国際保健用語集

用語 ヘルスリサーチ
概要 (英語訳 :Health research) 

ヘルスリサーチとは、医学、薬学、保健学に代表される自然科学分野と、社会学、経済学、文化人類学、行動科学に代表される社会科学分野について、それぞれ の方法論や研究成果を多角的に用いることによって、最適な保健・医療・福祉システムを構築するための基礎情報を明らかにするための調査研究である。

ヘルスリサーチを実施する上で重要なこととして、大きく二つ挙げられる。第一に、保健・医療・福祉サービスを利用する人々が、どのような社会環境に置か れ、どのようなことを望んでいるのかについて、できるかぎり具体的に把握することである。第二に、保健・医療・福祉における最新の研究成果について、効率 的・効果的に多くの人々に伝えるとともに、それらの成果をより積極的に利用することが可能となるように地域の環境づくりをすすめていくことである。最も重 要なのは、いずれにおいても保健・医療・福祉サービスを利用する人々を主体とした研究姿勢が求められることである。

ヘルスリサーチは対象となる分野がきわめて多岐に渡るとともに、方法論もいまだ確立されていないことから、現時点では発展途上にあるといえる。しかし、自 然科学と社会科学の両方をふまえた新しい学問として、将来期待されるべき有望な分野であり、数多く行われている研究活動を統合し、社会システムとして有効 に機能させるための調査研究を進めていくことが、今後ますます重要になってくると考えられる。(吉村健清)
用語 プロジェクト・サイクル・マネジメント
概要 (英語訳 : PCM, Project Cycle Management:) 

プロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)手法とは、開発援助プロジェクトの計画立案・実施・評価という一連のサイクルを、「プロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)」とよばれるプロジェクト概要表を用いて運営管理する手法である。国際協力機構(JICA)では1994 年以来、技術協力プロジェクトなどの事業マネジメント手法としてPCM手法を活用してきている。

PDMとは、開発援助の分野でプロジェクトを管理運営するために用いられてきたロジカルフレームワーク(Logical Framework)の一つである。PDMではプロジェクトの概要がひと目でわかるように、一枚のフォームの中にプロジェクトの目標、成果、活動、投入等といったプロジェクトの構成要因や、各構成要因の論理的な相関関係が、「原因」と「結果」の連鎖関係で組み立てられている。また、PDMでは事前に目標や成果の期待値を指標として示すと共に、プロジェクトの成否に影響を与えるかもしれない外部用件を特定している。

PCM手法の特色としては、次の3つが挙げられる:(1)一貫性:PDMを用いてプロジェクトの全サイクルを管理するという一貫性、(2)論理性:PDM作成に至る、それぞれの分析過程における論理性、(3)参加型:様々なレベルの関係者が一同に集まり、意見をたたかわせるという参加型(ワークショップ)。(和田知代)
用語 プロジェクト評価
概要 (英語訳 : Project Evaluation) 

わが国の外務省による「『ODA評価体制』の改善に関する報告書(2003年)」によると、ODAの評価を「政策レベル」「プログラム・レベル」「プロジェクト・レベル」の3つに分類している。プロジェクト・レベルの評価とは、個別のプロジェクトを対象として評価するものを指す。

プロジェクト評価は、評価を実施する段階によって、次の4種類に分類される。

?事前評価:プロジェクト実施前に、対象プロジェクトについて、プロジェクト関係者のニーズや実施の必要性を検討し、さらには、プロジェクトの内容や予想される効果などを明確にする。これら作業を通じ、プロジェクト実施の妥当性を総合的に評価する。

?中間評価:プロジェクト実施中の中間時点で、プロジェクトの実績と実施プロセスを把握し、妥当性・効率性などの視点から評価し、必要に応じて当初計画の見直しを行うことを目的とする。

?終了時評価:プロジェクト終了時に、プロジェクト目標の達成度、事業の有効性と効率性、今後の自立発展性の見通しなどの視点から評価する。評価結果を踏まえて、プロジェクト終了の可否や、延長などを判断することを目的とする。

?事後評価:終了後数年を経過したプロジェクトを対象に、プロジェクトがもたらしたインパクトや自立発展性の評価を行い、将来的な類似事業立案や計画に向けた教訓・提言を得ることを目的としている。

(和田知代)
用語 シャーガス病
概要 (英語名:Chagas' disease)

主に中南米において広く蔓延している寄生虫疾患で、貧困層家屋の土壁に多く生息するサシガメが媒介している.サシガメは吸血すると糞をするが、その中にトリパノソーマという寄生虫が生息し.刺口部の痒さから手でこすることにより寄生虫は傷口や眼より感染する.心臓の筋肉に寄生虫が入り込むと心機能(しんきのう)が低下し、消化官に侵入した場合はが、腸 や食道が袋状に巨大化し機能障害を起こすが、病状が進行した場合の効果的治療法は未だ確立されていない。これらのことから、感染予防と家屋内の殺虫剤散布によるサシガメの駆除、初期診断治療を徹底することが重要な戦略となっている。

1990年代には中南米全体では約1,000万人が感染し、毎年約20万人が新たに感染していた。このようななか1998年第51回国連世界保健総会において、「2010年までにシャーガス病の感染中断を達成させる」こと が決議された。これを基にWHOパン・アメリカ地区事務局(PAHO)ではJICAのほかカナダなどの国際機関やMSFなどのNGO?とのパートナーシップ形成を進め、大規模な対策がリージョンで進んだ。この結果、現在では制圧の一歩手前の最終段階まできていると各ドナーは報告している。

また世界的には近年、Chagas' diseaseはNTD:Neglected Tropical Disease?の一つとして位置づけられ対策が進められることになった。(小林潤)
用語 新興感染症
概要 (英語訳 : emerging infectious diseases) 

世界保健機関(WHO)はWorld Health Report 1996で、新興感染症に対処する能力の強化と、その監視・対策のための国内・国際間協力体制の支援を表明している。新興感染症とは、「過去約20年の間に、それまで明らかにされていなかった病原体に起因した公衆衛生学上問題となるような新たな感染症」と当時は定義し、1973年のRotavirus(小児下痢症の原因ウイルス)、1976年のCryptosporidium parvum(水系感染下痢症を起こす原虫)、1977年のEbora virus(エボラ出血熱の原因ウイルス)、Legionella pneumophila(レジオネラ症の原因菌)、Hantaan virus(腎症候性出血熱を起こすウイルス)、Campylobacter jejuni(下痢症・食中毒起因菌)などの微生物発見を端緒として、これ以降に明らかとなった感染症の国際的重要性を強調している。近年では、「新たにヒトへの感染が証明された微生物で、(またはそれまでその土地では存在していなかったが、新たにそこで)ヒトへ病気を起こし初めてきたもの」と定義するのが良く、まずヒトの病気として成立することが前提となる。さらに「原因が不明であった疾患で、感染性病原微生物が明らかとなり、公衆衛生上地域的あるいは国際的に問題になるもの」も含まれる。近年の代表例では、1997年にインフルエンザA型ウイルス(H5N1亜型)が、鳥インフルエンザウイルスとして認識されていたものがヒトへ感染して病気を起こすことが明らかとなったこと、2003年のSARS corona virusによる急性肺炎の世界的拡散が記憶に新しい。近い将来は、インフルエンザ(H5N1)が、ヒトでパンデミックを起こす新型インフルエンザに変異した場合が想定できる。(狩野繁之)