(英語訳:Traveler's diarrhea) 海外渡航者がおこす下痢を旅行者下痢症と呼び、感染性腸炎がその大部分を占める。開発途上国に1カ月間滞在した渡航者の約20~60%が本症を発症するとされている。病原体としては病原性大腸菌(とくに毒素原性大腸菌)、サルモネラ菌、キャンピロバクターなどが多く、通常は数日の経過で軽快するが、赤痢菌やコレラ菌などにより、重篤な症状を呈する例も時にみられる。原虫や寄生虫が原因になる下痢は慢性の経過をたどることが多い。
本症の予防にはミネラルウオーターや煮沸した水を飲用すること、食品はなるたけ加熱したものを摂取することなどが重要なポイントである。外食をする際も衛生状態の良い店を選ぶようにする。リスクの高い旅行者には止痢薬を持参させ、症状があれば服用するように指導する。ただし、血便や高熱をきたしている下痢の場合、止痢薬の使用は推奨できない。なお、症状の強い時は、電解質飲料などで水分補給に努めることも大切である。
帰国後に下痢症状を呈している患者については、便の細菌培養と寄生虫検査(直接塗沫法、集卵法)を行い、病原体を明らかにする。暫定的な治療にはニューキノロン系抗菌薬やアジスロマイシンが推奨されている。(濱田篤郎) |