の萌出が始まる以前の年齢ではdmf方式の使用は可能である。

DMF方式を用いた集団におけるう蝕状況を示す指数には下記のものがある。
DMF者率=DMFのいずれか1歯を有する者の数/被験者数×100(%)
DMFT指数(一人平均DMF歯数)=被験者のDMF歯数の合計/被験者数
DMFS指数(一人平均DMF歯面数)=被験者のDMF歯面数の合計/被験者数
DMF歯率=被験歯のDMF歯数の合計/被験歯数(D+M+F+健全歯)×100(%)

WHOのGlobal Oral Data Bankに100カ国以上の12歳児のDMFT指数(DMFT index)が公開されている。(深井穫博)