国際保健用語集

用語 国際協力銀行
概要 (英語訳 : ) 
日本輸出入銀行と海外経済協力基金(OECF)が統合して1999年10月1日に発足した政策金融機関である。国際協力銀行は、我が国の健全な発展のため、主体的な役割を積極的に担っていくことを目的として、1)我が国の輸出入および海外経済活動の促進、2)開発途上地域の経済社会開発・経済安定化への支援、3)国際環境の安定化への貢献という使命を掲げている。政府開発援助との関係で言えば、開発途上国の経済・社会開発を支援する「海外経済協力業務」がある(非ODA部門として、「国際金融等業務」がある)。資本金は海外経済協力業務で6兆5043億円(2003年3月31日現在)で、世界銀行をしのぐ世界最大規模となっている。技術協力の実施機関である国際協力機構(JICA)に対し、国際協力銀行は円借款を中心とした資金協力の実施機関として位置づけられている。  
用語 小児疾患の統合的管理
概要 (英語訳 : Integrated Management of Childhood Illness) 

途上国においては毎年1000万人以上の5歳未満乳幼児が死亡している。その主な原因としては、周産期の問題、肺炎、下痢マラリア、麻疹、HIV感染、栄養障害などが上げられる。

しかし小児が呈する症状や病態は、必ずしも単一の原因によるものではない。特に途上国においてはさまざまな要因が絡み合っている。例えば村のヘルスワーカーが病気の子どもに対処しようとする際、「麻疹」や「下痢症」など単一疾患に対する知識や技術のみでは十分な対応ができない場合も多い。

そこで開発されたのがIMCIの手法である。標準化された統合管理のガイドラインをもとに、共通の教材を用いて研修を行い、子どもの疾患に対する適切な対処や管理ができること、さらにはそのための保健医療システムが構築されることを目指す。

子どもたちの状態に応じて、そのまま経過観察してよい場合、必要な処置や治療、見落としてはならない危険な徴候、医療機関やさらなる高次診療施設への搬送が必要な場合などを具体的に示している。

肺炎や下痢症など代表的な疾患に対する対処法以外に栄養管理や安全な水の入手、予防接種、健康教育など包括的内容を含む。IMCI実践の分野は村レベルの活動から医療機関におけるレファラルシステムまで多岐におよぶが、村の住民たちに対するコミュニテイーIMCIが最も基本になる。   
用語 ファイナンシング
概要 (英語訳 : Financing)

英語の原義から言えば「資金調達」である。保健医療の分野にこれをあてはめれると、予防や治療サービスの財源をどのように確保するかという問題に置き換えることができる。主要な財源としては、税金(公費)、保険、自費(私費)が考えられる。保険はさらに、社会保険(公的保険)、民間保険(私的保険)、地域での小規模な保険(地域共同体保険)などに分類される。これら以外にも、国際援助や募金・寄付などがあるが、規模や継続性(sustainability)の点で制約がある。

長期的なファイナンシングの手段としては、前述の税金、保険、自費、あるいはこれらの組合せを検討する必要がある。 
用語 ロールバクマラリア
概要 (英語訳 : Roll Back Malaria) 

1998年5月、WHO中島宏事務局長(当時)の後任にGro Harlem Brundtland前ノルウェー首相が就任し、新規のWHOキャビネットプロジェクトとして宣言されたマラリア対策が、「Roll Back Malaria (RBM) Initiative」と呼ばれた。RBMイニシアチブは従来のようなマラリア撲滅運動ではなく、2010年までにマラリアによる死亡率を半減させるという具体的数値目標を持った対策案である。RBMで強調されることは、マラリアの治療を必要とするあらゆる人、マラリアの対策を必要とするあらゆる地域にそのサービスがゆき届くよう努力すること、そしてこのRBMの旗頭が、各マラリア流行国の保健システム強化の先導役(path finder)になることである。

RBMの具体的な戦略は、マラリアサミット(1992年)で起草されたGlobal Malaria Control Strategyのフォーミュラーを応用し、(1)マラリア患者の早期診断と迅速な治療、(2)突発性流行の検出と対策、(3)薬剤含浸蚊帳を用いた媒介蚊対策、(4)妊婦のマラリアの予防、の4項目を基盤に展開するものである。そのうえで流行国と多くの国際機関との連携、開発支援2国間援助の推進、研究グループとの協力、製薬会社や非政府組織(NGO)、財団、マスメディアとのいわゆる「パートナーシップ」を築き上げてゆくことである。現在では、正式にUNICEF, UNDP, World BankWHOが完全連携して、「RBM Partnership」という新しいフレーズが使われることが多い。  
用語 国際女性年
概要 (英訳:International Women’s Year)

1966年「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」、1967年「女性に対する差別撤廃宣言」の採択を受け、1972 年第27回国連総会において決議された国際年。男女平等の推進、経済・社会・文化への女性の参加、国際平和と協力への女性の貢献を目標に世界的な活動を行うために、1975年を国際女性年とした。これに合わせる形で、国連はメキシコ・シティーで初の女性に関する全世界的な会議である「国際女性年世界会議」を開催し、メキシコ宣言と世界行動計画とを採択した。また、同年12月の国連総会において、続く1976~85年を「国連女性の10年」に指定し、世界中の女性が一堂に会して、その権利を保障し、拡大する話し合いの場を提供した。会議は5~10年毎に開催され、第2回はコペンハーゲン(1980年)、第3回ナイロビ(1985年)、第4回北京(1995年)、2000年には国連特別総会「女性2000年会議」が米国のニューヨークで開催された。また1975年には、3月8日が「国際女性の日」と定められ、1977年の国連総会は各国の歴史、国民的伝統や習慣に沿うかたちで、任意の日を「女性の権利と国際平和を推進する日」として制定するよう呼びかけた。
(池上清子)
用語 希少疾病用医薬品
概要 (英語訳:Orphan drug)

医療上の必要性が高いにもかかわらず、患者数が少ない(日本の薬事法では、日本における対象患者が5万人未満)希少疾病 (Orphan disease) の治療に用いられる医薬品をいう。日本では未承認の物も含めると200種類以上のOrphan drugが指定されているおり、対象疾病はムコ多糖症VI型、骨ページェット病、筋萎縮性側索硬化症など多岐にわたる。

一方、希少疾病とは、背景も定義も異なるが、誤って混同されるものとして「見捨てられた病気 (Neglected disease)」がある。見捨てられた病気は、患者数は少ないわけではなくトリパノソーマ症のように年間5~15万人が感染しさらに5000万人が感染する危険性を有する疾病のことである。

リューシュマニアやブルーリ潰瘍なども同様に見捨てられた病気である。
これらの疾患には、目下のところ安全で有効な治療手段がなく、罹患した人々は重症な障害に苦しみ、死に至る者も少なくないことから、早急な治療薬の開発が必要である。しかしながら、これらの疾患の罹患者の大多数が、開発途上国の貧しい人々であるため採算性の点から製薬産業はそのような医薬品を開発あるいは製品化の対象としていない。先進国などの公的支援による研究・開発が望まれる。(奥村順子)
用語 伝統医療
概要 (英語訳 : Traditional medicine or Indigenous medicine or Folk medicine) 

伝統医療とは、近代的医学が発達する遥か以前から世界各地に存在する、健康に関する実践、方法、知識、信条などの総称であり、植物・動物・鉱物などを素材とする薬や霊的療法、各種用手治療・運動などを単独あるいは組み合わせて治療・診断・予防あるいは健康維持に用いる体系全般のことである。

アフリカ、アジア、ラテン・アメリカなどの国々では、伝統医療は今でも人々のプライマリーヘルスケアへのニーズに応えるために活用されている。特にサブサハラの多くの国では人々の大半が初期治療に伝統医療を利用している。先進国でも、伝統医療は“補完”ないし“代替”医療として受容されており、各地の伝統医療が様々な形で取り入れられている。また、中国、韓国、べトナムなどでは、国策として、伝統医療を公的医療システムに組み入れている。

WHOは安全で効果的かつ廉価な伝統医療の利用を推進しており、鍼治療や幾つかの薬草・用手治療の効能を認めているが、一方で、「伝統医療の不適切な適用は有害な事もあり、伝統医療の実践や薬用植物などに関し、その効果と安全性に関する更なる研究が必要である」としている。そして、アフリカ、アジアの幾つかの国々に協力して、伝統医療の開発・研究やワークショップ開催などを行っている。(清水利恭)
用語 QOL
概要 (英語訳:Quality of Life)

人生の質、生活の質などと訳される。1940年代末から臨床場面でとりあげられてきたが、近年は地域社会におけるヘルスプロモーション活動の最終ゴールをもQOLと位置づけるようになってきている。健康になることだけがゴールでない。今ある健康を手段として用い、いかにQOLを高めるかもまたゴールとされている。Spilker Bによれば、QOLは5つの領域から構成される。身体、心理とウェルビーイング、人間関係、経済・仕事、宗教・スピリットの5つである。QOLは、健康と直接関連のあるQOLと健康と直接関連のないQOLに分類される。健康と直接関連のあるQOLがカバーする領域は身体、心理とウェルビーイング、人間関係、宗教・スピリットなどである。これらを評価するための尺度としては、健康プロファイル型尺度としてSF-36, WHOQOL等がある。選考に基づく尺度としては、EuroQOLなどがある。健康と直接関連のないQOLがカバーする領域は、価値観、ソーシャル・ネットワークや仕事、物的環境(水、空気など)、文化施設など幅広い。この領域を包括的にカバーする尺度はまだ開発されていない。(神馬征峰)
用語 エンパワーメント
概要 (英語訳:Empowerment)

WHOヘルスプロモーションにおけるエンパワーメントを、「人々が自分の健康に影響のある意志決定と活動に対し、より大きな支配力(原語control)を得る過程である」と定義している。開発途上国の開発分野では、1970年代以降ジェンダーの視点が取り入れられ、1980年代以降は自助・自立を通して女性たちが力を付け、変革の主体となっていくことをめざす女性のエンパワーメントが重視されるようになった。1995年に開催された国連社会開発サミット(コペンハーゲン)では、貧困が女性に与える影響が指摘され、貧困対策、健康と教育への投資、人々の福祉の増進、女性の開発過程への参画が重要課題となった。女性のエンパワーメントとは、女性が主体的に判断し行動する能力、自らの力で計画・決定・運営していく能力を伸ばし、女性たちの置かれている状況を自ら変えていく能力を高めていくこと、換言すれば女性が様々な能力を修得し、社会参画のために力を付けること、すなわちエンパワーすることを意味している。このことが就業の機会、教育、医療などにおいて、女性と男性の格差を無くし、ジェンダーの平等につながるのである。(丹野かほる)
用語 小児疾患統合管理
概要 (英語訳:IMCI, Integrated Management of Childhood Illness)

途上国では、毎年1000万人以上の5歳未満乳幼児が死亡している。その主な原因として、周産期要因、肺炎、下痢、栄養障害、マラリア、麻疹、HIV感染などがある。しかし小児が呈する症状や病態は、必ずしも単一の原因によるものではない。特に途上国においては、各種要因が絡み合っている。例えば村のヘルスワーカーが病気の子どもに対処しようとする際、「麻疹」や「下痢症」など単一疾患に対する知識や技術のみでは十分な対応ができない場合も多い。そこで開発されたのがIMCIの手法である。標準化された統合管理のガイドラインをもとに、共通の教材を用いて研修を行い、子どもの疾患に対する適切な対処や管理ができること、加えてそのための保健医療システムが構築されることを目指す。子どもたちの状態に応じて、そのまま経過観察してよい場合、必要な処置、見落としてはならない危険な臨床徴候“danger signs”、医療機関やさらなる高次診療施設への搬送が必要な場合などを具体的に示している。肺炎や下痢症など代表的な疾患に対する対処法と併せて、栄養管理や安全な水の入手、予防接種、健康教育など包括的内容を含む。IMCIを実践する分野は村レベルの活動から医療機関におけるレファラルシステムまで多岐におよぶが、村の住民たちに対するコミュニテイーIMCIが最も基本になる。(中野貴司)
用語 経口補液療法・経口補水薬
概要 (英語訳:ORT・ORS , Oral Rehydration Therapy・Oral Rehydration Salts)

経口補液療法(ORT)とは、下痢症により引き起こされた脱水を治療する手段である。歴史は1940年代までさかのぼり、大量の水様性下痢により急速に脱水に陥るコレラの治療として用いられたのがその始まりである。途上国では、病院の設備が不十分で医薬品も乏しいという事情により、経静脈輸液治療が実施できない場合が多い。さらには、手技の未熟さや経験不足のため、急速な輸液による心不全や静脈ルートからの感染など経静脈輸液に伴うリスクが大きい。このような現場で多くの子どもたちを救ってきたのは、糖分、塩分を一定の割合で水に溶かして作成した溶液を経口的に補給する治療法であった。1975年には、WHOUNICEF?が統一した組成の経口補水薬(ORS)を奨励するようになった。その後、病態に応じたナトリウム濃度など組成成分の調整、穀物をベースとしたORT 、栄養価や吸湿性についても継続して検討されている。また、ORTは下痢症の治療であるとともに「飲食」という日常の生活にきわめて密着しているということを忘れてはならない。住民たちに浸透し普及するためには、現地における受容性、食生活や離乳食習慣に配慮し、文化人類学的な側面を検討する必要がある。(中野貴司)
用語 行動科学
概要 (英語訳 : Behavioral science)

第二次世界大戦後のシカゴ大学の科学者が、自然科学と社会科学を統合した見方から行動を捉えようとした際に用いられた名称。人間の個人的・集団的行動の一般法則を客観的な観察や調査によって実証しようとする学問であり、心理学、社会学、人類学を中核として、精神医学、コミュニケーション論、情報理論などの領域を含みながら、学際的に発展してきた。

国際保健医療の分野に関連が深いのは「応用行動科学(applied behavioral science)」であろう。人間の対人行動に関する諸理論(対人関係、対人的コミュニケーション、対人的影響過程、集団内行動、リーダーシップ、グループ・ダイナミックス、組織行動など)を応用して、現場で起こっている人間関係的側面の諸問題に働きかけていくものである。アプローチとしてはアクションリサーチのサイクルが用いられる。アクションリサーチの父とされるK.Lewinは、人間関係の改善のための手法としてワークショップ形式で行われるトレーニング(training)を重視した。K.Lewinのこの発想は、彼の弟子たちによって設立された米国NTL Institute for Applied Behavioral Scienceにて、人間関係トレーニング(Human Relations Training、正式名称:ラボラトリー方式の体験学習)として、また、民主的でヒューマニスティックな組織づくりをめざした組織開発(Organization Development)として発展した。(中村和彦)
用語 適正技術
概要 (英語訳:Appropriate technology)

適正技術とは、その技術の受容者であるコミュニティの環境、文化や習慣、社会経済的背景などに配慮した技術をいう。1973年にSchumacherが「small is beautiful」で提唱した中間技術(intermediate technology)の概念は、適正技術の重要性と理論化に大きな役割を果たした。国際協力において、農業、灌漑、水供給、小工業、環境など多くの分野で適正技術の開発と普及が行なわれている。とくに、近年は、地球温暖化や情報化社会の中で、環境に負担をかけず、資源を浪費せずに、低コストで維持できる適正技術の再評価が行われている。

保健医療分野において、適切技術はアルマ・アタ宣言においてプライマリヘルスケアの重要な原則の一つとして位置付けられた。医療費、施設の維持費、電気などの設備の有無、技術を使いこなせる人材の有無、文化や習慣などの種々の要素から、それぞれの保健医療施設やコミュニティに見合った適正技術を考える必要がある。(中村安秀)
用語 母子健康手帳
概要 (英語訳:Maternal and Child Health Handbook)

日本では、1942年に作成された「妊産婦手帳」をもとに、1948年に「母子手帳」が作られ、現在では「母子健康手帳」に発展した。妊娠、出産、子どもの健康の記録が一冊にまとめられ、健康教育教材としての種々のメッセージを含み、両親の手元で保管される母子健康手帳は、妊産婦ケアと新生児・小児ケアをつなぐ有用なツールとして国際的に注目を集めている。

1994年に国際協力機構(JICA)の協力によりインドネシアにてイラストや図を豊富に盛り込んだインドネシア版母子健康手帳が開発され、その後インドネシア全土に普及した。現在、母子健康手帳が使用されている国はタイ、韓国、東ティモール、ニジェール、セネガル、チュニジアなどがあげられ、プロジェクトとして開発されている国や地域は、ベトナム、バングラデシュ、ラオス、カンボジア、パレスチナ、ドミニカ共和国、ユタ州(米国)など世界に広がっている。

母子健康手帳は個別に実施されてきた母子保健サービスを統合する有力な家庭用記録媒体(home-based record)であるが、単に配布するだけでは不十分である。母子保健医療関係者が母子健康手帳を活用して、健康教育や保健医療サービスを実施することにより大きな効果を得ることができる。(中村安秀)
用語 国際労働機関
概要 (英語訳:ILO, International Labour Organization) 

ILOは第一次世界大戦直後の1919年に,世界平和の礎としての社会正義の実現を目指して設立された。現在は社会労働政策を担当する国連専門機関として国際労働基準の作成と実施、および発展途上国への技術協力活動を行っている。ILOは各国の政府、労働者、経営者代表を正式の構成メンバーとしており、三者が独立した投票権を有している。この仕組みは三者構成主義として知られ他の国連機関にはないILOの特色である。

働く人々の健康と安全の向上にILOは設立当初から積極的に取り組んできた。産業保健サービス、アスベスト、職業がん、建設安全衛生、化学物質、鉱業安全衛生、母性保護、農業安全衛生等の国際労働基準が採択され、各国における政策策定と職場における安全衛生の向上に役立っている。特に労働安全衛生サービスの届くにくい発展途上国の中小企業、家内労働、小規模建設現場、農業等の職場を対象に、低コストで地元の資源を用いて改善できる参加型トレーニング手法を開発し地元トレーナーを養成し普及を進めている。またHIVエイズ鳥インフルエンザおよび新型ヒトインフルエンザのような感染症対策においても、ILOが持つ労働者および経営者とのネットワークを生かして職場を直接の対象とした取り組みを進めている。(川上 剛)
用語 グローバリゼーション
概要 (英語訳 : Globalization) 

モノ、サービス、資本、情報、人、文化など、経済活動をはじめとする人間の様々な営みが国家の枠組みを超えて地球規模に拡大することをいう。交通・通信手段の発達によって可能になった。グローバリゼーションの波は過去3回あるとされ、1回目の1870~1914年には世界中で1人当たりの所得が急上昇し、2回目の1950~80年には先進国の経済統合が進んだ。3回目に当たる現在のグローバリゼーションは1980年ごろからとされ、途上国の世界経済への統合が進みつつある。こうした中、統合に成功した途上国では経済・社会的な成長が見られる一方、潮流に取り残された途上国では20億人もの人々が経済の縮小や貧困の拡大の中で暮らすなど、途上国間で格差が広がっている。グローバリゼーションの影響は経済的側面だけに限らない。世界中に張り巡らされたインターネット網・テレビ映像から伝えられる外国の情報やそれに付随した価値観は自国の伝統的な文化・社会的制度の変容を加速させ、また大量高速輸送網に支えられた頻繁な人の移動は感染症の急速な拡大を容易にする。2002年に中国で最初の感染が確認されたSARS(重症急性呼吸器症候群)は、北京や香港からの人の移動によって瞬く間に世界に感染が広がり、グローバリゼーション時代を象徴する公衆衛生学上の新たな課題として世界中から大きな注目を集めた。(小堀栄子)