国際保健用語集

用語 精神保健
概要 (英語訳:Mental Health and Well-being)

WHO(世界保健機関)は、精神保健を「個人が、それぞれの可能性を実現し、日々の通常のストレスに対処でき、生産的かつ有意義に働くことができ、自身のコミュニティに貢献することができるようなウェルビーイングの状態」としている。WHOの健康の定義(1946)や国際人権規約が定める健康権(1966)にも精神保健が含まれている。国際行動計画である「包括的メンタルヘルスアクションプラン2013-2020」(WHO、2013)では、国際疾病分類ICD-10の「精神および行動の障害」を精神疾患と捉え、うつ病、双極性感情障害、統合失調症、不安障害、認知症、物質使用障害、知的障害、自閉症を含む児童期および青年期に通常発症する発達および行動の障害、自殺やてんかん等を含む。WHOは、精神疾患の生涯有病率を4人に1人、精神保健への$1の投資が$4の利益を生むとしている。青年女子の死因1位が自殺であること等を踏まえ、国連「持続可能な開発目標(SDGs)」(2015)では 、目標3に「精神保健及び福祉」の促進(ターゲット3.4)及び薬物・アルコール等「物質乱用の防止・治療」の強化(3.5)が含まれ、国際の優先事項となった。国連障害者権利条約(2006)にも、身体的及び感覚的機能障害と共に精神的及び知的機能障害が含まれている。今後は、従来の医学モデルに代わる障害者権利条約の社会モデルに基づき、地域における分野横断的で統合的なアプローチによる、精神障害のある人々の人権保護・促進及びウェルビーイングの向上が急務である。(井筒節・堤敦朗)
用語 経口補液療法
概要 (英語訳 : ORT, Oral Rehydration Therapy) 

経口補液療法とは、下痢症により引き起こされる脱水を治療する手段である。
歴史は1940年代までさかのぼり、大量の水様性下痢により急速に脱水に陥るコレラに対する治療として最初に用いられた。途上国では、病院の設備が十分でなかったり医薬品が入手できないという事情により経静脈輸液治療が実施できない場合は多い。

さらには、手技の未熟さや経験不足のため、急速な輸液による心不全や静脈ルートからの感染など経静脈輸液に伴うリスクが大きい。このような現場で多くの子どもたちを救ってきたのは、水、糖分、塩分を一定の割合で溶かした経口的に補給される溶液であった。1975年にはWHOUNICEFが統一した組成の経口補液療法用の糖塩分溶液(Oral Rehydration Salts, Oral Rehydration Solution, ORS)を奨励するようになった。その後、病態に応じたナトリウム濃度など組成成分の調整、穀物をベースとしたORT、栄養価や吸湿性についても継続して検討されている。また、ORTは下痢症の治療であるとともに「飲食」という日常の生活にきわめて密着しているということを忘れてはならない。

住民たちに浸透し普及するためには、現地における受容性、食生活や離乳食習慣に配慮し、文化人類学的な側面を検討する必要がある。  
用語 経口補液療法・経口補水薬
概要 (英語訳:ORT・ORS , Oral Rehydration Therapy・Oral Rehydration Salts)

経口補液療法(ORT)とは、下痢症により引き起こされた脱水を治療する手段である。歴史は1940年代までさかのぼり、大量の水様性下痢により急速に脱水に陥るコレラの治療として用いられたのがその始まりである。途上国では、病院の設備が不十分で医薬品も乏しいという事情により、経静脈輸液治療が実施できない場合が多い。さらには、手技の未熟さや経験不足のため、急速な輸液による心不全や静脈ルートからの感染など経静脈輸液に伴うリスクが大きい。このような現場で多くの子どもたちを救ってきたのは、糖分、塩分を一定の割合で水に溶かして作成した溶液を経口的に補給する治療法であった。1975年には、WHOUNICEF?が統一した組成の経口補水薬(ORS)を奨励するようになった。その後、病態に応じたナトリウム濃度など組成成分の調整、穀物をベースとしたORT 、栄養価や吸湿性についても継続して検討されている。また、ORTは下痢症の治療であるとともに「飲食」という日常の生活にきわめて密着しているということを忘れてはならない。住民たちに浸透し普及するためには、現地における受容性、食生活や離乳食習慣に配慮し、文化人類学的な側面を検討する必要がある。(中野貴司)
用語 経済協力開発機構
概要 (英語訳 : Organization for Economic Cooperation and Development) 

欧州経済復興促進のため1948年に発足した欧州経済協力機構(OEEC)が改組され、61年9月、経済協力開発機構(OECD)として発足。事務局はフランスの首都パリ。OECDの目的は、経済成長、開発途上国援助、貿易の拡大にあり、目的達成のために加盟国相互間の情報交換、コンサルテーション、共同研究と協力を行う。近年雇用問題、多国籍間の投資協定の策定、ウルグアイ・ラウンド後の貿易問題、規制緩和などに取り組んでいる。2003年時点の加盟国は30カ国(ほかに準加盟国としてユーゴスラビア)。当初は先進国クラブとよばれたが、メキシコ、韓国、東欧諸国の加盟により新たな特色を打ち出すべく模索中である。

最高機関は閣僚理事会と常駐代表会議から成る理事会。理事会は、14カ国から成る執行委員会(この内アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、日本、カナダの7カ国は常任)を選出、全加盟国が国際経済の重要問題を審議する新執行委員会を設置する。下部機構に経済政策委員会、貿易開発委員会、開発援助委員会(DAC)の3大委員会をはじめ、合計35の委員会がおかれている。 
用語 経済破綻効果
概要

(英語訳:Catastrophic Effectまたは、Catastrophic Health Expenditure)

経済破綻効果は、医療にかかる自己負担の出費によって基本的な生活費が削られ、最低限の暮らしが継続できなくなる壊滅的な影響を意味する。すべての人が経済的な困難を伴うことなく保健医療サービスを享受することを目指すUniversal Health Coverageにとって、この経済破綻効果はなくすべきものである。経済破綻をきたす出費が家計のなかで占める割合の閾値(下限値)として、食費を除いた支出が40%といわれるが、その閾値を全支出の10%と設定したり、貧困レベルに応じて変動させる場合もある。ただし、経済破綻に陥るまでの期間や、それが継続する期間は明確に定義されていない。現在、公共診療施設における利用者支払いは多くの開発途上国で撤廃ないし軽減されつつあるが、健康保険が十分に普及していないことに加え、公共診療施設の質の低さのため貧困層でも有料の民間診療施設を受診することから、医療費の自己負担が貧困に陥る原因の半分を占めているインドのような国も少なくない。健康保険によって医薬品や検査代を含めた診療費がカバーされていても、病院までの交通費、家族の付き添い費用のほとんどが自己負担である。また、稼ぎ手の病気、病人の看護のため仕事ができなくなり、収入が減少することも多い。経済破綻効果をなくすには、コミュニティレベルの搬送費用基金、公共交通システムの整備、社会保障の充実なども必要となる。(神谷保彦)