国際保健用語集

用語 希少疾病用医薬品
概要 (英語訳:Orphan drug)

医療上の必要性が高いにもかかわらず、患者数が少ない(日本の薬事法では、日本における対象患者が5万人未満)希少疾病 (Orphan disease) の治療に用いられる医薬品をいう。日本では未承認の物も含めると200種類以上のOrphan drugが指定されているおり、対象疾病はムコ多糖症VI型、骨ページェット病、筋萎縮性側索硬化症など多岐にわたる。

一方、希少疾病とは、背景も定義も異なるが、誤って混同されるものとして「見捨てられた病気 (Neglected disease)」がある。見捨てられた病気は、患者数は少ないわけではなくトリパノソーマ症のように年間5~15万人が感染しさらに5000万人が感染する危険性を有する疾病のことである。

リューシュマニアやブルーリ潰瘍なども同様に見捨てられた病気である。
これらの疾患には、目下のところ安全で有効な治療手段がなく、罹患した人々は重症な障害に苦しみ、死に至る者も少なくないことから、早急な治療薬の開発が必要である。しかしながら、これらの疾患の罹患者の大多数が、開発途上国の貧しい人々であるため採算性の点から製薬産業はそのような医薬品を開発あるいは製品化の対象としていない。先進国などの公的支援による研究・開発が望まれる。(奥村順子)
用語 小児肥満
概要

(英語訳 : Childhood Obesity)

世界における肥満人口は年々増加しており、小児肥満人口もまた増加の一途をたどっている。WHO(世界保健機関)では、体格指数の「身長に対する体重(kg/m2)」が国際基準値(The WHO Child Growth Standards)の3標準偏差(SD)を超える児を肥満、2標準偏差を超える児を「過体重」と定義付けている。1990年、低中所得国で750万人であった過体重児数が2014年には2倍以上の1,550万人まで増加していた。低中所得国での過体重児は特に都市部の社会経済的ステイタスが比較的高い世帯に多くみられ、体重増加の要因は高エネルギーの食事のみではなく、子どもたちのテレビ視聴、コンピューターや携帯ゲーム機の使用が増えて日常の活動量が低下していることも要因の一つとして指摘されている。小児肥満は成人肥満移行への可能性が高く、その後の人生で生活習慣病を発症するリスクが増加して世帯レベル、また国レベルの医療費にも深刻な影響を与えることとなる。国際機関は過体重児を増加させないことをGlobal Nutrition Targets 2025の1つの目標として掲げ、適切な母乳栄養と離乳食によって乳幼児期から正しい食習慣を身に着けること、学童期では栄養バランスのよい食事摂取と共に、身体活動量増加についても奨励している。また、食品業界に対して、脂質や砂糖、食塩を控えた商品の開発、さらに、子どもを対象とした食品には責任あるマーケティングを行うよう呼びかけている。(水元芳) 

用語 小児疾患統合管理
概要 (英語訳:IMCI, Integrated Management of Childhood Illness)

途上国では、毎年1000万人以上の5歳未満乳幼児が死亡している。その主な原因として、周産期要因、肺炎、下痢、栄養障害、マラリア、麻疹、HIV感染などがある。しかし小児が呈する症状や病態は、必ずしも単一の原因によるものではない。特に途上国においては、各種要因が絡み合っている。例えば村のヘルスワーカーが病気の子どもに対処しようとする際、「麻疹」や「下痢症」など単一疾患に対する知識や技術のみでは十分な対応ができない場合も多い。そこで開発されたのがIMCIの手法である。標準化された統合管理のガイドラインをもとに、共通の教材を用いて研修を行い、子どもの疾患に対する適切な対処や管理ができること、加えてそのための保健医療システムが構築されることを目指す。子どもたちの状態に応じて、そのまま経過観察してよい場合、必要な処置、見落としてはならない危険な臨床徴候“danger signs”、医療機関やさらなる高次診療施設への搬送が必要な場合などを具体的に示している。肺炎や下痢症など代表的な疾患に対する対処法と併せて、栄養管理や安全な水の入手、予防接種、健康教育など包括的内容を含む。IMCIを実践する分野は村レベルの活動から医療機関におけるレファラルシステムまで多岐におよぶが、村の住民たちに対するコミュニテイーIMCIが最も基本になる。(中野貴司)
用語 小児疾患の統合的管理
概要 (英語訳 : Integrated Management of Childhood Illness) 

途上国においては毎年1000万人以上の5歳未満乳幼児が死亡している。その主な原因としては、周産期の問題、肺炎、下痢マラリア、麻疹、HIV感染、栄養障害などが上げられる。

しかし小児が呈する症状や病態は、必ずしも単一の原因によるものではない。特に途上国においてはさまざまな要因が絡み合っている。例えば村のヘルスワーカーが病気の子どもに対処しようとする際、「麻疹」や「下痢症」など単一疾患に対する知識や技術のみでは十分な対応ができない場合も多い。

そこで開発されたのがIMCIの手法である。標準化された統合管理のガイドラインをもとに、共通の教材を用いて研修を行い、子どもの疾患に対する適切な対処や管理ができること、さらにはそのための保健医療システムが構築されることを目指す。

子どもたちの状態に応じて、そのまま経過観察してよい場合、必要な処置や治療、見落としてはならない危険な徴候、医療機関やさらなる高次診療施設への搬送が必要な場合などを具体的に示している。

肺炎や下痢症など代表的な疾患に対する対処法以外に栄養管理や安全な水の入手、予防接種、健康教育など包括的内容を含む。IMCI実践の分野は村レベルの活動から医療機関におけるレファラルシステムまで多岐におよぶが、村の住民たちに対するコミュニテイーIMCIが最も基本になる。   
用語 専門技能者
概要 (英語訳:Skilled Birth Attendant)

SBAとは専門の技能を持つ分娩介助者のことをいう。
医師、助産師、看護師等のように、正常な妊娠・出産・産褥期において、その管理に必要な熟練した技術を修得した者であり、社会的に認められ、妊産婦や新生児の異常時の管理、緊急移送など、ヘルスプロフェッショナルとして公認された者である。
これに対しTBA(Traditional Birth Attendant)とは伝統的産婆のことをいう。WHO(世界保健機関)は、TBAとは専門的訓練を受けていないが、伝統的に、しかも自立して地域で妊娠・出産・産後の世話をしている者と言及している。
WHOはSBAの立会いの下での出産を推奨しているが、開発途上国ではSBAの立会いの下での出産は少なく、世界平均の62%を下回る国がアフリカ、アジアを中心に37か国も見られる。SBA立会いの下での出産ができていない妊産婦は、産前・産後のケアも十分に受けられていない。
WHOは妊産婦死亡の減少に向けて、専門技能者SBAの立会いを推奨し、医師、助産師、看護師の役割を明確にしている。また、TBAは出産の介助を行うのではなく、妊娠・産後のケアや相談、SBAへの妊産婦の紹介、異常時の紹介等が主な役割であるとしている。
TBAでも高等教育を受け、保健省等による公的訓練を受けた場合は介助が可能としているが、いかなる場合もSBAと連携を取りながら実施することを推奨している。(丹野かほる)
用語 家族計画
概要 (英語訳 : Family Planning) 

カップルまたは個人が、避妊を通して、自発的に子どもをいつ、何人産むのか計画すること。また、単に産児制限といった意味だけではなく、出産の間隔と時期を調節することである。望まない妊娠による人工妊娠中絶、若年もしくは高齢での妊娠、度重なる妊娠、出産などは、母子の健康に影響を及ぼすが、出産の間隔や時期には、母子の身体的な問題だけでなく、家族構成や育児環境、周囲の理解といった、精神的、社会的、経済的な問題も反映される。

家族計画推進には、母子の健康確保や福祉の向上が基本条件であり、出産年齢への配慮、女性の教育機会の保障、避妊法選択の自由、乳幼児死亡の削減、子どもの育成環境への配慮などが重要となる。有効に家族計画プログラムが実行されている国では近代的避妊法の利用は増加しているが、開発途上国においては、貧困や男女の性差別によって、女性が避妊法を実行することができないために妊娠に至るといったアンメットニーズが問題となっている。リプロダクティブヘルス・ライツの視点からも、家族計画は重要である。
(池上清子) 
用語 実践科学
概要

(英語訳:Implementation Science)

実践科学とは、科学的な根拠であるエビデンスのみを重視する政策だけでなく、実践に十分に活用されうる方法に対する科学的な探求を意味する。本来、エビデンスは政策、実践に繋がってこそ意味があるが、政策に反映されず、また政策が策定されても、実践上のバリアのため適切に実行されるとは限らない。エビデンス自体が実践現場の現実から遊離した概念や枠組みに基づき、疫学的な変数間の因果関係に還元した形で得られることもあり、実践からの見直しも重要である。開発途上国の保健医療の現場では、人材や予算の制約、実践能力の不足により、エビデンスに基づく政策が適切に実行されず、有効な成果を得られないことが多いため、実践科学への期待は大きい。実践科学には、実践を取り巻く環境や文脈の理解に基づいてそのプロセスを検討し問題点を系統付けるだけでなく、問題点を克服する刷新的なアプローチをいくつか考案し、その優先順位付けを検討するオペレーションリサーチ、それを実践し評価するアクションリサーチも含まれる。例えば、医療サービスへのアクセスについて、そのバリアを同定し、系統付け、それに応じた改善策を現場で検討する。実践科学では実践の文脈特異性を重視するため、現地の社会文化的要因を探る社会学や人類学を含む学際的アプローチを採用するが、現場のスタッフとの協働も欠かせない。現在の実践科学の難点は、政策や実践に影響を与える政治経済を追及するポリティカルエコノミー研究との協調が不十分な点である。(神谷保彦)

用語 官民連携
概要

(英語訳: Public Private Partnership)

公共セクターと民間セクターの連携により、公共セクターの社会責任や公平性という役割に、民間セクターの効率的なサービス提供、技術開発、マーケティング能力を組み合わせることで、相互の強みを活かし弱みを補完しながら、主に公共サービスの提供を行うスキームを指す。国際協力の分野でも、民間企業と連携し,開発途上国の開発を支援するとともに,自国の企業の海外展開も後押しする傾向が目立ってきている。開発途上国の道路や港湾など多額の資金を要するが採算性の悪いインフラ部分を政府開発援助で整備し、その生産環境が整った地域に民間企業が進出し地元住民を雇用して、地域経済の活性化を目指すことがある。民間の参入を容易にするため、途上国政府の施策面の整備を含めた支援が行われ、技術移転を行うことで自立発展にも寄与するケースがみられる。国際保健の分野でも、水衛生や栄養に関連する官民連携のほか、医療産業界と政府が官民一体となって国際的な感染症対策に国際機関とともに貢献し、同時に医療産業界の新規市場の開拓を目指す動きがある。官民連携が成功するには、制度面の整備に加え、官民で共有すべきゴール、分担すべき役割や責任が明確にされ、パートナーシップを相互が積極的に維持していく姿勢が重要である。現実には政府機関と民間企業の単なる連携として、透明性や説明責任の欠如、非採算分野に対する軽視もみられるため、市民社会組織や住民自身の参画も求められる。(神谷保彦)

用語 安全な母性プログラム/イニシアチブ
概要 (英語訳: Safe Motherhood Programme / Initiative)

Safe Motherhood Initiative (SMI)は、1987年にケニアのナイロビで開催された International Conference on Better Health for Women and Children through Family Planningにおいて提唱された、女性の安全な妊娠、出産を目的としたイニシアチブである。UNFPAUNDPUNICEF?WHOWorld BankNGOなど10機関が共同で実施しており、2000年までに妊産婦死亡率を半分にすることを目標に掲げ、家族計画、地域での妊産婦ケア、緊急時のケア、女性の地位向上などを主要な活動としていた。SMIは各国政府、NGO、女性団体などを巻き込んだ世界的なパートナーシップへと広がっていった。

その後、妊産婦の主要な死因である産後の出血、遷延分娩、子癇 、産褥熱、人工妊娠中絶の合併症の5疾患に焦点をあて、専門家(Skilled Birth Attendant: SBA)による分娩、助産師教育、必須産科ケア(Essential Obstetric Care: EOC、特に産科救急Emergency Obstetric Care)、などのプログラムに焦点があてられるようになった。2005年からは、新生児ケアを強調して、MNCH (maternal, newborn and child health)という概念を唱え、また同年、Making Pregnancy SaferというプログラムをSMIの一部として立ち上げ、質の高い産科医療をタイムリーに提供することで、妊産婦と新生児の死亡を削減することに力をいれている。(柳澤理子)
用語 安全な母性
概要 (英語訳:Safe Motherhood) 

「安全な母性」とは、妊娠・出産時にすべての女性が、安全で健康的な状態にいられるために必要なケアを受けられる権利を有するという考え方である。世界では1年間に約50万人が妊産・出産に関連した原因がもとで死亡しており、その大半は開発途上国で起きている。その要因には、住民の妊産婦の健康に関する意識の低さ、非熟練者による分娩介助、緊急産科ケアサービスの不足、産科ケアの質の低さ、危険な人工妊娠中絶などがあり、これらが社会、文化、政治的な背景の中で相互に関連し生じている。1987年ナイロビで「Safe Motherhood Initiative」が発表され、100ヶ国以上の政府、専門機関、NGOなどがこれに賛同し「安全な母性」を確保するためのプログラムを展開している。プログラム内容には、思春期の若者のためのリプロダクティブヘルスに関するサービスの提供、訓練された熟練者による安全な妊娠・出産のケア、緊急産科ケア体制の整備、家族計画に関するサービスの提供、危険な中絶の予防ならびに中絶後のケアなどがあり、単に妊娠・出産自体に注目するのではなく、ライフサイクルを通した女性の保健、栄養、福祉、地域社会における女性の地位や教育レベルの向上などを含めた取り組みが行われている。国の状況により「安全な母性」に関する課題は異なり、開発途上国では周産期死亡が大きな課題となっている一方で、先進国では出産における医療の過剰介入などが問題となっている。その違いを理解しつつ、「安全な母性」は世界的な共通課題として認知されている(渡邊聡子)