国際保健用語集

用語 マラリア
概要

(英語訳 : Malaria)

マラリアとは、寄生性原生動物であるマラリア原虫(Plasmodium spp.)が、アノフェレス属の蚊(Anopheles spp.)で媒介されてヒトに感染する発熱性疾患である。WHOの報告(2015)では、年間2億人がマラリアに感染し、そのうち50万人が死亡したと推定している。死亡者の多くは、サハラ以南に居住する5歳未満の乳幼児である。ヒトに感染するマラリア原虫のうち、熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)は、最も症状が重く、死亡率が高い。これは、破壊される赤血球が多いことと、脳マラリア(感染赤血球による脳毛細血管閉塞)を生ずるためである。診断は、血液塗抹標本の顕微鏡診断がゴールドスタンダードであるが、迅速診断キット(RDT: Rapid Diagnostic Test)やPCR法(polymerase chain reaction)が開発されている。

2018年現在、最も効果がある治療薬は、アルテミシニンである。発見者の屠博士は2015年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。薬剤耐性の出現を遅らせる方策として、多種薬剤の併用(ACT: artemisinin-based combination therapy)が推奨されている。

予防は、蚊にさされないための一般的予防(蚊帳や昆虫忌避剤の使用等)が重要である。様々なワクチン開発研究が行われているが、実用段階に入っているものはない。 (松本-高橋エミリー)

用語 マイクロファイナンス
概要

(英語訳:microfinance)

貧困層・低所得層向けの貯蓄・融資・送金・保険など少額の金融サービスの総称。融資だけをさす場合は「マイクロクレジット」も多用される。

1970年代に南アジアや中南米で所得創出活動を対象とする無担保融資が始められ、グループ貸付や分割少額返済といった返済率を高める手法が発展した。1990年代に入って貧困の研究が進むと、貧困層が多様な金融ニーズを抱えていることが明らかになり、供給者主導の画一的なクレジットだけでなく、様々な金融商品を開発・提供する必要性が提唱された。2000年代以降、気軽に預けられる預金、低価格の保険、携帯電話と電子マネーによる送金・決済サービスなどが登場し、サービスや資金の提供者として援助団体だけでなく民間企業が参入するようになった。

2000年代後半に入ると、援助機関がマイクロファイナンスに代わる用語として、「金融包摂(financial inclusion)」を頻繁に使うようになっている。マイクロファイナンスが貧困層・低所得層に特化した金融セクターとして扱われてきたのに対し、金融包摂では通常の金融制度にマイクロファイナンスを統合し、すべての人々が、政府の規制・監督を受けた金融サービスを安全かつ持続的に利用できることをめざしている。

既存のマイクロファイナンス機関の規格に合わず金融サービスを利用できない層、あるいは交通が不便な地域へサービスを拡大するためには、様々な機関が参入・連携し、革新的なサービスを開発する必要があるという認識に基づく。(吉田秀美) 

用語 ヘルスリサーチ
概要 (英語訳 :Health research) 

ヘルスリサーチとは、医学、薬学、保健学に代表される自然科学分野と、社会学、経済学、文化人類学、行動科学に代表される社会科学分野について、それぞれ の方法論や研究成果を多角的に用いることによって、最適な保健・医療・福祉システムを構築するための基礎情報を明らかにするための調査研究である。

ヘルスリサーチを実施する上で重要なこととして、大きく二つ挙げられる。第一に、保健・医療・福祉サービスを利用する人々が、どのような社会環境に置か れ、どのようなことを望んでいるのかについて、できるかぎり具体的に把握することである。第二に、保健・医療・福祉における最新の研究成果について、効率 的・効果的に多くの人々に伝えるとともに、それらの成果をより積極的に利用することが可能となるように地域の環境づくりをすすめていくことである。最も重 要なのは、いずれにおいても保健・医療・福祉サービスを利用する人々を主体とした研究姿勢が求められることである。

ヘルスリサーチは対象となる分野がきわめて多岐に渡るとともに、方法論もいまだ確立されていないことから、現時点では発展途上にあるといえる。しかし、自 然科学と社会科学の両方をふまえた新しい学問として、将来期待されるべき有望な分野であり、数多く行われている研究活動を統合し、社会システムとして有効 に機能させるための調査研究を進めていくことが、今後ますます重要になってくると考えられる。(吉村健清)
用語 ヘルスプロモーション
概要

(英語訳:Health Promotion)

1986年のオタワ憲章におけるWHOのヘルスプロモーションの定義は、「自らの健康を決定づける要因を、自らよりよくコントロールできるようにしていくこと」である。また、ヘルスプロモーションには保健セクターのみならず、他分野も入れたより広範囲な領域(マルチセクター)による対応が求められるため、バンコク憲章(2005年)において「健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health)」への対策が盛り込まれ、ヘルシンキ宣言(2013年WMAフォルタレザ総会で修正)において「全ての政策において健康を考慮すること(Health in All Policies)」の重要性が認識された。さらに上海宣言(2016年)では、複雑かつ高度化する市場メカニズムに対して、人が自分の健康をコントロールできるようにする必要性が取り上げられ、政府による市民の「健康リテラシー(Healthy Literacy)」強化も強調されている。

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)においてもマルチセクターアプローチの重要性が盛り込まれており、不健康な生活を助長する食品や嗜好品の規制と課税のための法制度、目的税を財源としたヘルスプロモーションのための基金、ヘルスプロモーションや予防も要素として含む健康保険・保障制度など、ヘルスプロモーションのためのインフラ・財政の重要性が高まってきている。(渡部明人)