国際保健用語集

用語 ワンヘルス(ひとつの健康)
概要

(英語訳:One Health)

ワンヘルス(ひとつの健康)は、地球上に暮らす人間、動物、環境の3者が協調して、3者全ての健康を維持、増進させる取り組みのことを言う。近年、急速な経済発展と人口増加により新興・再興感染症が世界的な脅威となっている。新興・再興感染症のほとんどが人獣共通感染症であり、人間、動物(野生動物、家畜、ペット)、環境という3者それぞれの対策と改善が求められている。西アフリカでの大規模なエボラ出血熱の流行もその一つであり、これらの対策には人間、動物、環境の要素が複雑に絡み合うため、協調して問題解決にあたる必要がある。一方、これまでの対策は、人間の健康に関する問題はWHO、動物に関する問題は国際獣疫事務局(OIE)、環境や農業に関する問題は国際連合食糧農業機関(FAO)というように、国際機関が縦割りで対応するなど、協調性に欠けていた。このため近年ではワンヘルスの概念に基づき、地球規模の健康維持増進のため3者が協調して問題解決すべきであると考えられるようになってきた。例えば、抗菌薬耐性菌の問題は、ヒトに対する対策だけでなく、家畜に対する抗菌薬を適正に使用することが非常に重要である。地球上の生態系の保全は、ヒトおよび動物の健康の両者が相まって初めて達成できる。その実現と維持のためには、3者が協調して人と動物の健康維持にむけた取り組みが重要である。(法月正太郎)

用語 ロールバックマラリア
概要 (英語訳 : Roll Back Malaria)

1998年5月、WHO中島宏事務局長(当時)の後任にGro Harlem Brundtland前ノルウェー首相が就任し、新規のWHOキャビネットプロジェクトとして宣言されたマラリア対策が、「Roll Back Malaria (RBM) Initiative」と呼ばれた。RBMイニシアチブは従来のようなマラリア撲滅運動ではなく、2010年までにマラリアによる死亡率を半減させるという具体的数値目標を持った対策案であった。RBMで強調されることは、マラリアの治療を必要とするあらゆる人、マラリアの対策を必要とするあらゆる地域にそのサービスがゆき届くよう努力すること、そしてこのRBMの旗頭が、各マラリア流行国の保健システム強化の先導役(path finder)になることである。 

RBMの具体的な戦略は、マラリアサミット(1992年)で起草されたGlobal Malaria Control Strategyのフォーミュラーを応用し、(1)マラリア患者の早期診断と迅速な治療、(2)突発性流行の検出と対策、(3)薬剤含浸蚊帳を用いた媒介蚊対策、(4)妊婦のマラリアの予防、の4項目を基盤に展開するものである。そのうえで流行国と多くの国際機関との連携、開発支援2国間援助の推進、研究グループとの協力、製薬会社などの民間セクターや非政府組織(NGO)、財団、マスメディアとのいわゆる「パートナーシップ」を築き上げてゆくことである。現在では、正式にUNICEFUNDPWorld BankWHOが完全連携して、「RBM Partnership」という新しいフレーズが使われることが多い。

RBMのビジョンは、マラリアによる負担がない世界の創出である。2020年までの具体的なビジョンとしては、全ての国々とRBMパートナーによる努力を加速化することである。2015年と比較して、マラリアによる死亡率と罹患率を少なくとも40%減少させること。また、2015年までにマラリアの流行が消失した国々において、マラリアの再興を起こさせないこと。および10か国でマラリアの流行を消失させることである。2030年までには、2015年と比べて、マラリアによる死亡率を少なくとも90%減少させ、さらに35か国でマラリア流行を消失させることを掲げている。(野中大輔)  
用語 ロールバクマラリア
概要 (英語訳 : Roll Back Malaria) 

1998年5月、WHO中島宏事務局長(当時)の後任にGro Harlem Brundtland前ノルウェー首相が就任し、新規のWHOキャビネットプロジェクトとして宣言されたマラリア対策が、「Roll Back Malaria (RBM) Initiative」と呼ばれた。RBMイニシアチブは従来のようなマラリア撲滅運動ではなく、2010年までにマラリアによる死亡率を半減させるという具体的数値目標を持った対策案である。RBMで強調されることは、マラリアの治療を必要とするあらゆる人、マラリアの対策を必要とするあらゆる地域にそのサービスがゆき届くよう努力すること、そしてこのRBMの旗頭が、各マラリア流行国の保健システム強化の先導役(path finder)になることである。

RBMの具体的な戦略は、マラリアサミット(1992年)で起草されたGlobal Malaria Control Strategyのフォーミュラーを応用し、(1)マラリア患者の早期診断と迅速な治療、(2)突発性流行の検出と対策、(3)薬剤含浸蚊帳を用いた媒介蚊対策、(4)妊婦のマラリアの予防、の4項目を基盤に展開するものである。そのうえで流行国と多くの国際機関との連携、開発支援2国間援助の推進、研究グループとの協力、製薬会社や非政府組織(NGO)、財団、マスメディアとのいわゆる「パートナーシップ」を築き上げてゆくことである。現在では、正式にUNICEF, UNDP, World BankWHOが完全連携して、「RBM Partnership」という新しいフレーズが使われることが多い。  
用語 ロジスティックス
概要 (英語訳:logistics)

ロジスティックスとは、もともと「兵站(へいたん):戦闘部隊の後方にあって、人員・兵器・食料などの前送・補給にあたり、また、後方連絡線確保にあたる活動機能(大辞林)」を表す軍事用語であり、経済において原材料調達から生産・販売に至るまでの物流を企業が合理化するための手段をいう。「材料の調達から, 生産,最終ユーザーへの製品の配達,廃棄/回収までのトータルなものの流れを扱う活動」と定義される。

国際保健の分野では医薬品や医療機材の試薬等の消耗品におけるロジスティックスが問題であり、拡大予防接種計画におけるワクチンのコールドチェーン(cold chain)整備もロジスティクスの1例である。ロジスティックスには施設配置、需要予測、生産計画、調達、輸送、倉庫・保管、在庫管理など多くの過程が関係しており、また、中央レベルから地方、コミュニティレベルまで広範囲でかつ、多くの施設・機関が関係するため、その整備や改善は容易ではないが、ロジスティックスの改善は病院やヘルスセンター等の医療施設のパフォーマンスに直接、関係し、その医療サービスの質の改善と深く結びついている。(三好知明)
用語 ロジカルフレームワーク
概要 (英語訳:Logical Framework)

プロジェクトは、明確な目標のもと一定の予算を用い、ある期間内に実施される事業と考えられる。このプロジェクトに必要な活動、投入、外部条件、指標などの諸要素とそれらの間の論理的な相関関係を示したプロジェクトの概要表のことを、「プロジェクト・デザイン・マトリクス(PDM)」あるいはロジカル・フレームワーク(論理的枠組み)と呼んでいる。

PCM(プロジェクト・サイクル・マネイジメント)とは、このプロジェクトつまり事業の計画・実施・評価そしてフィードバックという一連のサイクルをこのPDMあるいはロジカル・フレームワークと呼ばれる事業の概要表に基づいて一元的に運営管理する方法である。このような事業概要表は、1960年代後半に米国で、特に目的に沿った効果的な事業評価を行うために開発されたロジカル・フレームワークに起源を発している。このロジカル・フレームワークは、その後、多くの国際機関に導入され日常的に活用されるようになった。さらに、1980年代前半にドイツでこのロジカル・フレームワークを作成する計画段階に「参加型」の概念を取り入れ、論理的かつ段階的に計画策定を行う手法へと発展した。日本では、これを基に、1990年代前半、国際開発高等教育機構が、参加型で計画を策定する段階のみならず、事業のあらゆる段階において活用できるようなPCM手法を開発し、現在国内外の事業の運営管理に適用されつつある。(兵井伸行)
用語 レシフェ宣言
概要

(英語訳:Recife Political Declaration on Human Resources for Health)

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成のために保健人材をその原動力の中心に据えた政治宣言。2013年、ブラジルレシフェで、世界93か国から、政府、国際機関、援助関係者、人材開発関係者が参加した第3回保健人材に関するグローバルフォーラムで採択された。ここでいう保健人材は専門教育を受けた保健医療専門職から事務職、ボランティアまで含まれる。UHC達成には、数も質も担保された保健人材が支援的な労務環境でモチベーションをもちながら基礎的保健医療サービスを提供し続けることが重要である。本宣言では、国レベルでは、政府・国際機関・援助関係者や国内関連省庁・教育機関・市民社会・労働組合・職能団体など、人材開発に関わる関係者が共通のビジョンをもつための環境作り、財政面で持続可能な保健人材開発計画の策定と実施、保健人材情報システム、教育改革、キャリアパス、人材配置や定着、人事管理(ガバナンス)の改善、保健人材への投資の有効性を確認するための調査研究、などを重視すること、国際レベルでは、「保健医療人材の国際採用に関するWHO世界実施規範」Global Code of Practice on the International Recruitmentを保健システムと人材強化のためにガイドとして用いること、援助機関に対しては人材育成を優先すること、などを呼びかけている。

2014年の第67回WHO総会ではこの「保健人材に関するレシフェ政治宣言」へのコミットメントを働きかける決議が採択され、国際社会として継続的に保健人材に関する注目を呼びかけている。(藤田則子)

用語 リプロダクティブ・ヘルス・ライツ
概要

(英語訳:Reproductive Health/Rights)

リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは、人間の生殖システム、その機能と(活動)過程のすべての側面において、単に疾病、障害がないというばかりでなく、身体的、精神的、社会的に完全な良好な状態にあることを指し、1994年にカイロで開かれた国際人口開発会議の行動計画で採択された。その具体的内容は、1)カップルが自分たちの意志でいつ何人子どもを産むか産まないかを選ぶ自由を持つこと、2)カップルが性感染症の恐れなく安全で満足のいく性生活を持てること、3)女性が安全な妊娠と出産を享受できること、4)生まれてくる子どもが健全な小児期を過ごせること、であり、思春期や更年期における健康上の問題等生涯を通じての性と生殖に関する課題が幅広く議論された。

翌年北京で開催された第4回世界女性会議でも、リプロダクティブ・ヘルス・ライツは女性の人権であり、女性は自らの出産数を管理する権利を持ち、リプロダクティブ・ヘルスを促進すべきであること、とされ、カイロ会議と同様の定義の下、最高水準の健康を享受する女性の権利は、全ライフサイクルを通じて男性と平等に保障されなければならない、と行動綱領に明記された。

2014年カイロでの国際人口開発会議から20年の節目となり、MDGsの達成期限の2015年を前に、1)尊厳と人権、2)保健、3)人の移動、4)ガバナンスとアカウンタビリティー、5)持続可能性、を5つの柱として行動計画の実施状況の検討が行われた。(松本安代) 

用語 リファラルシステム
概要 (英語訳:Referral System)

リファラルシステムは患者紹介とは医療機関を受診した患者の診療を他の医療機関に依頼することで、診療所・保健センター・地域の一次病院などの医療機関では診療できないより高度な医療行為が必要になるときや重症患者、専門外の疾患が疑われる場合、高次医療機関へ紹介・搬送して診療することで「患者紹介システム」や「病診連携システム」とも呼ばれる。なお、緊急時、対応不可能な際に患者を搬送することはこのリファラルシステムとは性質を異にする。

一方、治療により回復期に入った患者には地域の身近な医療機関を紹介し、患者はそこで回復支援やリハビリを受けて復帰を測る。このように、地元の医療機関の方が通院に適切な場合や、その患者の紹介もと出会った医療機関に再び紹介することをカウンターリファラル(逆紹介)と言う。地域の医療機関から大病院への「紹介」、大病院から地域の医療機関への「逆紹介」が円滑に行われることで、中小の医療機関と大病院が各々の役割を効果的に果たすことが期待される。
 日本では2015年の医療保険制度改革により近年、大病院に地域の診療所との連携を進めるなどの責務が規定され、紹介状なしで受診する場合、通常の初診料に加え別途5000円(歯科は3000円)以上の特別料金を徴収するようになった。他の医療機関を受診するよう大病院から紹介を受けても患者が引き続き大病院の受診を希望する場合は、再診でも特別の料金がかかる。患者の高次病院への集中を防ぐという点でも一定の効果を挙げている。

開発途上国においても各レベルの医療機関の基準を設定し、機能分化と紹介の仕組みが作られているが、現実には医療資源の不足や患者の希望から、上位の医療機関を直接受診する患者が多く、リファラルシステムは制度として構築されていても適切に機能していない場合が少なくない。

リファラルシステムでは、患者紹介に加えその機能を地域・コミュニティーにまで広げ、人々が医療サービスにアクセスできる体制や情報・知識・技術の伝達までを含めた広義のリファラルシステムを考えることでUHC達成への貢献が期待される。(江上由里子)
用語 ラロンド報告
概要 (英語訳:Lalonde Report)

カナダの保健福祉省大臣(minister of national health and welfare)であったMarc Lalondeが1974年に発表した報告書「カナダ国民の健康に関する新しい考え方(A new perspective on the health of Canadians)」を、彼の名を冠してラロンド報告と呼ぶ。

報告書は、健康を決定する要因は生物学的要因のみではなく、環境要因、ライフスタイルそして保健医療サービスも含まれると指摘した。それゆえ保健医療サービスだけへの医療費支出が必ずしも健康改善に直結するとは限らず、環境やライフスタイルの変容への投資も必要であると論じた。

従来、健康は生物医学的モデルで説明されるような単一病因に規定されていると捉えられることが一般的であったが、報告書の公表以降、社会環境も含む多くの要因が健康に影響を与えていると考えられるようになった。

例えば、1978年WHOが提唱したプライマリヘルスケアに関するアルマ・アタ宣言や、1986年のWHOによるヘルスプロモーションに関するオタワ憲章は、ラロンド報告に触発された包括的な健康観を基調としている。

この報告によって、保健政策では健康の維持向上には狭義のヘルスケアの範囲を超えた取組みが必要であると強調されるようになった。(湯浅資之)
用語 ヨード欠乏症
概要 (英語訳 : IDD / Iodine deficiency disorders)

ヨード欠乏症はヨード摂取の欠乏によって生じる甲状腺機能低下症であり、脳細胞の機能へのダメージによる知的発育遅滞の最もリスクのある原因の一つであり、特に途上国を中心にクレチン症、脳細胞の機能障害、甲状腺腫などにより苦しんでいる人々がいる。世界の30%以上の人々がヨード欠乏のリスクを有するとみられ、また甲状腺腫の経験をもつ人の数は約7億5000万人以上、なんらかの脳障害をうけている人が4300万人いると推定されている。

ヨード欠乏はヨード油の直接的経口投与および皮下注入による補給(Supplementation)、食塩のヨード添加(Fortification)などの方法によって改善することが可能である。食塩へのヨード添加が最も一般的な方法で、この手法は全ての地域で増加し、2002年の時点で途上国の66%以上の人々はヨード添加塩を摂取しているとされている。(石川みどり)
用語 ヨハネスブルグサミット
概要

(英語訳:World Summit for Sustainable Development)
(日本語訳:持続可能な開発に関する世界首脳会議)

2002年8-9月南アフリカのヨハネスブルグにおいて開催された首脳会議。この会議は、「アジェンダ21」が採択された1992年の国連環境開発会議(リオ・デ・ジャネイロで開催)から10年が経過したのを機に、同計画の実施促進やその後に生じた課題等について首脳級の議論を行うことを目的に企画された。「リオ+10」とも言われ、世界104カ国の首脳、190を超える国の代表、また国際機関の関係者のほかNGOやプレスなど合計2万人以上が参加した。

「アジェンダ21」をより具体的な行動に結びつけるための包括的文書である「行動計画」及び首脳の持続可能な開発に向けた政治的意志を示す「ヨハネスブルグ宣言」が採択され、さらに自主的なパートナーシップ・イニシアチブに基づく200以上の具体的プロジェクトが登録された。

我が国から、小泉首相(当時)が出席し、教育の重要性を訴えた。米沢藩の「米百俵」の事例や、アフリカのガーナで医学研究に捧げた野口英世を紹介し、野口英世医学賞が設立されるきっかけとなった。ストックホルムにおける国連人間環境会議(1972)やリオデジャネイロサミット(1992)に比較すると、成果が明確でないという批判がある。21世紀初頭に提唱された、MDGs(ミレニアム開発目標)、地球温暖化防止をはじめとする、国際社会が提唱してきた開発・環境・人権などの諸課題が再確認されたという点では意義が深い。このサミットではESD(Education for sustainable development)の重要性が提唱された。

この会議の10年後(リオデジャネイロサミットの20年後)の2012年6月にブラジル・リオデジャネイロにおいて「国連持続可能な開発会議(Rio+20)」が開催され、改めて持続可能な開発(Sustainable Development)に関する世界的な議論が行われ、2015年に国連総会でSDGs(Sustainable Development Goals)が採択される基盤となった。(山本秀樹)

用語 ユーザーフィー
概要 (英訳:User fees)

国際保健の分野では、ユーザーフィーとは、患者やその家族が直接医療機関に支払う診療費を指す。

途上国において医療コストを賄うに当たって、外部からの援助に頼るだけでなく、自分の国でも何らかの財政基盤を作ろうとするとき、現在考えられている方法としては、最終的には先進諸国と同様に保険(Insurance)制度の構築を目指す場合が多い。

しかしながら実際には、途上国では人々の貧困の割合が多く、掛け金である保険料を支払えなかったり、自分が健康であると感じているのに保険料を支払う必要を感じていなかったり、あるいはインフラストラクチャーが整っていないなど、保険制度の導入が難しい途上国も多い。

これに対してユーザーフィー制度は、取り合えず利用者から診療コストを徴収しようという制度で、通常、診療費の徴収に当たっては、保健医療サービスへのアクセスのための経済的な障壁を取り除くため、貧困者を同定して、貧困者保護のための「支払い免除(Exemption)」の制度を同時に導入することが重要である。

しかしながら、患者の状況を医療施設の職員がよくわからない場合や患者の言うことをどこまで信じられるのかなど、時に貧困者の認定は困難である。貧困者の認定をその患者の住む地域の首長などに認定してもらうなどの制度を取り入れる場合もあるが、その場合でも時に選挙の見返りや、診療費が浮いた場合のキックバックなど不正が起こる可能性も否定できない。

さらに、お金を利用者から直接受け取る医療機関の取り分の率(Retention rate)が少ないと、医療機関での料金徴収が進まなかったり、あるいは、診療費収入からの収入の一部をそこに働く職員の給与補填に当てる場合も多いが、その場合、職員へのお金の実入りが少なくなる貧困者の認定を渋るなど、診療費制度の導入もあまりうまくいっていない事例も多いが、必ずしもすべてがうまくいっていないわけではない。(明石秀親)
用語 メジナ虫症
概要 (英語訳 : Medina (Guinea) worm disease、Dracunculiasis) 

メジナ虫症(ギニア虫症)は線虫Dracunculus medinensisによる寄生虫感染症である。飲み水の中にいる線虫の幼虫を有するミジンコを摂取して感染する。腸管から腹腔に出た幼虫は、約12ヶ月で成虫に発育する。産卵期のメス成虫(長さ:60-100cm)は下腿皮下に移動し、感染者の皮下に水泡や潰瘍を形成して、感染者の下腿が水場などに入った時に外界に幼虫を放出する。メス成虫が下腿に移動すると灼熱感、掻痒感を伴う疼痛がある。潰瘍が細菌などに二次感染すると疼痛は激しくなり農作業が困難になる。この時期が農繁期に重なり収入が低下するため、やがて貧困を悪化させ経済問題となる。

対策はミジンコに汚染された水を飲まない教育が基本である。1)池などの飲料水は避け、井戸などの汚染されていない水を飲料水とし、2)ろ過などの方法でミジンコを排除する、3)下腿に水泡や潰瘍のある感染者は患部を治療し、池などの水場には入らない、などの予防対策が有効である。WHOユニセフ?、カーター財団など複数の国際組織が協力してメジナ虫症の対策に乗り出し、1986年には毎年350万人が感染していたが、現在ではサハラ以南アフリカの12カ国の約3万人に限局され、対策は最終段階である。メジナ虫症対策はワクチンや治療薬を使わない、教育と行動変容を基本とする予防対策が成功していることに意義がある。残された流行地の多くは都会から隔離された田舎で、63%スーダンからの報告である。 
用語 ミレニアム開発目標
概要 (英訳:MDGs, Millennium Development Goals)

2000年9月、189カ国の首脳が出席した国連ミレニアム・サミットでの合意をもとに設定された国際社会共通の開発目標。
これは、1990年代に多くの国際会議やサミットで提唱された開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとしてまとめたもので、2015年までに各国が達成すべき8目標を定めている。
8つの目標とは、

1)極度の貧困と飢餓の撲滅、
2)普遍的初等教育の達成、
3)ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上、
4)乳幼児死亡率の削減、
5)妊産婦の健康の改善、
6)HIV/エイズマラリア、その他の疾病の蔓延防止、
7)環境の持続可能性の確保、
8)開発のためのグローバル・パートナーシップの推進、

である。
過去の開発援助の経験から、成果を重視する動きが生まれ、ミレニアム開発目標では達成期限と具体的な数値目標が設定されている。
2008年1月15日には数値目標の内容が改訂され、保健医療分野と直接に関連している項目では、リプロダクティブ・ヘルスへの普遍的アクセスの達成と、2010年までに必要に応じたHIV/エイズ治療への普遍的アクセスの達成などが新たに加えられた。
ミレニアム開発目標は、援助国が開発途上国を側面で支えること(パートナーシップ)とともに、開発途上国が自ら責任を持って開発に取り組むこと(オーナーシップ)を重視している。
また、ミレニアム開発目標は分野ごとの開発目標を示しているが、貧困やジェンダーなどの分野横断的な視点に基づいた取り組みも必要である。
(池上清子)
用語 マラリア
概要

(英語訳 : Malaria)

マラリアとは、寄生性原生動物であるマラリア原虫(Plasmodium spp.)が、アノフェレス属の蚊(Anopheles spp.)で媒介されてヒトに感染する発熱性疾患である。WHOの報告(2015)では、年間2億人がマラリアに感染し、そのうち50万人が死亡したと推定している。死亡者の多くは、サハラ以南に居住する5歳未満の乳幼児である。ヒトに感染するマラリア原虫のうち、熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)は、最も症状が重く、死亡率が高い。これは、破壊される赤血球が多いことと、脳マラリア(感染赤血球による脳毛細血管閉塞)を生ずるためである。診断は、血液塗抹標本の顕微鏡診断がゴールドスタンダードであるが、迅速診断キット(RDT: Rapid Diagnostic Test)やPCR法(polymerase chain reaction)が開発されている。

2018年現在、最も効果がある治療薬は、アルテミシニンである。発見者の屠博士は2015年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。薬剤耐性の出現を遅らせる方策として、多種薬剤の併用(ACT: artemisinin-based combination therapy)が推奨されている。

予防は、蚊にさされないための一般的予防(蚊帳や昆虫忌避剤の使用等)が重要である。様々なワクチン開発研究が行われているが、実用段階に入っているものはない。 (松本-高橋エミリー)

用語 マイクロファイナンス
概要

(英語訳:microfinance)

貧困層・低所得層向けの貯蓄・融資・送金・保険など少額の金融サービスの総称。融資だけをさす場合は「マイクロクレジット」も多用される。

1970年代に南アジアや中南米で所得創出活動を対象とする無担保融資が始められ、グループ貸付や分割少額返済といった返済率を高める手法が発展した。1990年代に入って貧困の研究が進むと、貧困層が多様な金融ニーズを抱えていることが明らかになり、供給者主導の画一的なクレジットだけでなく、様々な金融商品を開発・提供する必要性が提唱された。2000年代以降、気軽に預けられる預金、低価格の保険、携帯電話と電子マネーによる送金・決済サービスなどが登場し、サービスや資金の提供者として援助団体だけでなく民間企業が参入するようになった。

2000年代後半に入ると、援助機関がマイクロファイナンスに代わる用語として、「金融包摂(financial inclusion)」を頻繁に使うようになっている。マイクロファイナンスが貧困層・低所得層に特化した金融セクターとして扱われてきたのに対し、金融包摂では通常の金融制度にマイクロファイナンスを統合し、すべての人々が、政府の規制・監督を受けた金融サービスを安全かつ持続的に利用できることをめざしている。

既存のマイクロファイナンス機関の規格に合わず金融サービスを利用できない層、あるいは交通が不便な地域へサービスを拡大するためには、様々な機関が参入・連携し、革新的なサービスを開発する必要があるという認識に基づく。(吉田秀美) 

用語 ヘルスリサーチ
概要 (英語訳 :Health research) 

ヘルスリサーチとは、医学、薬学、保健学に代表される自然科学分野と、社会学、経済学、文化人類学、行動科学に代表される社会科学分野について、それぞれ の方法論や研究成果を多角的に用いることによって、最適な保健・医療・福祉システムを構築するための基礎情報を明らかにするための調査研究である。

ヘルスリサーチを実施する上で重要なこととして、大きく二つ挙げられる。第一に、保健・医療・福祉サービスを利用する人々が、どのような社会環境に置か れ、どのようなことを望んでいるのかについて、できるかぎり具体的に把握することである。第二に、保健・医療・福祉における最新の研究成果について、効率 的・効果的に多くの人々に伝えるとともに、それらの成果をより積極的に利用することが可能となるように地域の環境づくりをすすめていくことである。最も重 要なのは、いずれにおいても保健・医療・福祉サービスを利用する人々を主体とした研究姿勢が求められることである。

ヘルスリサーチは対象となる分野がきわめて多岐に渡るとともに、方法論もいまだ確立されていないことから、現時点では発展途上にあるといえる。しかし、自 然科学と社会科学の両方をふまえた新しい学問として、将来期待されるべき有望な分野であり、数多く行われている研究活動を統合し、社会システムとして有効 に機能させるための調査研究を進めていくことが、今後ますます重要になってくると考えられる。(吉村健清)
用語 ヘルスプロモーション
概要

(英語訳:Health Promotion)

1986年のオタワ憲章におけるWHOのヘルスプロモーションの定義は、「自らの健康を決定づける要因を、自らよりよくコントロールできるようにしていくこと」である。また、ヘルスプロモーションには保健セクターのみならず、他分野も入れたより広範囲な領域(マルチセクター)による対応が求められるため、バンコク憲章(2005年)において「健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health)」への対策が盛り込まれ、ヘルシンキ宣言(2013年WMAフォルタレザ総会で修正)において「全ての政策において健康を考慮すること(Health in All Policies)」の重要性が認識された。さらに上海宣言(2016年)では、複雑かつ高度化する市場メカニズムに対して、人が自分の健康をコントロールできるようにする必要性が取り上げられ、政府による市民の「健康リテラシー(Healthy Literacy)」強化も強調されている。

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)においてもマルチセクターアプローチの重要性が盛り込まれており、不健康な生活を助長する食品や嗜好品の規制と課税のための法制度、目的税を財源としたヘルスプロモーションのための基金、ヘルスプロモーションや予防も要素として含む健康保険・保障制度など、ヘルスプロモーションのためのインフラ・財政の重要性が高まってきている。(渡部明人)