国際保健用語集

用語 国際エイズワクチン推進構想
概要

(英語訳 : IAVI, International AIDS Vaccine Initiative)

安全で有効なエイズワクチンの研究・開発を推進するため、1996年に設立された非政府組織で本部はニューヨークにある。ビル・メリンダ・ゲイツ財団、ロックフェラー財団、ファイザー、グラクソ・スミスクライン、グーグルなどの民間、米国、デンマーク、オランダ、スペイン、英国、日本などの政府の寄付を受け、30以上の民間企業、大学・研究機関および政府機関と共に、これまで1億ドル以上を費やして12カ国でワクチンの治験を実施している。ワクチン候補の開発や治験のみでなく、エイズワクチンに関する政策分析や社会科学研究、疫学研究、アドボカシー活動、研究情報のデータベース作成も行っている。 

HIVはウイルス遺伝子が変異しやすいためワクチンの効果を容易に失いやすいこと、ヒトに特異的に感染するウイルスのためワクチンの効果を検証するために適当な動物モデルがないこと、レトロウイルスの特徴としてウイルス自身の遺伝子がヒトのリンパ球遺伝子内に埋め込まれるため免疫応答から逃れやすいこと、などの理由でエイズワクチンの開発には難しいとされている。そのため、HIV感染そのものを防ぐワクチンのみでなく、HIV感染後に発症を遅らせるためのワクチンも研究されている。(垣本和宏)
 

用語 国連難民高等弁務官事務所
概要 (英語訳 :United Nations High Commissioner for Refugees) 

国連難民高等弁務官事務所規定に基づき、1951年に設立された。高等弁務官は、その権限の範囲にある難民に対して、国連の権威のもとに国際的保護を提供し、これら難民の自発的帰還または新しい国の社会への同化を促進することによって難民問題の恒久的解決を図る。また緊急時には難民に対して法的、物的両面での保護、支援を与えることを目的とする。

難民の保護に加え、国際条約の締結及び国際条約の批准の促進などを実施している。1950年に国連総会で採択された規定によれば、UNHCRが保護を与える難民とは、『人種、国籍、宗教、もしくは政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがあるため、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることが出来ない者、または国籍国の保護を受けることを望まない者』を言う。具体的な内容としては、自発的な帰還、受入国における定住、または第三国における定住を図ることにある。その他、難民の発生を未然に防ぐ予防措置に留意した活動、紛争終了後の復旧・復興への円滑な移行のために支援を行う。2003年の時点で世界約120カ国、277カ所に現地事務所を持っている。1990年代にはアフリカのソマリアやルワンダ紛争による難民の援助活動を行い、1999年にはユーゴスラビアにおけるアルバニア系難民の援助、インドネシアの東ティモールからの避難民の援助、などを行った。1954年と1981年にノーベル平和賞を受賞した。本部はスイスのジュネーブに置かれている。 
用語 国連開発計画
概要 (英語訳: UNDP, United Nations Development Programme)

 国連システムの中で、国連総会と国連・経済社会理事会の管轄下にある開発に関する中心的な組織で、約170か国を対象に貧困の撲滅や不平等の削減などのために、政策立案、リーダーシップ能力の醸成や能力強化の支援を進めている。国レベルにおいては、当該国の開発に関する国連システムの調整機関として、国連内の意見調整と相手国の優先課題の調整を図っている。本部は米国のニューヨーク。
支援分野としては、ミレニアム開発目標に引き続き、持続可能な開発のための2030アジェンダの実現に向け、「持続可能な開発」、「民主的ガバナンスと平和構築」、「気候変動と強靭な社会の構築」に重点を置いた支援に取り組んでいる。
UNDPの資金規模は49.15億ドル(2017年)に上り、各国からの拠出金、多国間協力機関や国際機関から構成されている。使途に最も柔軟性がある通常資金(Regular Resource)は全体の12.5%を占めており、日本は通常資金に対して4番目に大きい拠出国となっている(その他の資金を合わせると総額3.05億ドルで2番目に多い)。
UNDPは「人間開発報告書(Human Development Report)」を毎年発行し、開発に関する重要な課題に焦点を当ててその状況を解説するほか、解決に向けての方策の提案などを図っている。(平岡久和)
用語 国連環境計画
概要

(英語訳 : UNEP, United Nations Environment Programme)

1972年ストックホルムで開催された国連人間環境会議での、「人間環境宣言」および「環境国際行動計画」を実施すために設立された常設機関。環境に関する国連諸機関の活動の調整と国際協力の推進を目的とし,気候変動、災害・紛争、生態系管理、環境ガバナンス、化学物質・廃棄物、資源効率性、環境レビューの7つのサブプログラムを中心に活動を行っている。本拠地はケニアのナイロビにあり、アジア太平洋地域事務所はタイのバンコクにある。絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関するワシントン条約、オゾン層保護に関するウィーン条約、国境を越えた廃棄物の禁止を定めたバーゼル条約、フロン類の排出規制に関するモントリオール条約、生物多様性条約等の事務局を担当。世界気象機関(WMO)と共にIPCCを設立させるなど、国際的な環境問題の解決に主導的役割を果たしてきた。課題としては、執行権をもたず、気候変動問題、海洋汚染、生物多様性関連など管轄外の問題も多く、政治的権力と資金の不足があげられる。(門司和彦)  

用語 国連児童基金
概要 (英語訳 : UNICEF, United Nations Children’s Fund)

第二次世界大戦後の子どもに対する食糧、衣料品及び医療などの緊急援助を目的として1946年に国際連合によって国連国際児童緊急基金(United Nations International Children's Emergency Fund: UNICEF)として設立された。1953年の国連総会において常設の機関として改組されたが、略称はUNICEFが継続して用いられている。本部は米国ニューヨークにあり、7つの地域事務所、150以上の国事務所を中心に、190か国・地域での活動が実施されている。ワクチン・医薬品の調達などを行う物資供給センター(Supply Division デンマーク、コペンハーゲン)も整備されている。

2017年の支出実績額(管理費等を含む)は58.35億ドルであった。事業支出(54.49億ドル)の内訳としては保健分野が25.2%(13.8億ドル)、教育分野が22.1%、水と衛生(Water, Sanitation &Hygiene: WASH)分野が18.7%、子どもの保護、栄養といった分野が続く。地域的にはサブサハラアフリカの46.6%(25.4億ドル)で事業支出の約半分を占め、中東・北アフリカ、アジアが続いて多くなっている。

2017年の資金調達は65.77億ドルであったが、政府からの拠出金、国際機関間等公的部門が7割、民間・NGOからの寄付等が3割を占めている。日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)を通じた寄付は1.3億ドルで米国に次いで2番目に多い(日本政府からの拠出は1.7億ドルで政府・政府間機関で7番目)。(平岡久和)
用語 国連人道問題調整事務所
概要 (英訳 UNOCHA United Nations, Office for the Coordination of Humanitarian Affairs)

通称はOCHAと呼ばれる。1992年に設置された国連人道問題局(UNDHA:Department of Humanitarian Affairs)が、1998年に改組され、多発する複合災害(Complex emergencies)や、自然災害に対する国連の人道援助活動能力の強化と、人道NGOなどとの連携調整を行う。以前、各国連機関が個別に提出していたConsolidated Appealなど、あらゆる緊急事態に対する人道支援活動の調整や、政策策定やその提案などを行っているが、あくまで実践機関ではなく、調整機関である。(明石秀親、喜多悦子)
用語 国連人口基金
概要 (英語訳:UNFPA, United Nations Population Fund)

国連人口基金(UNFPA)は、1969年に設立された国連の人口問題を扱う専門的開発機関である。設立当時は国連開発計画(UNDP)の一部門として「国連人口活動基金」(United Nations Fund for Population Activities)と呼ばれていたが、国際社会で人口問題対策の重要性が認識されるようになり、期待される活動範囲が拡大してきたため、1972年に独立した国連機関となった。本部は米国のニューヨーク。活動は、(a) 国レベルの開発途上国の支援プログラム、(b) 中南米やサハラ以南のアフリカなどの地域全体に共通する課題に取り組む地域プログラムと(c) 政策提言活動などを含む世界全域を対象としたプログラムの3種類がある。本部に置かれていた各地域局は、2007-08年にかけて、アフリカ局はヨハネスブルクとダカールへ、アジア局はバンコクへ、中南米局はパナマへ、アラブ局はカイロへ、東欧・中央アジア局はイスタンブールへと移った。これは、UNFPAによる技術サポートおよびプログラムの実施調整が、より活動現場の近くに置かれるようになったことを示す。

現在、開発途上国の人口問題対策分野では世界最大の国際援助機関であり、150以上の国と地域で支援活動を実施している。重点活動領域は、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス、リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」、「人口と開発(国勢調査を含む)」、「ジェンダーの平等」で、開発途上国において、より暮らしやすくゆたかな社会を作っていくための「開発支援活動」と、自然災害や紛争の被災地における緊急性の高い「人道支援活動」のいずれにおいても活発に活動している。(池上清子)
用語 国連エイズ合同計画
概要 (英語訳 : UNAIDS the Joint United Nations Programme on HIV/AIDS) 

初めてのエイズ患者の発見以来エイズ対策においてはWHOがその中心を担っていたが、次第にエイズの及ぼす社会的・経済的な影響が明らかとなり、社会全体の問題として取り組む必要のあることが強く認識された。その結果1994年に行われた国連経済社会理事会において国連エイズ合同計画(UNAIDS: the Joint United Nations Programme on HIV/AIDS)の設置が承認され1996年1月に正式に発足した。国連エイズ合同計画は複数の国連機関が協同し、国連システム全体として、HIV新規感染の予防、感染者へのケア、エイズによる様々な影響の軽減など、世界におけるエイズ対策の強化に取り組んでいくことを目的としており、2008年4月現在、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)UNICEF(国連児童基金)?、WFP(世界食糧計画)、UNDP(国連開発計画)UNFPA(国連人口基金)、UNODC(国連薬物犯罪事務所)、ILO(国際労働機関)、UNESCO(国連教育科学文化機関)、WHO(世界保健機関)WB(世界銀行)ら10の機関が共同スポンサーとなっている。本部はジュネーブにあり、22の理事国、共同スポンサーである国連機関、および5つのNGOからなるプログラム調整理事会(PCB:Programme coordinating board)によって、政策などの重要事項が決定される。国連エイズ合同計画では2年毎にThe UNAIDS Unified Budget and Workplan (UBW) とよばれる統合予算および行動計画案を策定しており、この中で定められた共通の優先課題に対して、それぞれの機関とUNAIDS事務局の協調のもと活動が実施されている。主な活動としてはアドボカシーやリーダーシップの動員、方針策定や情報発信、モニタリング、市民組織の巻き込みとパートナーシップの構築、効果的なエイズ対策を支援するための人的・技術的資源及び財源の動員などがあげられる。 (石川尚子)
用語 国立感染症研究所
概要 (英語訳:National Institute of Infectious Diseases)

国立感染症研究所(National Institute of Infectious Diseases) は、厚生労働省管轄の国立試験研究機関。1947年(昭和22年)、感染症対策に関わる基礎、応用研究や、抗生物質やワクチンなどの開発と品質管理等を行う厚生省付属試験研究機関として設立された国立予防衛生研究所を前身とする。1997年(平成9年)4月、名称を感染症研究所に改名した。「感染症を制圧し、国民の保健医療の向上を図る予防医学の立場から、広く感染症に関する研究を先導的・独創的かつ総合的に行い、国の保健医療行政の科学的根拠を明らかにし、また、これを支援することにある」との目的で、研究業務、感染症のレファレンス業務、感染症のサーベイランス業務、国家検定・検査業務、国際協力業務、研修業務などの業務が行われている。(中島一敏)
用語 国立国際医療研究センター
概要 (英語訳:NCGM, National Center for Global Health and Medicine)

国立国際医療研究センターの前身は、1929年に設置された陸軍の病院である。戦後に厚生省の最初の国立病院として東京第一病院となり、その後、国立病院医療センターと改称、1986年には、国際協力への医療者を派遣する事を目的に国際医療協力部を設置し、1993年には国際医療協力を旨としたナショナルセンター 国立国際医療センターとなった。地球上の全人類が悩まされている疾病の克服と健康の増進に貢献している。センターには、約50名の国際協力専任の医療者(医師32名、看護・助産師13名、薬剤師1名、検査技師1名)をかかえる国際医療協力局、全専門科を網羅するベッド数800の病院、国際保健や感染症などの研究を行っている研究所、人材育成を行う看護大学校を持ち、日本における国際保健の中核施設として位置づけられている。現在、WHOなどの国連機関、10を超える世界中の国々へ、医師、看護師らの医療従事者を派遣し、母子保健、感染症、保健システム分野において、国際医療協力を実施している。2015年には、研究開発法人国立国際医療研究センターと名称が変わり、研究開発を行うとともに、日本における国際保健分野における政策提言、人材育成、情報発信、国際保健ネットワークの核となっている。(仲佐保)