国際保健用語集

用語 沖縄感染症対策イニシアティブ
概要 (英語訳 :Okinawa Infectious Diseases Initiative)

2000年7月の九州・沖縄サミットにおいて、日本は議長国として開発途上国の感染症問題を主要議題の一つとして取り上げ、日本の政府開発援助(ODA)で2000年度から2004年度までの5年間に総額30億ドルを目途とする包括的な感染症対策支援を行う「沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)」を発表した。このIDIにおける感染症対策の主な方針は、1)途上国の主体的取り組み(オーナーシップ)の強化、2)人材育成、3)市民社会組織、援助国、国際機関との連携、4)南南協力、5)コミュニティ・レベルでの公衆衛生の推進、の5項目である。主な支援内容としては、1)HIV/AIDS(若年層やハイリスク・グループへの予防啓発活動、自発的検査とカウンセリングの普及、検査・診断技術の強化、エイズ遺児のケア)、2)結核(人材育成、DOTS治療の推進)、3)マラリア・寄生虫(薬剤含浸蚊帳の使用促進、ギニア・ワーム根絶支援、国際寄生虫対策(橋本イニシアチブ)センター(タイ・ガーナ・ケニア)での人材育成)、4)ポリオ(ワクチン接種などによるポリオ根絶支援)、5)疾病を超えた保健医療体制の整備(安全な水の供給、プライマリーヘルスケアの充実など)、の5項目である。日本がこの感染症問題への取り組みの重要性を国際社会に訴えたことが契機となって、広く国際社会一般の関心が喚起され、2001年の国連エイズ特別総会やジェノバサミットでの議論を経て、2002年には、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金:The Global Fund to fight AIDS, Tuberculosis and Malaria」の設立に至った。(狩野繁之)
用語 アウトリーチ活動
概要 (英訳:Outreach activities)

アウトリーチとは、一般的に言って「コミュニティーにいる人々、特に事務所や病院などに来ることができない、あるいはあまり来ない人々に対して、ある機関がサービスやアドバイスを提供する活動」(オックスフォード現代英英辞典)をいう。国際保健の分野では、医療従事者や職員が病院やヘルスセンターなどの保健医療施設から外に出て、それらの医療施設にたどり着くことが地理的、経済的、社会的、文化的など様々な理由で困難な地域の住民に、直接、診療や予防接種、あるいは健康教育などの保健医療サービス提供を行うことを指す場合が多い。(明石秀親)
用語 医薬品回転資金
概要 (英語訳 : RDF/DRF Revolving Drug FundまたはDrug Revolving Fund) 

1987年マリ共和国の首都バマコで開催されたアフリカ諸国の保健大臣会議で、プライマリ・ヘルスケア(PHC)や母子保健サービスなどの費用を受益者負担とし、そこで回収された資金を地域で管理(コミュニティー・ファイナンシング)し、PHCをエントリーポイントとして保健医療サービスへのアクセスを向上・維持させようとする構想がバマコ・イニシアティブとして採択された。医薬品が必要経費の大部分を占め、公的部門の一次保健医療施設における医薬品不足が住民による同施設の利用率低下の原因となることから、円滑な医薬品供給をめざす医薬品回転資金(RDF)システムがコミュニティー・ファイナンシングの代表的手法として注目された。

RDFによるコミュニティー・ファイナンシングの実施にあたっては、現金もしくは医薬品などの初期投資が必要となる。通常はその国の必須医薬品リストから、一次保健医療施設で必要なものが選定され、初期の医薬品在庫 (Seed stock) が確保される(選定にあたっては、その地域の疾病構造、診療所の規模、医療スタッフの資格、二次保健医療施設までの距離などが考慮される)。患者は処方された薬剤を購入し、その売り上げが次の医薬品購入費用にまわされる。こうして回転資金が形成されることになるが、医薬品の販売価格の設定、貧困層の受益者負担の免除、集まった資金管理の透明性などの検討と対応が成功の鍵となる。

また、医薬品在庫量が増え、かつ資金回収が可能な状況で、不必要に医薬品が処方され適正使用の観点からは問題があるとの報告もあり、医薬品使用に関する医療従事者および住民を対象とした啓発活動なども必要である。(奥村順子)
用語 医療経済学
概要 (英語訳 : Health Economics) 

医療経済学は1960年代以降、欧米の研究者を中心に発展した新しい学問領域であるが、最近では日本を含むアジア諸国でも急速に研究者層が拡大している。

患者(需要)側の行動、診療(供給)側の行動、保健医療分野のファイナンシング、医療経済評価、医療機関の経営、医療関連産業の分析など、理論的な分野から実学的領域まで様々な研究テーマが扱われている。

医療経済学の基本的前提として、医療サービスの経済学的特殊性(Arrow KJ, 1963)がきわめて重要である。これらは、(1)患者・医療従事者間における情報の非対称性の存在、(2)傷病の発生と経過に関する不確実性の存在、(3)外部性と福祉的役割の存在に整理される。(1)は、患者と医師との間では、医学知識や疾病治療の経験において大きな格差があり、通常の「取引」が成立しにくく、市場を介した取引では患者側の権利が阻害される可能性のあることを示唆している。(2)は、傷病はいつ発生するか予測が困難であり、治療経過にも不確実性が伴うことを意味している。そのため、多くの国で医療保険制度や公営医療制度が発達した。(3)の外部性の存在は、保健医療サービスによって当事者以外にも利益がもたらされることを意味する。具体的には感染症の予防や治療によって、周囲の人々の感染リスクが低下することなどである。

さらに福祉的役割については、病気で苦しんでいる人が経済的理由で治療を受けられないことは望ましい状態ではないと多くの人が考えるであろうことを意味しており、慈善や愛他主義につながるものである。これらの前提のもとで、多くの医療経済学の研究テーマが発展してきた。
用語 エンデミック、エピデミック
概要 (英語訳 : endemic、epidemic) 

エンデミックとエピデミックはどちらも「流行・地方流行」などと訳されることが多いが、明確に区別しなくてはならない。感染症のエンデミックは一定の地域に一定の罹患率で、または一定の季節的周期で繰り返される常在的な状況である。特定の地域に強く限定される場合は「風土病」と呼ぶ。

一方のエピデミックは一定の地域にある種の感染症が通常の期待値を超えて罹患する、またはこれまでは流行がなかった地域に感染症がみられる予期せぬ状況で、一定の期間に限られた現象である。エンデミックは予測することができるが、エピデミックでは予測は困難である。エピデミックの規模が大きくなった状況をoutbreakと呼び、エピデミックが同時期に世界の複数の地域で発生することをパンデミック:pandemicと呼ぶ。

エンデミック, エピデミック, パンデミックの使い分けは感染症の種類や通例によって厳密ではない。デング熱では、周期的(典型的には4年周期)に出現するデング熱の流行をエピデミックとして、流行が一層進行し毎年デング熱が流行している状況、さらに通年的に流行している状況をエンデミックとする。通常の感染症対策はエンデミックに対して対策法を計画する。エピデミックは予期せぬ流行であるため対策は一層困難である。

エンデミックと同様に前もって対応を準備するだけでなく、エピデミックでは予想される流行にインパクトを軽減(減災)する対策やエピデミックを予知する、または迅速にエピデミックを判断する方策を開発しなくてはならない。  
用語 オーナーシップ
概要
 (英語訳:Ownership)

オーナーシップとは、一般的には「所有者であること、所有権」などを指しているが、国際保健の分野では、「援助機関が考えて途上国の人々に何かをさせる(donor-driven assistance)」という考え方に対して、「途上国の人々が自分で考えて、自分で実施していく」という考え方を指す。すなわち、例えば世界銀行はCDF(Comprehensive Development Framework)の中で、Country ownershipについて「途上国やその政府が運転席にいること」と表現しているが、別の言い方をすると「途上国主導で計画策定・実施・モニタリング・評価がなされること」であり、さらに現場に近いレベルでは、途上国の機関や職員のオーナーシップを指す場合もある。すなわちオーナーシップとは、取りも直さず「途上国(の人々)が主体的に事業を行うこと」あるいはそのような「意識」を指す場合が多い。(明石秀親) 
用語 開発とジェンダー
概要 (英語訳:Gender and Development )

開発とジェンダー (Gender and Development: GAD) とは、女性と男性の相対的で流動的な社会的関係 (ジェンダー関係) を重視し、ジェンダー間の不平等・不公平をなくすことが、公正で持続可能な開発につながるという考え方のことである。先行するWID (Women in Development 開発と女性) の考え方は、女性が開発過程に参加することによって、その生活や社会的地位を向上させようとするものであった。それに対し、1980年代以降、ジェンダー視点を取り入れて発展したGADの概念では、女性のエンパワーメントを進めて男性との不平等な関係を変え、女性の状態が改善しても男性との格差が残ったり拡大したりしてはならないことに着目している。女性と男性が同等に決定に参画する、公平で持続可能な開発を目標としており、究極的には、社会や経済の枠組み・構造や、権力関係までもが問われる。GADの考え方を進めて、開発援助機関や各国政府は、ジェンダーの主流化 (Gender mainstreaming) に取り組んでおり、分野や対象を問わずすべての開発プログラムにジェンダーの視点を取り入れようとしている。(青山温子)
用語 家族計画
概要 (英語訳 : Family Planning) 

カップルまたは個人が、避妊を通して、自発的に子どもをいつ、何人産むのか計画すること。また、単に産児制限といった意味だけではなく、出産の間隔と時期を調節することである。望まない妊娠による人工妊娠中絶、若年もしくは高齢での妊娠、度重なる妊娠、出産などは、母子の健康に影響を及ぼすが、出産の間隔や時期には、母子の身体的な問題だけでなく、家族構成や育児環境、周囲の理解といった、精神的、社会的、経済的な問題も反映される。

家族計画推進には、母子の健康確保や福祉の向上が基本条件であり、出産年齢への配慮、女性の教育機会の保障、避妊法選択の自由、乳幼児死亡の削減、子どもの育成環境への配慮などが重要となる。有効に家族計画プログラムが実行されている国では近代的避妊法の利用は増加しているが、開発途上国においては、貧困や男女の性差別によって、女性が避妊法を実行することができないために妊娠に至るといったアンメットニーズが問題となっている。リプロダクティブヘルス・ライツの視点からも、家族計画は重要である。
(池上清子) 
用語 国連エイズ合同計画
概要 (英語訳 : UNAIDS the Joint United Nations Programme on HIV/AIDS) 

初めてのエイズ患者の発見以来エイズ対策においてはWHOがその中心を担っていたが、次第にエイズの及ぼす社会的・経済的な影響が明らかとなり、社会全体の問題として取り組む必要のあることが強く認識された。その結果1994年に行われた国連経済社会理事会において国連エイズ合同計画(UNAIDS: the Joint United Nations Programme on HIV/AIDS)の設置が承認され1996年1月に正式に発足した。国連エイズ合同計画は複数の国連機関が協同し、国連システム全体として、HIV新規感染の予防、感染者へのケア、エイズによる様々な影響の軽減など、世界におけるエイズ対策の強化に取り組んでいくことを目的としており、2008年4月現在、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)UNICEF(国連児童基金)?、WFP(世界食糧計画)、UNDP(国連開発計画)UNFPA(国連人口基金)、UNODC(国連薬物犯罪事務所)、ILO(国際労働機関)、UNESCO(国連教育科学文化機関)、WHO(世界保健機関)WB(世界銀行)ら10の機関が共同スポンサーとなっている。本部はジュネーブにあり、22の理事国、共同スポンサーである国連機関、および5つのNGOからなるプログラム調整理事会(PCB:Programme coordinating board)によって、政策などの重要事項が決定される。国連エイズ合同計画では2年毎にThe UNAIDS Unified Budget and Workplan (UBW) とよばれる統合予算および行動計画案を策定しており、この中で定められた共通の優先課題に対して、それぞれの機関とUNAIDS事務局の協調のもと活動が実施されている。主な活動としてはアドボカシーやリーダーシップの動員、方針策定や情報発信、モニタリング、市民組織の巻き込みとパートナーシップの構築、効果的なエイズ対策を支援するための人的・技術的資源及び財源の動員などがあげられる。 (石川尚子)
用語 国連難民高等弁務官事務所
概要 (英語訳 :United Nations High Commissioner for Refugees) 

国連難民高等弁務官事務所規定に基づき、1951年に設立された。高等弁務官は、その権限の範囲にある難民に対して、国連の権威のもとに国際的保護を提供し、これら難民の自発的帰還または新しい国の社会への同化を促進することによって難民問題の恒久的解決を図る。また緊急時には難民に対して法的、物的両面での保護、支援を与えることを目的とする。

難民の保護に加え、国際条約の締結及び国際条約の批准の促進などを実施している。1950年に国連総会で採択された規定によれば、UNHCRが保護を与える難民とは、『人種、国籍、宗教、もしくは政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがあるため、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることが出来ない者、または国籍国の保護を受けることを望まない者』を言う。具体的な内容としては、自発的な帰還、受入国における定住、または第三国における定住を図ることにある。その他、難民の発生を未然に防ぐ予防措置に留意した活動、紛争終了後の復旧・復興への円滑な移行のために支援を行う。2003年の時点で世界約120カ国、277カ所に現地事務所を持っている。1990年代にはアフリカのソマリアやルワンダ紛争による難民の援助活動を行い、1999年にはユーゴスラビアにおけるアルバニア系難民の援助、インドネシアの東ティモールからの避難民の援助、などを行った。1954年と1981年にノーベル平和賞を受賞した。本部はスイスのジュネーブに置かれている。 
用語 災害時迅速評価
概要 (英訳 Rapid Assessment、もしくはRapid Needs Assessment)

災害時のニーズ・アセスメントは、災害対応を成功させるために不可欠である。その目的は、第一に対応の優先順位の決定と計画策定のためであり、第二に、外部の援助者に対して災害の程度を知らせる目的もある。迅速評価では、災害状況をレポートし、初期対応として最適なものを提言する。その情報としては、心象、具体的な数、事実が含まれ、時間や場所を特定でき、特定の目的に対して意味があるときに、有益な情報となる。緊急対応の優先順位としては、まず災害を被った生命を助けることであり、次いで、生命維持のために必要な飲み水、衛生、十分な食料、適切な医療援助、シェルター(住居や衣服)、燃料などが挙げられる。また、肉体的暴力や攻撃などから特に難民や国内避難民を含む被災民を守り、さらには、心理的、社会的なストレスから被災者を守らなければならない。(明石秀親)
用語 疾病負荷
概要 (英語訳 : Global Disease Burden) 

世界中で、疾病により失われた生命や生活の質の総合計を「疾病負荷(GBD: Global Burden of Diseases)」という。

傷害や生活の質の度合いを考慮した健康指標として「健康寿命」、「質を考慮した生存年数(QALY: Quality -Adjusted Life Years)」、「失われた生活年数(YPLL: Years of Productive (or Potential) Life Lost)」、「障害と共に生活する年数(YLDs: Years Lived with Disability)」などの指標が使われている。

QALYを使った事例として、ガンによる生存年数が3年であった場合、後遺症が残れば効用値(重み付け)である0.5を掛けて3×0.5=1.5年と計算する。QALY等の効用により重み付けされた健康指標は費用効果分析などに活用される。 
用語 障害を調整した生存(人生・生命)年数
概要 (英語訳 : Disabilty adjusted life years) 

疾病により失われた生命や生活の質を包括的に測定するための指標として「障害を考慮した生存年数(DALYs: Disability-Adjusted Life Years)」 は開発された。

生活の質を調整した指標であるQALYに社会的価値判断(年齢による重み付け)等を加えている。

生活の質を調整した死亡・障害の度合いをあらわす指標はいくつかあるが、その中でもDALYsは1993年に世界銀行が発表した「World Development Report (世界開発報告) -Investment in Health(健康への投資)」 でハーバード大学のMurrayらがその中で使用したことをきっかけに、WHO世界銀行などの国際機関が保健政策の優先度を決める場合の指標として広く使われるようになった。
現時点では発展途上国における下痢症急性呼吸器感染症によるDALYsの損失が全世界では大きいが、今後生活習慣病や喫煙による呼吸器疾患等の非感染性疾患や精神疾患によるDALYsの損失が増えることが予測されている。  
用語 ステークホルダー
概要 (英語訳 : stakeholder)

利害関係者と訳される。「ステーク」とは「何かの結果によって失う危険のある大事なもの」で、通常は賭け金や投資など金銭を指す。企業活動などで使われる場合は、「ステークホルダー」とは企業の意思決定によって直接的に大きな影響を受ける人々で、投資家や株主である。他にも間接に金銭的な利害が生じる対象としてビジネスパートナー、取引先、従業員、組合、利用者(消費者)などがある。

最近では、ステークの内容は名声・生活環境・安全など有形無形なものに拡大して解釈される。社会秩序や倫理、自然環境に与えるリスクを考慮すると、全人類や次世代までステークホルダーに含まれることもある。

国際保健の領域で使われるステークホルダーは、介入やプロジェクトを担当する援助機関・相手国実施機関、直接的に便益を受ける対象となるグループや組織、さらにプロジェクトの対象とならないが間接的に便益や不利益を受けるグループや組織である。プロジェクトが及ぼす影響を拡大して解釈すれば、ステークホルダーの範囲も拡大して考えなくてはならない。また、プロジェクトが意図的に影響を与える集団をターゲット・グループと呼び、ステークホルダーよりは限られた集団である。 
用語 世界抗結核薬基金
概要 (英語訳:GDF Global Drug Facility ) 

Global Drug Facility (GDF)は、目下のところ「世界抗結核薬基金」と日本語に訳されているものが多いが、未だ定訳はなく、「国際医薬品購入機関」と訳されているものもある。GDFは、DOTSを推進する上で欠かすことができない良質な抗結核薬へのアクセス改善を目指すイニシアチブとして2001年の世界結核デーに設立された。ジュネーブのWHO本部内に設置され、ストップ結核パートナーシップ事務局のメンバーがその管理・運営にあたっている。

従来型の医薬品調達組織とは異なり、GDFは抗結核薬の需要と供給の把握とそのモニタリング、競争入札による安価で確かな医薬品の買い付け、資金管理、結核対策プロジェクトの運営などを各国で実践し、これらの点に関して技術支援を提供する組織である。(奥村順子)
用語 たばこ規制枠組み条約
概要 (英語訳 : Framework Convention on Tobacco Control) 

喫煙の健康への影響が明らかになり、先進国で喫煙率が低下する一方でたばこ産業は販売促進の対象を途上国に移しつつある。途上国ではその健康に及ぼす影響が比較的若年齢から現れる傾向にある。

WHOはたばこ対策を最重点施策の一つとしてとりあげ、たばこが健康・社会・環境及び経済に及ぼす影響から現在及び将来の世代を保護することを目的として、たばこ規制枠組み条約の制定を目指した。その内容は、健康警告の表示、間接税の増税、たばこの広告や催し物のスポンサーとなることの禁止、販売促進活動の禁止、公共の場所や職場におけるたばこ規制(受動喫煙からの保護)、自動販売機に関する措置、喫煙の健康に与える悪影響についての普及・啓発、教育、喫煙指導の実施などである。2003年5月の世界保健総会において全会一致で合意され、2005年に発効した。我が国は2004年6月に批准した。なお、2008年4月現在、128ヶ国が批准している。(江上由里子)
用語 デング熱
概要 (英語訳 : Dengue fever) 

デング熱は蚊が媒介するウイルス感染症で、病原体にはフラビウイルスに属しDEN-1からDEN-4の4種の血清型がある。主要な媒介蚊は昼間活動性のネッタイシマカ(Aedes aegypti)で、都市に生息してヒトを好んで吸血する。

感染者は不顕性感染から重篤で致命的となる出血熱型まで多様で、血管の透過性が亢進し血小板が減少するものをデング出血熱と診断する。デング熱対策は媒介蚊対策が基本となる。

ネッタイシマカが発生する水場環境をなくす住民教育、蚊の幼虫駆除などが実施されている。デング出血熱になれば早急に入院管理しなくてはならない。
デング熱は人類の活動にあわせて盛隆と衰退の歴史を繰り返した。大航海時代にネッタイシマカとデングウイルスは世界に拡散し、18世紀後半にはアジア、アフリカ、北アメリカに定着し、周期的に流行した。

現在の世界的流行は第二次世界大戦後に発生した東南アジアでの流行が発端で、この頃にデング出血熱の症状が出現した。

アメリカのデング熱流行はドラマティックで、黄熱対策としてネッタイシマカの駆除を徹底し、デング熱も激減したが、1970年に黄熱対策を中断してから徐々に復活した。その復活に拍車をかけるのが1980年代にアジアからアメリカに生息域を拡張した第二の媒介蚊ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)の存在がある。
アフリカでもデング出血熱の大流行が懸念され、現在は再興感染症と考えられる。 
用語 人間の安全保障
概要 (英語訳 : Human Development Index) 

経済開発中心の開発論が反省され、社会開発・人間開発へとパラダイムシフトしてきたのに合わせ、国家の発展をGNP(国民総生産)だけを基準として測るのではなく、より包括的な社会経済指標を用いて測る方法として、1990年UNDP(国連開発計画)による「人間開発報告書」初版で発表された。より多くの国から入手できるデータとして、寿命、知識、生活水準の3つを基本的な要素として総合して算出している。

寿命には出生時平均余命を、知識には成人識字率(3分の2の比重)と平均就学年数(3分の1の比重)、生活水準としては1人当たり実質GDPに基づく購買力(購買力平価またはPPP)が用いられる。

2001年のHDI順位(UNDP2003)は1位がノルウエーで0.944、日本は9位である。1人当たりGDP順位からHDI順位をひいたものがマイナスであると、経済開発されている割に人間開発が遅れていることを示すが米国は-5である(HDIは7位)。
社会格差を拡大せず縮小していく開発という意味からこのHDIだけでは、不十分であるとして用いられているのがGDI(Gender Development Index)でHDI の各指標にジェンダー格差の有無を考慮して算定しなおしたものである。 
用語 国際協力銀行
概要 (英語訳 : ) 
日本輸出入銀行と海外経済協力基金(OECF)が統合して1999年10月1日に発足した政策金融機関である。国際協力銀行は、我が国の健全な発展のため、主体的な役割を積極的に担っていくことを目的として、1)我が国の輸出入および海外経済活動の促進、2)開発途上地域の経済社会開発・経済安定化への支援、3)国際環境の安定化への貢献という使命を掲げている。政府開発援助との関係で言えば、開発途上国の経済・社会開発を支援する「海外経済協力業務」がある(非ODA部門として、「国際金融等業務」がある)。資本金は海外経済協力業務で6兆5043億円(2003年3月31日現在)で、世界銀行をしのぐ世界最大規模となっている。技術協力の実施機関である国際協力機構(JICA)に対し、国際協力銀行は円借款を中心とした資金協力の実施機関として位置づけられている。