国際保健用語集

用語 ESD
概要

(英語訳:Education for sustainable development)
(日本語訳:(国連)持続可能な開発のための教育)

2002年のヨハネスブルグサミットにおいて、ESDの推進が提言され、我が国はESDの推進の10年を提唱した。

ESDの概念は、1980年の国連環境計画(UNEP)、世界自然保護連合(IUCN)、世界自然保護基金(WWF)が提出した「世界環境保全戦略」で、「持続可能な開発」の概念が示されることに始まる。1984年国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)」(委員長:後にノルウェーの首相および世界保健機関事務局長となったブルントラント博士)の提案を受け、国連総会で承認された。その報告書"Our Common Future"(1987)(『地球の未来を守るために』)では、環境保全と開発の関係について「将来世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たすこと」という「持続可能な開発(SD)」の概念が打ち出された。

我が国では、2002年のヨハネスブルグサミット以後、世界レベルでのESDの推進を提唱しており、2005年から10年間を「ESD推進の10年」として国連総会で提唱し、採択された。

ESDはEducation for Sustainable development であり、on Sustainable developmentでない。持続可能な社会を作るために、学校や地域における教育の必要性が高い。それには、あらゆる学習や啓発活動を通じて、持続可能な開発のあり方を考え、その実現を推進するための場や機会を地域で提供することが必要である。その内容も、環境教育だけでなく、文化の独自性を尊重し、人権、平和の構築、異文化理解、健康の増進、自然資源の維持、災害の防止、貧困の軽減などを通じて、公正で豊かな未来を創る営みである。

ESDの普及・推進のためにUNESCO(国連教育文化科学機関)が国連で主導的役割を果たすことが決まった。また、国連大学(UNU: United Nations University)もESD推進のためのモデル地区としてRCE(Regional centers of expertise)を2005年に世界7カ所(我が国では仙台と岡山市域の2カ所)を定め、地域レベルでのESD推進のモデル事業の推進と研究の推進を行っている。

我が国は、2002年のヨハネスブルグサミット以後、世界レベルでのESDの推進を提唱しており、2005年から10年間を「ESD推進の10年(2005-2014年)」として国連総会で提唱し、採択された。ESDの10年の最終年である2014年にユネスコと日本政府が共催して、名古屋市と岡山市で「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議」が開催された。

ESDの理念、活動自体の波及は極めて限定的であったが、2015年9月に国連総会でSDG(Sustainable Development Goals)が採択される等、SD (Sustainable Development)に関する理念に影響を与えたといえる。持続可能な社会づくりの担い手をはぐくむには教育(学校教育・社会教育・生涯教育等)が重要であることはいうまでもない。(山本秀樹)

用語 マラリア
概要

(英語訳 : Malaria)

マラリアとは、寄生性原生動物であるマラリア原虫(Plasmodium spp.)が、アノフェレス属の蚊(Anopheles spp.)で媒介されてヒトに感染する発熱性疾患である。WHOの報告(2015)では、年間2億人がマラリアに感染し、そのうち50万人が死亡したと推定している。死亡者の多くは、サハラ以南に居住する5歳未満の乳幼児である。ヒトに感染するマラリア原虫のうち、熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)は、最も症状が重く、死亡率が高い。これは、破壊される赤血球が多いことと、脳マラリア(感染赤血球による脳毛細血管閉塞)を生ずるためである。診断は、血液塗抹標本の顕微鏡診断がゴールドスタンダードであるが、迅速診断キット(RDT: Rapid Diagnostic Test)やPCR法(polymerase chain reaction)が開発されている。

2018年現在、最も効果がある治療薬は、アルテミシニンである。発見者の屠博士は2015年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。薬剤耐性の出現を遅らせる方策として、多種薬剤の併用(ACT: artemisinin-based combination therapy)が推奨されている。

予防は、蚊にさされないための一般的予防(蚊帳や昆虫忌避剤の使用等)が重要である。様々なワクチン開発研究が行われているが、実用段階に入っているものはない。 (松本-高橋エミリー)

用語 成長モニタリング
概要

(英語訳 : Growth monitoring)

成長モニタリングは、生後から定期的に身長や体重、上腕周囲径(MUAC)などを計測・記録し、発育状況と栄養状態の評価を行うことである。150を超える国と地域が導入しており、その多くが5歳未満児を対象として毎月、または予防接種時に合わせて実施している。目的は、成長、栄養状態を把握して健康問題の早期介入、食事や病気が成長に及ぼす影響の知識向上、家族が健康問題に対して適切な初期対応を行う動機付けなどである。成長曲線が広く利用されており、国や地域で独自の成長曲線を作成している場合もあるが、開発途上国の多くはWHO(世界保健機関)が作成した成長曲線を用いている。個々の記録には、予防接種歴と子どもの成長曲線を合わせた小児健康カードが広く普及しているが、より多くの情報を記載できる母子健康手帳を導入した国も2016年時点で40ヵ国を超えている。成長曲線を活用すると、児の計測値が国際基準値(The WHO Child Growth Standards)からどれだけ離れているかを視覚的に確認することができる。WHOでは、統計データによる年齢層別、男女別の基準値をパーセンタイル曲線とzスコア曲線で示したものを、年齢に対する身長(Length/Height for Age)や体重(Weight for Age)、身長に対する体重(Weight for Height)などの指標ごとに作成している。2006年に公表された国際基準値は世界6地域で収集したデータに基づいたものであるが、年齢に対する身長基準値はアジア地域では高すぎるのではないかとの議論もある。(水元芳)

用語 ヨハネスブルグサミット
概要

(英語訳:World Summit for Sustainable Development)
(日本語訳:持続可能な開発に関する世界首脳会議)

2002年8-9月南アフリカのヨハネスブルグにおいて開催された首脳会議。この会議は、「アジェンダ21」が採択された1992年の国連環境開発会議(リオ・デ・ジャネイロで開催)から10年が経過したのを機に、同計画の実施促進やその後に生じた課題等について首脳級の議論を行うことを目的に企画された。「リオ+10」とも言われ、世界104カ国の首脳、190を超える国の代表、また国際機関の関係者のほかNGOやプレスなど合計2万人以上が参加した。

「アジェンダ21」をより具体的な行動に結びつけるための包括的文書である「行動計画」及び首脳の持続可能な開発に向けた政治的意志を示す「ヨハネスブルグ宣言」が採択され、さらに自主的なパートナーシップ・イニシアチブに基づく200以上の具体的プロジェクトが登録された。

我が国から、小泉首相(当時)が出席し、教育の重要性を訴えた。米沢藩の「米百俵」の事例や、アフリカのガーナで医学研究に捧げた野口英世を紹介し、野口英世医学賞が設立されるきっかけとなった。ストックホルムにおける国連人間環境会議(1972)やリオデジャネイロサミット(1992)に比較すると、成果が明確でないという批判がある。21世紀初頭に提唱された、MDGs(ミレニアム開発目標)、地球温暖化防止をはじめとする、国際社会が提唱してきた開発・環境・人権などの諸課題が再確認されたという点では意義が深い。このサミットではESD(Education for sustainable development)の重要性が提唱された。

この会議の10年後(リオデジャネイロサミットの20年後)の2012年6月にブラジル・リオデジャネイロにおいて「国連持続可能な開発会議(Rio+20)」が開催され、改めて持続可能な開発(Sustainable Development)に関する世界的な議論が行われ、2015年に国連総会でSDGs(Sustainable Development Goals)が採択される基盤となった。(山本秀樹)

用語 世界エイズ結核マラリア対策基金
概要

(英語訳 : Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria) 

2000年のG8九州沖縄サミットで議長国であった日本政府が感染症対策を主要課題として取り上げ、その解決に向けた国際的なパートナーシップの必要性が確認された。その後の国連エイズ特別総会、G8ジェノバサミットなどを経て、2002年1月に世界エイズ・結核・マラリア対策基金が設立された。事務局はスイスのジュネーブにある。

資金は先進国政府のみならず、途上国政府、国際機関、企業や個人からも募り、受益国ごとに国別調整メカニズム(CCM)(政府、二国間・多国間援助機関、NGO、学界、民間企業の代表、HIV陽性者等により構成)を設置して事業計画およびその提出がなされる。事業実施主体は公的セクター・民間セクターを問わないが、資金は一義的な受領組織(プリンシパル・レシピエント:PR)に供与されたのちに実施機関に配分される。

三大感染症と呼ばれる、エイズ結核マラリアの対策に対する資金援助であるが、HIV対策に資金の約半分が支出されており、特に発展途上国でのART(抗レトロウィルス療法)拡大には大きく貢献しておりエイズによる死亡者数は劇的に減少している。その一方で、資金は永続しないため、受益各国のプログラムの持続可能性(sustainability)についての懸念もあり、受益国が将来この基金から自立したプログラム運営に移行できようにも支援している。(垣本和宏)