国際保健用語集

用語 若年妊娠
概要

(英語訳:Adolescent pregnancy or teenage pregnancy)

若年妊娠とは20歳未満の妊娠を指す。若年妊娠は、未婚、望まない妊娠が多く、結果として安全ではない人口妊娠中絶により母体の健康に大きな影響を及ぼす。出産前後の母親の健康リスク(貧血、出血、マラリアHIVなどの性感染症合併、うつ病などの精神疾患)、妊産婦死亡のリスクも高い。子供についても死産、低出生体重、早期新生児・乳幼児死亡のリスクもそれぞれ高い。特に15歳未満は、サブサハラアフリカ、中西部・南西アジアで多く、これらのリスクがさらに上がる。

15-19歳の出産が、世界では年間1600万人、全出産の約11%、その90%は低所得国もしくは中所得国であり、低中所得国における若年出産の割合は高所得国の2倍から5倍とされる。若年妊娠女性の多くが喫煙や飲酒の習慣、性感染症があり、生まれた子供の健康発育にも大きな影響を与える。

日本における若年妊娠の場合も、妊娠出産による身体的合併症より、問題となるのはむしろ心理的精神的な未熟性、経済的・家族関係の不安定さである。このため養育困難や家庭内暴力、乳幼児虐待のリスク因子として注目され、妊娠中や出産後の居住場所支援から育児指導まで、行政サービスも含めて支援が必要である。(藤田則子)
 

用語 英国国際開発省
概要 (英語訳:DFID, Department for International Development)

英国の開発協力を中心的に担う組織として、1997年に設立され、アフリカ、アジア及び中東に対する支援を中心とした援助機関。英国の全ODA(2017年)139.3億ポンドであるが(GNI比0.7%を実現している)、その72.5%がDFIDを通じて供与されている。

優先課題(Strategic Objectives)は、「世界的平和・安全・ガバナンスの強化」、「危機に対する強靭性や対応力の強化」、「世界的繁栄の推進」、「極度の貧困への対応と最も脆弱な人びとへの支援」、「英国援助の資金に見合う価値と透明性の向上」の5つを掲げている。

英国ODAは62.4%が二国間協力(2017年)で、DFIDを通じた二国間協力のうち主要な協力相手先はアフリカ(25.9億ポンド:二国間協力の58.6%)であり、次いでアジア(15.7億ポンド:35.5%)と大部分を占めている。

保健分野は、2016年の二国間協力では人道支援、政府・市民社会についで、10.4億ポンド(12.2%)と3番目に大きい支援分野となっている。(平岡久和)
用語 薬剤耐性
概要

(英語訳:AMR, Antimicrobial Resistance)

微生物(細菌、真菌、ウイルス、寄生虫)による感染症に対し、抗微生物薬が無効になる、または効果が減弱する事象を薬剤耐性という。

これまで微生物による感染症に対し、ワクチンや抗菌薬など抗微生物薬が次々と開発されてきたが、抗菌薬開発の歴史は薬剤耐性との闘いの歴史でもあった。1960年代にはペニシリンが無効な黄色ブドウ球菌に有効なメチシリンが開発されるなど、細菌感染症は最早不治の病ではないという認識が広まった。先進国では死因は感染症から非感染性疾患に変化し、1980年代以降新たな抗微生物薬の開発は減少していった。一方で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)など薬剤耐性グラム陽性球菌、多剤耐性緑膿菌、アーテスネート耐性マラリア原虫、多剤耐性結核菌など世界規模で耐性菌が拡がっている。

また、動物用抗菌性物質や抗菌性飼料添加物が使用されることにより、畜産物を介した薬剤耐性菌の伝播の可能性もあり、ヒトと動物の垣根を超えた世界規模での取り組み「ワンヘルスアプローチ」が必要であると認識されるようになった。
2015年世界保健総会で「薬剤耐性に関するグローバルアクションプラン」が採択され、日本でも2016年4月国際的に脅威となる感染症関係閣僚会議は「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020」を取りまとめた。同年5月「国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン」は薬剤耐性の対策強化に具体的行動をとることにコミットした。(木村和子) 

用語 行動変容のためのコミュニケーション
概要 (英語訳:IEC, Information, Education, and Communication: IEC BCC, Behavior Change Communication)

情報・教育・コミュニケーション(Information, education, and communication:IEC)とは、 サービス利用者に対して特定の情報を伝達する方法である。サービス利用者が理解を深めて行動変化することを目指して、サービス提供側が活動を展開するということに焦点を当てている。例えば妊婦検診を広めることを目的とする事業では、情報の送り手である保健省が、受け手である妊婦に対して、TVやラジオでの宣伝や街頭ポスター、保健センターなどでの指導など、様々なチャンネルを通じて、妊婦検診の日時/場所といった情報を伝えると同時に、なぜ妊婦検診が必要なのかについて理解を深めさせ、実際に妊婦検診へ行くように働きかけることを意味する。

一方、行動変容のためのコミュニケーション(Behavior change communication:BCC)では、サービス利用者が、長い間培ってきた行動や生活パターンを、より望ましいものに変えるということに焦点を当てている。例えば、コンドームの使用や禁煙などである。行動変容を促すには、知識のみならず、行動変容がその人に望ましい成果をもたらせるのだと気づかせること、さらには、その人自身が行動変容できるのだという自信を持たせることが重要とされている。具体的例として、カウンセリング、メディアキャンペーン、法制度の整備などがある。BCCとIECは類似点も多いが、厳密には異なる点もある。そのため、IEC/BCCと並列標記される場合と、別々に標記される場合とがある。(和田知代)
用語 行動科学
概要 (英語訳 : Behavioral science)

第二次世界大戦後のシカゴ大学の科学者が、自然科学と社会科学を統合した見方から行動を捉えようとした際に用いられた名称。人間の個人的・集団的行動の一般法則を客観的な観察や調査によって実証しようとする学問であり、心理学、社会学、人類学を中核として、精神医学、コミュニケーション論、情報理論などの領域を含みながら、学際的に発展してきた。

国際保健医療の分野に関連が深いのは「応用行動科学(applied behavioral science)」であろう。人間の対人行動に関する諸理論(対人関係、対人的コミュニケーション、対人的影響過程、集団内行動、リーダーシップ、グループ・ダイナミックス、組織行動など)を応用して、現場で起こっている人間関係的側面の諸問題に働きかけていくものである。アプローチとしてはアクションリサーチのサイクルが用いられる。アクションリサーチの父とされるK.Lewinは、人間関係の改善のための手法としてワークショップ形式で行われるトレーニング(training)を重視した。K.Lewinのこの発想は、彼の弟子たちによって設立された米国NTL Institute for Applied Behavioral Scienceにて、人間関係トレーニング(Human Relations Training、正式名称:ラボラトリー方式の体験学習)として、また、民主的でヒューマニスティックな組織づくりをめざした組織開発(Organization Development)として発展した。(中村和彦)