国際保健用語集

用語 環境社会学
概要

(英語訳 : Environmental Sociology)

環境社会学は、人間社会の社会的、文化的環境だけではなく、その生物的、物理的、化学的環境にも目を向け、むしろそれらを主要な対象として、人間社会との相互関係を解明することを目的とする。そのため、環境社会学は自ら現場に出て行き、現場から実証的なデータを積み上げ、ときには住民の人々と一緒に考えたりしながら、それらを総合的に分析・研究することで問題の解決法を考え、行動する学問である。

日本では、1960年代から70年代にかけて、農村社会学や地域社会学の分野で実証的研究成果がなされ、生活破壊論、被害(-加害)構造論、受益圏・受苦圏論、社会的ジレンマ論、生活環境主義、コモンズ論をめぐる研究がなされている(Wikipedia)。飯島は、従来の社会学では、『対象と関わることなくニュートラル』であることが研究上の基本的な姿勢とされがちだが、環境問題を含んだ社会問題は、『ニュートラルな第三者』では研究し切れない。汚染や公害と人間社会の関係を研究する場合、問題の発生原因とその解決策を解明する点において環境社会学ほど適切な学問はない、としている。水俣病にしろ、福島の原発事故にしろ、医学、公衆衛生学だけでは問題は解決しない。統合的な水俣学やフクシマ学が必要であり、その中核を環境社会学が担うことが期待されている。(門司和彦)

用語 保健医療情報システム
概要

(英語訳:Health Information Systems, HIS)

保健医療情報システムは、保健人材開発、サービス提供、保健財政を含めさまざまな保健医療政策を策定し実施していく上で欠かせないものであり、保健システムの中で重要な構成要素の一つである。

保健および関連セクターからデータを収集し、データの質を確認し、収集したデータを分析し、保健関連の意思決定の土台となるような情報に変換する、この一連の流れが保健情報システムである。

保健マネジメント情報システム(Health management information system, HMIS)は、感染症情報や疾病統計などの保健統計に加え、人的資源に関する情報、医薬品の在庫や供給情報、財務指標などの情報も収集し、保健医療サービスを運営するために使用される。また、人口・健康および栄養の分野における幅広いモニタリングおよびインパクト評価指標のデータを提供する全国規模の世帯調査として、人口保健調査(Demographic Health Survey, DHS)がある。さらに、出生登録や死因の記載を含む出生・死亡登録と動態統計(Civil registration and vital statistics, CRVS)の有用性が認識されているが、導入され機能している国はまだ少ない。

健康の決定要因や保健システムへの投入、保健システムから得られた成果などが健康に及ぼす影響を分析するなど多様な目的のために、個人レベル、保健医療施設レベル、人口レベルのデータや公衆衛生サーベイランスのデータなどが多角的に活用される。信頼性の高い保健情報システムが重要であり、そのデータを得るための情報収集・分析方法がさらに開発されている。(江上由里子)

用語 保健のための公共と民間のパートナーシップ
概要

(英語訳: PPP, Public Private Partnership for Health)

保健分野の公共と民間のパートナーシップは、一般的には、「NGOを含む民間セクターの参加を伴う公共保健サービスプログラム」であると定義されることが多い。この範疇に含まれる大規模なものには、GAVI(the Global Alliance for Vaccines and Immunization)Roll Back MalariaStop TB partnershipなどがあり、地域レベルでは、NGOなどが政府との協調のもと実施している基礎保健サービス事業などがある。したがっていわゆる“公共サービスの民営化”とは区別して考えるべきである。民間とのパートナーシップが特に注目されるのは、公共セクターとは違った技術や知識、また斬新的なアプローチで、公共セクターが容易にサービスを提供できない地域・住民・貧困層にアクセスできる点にある。また、公共セクターが基本的に知識や経験を有していない分野、例えば医薬品開発やそのマーケティング・流通などに大きな強みがあり、民間セクターとパートナーシップを築くことは、公共保健セクターにとって大きなメリットがある。しかしながら、民間セクターとの協力をより効果的・公正に実施するためには、利害関係に常に注意するとともに、民間セクターが興味を示しにくい国々(紛争国や不安定国、貧困層が人口の多く占め、利潤が期待できない国など)へのアプローチの開発、いまだに多い現物・製品の支給によるパートナーシップ形態(輸送・配布・モニタリング・報告に多額の資金と時間が費やされる)の問題など、改善すべき課題は多い。(平林国彦)

用語 アジア開発銀行
概要

(英語訳:ADB, Asian Development Bank)

1966年にアジア地域の経済発展と域内協力を推進するために設立された国際金融機関で、本部はフィリピンのマニラにある。2017年末現在で67か国(アジア域内48、米国、英国など域外19か国)で構成され、日本はその中で最大の出資国であり、議決権数も最大、さらに設立以来9代にわたって日本人が総裁を務めている。

事業では、融資、技術支援、無償支援など(2017年コミットメント額約203億ドル)により、主にエネルギー、金融、運輸・交通セクターなどの分野の開発を推進している。また、信託基金や協調融資(2017年コミットメント額約119億ドル)を積極的に取り入れて事業規模の拡大が図られている。

保健分野では2015年9月に「保健事業計画2015-20」が立案された。同計画においては、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage: UHC)実現にむけて、保健インフラ、ガバナンス及び財政部門への投資を優先課題として協力を推進することとしている。また、2017年のコミットメント額が約2.1億ドルに留まっている保健分野への事業に関しても、ポートフォリオ内訳としてアジアで1%、大洋州で2%(ともに2014年)であるものを、2020年までにそれぞれ3%、5%まで拡大することが企図されている。(平岡久和)

用語 京都議定書
概要

(英語訳 : Kyoto Protocol)

1997年に京都市で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議、The 3rd Session of the Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change: COP3)で採択された気候変動枠組条約に関する議定書「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」のこと。

温室効果ガスである、二酸化炭素 (CO2)、メタン (CH4)、亜酸化窒素 (N2O)、ハイドロフルオロカーボン類 (HFCs)、パーフルオロカーボン類 (PFCs)、六フッ化硫黄 (SF6) について、先進国における削減率を1990年を基準として各国別に定め、達成することが定められた。また、京都メカニズム(クリーン開発メカニズム. Clean Development Mechanism ,CDM)、排出権取引Carbon emission trading, ET)、共同実施(:Joint Implementation, JI))や、植林や植生回復による二酸化炭素吸収源活動(carbon dioxide sink)など多くの方策が盛り込まれた。2001年に開かれた第7回気候変動枠組条約締約国会議(COP7、マラケシュ会議)において運用細目が定められた。それまでスローガンに過ぎなかった努力目標を法的拘束力や罰則がある国際約束に変えたことが京都議定書の意義である。それ以降、COP会議が続き、2015年にはフランス・パリでCOP21が開催され、パリ協定が採択された。(門司和彦)