国際保健用語集

用語 リファラルシステム
概要 (英語訳:Referral System)

リファラルシステムは患者紹介とは医療機関を受診した患者の診療を他の医療機関に依頼することで、診療所・保健センター・地域の一次病院などの医療機関では診療できないより高度な医療行為が必要になるときや重症患者、専門外の疾患が疑われる場合、高次医療機関へ紹介・搬送して診療することで「患者紹介システム」や「病診連携システム」とも呼ばれる。なお、緊急時、対応不可能な際に患者を搬送することはこのリファラルシステムとは性質を異にする。

一方、治療により回復期に入った患者には地域の身近な医療機関を紹介し、患者はそこで回復支援やリハビリを受けて復帰を測る。このように、地元の医療機関の方が通院に適切な場合や、その患者の紹介もと出会った医療機関に再び紹介することをカウンターリファラル(逆紹介)と言う。地域の医療機関から大病院への「紹介」、大病院から地域の医療機関への「逆紹介」が円滑に行われることで、中小の医療機関と大病院が各々の役割を効果的に果たすことが期待される。
 日本では2015年の医療保険制度改革により近年、大病院に地域の診療所との連携を進めるなどの責務が規定され、紹介状なしで受診する場合、通常の初診料に加え別途5000円(歯科は3000円)以上の特別料金を徴収するようになった。他の医療機関を受診するよう大病院から紹介を受けても患者が引き続き大病院の受診を希望する場合は、再診でも特別の料金がかかる。患者の高次病院への集中を防ぐという点でも一定の効果を挙げている。

開発途上国においても各レベルの医療機関の基準を設定し、機能分化と紹介の仕組みが作られているが、現実には医療資源の不足や患者の希望から、上位の医療機関を直接受診する患者が多く、リファラルシステムは制度として構築されていても適切に機能していない場合が少なくない。

リファラルシステムでは、患者紹介に加えその機能を地域・コミュニティーにまで広げ、人々が医療サービスにアクセスできる体制や情報・知識・技術の伝達までを含めた広義のリファラルシステムを考えることでUHC達成への貢献が期待される。(江上由里子)
用語 英国国際開発省
概要 (英語訳:DFID, Department for International Development)

英国の開発協力を中心的に担う組織として、1997年に設立され、アフリカ、アジア及び中東に対する支援を中心とした援助機関。英国の全ODA(2017年)139.3億ポンドであるが(GNI比0.7%を実現している)、その72.5%がDFIDを通じて供与されている。

優先課題(Strategic Objectives)は、「世界的平和・安全・ガバナンスの強化」、「危機に対する強靭性や対応力の強化」、「世界的繁栄の推進」、「極度の貧困への対応と最も脆弱な人びとへの支援」、「英国援助の資金に見合う価値と透明性の向上」の5つを掲げている。

英国ODAは62.4%が二国間協力(2017年)で、DFIDを通じた二国間協力のうち主要な協力相手先はアフリカ(25.9億ポンド:二国間協力の58.6%)であり、次いでアジア(15.7億ポンド:35.5%)と大部分を占めている。

保健分野は、2016年の二国間協力では人道支援、政府・市民社会についで、10.4億ポンド(12.2%)と3番目に大きい支援分野となっている。(平岡久和)
用語 開発援助委員会
概要 (英語訳: DAC, Development Assistance Committee) 

世界の経済開発や福祉の向上のための政策を推進する経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)において、経済開発や関係する政策の推進を行う役割を持つ専門委員会として1961年に設置された。アジアからの日本及び韓国を含む30メンバー(29か国とEU)が加盟し、開発分野に係る基準や規範の設定やモニタリングに取り組んでいる。

ODAの定義設定やDAC 援助受取国・地域リスト(DAC List of ODA Recipients)の作成など開発援助に関する基準・規範設定、開発協力報告書(Development Co_operation Report)の発行などのODAに係る統計の管理、開発援助相互レビュー(Peer Review of Development Co-operation)の推進による開発援助の改善、DAC賞(DAC Prize)の設置による優良事例の共有などを具体的に行っている。(平岡久和)
用語 国際人口開発会議
概要 (英訳:ICPD, International Conference on Population and Development)

1994年、179カ国の代表が出席してエジプトのカイロで開催された国連主催の会議。リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康および権利)の推進が、今後の人口政策の大きな柱となることが合意された国際会議である。このため、人口政策の焦点がそれまでの国レベルの人口数(マクロの視点)から個人レベルの健康促進(ミクロの視点)、特に女性の健康保障やエンパワーメントに大きくシフトした。また、人口問題と開発問題が密接に関連し、相互に影響しあうという考え方が国際的な共通認識となった。これを受けて、国連の経済社会理事会の下に置かれた人口委員会も、人口開発委員会と名称を改めた。さらに国際開発枠組み(MDGsやSDGsなど)の中でも、明確に位置づけられた。開催地の名前をとって、「カイロ会議」とも呼ばれる。会議の具体的な目標の焦点は、「普遍的な教育の提供」、「乳幼児及び妊産婦死亡率の削減」、「2015年までに、家族計画、介助者のもとでの出産、HIV/エイズを含めた性感染症の予防や思春期保健を含めたリプロダクティブ・ヘルスケアへの普遍的アクセスの確立」である。

20年間の「行動計画」を採択し、各国はこの行動計画に沿って人口問題対策を進めた。5年ごとに、ICPD+5、ICPD+10、ICPD+15、ICPD+20として、見直しを実施した。この20年間で、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康および権利)は、セクシュアルをつけることで、より広範な健康と権利を指すように、変化している。(池上清子) 
用語 国立国際医療研究センター
概要 (英語訳:NCGM, National Center for Global Health and Medicine)

国立国際医療研究センターの前身は、1929年に設置された陸軍の病院である。戦後に厚生省の最初の国立病院として東京第一病院となり、その後、国立病院医療センターと改称、1986年には、国際協力への医療者を派遣する事を目的に国際医療協力部を設置し、1993年には国際医療協力を旨としたナショナルセンター 国立国際医療センターとなった。地球上の全人類が悩まされている疾病の克服と健康の増進に貢献している。センターには、約50名の国際協力専任の医療者(医師32名、看護・助産師13名、薬剤師1名、検査技師1名)をかかえる国際医療協力局、全専門科を網羅するベッド数800の病院、国際保健や感染症などの研究を行っている研究所、人材育成を行う看護大学校を持ち、日本における国際保健の中核施設として位置づけられている。現在、WHOなどの国連機関、10を超える世界中の国々へ、医師、看護師らの医療従事者を派遣し、母子保健、感染症、保健システム分野において、国際医療協力を実施している。2015年には、研究開発法人国立国際医療研究センターと名称が変わり、研究開発を行うとともに、日本における国際保健分野における政策提言、人材育成、情報発信、国際保健ネットワークの核となっている。(仲佐保)