国際保健用語集

用語 リプロダクティブ・ヘルス・ライツ
概要

(英語訳:Reproductive Health/Rights)

リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは、人間の生殖システム、その機能と(活動)過程のすべての側面において、単に疾病、障害がないというばかりでなく、身体的、精神的、社会的に完全な良好な状態にあることを指し、1994年にカイロで開かれた国際人口開発会議の行動計画で採択された。その具体的内容は、1)カップルが自分たちの意志でいつ何人子どもを産むか産まないかを選ぶ自由を持つこと、2)カップルが性感染症の恐れなく安全で満足のいく性生活を持てること、3)女性が安全な妊娠と出産を享受できること、4)生まれてくる子どもが健全な小児期を過ごせること、であり、思春期や更年期における健康上の問題等生涯を通じての性と生殖に関する課題が幅広く議論された。

翌年北京で開催された第4回世界女性会議でも、リプロダクティブ・ヘルス・ライツは女性の人権であり、女性は自らの出産数を管理する権利を持ち、リプロダクティブ・ヘルスを促進すべきであること、とされ、カイロ会議と同様の定義の下、最高水準の健康を享受する女性の権利は、全ライフサイクルを通じて男性と平等に保障されなければならない、と行動綱領に明記された。

2014年カイロでの国際人口開発会議から20年の節目となり、MDGsの達成期限の2015年を前に、1)尊厳と人権、2)保健、3)人の移動、4)ガバナンスとアカウンタビリティー、5)持続可能性、を5つの柱として行動計画の実施状況の検討が行われた。(松本安代) 

用語 国連環境計画
概要

(英語訳 : UNEP, United Nations Environment Programme)

1972年ストックホルムで開催された国連人間環境会議での、「人間環境宣言」および「環境国際行動計画」を実施すために設立された常設機関。環境に関する国連諸機関の活動の調整と国際協力の推進を目的とし,気候変動、災害・紛争、生態系管理、環境ガバナンス、化学物質・廃棄物、資源効率性、環境レビューの7つのサブプログラムを中心に活動を行っている。本拠地はケニアのナイロビにあり、アジア太平洋地域事務所はタイのバンコクにある。絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関するワシントン条約、オゾン層保護に関するウィーン条約、国境を越えた廃棄物の禁止を定めたバーゼル条約、フロン類の排出規制に関するモントリオール条約、生物多様性条約等の事務局を担当。世界気象機関(WMO)と共にIPCCを設立させるなど、国際的な環境問題の解決に主導的役割を果たしてきた。課題としては、執行権をもたず、気候変動問題、海洋汚染、生物多様性関連など管轄外の問題も多く、政治的権力と資金の不足があげられる。(門司和彦)  

用語 パリ宣言
概要

(英語訳:The Paris Declaration on Aid Effectives)

1980年代に、国際通貨基金(IMF)と世界銀行による構造調整政策が失敗したため、プロジェクトの全体最適化における限界やその乱立による当事国のオーナーシップの阻害などが問題視され、1990年代に入り、セクターワイドアプローチに代表される当事国政府のオーナーシップに基づく援助アプローチが模索・実践されるようになった。2000年以降、それらの経験を基に経済開発協力機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)を中心に援助の効果向上の原則が議論され、遂に「援助効果向上にかかるパリ宣言」が2005年パリで91か国、26機関が参加した第2回ハイレベルフォーラムにてまとめられ採択された。

宣言では、以下の5つの原則へのコミットメントが求められた。
1)オーナーシップ:当事国が開発政策、戦略、財政計画、調和のとれた開発行動につきリーダーシップを発揮し、援助側はそれを尊重する。
2)アラインメント:援助側は、全ての支援を当時国の国家開発戦略に整合させ当事国の制度や手続きを活用し、当事国はそのために必要な能力強化を行い、援助側はそれを支援する。
3)調和化:援助側は、簡素化された共通の手続き、効果的な分業を進める。
4)成果マネジメント:求める結果に焦点をあて、それが達成できるよう援助を管理・実施する。
5)相互説明責任:当事国と援助側が、開発成果に関して相互に説明責任を有する。

その後も3年毎にハイレベルフォーラムで援助効果の議論は続けられ、援助の透明性、南南協力、民間セクターの役割、気候変動など新たな視点が追加されているが、パリ宣言の5つの視点は今なお開発効果向上の基本となっている。(野田信一郎)

用語 ロールバックマラリア
概要 (英語訳 : Roll Back Malaria)

1998年5月、WHO中島宏事務局長(当時)の後任にGro Harlem Brundtland前ノルウェー首相が就任し、新規のWHOキャビネットプロジェクトとして宣言されたマラリア対策が、「Roll Back Malaria (RBM) Initiative」と呼ばれた。RBMイニシアチブは従来のようなマラリア撲滅運動ではなく、2010年までにマラリアによる死亡率を半減させるという具体的数値目標を持った対策案であった。RBMで強調されることは、マラリアの治療を必要とするあらゆる人、マラリアの対策を必要とするあらゆる地域にそのサービスがゆき届くよう努力すること、そしてこのRBMの旗頭が、各マラリア流行国の保健システム強化の先導役(path finder)になることである。 

RBMの具体的な戦略は、マラリアサミット(1992年)で起草されたGlobal Malaria Control Strategyのフォーミュラーを応用し、(1)マラリア患者の早期診断と迅速な治療、(2)突発性流行の検出と対策、(3)薬剤含浸蚊帳を用いた媒介蚊対策、(4)妊婦のマラリアの予防、の4項目を基盤に展開するものである。そのうえで流行国と多くの国際機関との連携、開発支援2国間援助の推進、研究グループとの協力、製薬会社などの民間セクターや非政府組織(NGO)、財団、マスメディアとのいわゆる「パートナーシップ」を築き上げてゆくことである。現在では、正式にUNICEFUNDPWorld BankWHOが完全連携して、「RBM Partnership」という新しいフレーズが使われることが多い。

RBMのビジョンは、マラリアによる負担がない世界の創出である。2020年までの具体的なビジョンとしては、全ての国々とRBMパートナーによる努力を加速化することである。2015年と比較して、マラリアによる死亡率と罹患率を少なくとも40%減少させること。また、2015年までにマラリアの流行が消失した国々において、マラリアの再興を起こさせないこと。および10か国でマラリアの流行を消失させることである。2030年までには、2015年と比べて、マラリアによる死亡率を少なくとも90%減少させ、さらに35か国でマラリア流行を消失させることを掲げている。(野中大輔)  
用語 気候変動に関する政府間パネル
概要

(英語訳:IPCC, Intergovernmental Panel on Climate Change)

人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、1988 年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画 (UNEP)により設立された国際的な専門家でつくる組織。2014年10月の第40回総会(デンマーク・コペンハーゲン)で、第5次統合報告書(AR5)の政策決定者向け要約(SPM)が公表され、3つの作業部会(WG1:自然科学的根拠評価、WG2:影響・適応・脆弱性評価、WG3:緩和策評価)の報告書と統合報告書(Synthesis Report)が採択された。人為起源の温室効果ガスの排出は、主に経済成長と人口増加によって工業化以降増加し、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の大気中濃度は過去80万年で最大となり、20世紀後半以降に観測された温暖化の支配的原因であった可能性が極めて高いと報告している。近年、大気中の二酸化炭素が増加したことも事実であり、地球の平均気温が上がったことも事実である。気候温暖化によって、洪水、豪雨、旱魃などの極端現象の頻度が増加した。IPCCに対する批判としては、近年、ホッケースティックのように急激に地球の平均温度が上がったとするデータに対する懐疑(AR5では削除されている)、都市部に多い温度観測値に都市温暖化が影響を与えているという観測上の問題、人為的影響と長期気候サイクルの影響の程度に関する議論、それらに対する政治的影響などがあげられる。しかし、急激な地球温暖化は恩恵よりも様々な弊害をもたらす危険性がつよく、全世界として必要な対策を継続して検討・実施していく必要性は明白である。(門司和彦)