国際保健用語集

用語 アジアインフラ投資銀行
概要 (英語訳:AIIB, Asia Infrastructure Investment Bank)

アジア地域の相互接続性及び経済統合並びに既存の多国間開発銀行との協力を理念として中国が主導して2013年に設立が提唱され、2016年1月に開業した国際開発金融機関。本部は中国の北京。初代総裁は世界銀行(WB)やアジア開発銀行(ADB)での勤務経験がある金立群(Jin Liqun)が2016年1月から5年間の任期で選任された。

創設時は57か国であったメンバーは、2018年10月時点で87か国(手続き中を含む)となっているが、ADBを主導する日本と米国は加盟していない。2018年10月現在で中国は約31.0%を出資し、議決権は約26.6%を占めている。議決権が2番目に多いのはインドの約7.6%、アジア域外加盟国全体では約25.0%である。

2016年6月に最初の事業として、バングラデシュの電力改善融資及び3件の協調融資案件の総額約5億ドルが承諾されて以降貸出しが展開され、2017年末までに23件が承諾されている。(平岡久和)
用語 Unmet Need
概要 "need"の定義は、「プロフェッショナルの視点から捉えた、ある対象集団の課題」である。したがって"unmet need"は、「課題があるにもかかわらず、それが解決されない状態である」ことを記述的、定性的、あるいは定量的に示す。つまり、対象集団の"need"が確定してはじめて"unmet need"を示すことができる。
"need"と"unmet need"の考え方は、どの保健医療サービスにも適用することができる。本項では、一例として母性保健で用いられる"unmet obstetric need"を例にとって解説する。

ベルギー・アントワープ熱帯医学研究所に事務局を置くUnmet Obstetric Need Networkは、妊産婦死亡低減のための政策決定およびプログラム策定等に資する臨床疫学研究を世界各国で実施し、その系統的解析を行うことで、公衆衛生学的知見を集積・活用する目的で設立された。ここで"need"は「妊産婦死亡に至る重篤な合併症を発症した妊産婦のうち、救命のために帝王切開などの外科的医療介入を要する事態」と定義し、その発生率は全分娩のおよそ1.1-1.3%と推定されている。

ある地域・期間を設定した場合、その条件下での分娩数は推計が可能である。また、その地域からアクセス可能な産科医療施設で調査をすることで、当該期間中に対象地域に居住する妊産婦に対して実施された帝王切開などの医療介入数、およびその適応疾患名を調査し集計することができる。したがって出産数の一定割合(1.1-1.3%)を"need"、実施された医療介入数を"met need"とすることで、外科的医療介入が必要であったにもかかわらず、その利用ができなかった妊産婦数を"unmet need"として計算することができる。今回の文脈では、重症合併症を有したにも関わらず、救命のための外科的手段が受けられなかった妊産婦、すなわち把握することができなかった妊産婦死亡数の代替指標として用いることができる。

妊産婦死亡率は一般的に国という地理単位でしか推計できず、またその経時的変化を有意に検出することが難しい。一方で上述のunmet obstetric need指標は、より数が少ない対象集団の数年間の推移を観察することができ、また推定死亡を県・郡別に示すことができるため、政策決定、プログラム策定およびモニタリング・評価に用いやすいという特徴がある。(松井三明)
用語 カナダグローバル連携省
概要 (英語訳:Global Affairs Canada)

カナダにおける国際協力の窓口機関であったカナダ国際開発庁(Canadian International Development Agency: CIDA)が、外務国際貿易省(Department of Foreign Affairs and International Trade: DFAIT)と2013年に統合されて外 務 貿 易 開 発 省(Department of Foreign Affairs, Trade and Development: DFATD)となった後、更に改組されて設立された、国際開発大臣のもとで開発について取り組むカナダの政府開発援助の主要な実施機関。全実施機関の*1約53.4億カナダドル(2016~17予算年度)のうち、約39.1億カナダドル(約73.2 %)がGlobal Affairs Canadaを通じて提供されている。

カナダ全体では、アフリカへの協力が中心となっており、2016年のODAは34%を占め、アジア(大洋州含む)の18%と続いている。二国間で見ると、2016年はアフガニスタン、エチオピア、マリの順で多くの支援を行った。分野別では保健分野に対しての協力は二国間協力総額の約20.4%を占めている。さらに、カナダの知見と組織の活用も積極的に進めており、2016年の二国間ODAのうち、市民社会組織(CSOs)を通じた協力が28.9%を占めている。(平岡久和)
用語 グローバルエイジング
概要 (英語訳 : Global Ageing)

国連の人口推計によれば、2015年の世界人口において65歳以上人口が占める割合は8.3%であるが、この割合は2050年にはほぼ倍の15.8%に上昇する。世界全域で高齢人口割合は上昇するが、いまだ低いアフリカ地域においても、高齢者数に注目すると、2010年から2030年にかけて高齢者数は倍増し、アジアやラテンアメリカと同様の伸びを示す。人口高齢化は、出生率・死亡率の低下、若者の移出といった要因によりもたらされる。死亡率が低下した長寿社会が高齢社会であり、それは祝福すべきことであるが、低すぎる出生率、多すぎる若者の移出は社会の存続をおびやかすものである。保健分野に注目すれば、高齢化により慢性疾患が増加し医療費の増大をもたらすが、さらに低・中所得国では早すぎる人口高齢化により、感染性疾患と慢性疾患のいずれもが蔓延する二重負担(Double Burden)状態となっており、保健システムの拡充が求められる。2002年にスペイン・マドリッドで開催された高齢者問題世界会議(国連主催)では、世界全域における高齢化に対し、活動的な高齢化(Active Ageing)の推進をはじめ、高齢者の活発な社会参加と開発、環境整備を謳っている。(林玲子)
用語 フィスチュラ
概要 (英語訳: Fistula)

産科瘻孔とは、腟壁を貫通して、膀胱、尿道、または直腸と腟との間が慢性的につながった状態を指す。

2015年時点で200万人を越える女性が罹患しており、さらに年間5~10万人に新規発生していると推定されている。その発生地域はアジア、アフリカの開発途上国が大半を占める。

発症の主要因は分娩遷延・分娩停止である。また危険な人工妊娠中絶の合併症、性的暴行の結果としても瘻孔は生じうる。

分娩時によって瘻孔が生じるメカニズムは、胎児の頭が腟壁および周囲の臓器を長時間圧迫することによって血流が阻害され、組織に壊死が生じることによる。分娩遷延・停止の要因として重要なのは「児頭骨盤不均衡」である。これは児頭が相対的に骨産道より大きいため、通過障害が起きる状態を指す。物理的な通過が完全に困難であれば、時間の経過と共に子宮破裂が発生し、最終的には母児共に落命する。

若年妊娠では、身体の成長が不充分であるために骨盤の大きさも十分ではなく、児頭骨盤不均衡を発症しやすくなる。したがって第1次予防として、適切な避妊法の利用、初婚年齢を一定以上に引き上げるなどの方策を講じる必要がある。

第2次予防の方策は、児頭骨盤不均衡の早期診断と治療である。分娩遷延が疑われる場合は速やかにその病態を把握し、必要に応じて高次医療機関へ搬送し急速遂娩(吸引・鉗子分娩、または帝王切開)の処置を行わなくてはならない。そのためには、分娩時に病態を把握することができる介助者が立ち会うこと、緊急時の搬送手段が確保しやすいことが必要である。

いったん産科瘻孔が発生してしまうと自然治癒は困難である。持続的な尿・便失禁のために清潔を保つことが難しく、自尊感情が低下し、家族・社会からも阻害されてしまう。また慢性的な感染、腎盂腎炎などの上行性尿路を繰り返す。

しかし外科的処置により80-95%の産科瘻孔は閉鎖可能である。よって、適切な治療手段を提供できる医療体制を構築すること、阻害されている女性に情報が届き、医療にアクセスできることなどの対策を行うことが必要である。(松井三明)