国際保健用語集
用語 | 参加型アクションリサーチ |
---|---|
概要 |
(英語訳 : PAR Participatory Action Research) 住民を中心とした関係者が参加(Paricipatory)して試行を重ねながら行う調査(Research)で、状況の改善や新しいシステムを作るために行う。研究者だけで行った、しかも一度切りの調査は調査が改善やシステム作りに結びつかなかった教訓を生かし、住民自身(およびその人々のことを真剣に考えている関係者)が主体となって、主体者の問題意識や切実なニーズに基づき、「これが良いのではないか」と考えたことを小規模で実際に行ってみて(アクションAcitonをとり)その結果を自らしっかり評価して、改善やシステムの方向性が適切かどうかを吟味する。その評価の結果を基に、次の試行を行う。大きな改善を一度に行うと、その内容が(理論的には良さそうに見えても)うまく行かなくなった時にその負の影響は住民自身にかかってくる。それに対して小さな試行をその改善や新しいシステムの影響を一番受けやすい人々が中心になって何度も試行を重ねながら一番良い方法を見出すことが特徴である。 この試行を重ねるプロセスの中で、人々が多くを学ぶことができ、環境が変わっても、それに対応した柔軟な対応する能力を得ることができる。PARに関わった人々の行動変容が起こることも狙っている。住民がPARに参加することによって学び、次のアクションも起こすというPLA(Participatory Learning and Action)であると言える。PHCを推進する上での中心課題である「住民参加」によって健康自律Health Autonomyを目指す活動の一つでもある。(平山恵) |
用語 | う蝕経験歯数 |
---|---|
概要 |
(英語訳:DMF, Decayed, Missed, Filled) 1938年にKlein Hらによって開発されたう蝕(むし歯)(dental caries)を評価する指標である。う蝕に罹患すると自然治癒が期待できないために、経験歯数として表すべきだとして、未処置歯、処置歯、喪失歯の合計をDMFと表記された。この指標は地域や集団におけるう蝕状況を表す指標として広く用いられている。大文字のDMFは永久歯のう蝕を表すのに対して、小文字のdmf(def)は乳歯う蝕を示している。 D(d):Decayedの略で保存可能な未処置歯 M(m):Missing because of cariesの略でう蝕が原因の抜去歯 F(f):Filledの略でう蝕が原因で修復した歯 e:乳歯の未処置歯の要抜去歯 乳歯は、う蝕の有無に関係なく生理的に脱落するので、永久歯のMに相当する歯の計上は困難であるとからdefを使用する。ただし、永久歯の萌出が始まる以前の年齢ではdmf方式の使用は可能である。 DMF方式を用いた集団におけるう蝕状況を示す指数には下記のものがある。 DMF者率=DMFのいずれか1歯を有する者の数/被験者数×100(%) DMFT指数(一人平均DMF歯数)=被験者のDMF歯数の合計/被験者数 DMFS指数(一人平均DMF歯面数)=被験者のDMF歯面数の合計/被験者数 DMF歯率=被験歯のDMF歯数の合計/被験歯数(D+M+F+健全歯)×100(%) WHOのGlobal Oral Data Bankに100カ国以上の12歳児のDMFT指数(DMFT index)が公開されている。(深井穫博) |
用語 | 地域歯周病指数 |
---|---|
概要 |
(英語訳:CPI, Community Periodontal Index) 歯周病(periodontal disease)は、400種以上の口腔内常在菌のなかの約10種類の特異な歯周病細菌による感染症であると共に、口腔清掃、喫煙、ストレスなどに関連する生活習慣病としても定義されている。歯肉部の炎症に限局する歯肉炎(gingivitis)と歯槽骨に炎症が進展した歯周炎(periodontitis)に分類される。全ての歯肉炎が必ずしも歯周炎には進行せず、ある進行リスクが生じた部位に急激に骨の吸収が起こり、歯周病変が進行すると考えられている。この部位特異性に関するエビデンスが報告されるにつれて、1940~1960年代にかけて提唱された歯周病の進行度をスコア化してその1歯当たりの平均値で表した歯周病の指標(PMA index, Periodontal Index等)を改善するために、1977年にWHOによってCPITN(community periodontal index of treatment needs)が提案された。1997年に出版された「WHO口腔診査法第4版」からは、CPI(community periodontal index)と表記されるようになった。 診査法は、WHO型プローブを用い、歯周部位のプロービングによって行う。正常な場合をコード0、出血が見られる場合をコード1、歯石の存在する場合をコード2、4~5mmの歯周ポケットが存在する場合をコード3、6mm以上のポケットが存在する場合をコード4とする。このコードは、0~4のスコアを平均して使用するものではない。 全ての歯の診査を行い、上下顎、前歯・臼歯部の6ブロック(セクスタント)に分け、各セクスタントで最も高い数値の歯のコードを選ぶ方法と、前歯部は上顎右側中切歯、下顎左側中切歯を診査し、臼歯部は、第一大臼歯と第二大臼歯を診査し、各最大コードを選ぶ方法がある。 1995年からWHOのGlobal Oral Data Bankに100カ国以上の35~44歳の住民のCPIが公開されている。(深井穫博) |
用語 | 口腔清掃状態 |
---|---|
概要 |
(英語訳:oral hygiene status) う蝕や歯周病に代表される歯科疾患は、いずれも口腔細菌叢のなかのある種の細菌が異常に増殖することによって歯の周囲に歯垢(デンタル・プラーク)が形成され、これが原因となって発生する。この歯垢の形成能の最も高い基質は、砂糖(ショ糖)であり、食べている限り、生涯、歯科疾患発病のリスクは伴い、特に唾液分泌量の低下や口腔清掃状態の悪化はそのリスクをさらに増大する。この歯科疾患の予防は、歯の喪失の防止に直結する。そして口腔清掃状態の改善は、歯科疾患の予防だけでなく、要介護者に対する誤嚥性肺炎を予防することが明らかなっている(Yoneyama T et al.,1999)。 口腔清掃状態の評価法には、質問紙法あるいはインタビューによって、口腔清掃行動を評価する方法と口腔内を診査するものがある。後者の代表的な指数にOHI(Oral Hygiene Index, Greene JC and Vermillion JR, 1960)およびこれを簡便化したOHI-S(Simplified Oral Hygiene Index, Greene JC and Vermillion JR, 1964)がある。これらは、Debris index(歯垢)とCalculus index(歯石)の合計点で表される。口腔を上下顎、前歯部左右臼歯部で6区分し、DI,CIいずれも0~3点で評価する。OHIは、各区分の唇頬側および舌側の最高値の合計点の総和を検査した区分数で除した数値であり、最低0点から最高値12点である。OHI-Sは、上顎右側中切歯、左右第一大臼歯、下顎左側中切歯の唇面および下顎左右第一大臼歯舌面の6歯面を診査する。OHI-SのScoreは、0~6点である。(深井穫博) |
用語 | フッ化物応用 |
---|---|
概要 |
(英語:Use of fluorides) う蝕(むし歯)の予防法は、?宿主・歯質対策(フッ化物応用、シーラント)、?食事性基質対策(甘味摂取量・頻度のコントロール)、?微生物対策(歯口清掃)に分類される。このなかで、歯口清掃単独でのう蝕予防効果は低い。それに対して、フッ化物応用は、科学的根拠に基づく口腔保健対策として世界的に普及している方法であり、WHO Global Oral Health Programme(2003)でも最も優先順位の高い施策目標に位置づけられている。先進国を中心に、フッ化物の全身的応用と局所的応用が普及した結果,小児う蝕の激減をもたらしている。その効果は、小児う蝕に限らず、成人の歯根面う蝕にも予防効果が認められている。 歴史的には、エナメル質の形成不全のひとつである「歯のフッ素症(dental fluorosis)」の原因を追究するために行われた1940年代までの米国での広範な疫学調査の結果から、飲料水中のフッ化物によるう蝕抑制効果が確認された。その後、1945年には米国ミシガン州グランドラピッズ市で、水道水フッ化物添加事業(water fluoridation)が開始されて以来、現在では約60カ国3億6千万人以上の人々を対象に実施されている。調整されるフッ化物濃度は、その地域の気候を背景にした飲料水摂取量によって異なるが、概ね1ppmに調整される。これ以外の全身的応用法には、食塩への添加(salt fluoridation)と錠剤の処方がある。一方、局所応用法には、フッ化物歯面塗布法(fluoride topical application、年2~4回)、フッ化物洗口法(fluoride mouth rinses、週1回法または毎日法)、フッ化物配合歯磨剤(fluoride tooth pastes)という方法があり、これらのう蝕予防効果は20~50%である。このうちフッ化物配合歯磨剤は、その利用の簡便性から世界的に最も普及した方法である。一方、フッ化物洗口法は、費用対効果の点で優れた方法であり、学校保健プログラムの一環として行うことでその継続性も確保されるので、局所応用法のなかでは、最も高いう蝕予防効果が報告されている。(深井穫博) |