国際保健用語集
用語 | 新興感染症 |
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概要 |
(英語訳 : emerging infectious diseases) 世界保健機関(WHO)はWorld Health Report 1996で、新興感染症に対処する能力の強化と、その監視・対策のための国内・国際間協力体制の支援を表明している。新興感染症とは、「過去約20年の間に、それまで明らかにされていなかった病原体に起因した公衆衛生学上問題となるような新たな感染症」と当時は定義し、1973年のRotavirus(小児下痢症の原因ウイルス)、1976年のCryptosporidium parvum(水系感染下痢症を起こす原虫)、1977年のEbora virus(エボラ出血熱の原因ウイルス)、Legionella pneumophila(レジオネラ症の原因菌)、Hantaan virus(腎症候性出血熱を起こすウイルス)、Campylobacter jejuni(下痢症・食中毒起因菌)などの微生物発見を端緒として、これ以降に明らかとなった感染症の国際的重要性を強調している。近年では、「新たにヒトへの感染が証明された微生物で、(またはそれまでその土地では存在していなかったが、新たにそこで)ヒトへ病気を起こし初めてきたもの」と定義するのが良く、まずヒトの病気として成立することが前提となる。さらに「原因が不明であった疾患で、感染性病原微生物が明らかとなり、公衆衛生上地域的あるいは国際的に問題になるもの」も含まれる。近年の代表例では、1997年にインフルエンザA型ウイルス(H5N1亜型)が、鳥インフルエンザウイルスとして認識されていたものがヒトへ感染して病気を起こすことが明らかとなったこと、2003年のSARS corona virusによる急性肺炎の世界的拡散が記憶に新しい。近い将来は、インフルエンザ(H5N1)が、ヒトでパンデミックを起こす新型インフルエンザに変異した場合が想定できる。(狩野繁之) |
用語 | 沖縄感染症対策イニシアティブ |
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概要 |
(英語訳 :Okinawa Infectious Diseases Initiative) 2000年7月の九州・沖縄サミットにおいて、日本は議長国として開発途上国の感染症問題を主要議題の一つとして取り上げ、日本の政府開発援助(ODA)で2000年度から2004年度までの5年間に総額30億ドルを目途とする包括的な感染症対策支援を行う「沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)」を発表した。このIDIにおける感染症対策の主な方針は、1)途上国の主体的取り組み(オーナーシップ)の強化、2)人材育成、3)市民社会組織、援助国、国際機関との連携、4)南南協力、5)コミュニティ・レベルでの公衆衛生の推進、の5項目である。主な支援内容としては、1)HIV/AIDS(若年層やハイリスク・グループへの予防啓発活動、自発的検査とカウンセリングの普及、検査・診断技術の強化、エイズ遺児のケア)、2)結核(人材育成、DOTS治療の推進)、3)マラリア・寄生虫(薬剤含浸蚊帳の使用促進、ギニア・ワーム根絶支援、国際寄生虫対策(橋本イニシアチブ)センター(タイ・ガーナ・ケニア)での人材育成)、4)ポリオ(ワクチン接種などによるポリオ根絶支援)、5)疾病を超えた保健医療体制の整備(安全な水の供給、プライマリーヘルスケアの充実など)、の5項目である。日本がこの感染症問題への取り組みの重要性を国際社会に訴えたことが契機となって、広く国際社会一般の関心が喚起され、2001年の国連エイズ特別総会やジェノバサミットでの議論を経て、2002年には、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金:The Global Fund to fight AIDS, Tuberculosis and Malaria」の設立に至った。(狩野繁之) |
用語 | UNICEF |
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概要 | → 国連児童基金(ユニセフ) |
用語 | アウトリーチ活動 |
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概要 |
(英訳:Outreach activities) アウトリーチとは、一般的に言って「コミュニティーにいる人々、特に事務所や病院などに来ることができない、あるいはあまり来ない人々に対して、ある機関がサービスやアドバイスを提供する活動」(オックスフォード現代英英辞典)をいう。国際保健の分野では、医療従事者や職員が病院やヘルスセンターなどの保健医療施設から外に出て、それらの医療施設にたどり着くことが地理的、経済的、社会的、文化的など様々な理由で困難な地域の住民に、直接、診療や予防接種、あるいは健康教育などの保健医療サービス提供を行うことを指す場合が多い。(明石秀親) |
用語 | 医薬品回転資金 |
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概要 |
(英語訳 : RDF/DRF Revolving Drug FundまたはDrug Revolving Fund) 1987年マリ共和国の首都バマコで開催されたアフリカ諸国の保健大臣会議で、プライマリ・ヘルスケア(PHC)や母子保健サービスなどの費用を受益者負担とし、そこで回収された資金を地域で管理(コミュニティー・ファイナンシング)し、PHCをエントリーポイントとして保健医療サービスへのアクセスを向上・維持させようとする構想がバマコ・イニシアティブとして採択された。医薬品が必要経費の大部分を占め、公的部門の一次保健医療施設における医薬品不足が住民による同施設の利用率低下の原因となることから、円滑な医薬品供給をめざす医薬品回転資金(RDF)システムがコミュニティー・ファイナンシングの代表的手法として注目された。 RDFによるコミュニティー・ファイナンシングの実施にあたっては、現金もしくは医薬品などの初期投資が必要となる。通常はその国の必須医薬品リストから、一次保健医療施設で必要なものが選定され、初期の医薬品在庫 (Seed stock) が確保される(選定にあたっては、その地域の疾病構造、診療所の規模、医療スタッフの資格、二次保健医療施設までの距離などが考慮される)。患者は処方された薬剤を購入し、その売り上げが次の医薬品購入費用にまわされる。こうして回転資金が形成されることになるが、医薬品の販売価格の設定、貧困層の受益者負担の免除、集まった資金管理の透明性などの検討と対応が成功の鍵となる。 また、医薬品在庫量が増え、かつ資金回収が可能な状況で、不必要に医薬品が処方され適正使用の観点からは問題があるとの報告もあり、医薬品使用に関する医療従事者および住民を対象とした啓発活動なども必要である。(奥村順子) |
用語 | 医療経済学 |
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概要 |
(英語訳 : Health Economics) 医療経済学は1960年代以降、欧米の研究者を中心に発展した新しい学問領域であるが、最近では日本を含むアジア諸国でも急速に研究者層が拡大している。 患者(需要)側の行動、診療(供給)側の行動、保健医療分野のファイナンシング、医療経済評価、医療機関の経営、医療関連産業の分析など、理論的な分野から実学的領域まで様々な研究テーマが扱われている。 医療経済学の基本的前提として、医療サービスの経済学的特殊性(Arrow KJ, 1963)がきわめて重要である。これらは、(1)患者・医療従事者間における情報の非対称性の存在、(2)傷病の発生と経過に関する不確実性の存在、(3)外部性と福祉的役割の存在に整理される。(1)は、患者と医師との間では、医学知識や疾病治療の経験において大きな格差があり、通常の「取引」が成立しにくく、市場を介した取引では患者側の権利が阻害される可能性のあることを示唆している。(2)は、傷病はいつ発生するか予測が困難であり、治療経過にも不確実性が伴うことを意味している。そのため、多くの国で医療保険制度や公営医療制度が発達した。(3)の外部性の存在は、保健医療サービスによって当事者以外にも利益がもたらされることを意味する。具体的には感染症の予防や治療によって、周囲の人々の感染リスクが低下することなどである。 さらに福祉的役割については、病気で苦しんでいる人が経済的理由で治療を受けられないことは望ましい状態ではないと多くの人が考えるであろうことを意味しており、慈善や愛他主義につながるものである。これらの前提のもとで、多くの医療経済学の研究テーマが発展してきた。 |
用語 | エンデミック、エピデミック |
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概要 |
(英語訳 : endemic、epidemic) エンデミックとエピデミックはどちらも「流行・地方流行」などと訳されることが多いが、明確に区別しなくてはならない。感染症のエンデミックは一定の地域に一定の罹患率で、または一定の季節的周期で繰り返される常在的な状況である。特定の地域に強く限定される場合は「風土病」と呼ぶ。 一方のエピデミックは一定の地域にある種の感染症が通常の期待値を超えて罹患する、またはこれまでは流行がなかった地域に感染症がみられる予期せぬ状況で、一定の期間に限られた現象である。エンデミックは予測することができるが、エピデミックでは予測は困難である。エピデミックの規模が大きくなった状況をoutbreakと呼び、エピデミックが同時期に世界の複数の地域で発生することをパンデミック:pandemicと呼ぶ。 エンデミック, エピデミック, パンデミックの使い分けは感染症の種類や通例によって厳密ではない。デング熱では、周期的(典型的には4年周期)に出現するデング熱の流行をエピデミックとして、流行が一層進行し毎年デング熱が流行している状況、さらに通年的に流行している状況をエンデミックとする。通常の感染症対策はエンデミックに対して対策法を計画する。エピデミックは予期せぬ流行であるため対策は一層困難である。 エンデミックと同様に前もって対応を準備するだけでなく、エピデミックでは予想される流行にインパクトを軽減(減災)する対策やエピデミックを予知する、または迅速にエピデミックを判断する方策を開発しなくてはならない。 |
用語 | オーナーシップ |
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概要 |
(英語訳:Ownership) オーナーシップとは、一般的には「所有者であること、所有権」などを指しているが、国際保健の分野では、「援助機関が考えて途上国の人々に何かをさせる(donor-driven assistance)」という考え方に対して、「途上国の人々が自分で考えて、自分で実施していく」という考え方を指す。すなわち、例えば世界銀行はCDF(Comprehensive Development Framework)の中で、Country ownershipについて「途上国やその政府が運転席にいること」と表現しているが、別の言い方をすると「途上国主導で計画策定・実施・モニタリング・評価がなされること」であり、さらに現場に近いレベルでは、途上国の機関や職員のオーナーシップを指す場合もある。すなわちオーナーシップとは、取りも直さず「途上国(の人々)が主体的に事業を行うこと」あるいはそのような「意識」を指す場合が多い。(明石秀親) |
用語 | 開発とジェンダー |
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概要 |
(英語訳:Gender and Development ) 開発とジェンダー (Gender and Development: GAD) とは、女性と男性の相対的で流動的な社会的関係 (ジェンダー関係) を重視し、ジェンダー間の不平等・不公平をなくすことが、公正で持続可能な開発につながるという考え方のことである。先行するWID (Women in Development 開発と女性) の考え方は、女性が開発過程に参加することによって、その生活や社会的地位を向上させようとするものであった。それに対し、1980年代以降、ジェンダー視点を取り入れて発展したGADの概念では、女性のエンパワーメントを進めて男性との不平等な関係を変え、女性の状態が改善しても男性との格差が残ったり拡大したりしてはならないことに着目している。女性と男性が同等に決定に参画する、公平で持続可能な開発を目標としており、究極的には、社会や経済の枠組み・構造や、権力関係までもが問われる。GADの考え方を進めて、開発援助機関や各国政府は、ジェンダーの主流化 (Gender mainstreaming) に取り組んでおり、分野や対象を問わずすべての開発プログラムにジェンダーの視点を取り入れようとしている。(青山温子) |
用語 | 家族計画 |
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概要 |
(英語訳 : Family Planning) カップルまたは個人が、避妊を通して、自発的に子どもをいつ、何人産むのか計画すること。また、単に産児制限といった意味だけではなく、出産の間隔と時期を調節することである。望まない妊娠による人工妊娠中絶、若年もしくは高齢での妊娠、度重なる妊娠、出産などは、母子の健康に影響を及ぼすが、出産の間隔や時期には、母子の身体的な問題だけでなく、家族構成や育児環境、周囲の理解といった、精神的、社会的、経済的な問題も反映される。 家族計画推進には、母子の健康確保や福祉の向上が基本条件であり、出産年齢への配慮、女性の教育機会の保障、避妊法選択の自由、乳幼児死亡の削減、子どもの育成環境への配慮などが重要となる。有効に家族計画プログラムが実行されている国では近代的避妊法の利用は増加しているが、開発途上国においては、貧困や男女の性差別によって、女性が避妊法を実行することができないために妊娠に至るといったアンメットニーズが問題となっている。リプロダクティブヘルス・ライツの視点からも、家族計画は重要である。 (池上清子) |