国際保健用語集

用語 性感染症
概要

(英語訳 : STIs, Sexually Transmitted Infections)

性行為により感染する疾患の総称。性感染症の中には、輸血や経静脈注射、母子垂直感染など性行為以外の経路によっても感染するものも存在する。主な性感染症は、梅毒、淋菌感染症、性器クラミジア感染症、軟性下疳、性器ヘルペス、B型肝炎、C型肝炎、HIV感染症、腟トリコモナス症、尖圭コンジローマなどである。STDs(Sexually Transmitted Diseases)と記されることが多かったが、HIVのように感染してもすぐには症状がでない疾患もあることより、近年STIsが用いられる傾向にある。

世界中で毎日新たに100万人以上が性感染症に感染しているとされており、代表的なクラミジア、淋菌、梅毒、トリコモナス症など、4つのSTIsだけで、毎年3億7,700万件の新規感染が発生している。

性感染症による直接の症状のみならず、クラミジアや淋菌感染による女性不妊症、パピローマウィルス感染による子宮頚癌など、長期的な影響を及ぼすものもある。また、梅毒合併妊婦における周産期死亡の増加・先天性梅毒の発生、HIVや肝炎ウィルスの母子垂直感染により胎児・出産後の児に影響を与える性感染症も存在する。さらには、HSV 2型や梅毒に感染することで粘膜が傷害され、HIV感染リスクを高める可能性も指摘されている。

性感染症の世界戦略 (2016-2021年)では、性感染症の新規感染ゼロ、性感染症による合併症や死亡ゼロ、性感染症への差別・偏見ゼロの3つのゼロをビジョンとしている。対策は、個人に対する治療・感染予防のみならず、性的パートナーへの感染予防・治療、母子垂直感染予防、ワクチン投与(ワクチンによる予防が可能である疾患の場合)、感染スクリーニング、感染サーベイランスなど多岐に渡る。これまで、医療資源の限られた開発途上国などでは、疾患の診断にこだわらずに症状に応じて治療を提供する、症候別アプローチ(Syndromic management)が推奨されてきたが、半数以上が無症候性であることなどから、臨床検査診断の重要性が認識されるようになった。近年、特に淋病などで薬剤耐性が発生しており、対策上の脅威となっている。(野崎威功真)
 

用語 感染症の根絶
概要 (英語訳:eradication of infectious disease)

感染症の根絶(eradication of infectious disease)とは、計画的な対策の結果、特定の病原体による感染症の発生が、恒常的に、世界的にゼロにまで減少したことと定義される。それに対し、感染症の絶滅(extinction of infectious disease)とは、地球上のあらゆる実験室や自然界から病原体が存在しなくなることと定義される。例えば、天然痘は、世界的な対策によって感染症の発生は完全に無くなったことから、根絶となったが、病原体である天然痘ウイルスは、ロシア及び米国の実験室で保管されていることから、絶滅には至っていない。

通常、ある感染症が根絶されると、感染者を減少させるための日常的な疾患対策は不要となるが、病原体が絶滅されない限り、再発生の可能性はゼロとはならない。そのため、発生監視(サーベイランス)や発生時の危機管理は、継続させることが必要となる。(中島一敏)
用語 成長モニタリング
概要

(英語訳 : Growth monitoring)

成長モニタリングは、生後から定期的に身長や体重、上腕周囲径(MUAC)などを計測・記録し、発育状況と栄養状態の評価を行うことである。150を超える国と地域が導入しており、その多くが5歳未満児を対象として毎月、または予防接種時に合わせて実施している。目的は、成長、栄養状態を把握して健康問題の早期介入、食事や病気が成長に及ぼす影響の知識向上、家族が健康問題に対して適切な初期対応を行う動機付けなどである。成長曲線が広く利用されており、国や地域で独自の成長曲線を作成している場合もあるが、開発途上国の多くはWHO(世界保健機関)が作成した成長曲線を用いている。個々の記録には、予防接種歴と子どもの成長曲線を合わせた小児健康カードが広く普及しているが、より多くの情報を記載できる母子健康手帳を導入した国も2016年時点で40ヵ国を超えている。成長曲線を活用すると、児の計測値が国際基準値(The WHO Child Growth Standards)からどれだけ離れているかを視覚的に確認することができる。WHOでは、統計データによる年齢層別、男女別の基準値をパーセンタイル曲線とzスコア曲線で示したものを、年齢に対する身長(Length/Height for Age)や体重(Weight for Age)、身長に対する体重(Weight for Height)などの指標ごとに作成している。2006年に公表された国際基準値は世界6地域で収集したデータに基づいたものであるが、年齢に対する身長基準値はアジア地域では高すぎるのではないかとの議論もある。(水元芳)

用語 拡大予防接種計画
概要 (英語訳 : EPI, Expanded Programme on Immunization)

世界のすべての子どもたちを予防可能な感染症から守るために、基本的なワクチン接種の推進を目的としてWHO によって開始されたプログラムである。EPIは、1978年にアルマ・アタ宣言として採択された“health for all by 2000”を達成するために、不可欠な要素のひとつと位置づけられた。EPIが開始された背景には、天然痘の流行がワクチンの普及によって制圧され、さらに根絶も達成したことにより高い費用対効果が実証されたという事実がある。1974 年にEPIが始まった当初は、BCG、ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、麻疹の6ワクチンが対象であったが、その後B型肝炎やインフルエンザ菌b型(Hib)も推奨対象に加わり、さらに2000年のGAVIの設立によってEPI活動は加速され新しいワクチンである肺炎球菌結合型やロタウイルスも乳幼児の疾病負荷を軽減するために有用なワクチンと考えらその対象ワクチンは拡大しつつある。予防接種は、小児のみならず、年長児や思春期世代、妊婦においても健康を守るために不可欠な手段の一つである。ポリオ根絶は目標達成の最終段階に入り、麻疹や新生児破傷風の排除も世界各地で成果をあげつつあるが、これらの基本になるのはEPIである。(中野貴司)
用語 政府開発援助
概要

(英語訳 : Official Development Assistance)

開発途上国の経済や社会の発展、国民の福祉向上や民生の安定に協力するために行われる先進国による政府ベースの経済協力のこと。OECD(経済協力開発機構)の下部機関DAC(開発援助委員会)の定義では、(1)政府ないし政府の実施機関によって供与されるものであること、(2)開発途上国の経済開発や福祉の向上に寄与することを主たる目的としていること、(3)資金協力については、その供与条件が開発途上国にとって重い負担にならないようになっており、グラント・エレメントが25%以上であることが基準となっている。(杉下智彦)