国際保健用語集

用語 地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク
概要 (英語訳 : Global outbreak alert and respondr network) 

病原体はダイナミックに変異し、速やかに増殖して新しい環境や宿主に柔軟に適応する能力を持つ。

これらの生物学的特性に加え、人類の生活圏の拡張は未知の病原体との遭遇機会を提供し、交通手段の発達は迅速で長距離の病原体の移動を可能にした。このような病原体の拡散による感染症大流行に対応するため、2000年にWHOは地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワークGOARN: Global Outbreak Alert and Response Networkを構築した。

そのシステムでは既存のネットワークを活用して、情報・経験・技術の国際間での共有を目指す。新しい感染症流行を系統的に情報収集し、流行の規模と重大さを科学的に迅速に確認し、確認した事実はネットワークを介して全世界に伝達し、必要に応じて国際協調して支援して、大流行による被害を最小限に防ぐサーベイランスの仕組みである。

毎年100カ国以上から200件以上の感染症流行の情報が収集され、GOARNが対応を判断する。国際的な対応が必要となる感染症は、1)未知の病原体の可能性がある、2)期待値より異常に罹患率や死亡率が高い、3)国境を越えて隣国に波及する、4)人間や物の交流によって隣国に運ばれる、5)流行当該国の対応する能力を越えている、6)事故や故意に拡散されている、などである。SARSや鳥インフルエンザでGOARNの対応能力が示された。 
用語 経済協力開発機構
概要 (英語訳 : Organization for Economic Cooperation and Development) 

欧州経済復興促進のため1948年に発足した欧州経済協力機構(OEEC)が改組され、61年9月、経済協力開発機構(OECD)として発足。事務局はフランスの首都パリ。OECDの目的は、経済成長、開発途上国援助、貿易の拡大にあり、目的達成のために加盟国相互間の情報交換、コンサルテーション、共同研究と協力を行う。近年雇用問題、多国籍間の投資協定の策定、ウルグアイ・ラウンド後の貿易問題、規制緩和などに取り組んでいる。2003年時点の加盟国は30カ国(ほかに準加盟国としてユーゴスラビア)。当初は先進国クラブとよばれたが、メキシコ、韓国、東欧諸国の加盟により新たな特色を打ち出すべく模索中である。

最高機関は閣僚理事会と常駐代表会議から成る理事会。理事会は、14カ国から成る執行委員会(この内アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、日本、カナダの7カ国は常任)を選出、全加盟国が国際経済の重要問題を審議する新執行委員会を設置する。下部機構に経済政策委員会、貿易開発委員会、開発援助委員会(DAC)の3大委員会をはじめ、合計35の委員会がおかれている。 
用語 ヨード欠乏症
概要 (英語訳 : IDD / Iodine deficiency disorders)

ヨード欠乏症はヨード摂取の欠乏によって生じる甲状腺機能低下症であり、脳細胞の機能へのダメージによる知的発育遅滞の最もリスクのある原因の一つであり、特に途上国を中心にクレチン症、脳細胞の機能障害、甲状腺腫などにより苦しんでいる人々がいる。世界の30%以上の人々がヨード欠乏のリスクを有するとみられ、また甲状腺腫の経験をもつ人の数は約7億5000万人以上、なんらかの脳障害をうけている人が4300万人いると推定されている。

ヨード欠乏はヨード油の直接的経口投与および皮下注入による補給(Supplementation)、食塩のヨード添加(Fortification)などの方法によって改善することが可能である。食塩へのヨード添加が最も一般的な方法で、この手法は全ての地域で増加し、2002年の時点で途上国の66%以上の人々はヨード添加塩を摂取しているとされている。(石川みどり)
用語 顧みられない熱帯病
概要 (英語訳: Neglected Tropical Disease) 

3大感染症(ATM:エイズ結核マラリア)以外の慢性的に流行している14の重要な寄生虫、細菌感染症をいう。これらは3大感染症のように死亡数は多くないために注視されてこなかった。しかしながらアジア、アフリカを中心とした途上国では極めて多くの人間が感染しており人間の生活の質に大きく影響している疾患である。世界的には熱帯地域、貧困層を中心に10億人以上がなんらかのNTDにり患していると推定されている。WHOを中心とした熱帯病対策に関連した機関、ドナーはこれらの疾患を、NTD;顧みられない熱帯病としてまとめ対策に取り組むこととなった。WHO本部ではエイズ結核マラリア部門とならんでNTD部門が発足し2007年4月にはNTD国際会議が開催されるにいたった。近年のこれらの動きを作り出したのは、1997年のG8サミット(バーミンガム)において橋本首相(当時)が中心となりG8各国が世界の寄生虫対策に取り組む必要性を宣言(橋本イニシアチブ)したことから始まっていることは国際的に認知されることころである。現在NTD対策は、同じ薬剤にて数種の疾患が治療できることから、集団治療についてのインテグレーションを行うことが基本的戦略となっている。例えば、アルベンダゾールは土壌伝搬性寄生虫症にもフィラリア症の治療にも有効である。さらに近年ではベクター対策におけるインテグレーションや社会啓蒙活動も対策のコンポーネントの重要な要素として含またことにより、より総合的対策戦略がつくられつつある。(小林潤)