国際保健用語集

用語 オゾンホール
概要

(英訳名:Ozone hole)

オゾン(O3)は酸素(O2)が紫外線のエネルギーを受けることで作り出され、さらに自然と分解される反応を繰り返している。大気中のオゾンの9割は成層圏に存在し、標高20-30kmに層状になっており、オゾン層と呼ばれる。オゾンは紫外線を吸収する性質があるため、地球に降り注ぐ太陽からの紫外線を吸収する役割を担ってその97-99%は吸収される。かつて1970年代にオゾン層が-約4%一定に減少し、また春期に南極・北極上空にて大量に減少-が観察されたりした。オゾンホールとは、後者の事象を指しているが、その原因は、オゾンを分解する化学物質(フロンやハロン)が人間の活動で大量に消費されたことで、オゾン生成と分解のバランスが崩れたことがあげられる。1987年、問題解決を目指し、モントリオール議定書により、オゾン層を破壊しない代替物質の利用が推し進められた。現在、それら代替物質の使用が広まり、オゾンホール問題は解決の兆しがみえてきた。現在の状態が継続すれば、オゾンホールは2050年頃までに完全に閉じるとされている。(星知矩(門司和彦))

用語 エンパワーメント
概要 (英語訳:Empowerment)

WHOヘルスプロモーションにおけるエンパワーメントを、「人々が自分の健康に影響のある意志決定と活動に対し、より大きな支配力(原語control)を得る過程である」と定義している。開発途上国の開発分野では、1970年代以降ジェンダーの視点が取り入れられ、1980年代以降は自助・自立を通して女性たちが力を付け、変革の主体となっていくことをめざす女性のエンパワーメントが重視されるようになった。1995年に開催された国連社会開発サミット(コペンハーゲン)では、貧困が女性に与える影響が指摘され、貧困対策、健康と教育への投資、人々の福祉の増進、女性の開発過程への参画が重要課題となった。女性のエンパワーメントとは、女性が主体的に判断し行動する能力、自らの力で計画・決定・運営していく能力を伸ばし、女性たちの置かれている状況を自ら変えていく能力を高めていくこと、換言すれば女性が様々な能力を修得し、社会参画のために力を付けること、すなわちエンパワーすることを意味している。このことが就業の機会、教育、医療などにおいて、女性と男性の格差を無くし、ジェンダーの平等につながるのである。(丹野かほる)
用語 エンパワメント
概要 (英語訳:Empowerment)

エンパワメントは、一般に個人や社会集団が当事者のニーズや関心を表明し、意思決定に参加する手段を講ずることによって、当事者のニーズが満たされるような政治的、社会的、文化的行動を起こすことができるようになることを意味する。個人のエンパワメントでは、たとえば健康を事例とすると、自分の健康に関する意思決定ができ、健康の保持増進のために自分の生活をコントロールする能力を身につけることに該当する。一方、コミュニティ・エンパワメントでは、コミュニティに属する人々が集団として行動し、自分たちの健康やQOLに関わる要因に対して自発的に調整することに該当する。エンパワメントは、ヘルスプロモーションを達成するための重要な方略でもある。人々は、外部者からエンパワーされるのではなく、自分が本来もっている力を用いて自らをエンパワーするのであり、外部者はそのプロセスを促進するファシリテーター、触媒、あるいは伴走者としての役割を果たす。(柳澤理子)
用語 エンデミック、エピデミック、パンデミック
概要 (英語訳:Endemic, Epidemic, Pandemic)

エンデミック、エピデミック、パンデミックはいずれも疾病の罹患状況(流行状況)を疫学的に説明する用語であり、違いを理解しておくことが重要である。これらは流行規模の違いがあり、地域的規模なものはエンデミック、中規模なものはエピデミック、そして大規模で広範囲にわたるものがパンデミックである。
エンデミックは、一定の地域または対象人口において、ある疾患が、継続的(慢性的)に発生している状況を意味する。たとえば風土病と言われるものがこのエンデミックにあたる。

エピデミックは、ある地域または対象人口において、ある疾患で、通常より多数の罹患が一定期間に急に発生する状況を意味する。その地域や対象人口に今まで存在しなかったまたは過去に存在していたが最近は曝露することが少なかった病原体が外部から流入すること、つまり集団免疫が成立していない状況で生じることが多い。突然生じるため、予測が困難なことが多いが、早期に状況を察知するシステムを確立し、察知した場合には早期に対策を講じることで、拡大を防ぎ、社会への影響を軽減することができる。

パンデミックは、エピデミックとなった疾患が、ある地域、国、大陸を超えて広範囲で同時期に流行し、大多数の人々がその疾患を罹患する状況を意味する。疾患によっては多数の死者を出す場合もある。パンデミックについてもエピデミックと同様に、国際的にその状況を早期に察知し、対策を講じる必要があり、世界保健機関(WHO)を中心に、各国政府、自治体、経済産業団体などが行動計画を作成し、パンデミックに備えている。(宮野真輔)
用語 エンデミック、エピデミック
概要 (英語訳 : endemic、epidemic) 

エンデミックとエピデミックはどちらも「流行・地方流行」などと訳されることが多いが、明確に区別しなくてはならない。感染症のエンデミックは一定の地域に一定の罹患率で、または一定の季節的周期で繰り返される常在的な状況である。特定の地域に強く限定される場合は「風土病」と呼ぶ。

一方のエピデミックは一定の地域にある種の感染症が通常の期待値を超えて罹患する、またはこれまでは流行がなかった地域に感染症がみられる予期せぬ状況で、一定の期間に限られた現象である。エンデミックは予測することができるが、エピデミックでは予測は困難である。エピデミックの規模が大きくなった状況をoutbreakと呼び、エピデミックが同時期に世界の複数の地域で発生することをパンデミック:pandemicと呼ぶ。

エンデミック, エピデミック, パンデミックの使い分けは感染症の種類や通例によって厳密ではない。デング熱では、周期的(典型的には4年周期)に出現するデング熱の流行をエピデミックとして、流行が一層進行し毎年デング熱が流行している状況、さらに通年的に流行している状況をエンデミックとする。通常の感染症対策はエンデミックに対して対策法を計画する。エピデミックは予期せぬ流行であるため対策は一層困難である。

エンデミックと同様に前もって対応を準備するだけでなく、エピデミックでは予想される流行にインパクトを軽減(減災)する対策やエピデミックを予知する、または迅速にエピデミックを判断する方策を開発しなくてはならない。