国際保健用語集

用語 若年妊娠
概要

(英語訳:Adolescent pregnancy or teenage pregnancy)

若年妊娠とは20歳未満の妊娠を指す。若年妊娠は、未婚、望まない妊娠が多く、結果として安全ではない人口妊娠中絶により母体の健康に大きな影響を及ぼす。出産前後の母親の健康リスク(貧血、出血、マラリアHIVなどの性感染症合併、うつ病などの精神疾患)、妊産婦死亡のリスクも高い。子供についても死産、低出生体重、早期新生児・乳幼児死亡のリスクもそれぞれ高い。特に15歳未満は、サブサハラアフリカ、中西部・南西アジアで多く、これらのリスクがさらに上がる。

15-19歳の出産が、世界では年間1600万人、全出産の約11%、その90%は低所得国もしくは中所得国であり、低中所得国における若年出産の割合は高所得国の2倍から5倍とされる。若年妊娠女性の多くが喫煙や飲酒の習慣、性感染症があり、生まれた子供の健康発育にも大きな影響を与える。

日本における若年妊娠の場合も、妊娠出産による身体的合併症より、問題となるのはむしろ心理的精神的な未熟性、経済的・家族関係の不安定さである。このため養育困難や家庭内暴力、乳幼児虐待のリスク因子として注目され、妊娠中や出産後の居住場所支援から育児指導まで、行政サービスも含めて支援が必要である。(藤田則子)
 

用語 自殺
概要

(英語訳:Suicide)

WHO(世界保健機関)は、1年間に80万人以上が自殺により死亡し、成人1人の自殺死亡には20倍以上の自殺企図があるとしている。自殺企図は、LGBT(性的マイノリティ)等疎外された集団において多い。年齢別にみると、若者と高齢者において自殺念慮と自傷行為が最も多くみられ、自殺死亡率は世界のほぼ全ての地域において男女共70歳以上で最も高く、15~29歳の死因第2位は自殺である。また、高所得国の自殺率は男性が女性の3倍、低中所得国では1.5倍である。自殺手段としては、農薬、縊首、銃器が多いが、文化によって様々な手段がある。自殺は予防可能であり、慢性疼痛や急性の情緒的苦悩等精神疾患以外の危険因子も多いことを鑑み、保健医療と併せて分野横断的で統合的なアプローチが必要である。例えば、銃器、農薬、過量服薬の恐れのある有毒な医薬品へのアクセス制限、メディアによる責任ある報道、自殺リスクの高い人へのケア、早期の同定とマネージメントが効果的とされる。自殺が犯罪として扱われる国がある他、脆弱な統計システム等により、自殺死亡率は低く報告される傾向があるが、自殺率が増加している国も多い。国連「持続可能な開発目標(SDGs)」(2015)では 、目標3に「精神保健及び福祉」の促進(ターゲット3.4)が優先事項に含まれ、この指標として自殺死亡率が採用されている。(堤敦朗・井筒節)

用語 職業上の安全のおよび健康を促進するための枠組みに関する条約
概要 (英語訳 : Promotional Framework for Occupational Safety and Health Convention)

ILO(国際労働機関)の第187号条約として2006年に採択された。本条約の目的は、すべての働く人々の健康と安全の向上のために安全健康予防文化の確立を推進することである。そのために、職場における健康および安全リスク評価活動を推進し、見つかったリスクに対応する。また、政府は労働者、経営者代表と協力して5年程度の中期的な国家労働安全衛生計画を策定し実施する。その過程において、国内の労働安全衛生の現状を分析し、優先行動課題を決定して到達目標を設定する。

アジア諸国では本条約を参照しながら自国の働く人々 の健康と安全対策を促進している。ベトナム、ラオス、インドネシア、タイ、中国、モンゴル、シンガポールなどが国家労働安全衛生計画を策定し、実施を進めている。

各国はそれぞれの国家計画の枠組みの中で、労働安全衛生法の強化と効果的な実施の他に、中小零細企業、家内労働、農業、鉱山や建設業等のリスクの高い職場の対策強化、外国人労働者の労働安全衛生保護拡大等の重要課題にも取り組んでいる。

この条約により、労働安全衛生マネジメントシステムに基づいた体制と実施の継続的な改善、ならびに労働安全衛生が国としての重要課題に位置づけられることが期待されている。(和田耕治)  
用語 結核
概要

(英語訳:TB, Tuberculosis)

結核は、抗酸菌群のひとつである結核菌(Mycobacterium tuberculosis)が原因で起こる感染症であり、主な感染経路は空気感染(飛沫核感染)である。結核患者から排出された喀痰等に含まれる結核菌が空気中を浮遊し、それを吸い込むことで感染するため、日常生活において、結核の感染を予防するのは困難である。

WHOは、世界人口の3分の1、約20億人が既に結核菌に感染していると推計しており、そのうちLTBI(潜在性結核菌感染症)の約10%が、一生の間に結核を発病すると考えられている。結核の発病を促進する最も強力な因子の一つは、HIV感染であり、HIV感染者が結核に感染している場合、結核の発病率は非常に高くなる。

WHOによると、2015年には約1000万人の新規結核患者が発生し、約140万人が死亡したと推計されており、患者の発生と死亡との大半は、アフリカとアジアである。新規結核患者のうち約6割は、インド・インドネシア・中国・ナイジェリア・パキスタンおよび南アフリカの6カ国において発生している。

結核の診断で最も重要な検査は、結核菌自体を見つける菌検査(塗抹検査・培養検査・遺伝子検査等の結核菌検査)であり、開発途上国においても同様である。結核の治療は、複数の抗結核薬の組み合わせを一定期間服用する標準的治療方法が適用される。現在推奨されている標準的な結核治療法は、ヒドラジド(INH)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)またはストレプトマイシン(SM)、ピラジナミド(PZA)の組み合わせにより、6~8ヶ月間実施するもので、薬剤耐性がなければ、ほとんどの結核患者で治癒することが可能である。
WHOは、2035年までに世界における結核蔓延状況を終息させることを目指した「結核終息戦略The End TB Strategy」を2015年に発表し、「統合された患者中心のケアと予防」・「骨太の政策と支援システム」・「研究と技術革新の強化」を柱として、今後20年間(2016-2035)結核対策に取り組む姿勢を示した。(大角晃弘)