国際保健用語集

用語 在日外国人
概要 (英語訳 : Foreigners Living in Japan)

この言葉に関する明確な定義はない。しかし、この言葉は社会一般に定着しており、日本に在住する外国人の総称として考えられる。この言葉の概念には、「日本に定住している外国人」という要素も含まれている。定住性を表す言葉として「定住外国人」がある。これは概ね5年以上の居住者を指す。在日外国人に関する表現は、その対象者の生活基盤実態を考慮して表現されている。行政の報告書では「外国籍住民」「外国籍市民」「在住外国人」の表記が多く、NGO/NPOのレポート等では短期滞在者を含めた「滞日外国人」の表記がみられる。

日本における外国人には、「出入国管理及び難民認定法」によって在留資格が定められており、法務省入国管理局では、「出入国管理及び難民認定法」上の在留資格をもって、三カ月以上日本に在留する外国人「中長期在留者及び特別永住者」を「在留外国人」と定義している。また、2012年7月には、「住民基本台帳法の一部を改正する法律」が施行され、日本人と同様に、「外国人住民」も住民基本台帳法の適用対象となった。

1980年代前半まで、在日外国人の大半は歴史的背景を持つ朝鮮半島出身の在日韓国・朝鮮人であった。その人口構成は日本人同様に高齢化、少子化が急激に進んでいる。一方、1980年代後半以降、東南アジア、南米出身の人口が急増し、在日外国人の国籍(出身地)、人種、文化等が多様化している。移住者の人口構成は、20歳代から30歳代の生産年齢人口に集中し、定住化・永住化傾向がみられる。2005年以降、在日外国人人口は200万人を超えている。日本社会における多文化共生社会の実現、在日外国人の法的人権保障の確立が社会的課題となっている。 (李節子)
用語 地球温暖化
概要

(英語訳:Global warming)

地球温暖化(または、温暖化)とは、地球規模で気温上昇が世紀単位の長期で発生している現象を指す。地球温暖化の理由として、大気温の上昇が原因であるとメディアなどで報道されているが、その主な理由は1970年代より起こっている海洋温度の上昇によるものである。また、温暖化により南極・北極の氷は融解し大気温も上昇している。地球温暖化の原因は、主に人間の活動に伴って排出される温室効果ガス(二酸化炭素など)である。温暖化の進行は、地球に降り注ぐ太陽エネルギーの宇宙への放熱が温室効果ガスにより遮断されたことが発端となり、これまでの地球と宇宙に関わる熱収支の均衡が崩れ、地球上に熱エネルギーが蓄積され、最終的に温暖化を招く。地球温暖化の影響は大気温上昇や海水面の上昇、降水量の変化、亜熱帯地域での砂漠化の進行などで地域により異なる。その他には、急激な天候悪化の発生などの影響がある。これらの現象は、農作物の生産量に影響を及ぼすため、食糧問題と密接な関係がある。(星知矩(門司和彦))

用語 地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク
概要 (英語訳 : Global outbreak alert and respondr network) 

病原体はダイナミックに変異し、速やかに増殖して新しい環境や宿主に柔軟に適応する能力を持つ。

これらの生物学的特性に加え、人類の生活圏の拡張は未知の病原体との遭遇機会を提供し、交通手段の発達は迅速で長距離の病原体の移動を可能にした。このような病原体の拡散による感染症大流行に対応するため、2000年にWHOは地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワークGOARN: Global Outbreak Alert and Response Networkを構築した。

そのシステムでは既存のネットワークを活用して、情報・経験・技術の国際間での共有を目指す。新しい感染症流行を系統的に情報収集し、流行の規模と重大さを科学的に迅速に確認し、確認した事実はネットワークを介して全世界に伝達し、必要に応じて国際協調して支援して、大流行による被害を最小限に防ぐサーベイランスの仕組みである。

毎年100カ国以上から200件以上の感染症流行の情報が収集され、GOARNが対応を判断する。国際的な対応が必要となる感染症は、1)未知の病原体の可能性がある、2)期待値より異常に罹患率や死亡率が高い、3)国境を越えて隣国に波及する、4)人間や物の交流によって隣国に運ばれる、5)流行当該国の対応する能力を越えている、6)事故や故意に拡散されている、などである。SARSや鳥インフルエンザでGOARNの対応能力が示された。 
用語 地理情報システム
概要 (英語訳:GIS, Geographic Information Systems)

GISは、デジタル化された地図データや位置情報を持つさまざまなデータを統合的に扱い、データの作成、視覚化、保存、利用、管理する情報システムそのものを意味してきた。データは地図上に表示されるので、解析対象の分布や密度、空間検索や空間分析の結果を視覚的に把握することができる。我が国では、1995年の阪神淡路大震災での復興支援事業を契機に、空間的思考や意思決定を支援する新しいツールとして幅広く認知されるようになった。今日では、地理情報に固有な問題を幅広く対象とし、地理情報を系統的に処理する方法論を研究する新しい学問領域(地理情報科学 Geographical Information Science)として知られる。
保健医療分野におけるGISの利用は、疫学情報の視覚化(疾病地図)、疾病の地域集積性の検出、疾病の地域リスク要因の検討、感染症媒介生物の生態解析、保健医療サービスの計画・評価、保健医療情報のインターネット配信など多岐に渡る。地理空間的視点から疫学研究に取り組む空間疫学(Spatial Epidemiology)は、GISと親和性が高い。

センサスやサーベイランスにGISを導入する事例が増えており、GPS(Global Positioning System)で測位した位置情報と調査データを連結させて、疾病対策などに活用されている。広域観測が可能な地球観測衛星から得られる植物活性、土地被覆分類、地形情報、大気情報、海面温度などの種々のリモートセンシングデータは、定量的かつ面的なもので、患者や感染症媒介生物の地理情報と組み合わせて、疫学分析に活用されている。(谷村晋)
用語 外傷後ストレス障害
概要

(英語訳 PTSD, Post Traumatic Stress Disorder)

心的外傷(トラウマ)となる犯罪や災害などの生死にかかわる経験、死傷の現場を目撃するなどの恐怖体験が契機となり、1か月以上持続して症状を呈し、強い苦痛や生活上の機能障害をきたす精神障害。世界的にはベトナム戦争など紛争体験者、その兵士、日本では阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件後に注目されるようになったが、交通事故、虐待、レイプなどでも生じる。

おもな症状は、侵入(フラッシュバック、悪夢、想起刺激による心理的苦痛や生理学的反応)、回避(トラウマ体験に関連する状況や感情を避ける)、認知と気分の陰性変化(自身や他者の過剰な否定、大事な活動への関心や参加の著しい減退、愛情を感じなくなるなどの感情領域の狭小化)、覚醒度と反応性の著しい変化(睡眠障害、過度の警戒心、過剰な驚愕反応、集中困難)の4種類に分類される。

心理療法や薬物療法が主たる治療法となる。なお、PTSDを発症した人の半数以上がうつ病、不安障害、アルコール依存などを合併することが知られている。(井上信明)