国際保健用語集

用語 KAP調査
概要

(英語訳:KAP (Knowledge, Attitudes and Practices) survey)

地域保健医療活動を実施するには、活動の戦略や計画を的確に決定するために、対象の綿密な情報把握が重要である。そのために実施する保健調査のひとつが、KAP調査である。

個人の健康行動の実践には、健康に関する正確な知識を得ること、健康行動を受け入れる態度や姿勢をとること、健康行動を実際に実行することの3つの段階が必要である。KAP調査では、主に健康増進や疾病の予防に関して、知識(Knowledge)・態度(Attitude)・行動(Practice)に関して、質的または量的な情報を収集する。

たとえば、性感染症対策におけるコンドーム使用の場合、コンドームが性感染症のリスクを減少させるという知識、コンドームを使うことに対する意志や嫌悪感などの態度、実際にコンドームを使用するかどうかという行動の3点について調査することにより、問題点の所在を把握し具体的な対策につなげることができる。(中村安秀)

用語 微量栄養素
概要

(英語訳 : Micronutrient) 

微量栄養素とは、微量ながらも人の発達や代謝機能を適切に維持するために必要な栄養素であるビタミン、ミネラル(無機質)を指す。ビタミンはさらに脂溶性(ビタミンA、D、E、Kの4種類)と水溶性(ビタミンB1、B2、B6、B12、パントテン酸、葉酸、ナイアシン、ビオチン、ビタミンCの9種類)に分類される。

ビタミンは、タンパク質、糖質、脂質がエネルギーに変換される際の代謝サイクルに必要不可欠な栄養素であると共に、それぞれが異なる身体機能維持に作用して体を健康な状態に保っている。

ミネラルは、生体を構成する主要4元素(酸素、炭素、水素、窒素)以外の元素の総称で、必須ミネラルは16種類である(カルシウム、リン、カリウム、硫黄、塩素、ナトリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、クロム、ヨウ素、セレン、モリブデン、コバルト)。

微量栄養素が長期的に不足すると、欠乏症と呼ばれる健康障害を引き起こす。WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)では、年齢、性別ごとの成長に必要、且つ健康維持に必要な微量栄養素の必要摂取量を定めると共に、過剰摂取による健康障害を予防するための許容上限摂取量を設定している。また、WHOは世界の微量栄養素欠乏症情報システム(Vitamin and Mineral Nutrition Information System)を有し、国・地域別の微量栄養素摂取状況や欠乏症有病率などの情報を提供している。(水元芳)

用語 保健システム強化
概要

(英語訳:Health system strengthening)

保健システムは、健康に寄与する要因を改善して健康を増進・維持し、必要な人々に適切な疾病治療を行い、保健医療サービスを必要とする人々すべてに適切に提供するために必要な組織とその活動である。保健システムの目的は人々の健康が向上し健康格差が改善し、同時に住民が財政面で巨額な医療支出から守られることであり、そのために行政・財政や人材、医薬品、資機材、施設などを整備・拡充する取り組みが保健システム強化である。

疾病対策などの各プログラムが各々別々に取り組むことによる重複したシステム構築や、部分的な最適化では全体を最適化できないという教訓から、全体的な最適化の重要性に基づいて、保健システム強化の重要性が提唱された。

保健システムとその強化に関する共通理解を促進し優先課題を整理する目的で、WHO(世界保健機関)は2007年に保健システム強化戦略のための統一枠組み(6つのビルディング・ブロック)(→参照:冒頭の図をクリックすると拡大)を提唱し、この枠組みに照らして課題に対処し保健システムを強化して持続性のある成果の達成を目指した。保健システムは、適切な予算とエビデンスに基づいた保健政策と計画に裏打ちされ、質の良い教育を受け動機づけられた保健人材が適切に配置されていることや維持管理された施設・設備、質が担保された医薬品・資器材と技術が調和することで人々の保健サービスへのアクセスが改善されカバレージが広がるとともに、サービスの質と安全性が担保される。

同時に、感染症の流行や緊急事態などのグローバルな保健脅威に対応できる弾力性のあるシステムであることも重要である。(江上由里子)

用語 合計特殊出生率
概要

(英語訳 :TFR, Total Fertility Rate)

合計特殊出生率とは、一人の女性が一生に産む子供の平均数を示す。この指標によって、異なる時代、異なる集団間の出生による人口の自然増減を比較・評価する。2種類の算出方法がある。「期間」合計特殊出生率は、ある期間(1年間)の出生状況に着目したもので、その年における各年齢(15~49歳)の女性の出生率を合計したもの。女性人口の年齢構成の違いを除いた「その年の出生率」であり、年次比較、国際比較、地域比較に用いられている。

合計特殊出生率がおおよそ2.08のときには人口は増加も減少もしないとされる。

戦後日本の合計特殊出生率は1947年の4.54をピークに2016年現在は1.44となっている。世界保健統計2015によると、合計特殊出生率が最も高い国はニジェールで、女性1人当たり7.6となっている。概して先進国においては合計特殊出生率が低い傾向にあり、開発途上国は高い水準であるといえるが、近年経済発展した中進国においては低下傾向がみられる国が多く、これは平均寿命の延長など他の要因と関連し社会の高齢化の要因としても国際的な問題として注目されている。(伊藤智朗)