国際保健用語集
用語 | 狂犬病 |
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概要 |
(英語訳:Rabies) 狂犬病ウイルスはイヌ以外にも多数の野生動物が保有し、これらによる咬傷、稀には噴霧気道感染により感染する。全世界では、毎年数万人が狂犬病によって死亡しているといわれ、アジア地域での発生が最も多い。 わが国では2006年、30数年ぶりに2名の患者が報告されたが、フィリピンでの受傷であった。感染から発症までの潜伏期間は個々の症例で異なるが、一般的には1~2カ月である。発熱、頭痛、倦怠感、筋痛などの感冒様症状ではじまり、咬傷部位の疼痛やその周辺の知覚異常、筋の攣縮を伴う。中枢神経症状は運動過多、興奮、不安狂躁から始まり、錯乱、幻覚、攻撃性、恐水発作等の筋痙攣を呈し、最終的には昏睡状態から呼吸停止で死にいたる。狂犬病は一度発症すれば、致死率はほぼ100%である。 狂犬病が疑われるイヌ、ネコおよび野生動物にかまれたり、ひっかかれたりした場合、まず傷口を石鹸と水でよく洗い流し、医療機関を受診する。必要に応じて、狂犬病ワクチン(曝露後免疫)・抗狂犬病ガンマグロブリンを投与する。 狂犬病は一旦発症すれば特異的治療法が無いので、できるだけ早期にワクチンとガンマグロブリンで対処する必要があるが、国内では抗狂犬病免疫グロブリン製剤は入手できない。予防目的でのワクチン接種(曝露前免疫)も有効である。(中野貴司) |
用語 | 急性呼吸器感染症 |
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概要 |
(英語訳 : ARI, Acute Respiratory Infections) 急性呼吸器感染症(ARI)の中で特に肺炎は、症状が重く死亡率も高いので早期発見と適切な治療が大切である。しかし途上国においては、レントゲン検査が実施できるとは限らない。 そこで呼吸数と陥没呼吸の有無により、ARIを?上気道炎、?軽症肺炎、?重症肺炎、に分類し対処する。 “咳”のみが症状の場合は上気道炎として対症療法を行い、抗菌薬は投与しない。ただし、A群溶連菌感染症や中耳炎に対しては抗菌薬を考慮する。 “咳”と“多呼吸”を認める場合は肺炎である。1分間の正常呼吸回数は年齢によって異なり、低月齢乳児では生理的に呼吸数が多い。 “多呼吸”の判定基準は、2ヶ月未満:60回/分以上、2ヶ月以上1歳未満:50回/分以上、1歳以上5歳未満:40回/分以上である。 「軽症肺炎」の患者には、外来で抗菌薬を投与する。“陥没呼吸”を認めれば、入院治療の必要な「重症肺炎」である。 意識障害や経口摂取不良など“危険な臨床徴候danger signs”に注意することも大切である。 用いる抗菌薬は、ペニシリンが基本薬剤となる。治療開始後48時間で効果を評価し、現状の治療を継続するのか変更するのかを検討する。 低出生体重、栄養不良、母親の知識不足などは児のARI罹患や重症化の危険因子であり、ARI対策として母子保健の向上や教育啓発活動、IMCIの実践が有用である。(中野貴司) |
用語 | 学校保健 |
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概要 |
(英語訳 : School Health) 現在学校保健の途上国支援の主流は包括的学校保健となっている。WHOはこの包括的学校保健をコンセプト化してHealth Promoting Schoolというヘルスプロモーションを基盤とした戦略を打ち出した。 他にもUNICEF等各ドナーが包括的学校保健について独自の戦略を打ち出していたが、2000年にFRESH(Focusing Resources on Effective School Health)として各開発パートナーが同意した戦略として統合されている。戦略は以下の4つのコンポーネントを統合的に行うものとなっている。1)学校保健に関連したポリシー 2)安全な水と環境 3)健康教育 4)学校を基盤としたヘルス、栄養のサービス。援助する側からは見逃されやすいものとして「学校保健に関連したポリシー」であるが、これは自発的な発展を促すには必要不可欠なコンポーネントとなっている。 学校がそれぞれのポリシーをもち自発的学校保健活動を展開し、さらに学童それぞれがポリシーをもち学校保健活動に主体的に取り組むことで継続性のある学校保健が展開できるのである。Health Promoting Schoolには上記4つのコンポーネントとは別に独立したコンポーネントとして「地域との連携」をあげられていたが、FRESHでは地域との連携はすべてのコンポーネントに重要であるとされている。つまり学校から地域にポリシーや環境改善、健康教育を発信でき、逆に地域住民が学校保健に参画することによってより効果的かつ継続的に学校保健活動が展開できることになる。 現在包括的学校保健は、感染症対策における健康教育のアプローチとしても注視されソーシャルワクチンの一つともいわれている。また包括的学校保健はヘルスプロモーションの一環としても重視され、途上国保健開発の新しいアプローチとして取り上げられるにいたっている。(小林潤) |
用語 | ユーザーフィー |
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概要 |
(英訳:User fees) 国際保健の分野では、ユーザーフィーとは、患者やその家族が直接医療機関に支払う診療費を指す。 途上国において医療コストを賄うに当たって、外部からの援助に頼るだけでなく、自分の国でも何らかの財政基盤を作ろうとするとき、現在考えられている方法としては、最終的には先進諸国と同様に保険(Insurance)制度の構築を目指す場合が多い。 しかしながら実際には、途上国では人々の貧困の割合が多く、掛け金である保険料を支払えなかったり、自分が健康であると感じているのに保険料を支払う必要を感じていなかったり、あるいはインフラストラクチャーが整っていないなど、保険制度の導入が難しい途上国も多い。 これに対してユーザーフィー制度は、取り合えず利用者から診療コストを徴収しようという制度で、通常、診療費の徴収に当たっては、保健医療サービスへのアクセスのための経済的な障壁を取り除くため、貧困者を同定して、貧困者保護のための「支払い免除(Exemption)」の制度を同時に導入することが重要である。 しかしながら、患者の状況を医療施設の職員がよくわからない場合や患者の言うことをどこまで信じられるのかなど、時に貧困者の認定は困難である。貧困者の認定をその患者の住む地域の首長などに認定してもらうなどの制度を取り入れる場合もあるが、その場合でも時に選挙の見返りや、診療費が浮いた場合のキックバックなど不正が起こる可能性も否定できない。 さらに、お金を利用者から直接受け取る医療機関の取り分の率(Retention rate)が少ないと、医療機関での料金徴収が進まなかったり、あるいは、診療費収入からの収入の一部をそこに働く職員の給与補填に当てる場合も多いが、その場合、職員へのお金の実入りが少なくなる貧困者の認定を渋るなど、診療費制度の導入もあまりうまくいっていない事例も多いが、必ずしもすべてがうまくいっていないわけではない。(明石秀親) |
用語 | プリシード・プロシードモデル |
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概要 |
(英語訳:PRECEDE-PROCEED Model) 米国、カナダを中心に、世界各地でよく用いられているヘルスプロモーションや保健プログラムの企画・評価モデルである。PRECEDE-PROCEEDモデルは以下の段階からなる。 第1段階:社会アセスメント:対象集団が自分自身のニーズやQOLをどう考えているのかを知る段階。 第2段階a:疫学アセスメント:健康目的を具体的に特定する段階。 第2段階b:行動・環境アセスメント:健康問題の原因となっている行動要因と環境要因を特定する段階。重要性と変わりやすさによって要因をしぼり、行動目的あるいは環境目的を作成する。 第3段階:教育/エコロジカル・アセスメント:行動・環境目的を達成させるために、具体的に変えていかなくてはならない要因を特定する段階。要因は準備要因、強化要因、実現要因の3つのカテゴリーにわけられる。 第4段階:運営・政策アセスメント:プログラムに必要な予算や人材などの資源とプログラム実施の際の障害などを明らかにする。現行の政策、法規制、組織内での促進要因や障害要因なども明らかにする。 第5~8段階:実施と評価:プログラムの実施段階では、さまざまな介入策を組み合わせていく。評価の視点は最初の段階からもったほうがよい。第4段階までに適切な指標を作ることによって、後の評価が簡単になる。 実施がある程度すすんだところでプロセス評価を行う。事業に投入した内容、実施段階での諸活動、プログラム関係者の反応などを評価する。次は影響評価である。第2b、第3段階で設定した行動・環境目的と、準備要因、実現要因、強化要因の分析結果に基づいて得られた諸目的が、どの程度達成されたかを評価する。 最後に結果評価である。第1,第2a段階で設定したQOLに指標と健康目的を評価する。 Precede-Proceedモデルはあまりにも包括的すぎて、難しいという側面もある。しかしながら、このモデルの概要を知っておくことは、国際保健領域におけるヘルスプロモーション活動実践のためにも重要である。(神馬征峰) |
用語 | ヘルスシステム |
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概要 |
(英語訳 : Health System) ヘルスシステムはヘルスケアシステムとも呼ばれ、人々に保健医療サービスを提供するために必要な資源、組織、財政およびマネジメントを組み合わせた複合的な活動とされる。また、その目的のために割り当てられた資源を用いて、具体的なヘルスプロモーション、疾病予防、疾病治療および機能回復サービスを人々に提供するために組織されたアレンジメントをヘルスシステムという。 WHOではヘルスシステムを、第一の目的が健康の増進、回復、維持であるようなすべての活動を含むものと定義し、その中に含まれる活動として、 (1)公的なヘルスサービス、 (2)伝統的治療師による活動、 (3)医薬品の使用、 (4)疾病の家庭治療、 (5)ヘルスプロモーション、疾病予防および健康改善のための公衆衛生活動、 (6)健康教育、 を挙げている。 ヘルスシステムの核となる活動は、先進国、途上国を問わず、さまざまな種類のプログラム形成であり、これは資源、すなわち人材、施設、必要物品および知識の複合体の活用に基づいて行われ、そこから人々に保健医療サービスが提供される。また、資源の活用、プログラム形成および保健サービス提供のすべての面において、経済支援とマネジメントの両面からサポートが必要である。 人々の保健医療に対するニーズへの対応は、このようなヘルスシステムのプロセスを通じて行われ、その結果一定の健康水準がもたらされることになる。 現在、途上国のヘルスシステムが直面する主要課題として、 (1)保健医療分野で働く人材の不足による保健医療労働力の危機、 (2)劣悪な保健医療情報システム、 (3)不十分な保健財政、 (4)公平性に向けたヘルスシステムの構築 が挙げられている。これらの課題に対応するために、さまざまな形のヘルスセクターリフォームが実施されている。(中野博行) |
用語 | インフルエンザ |
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概要 |
(英語訳:Influenza) 原因となるインフルエンザウイルスにはA・B・Cの3つの型があるが、ヒトで流行するのはA型とB型である。 A型インフルエンザウイルス表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、これらの型の様々な組み合わせにより、ウイルスの抗原性が決まる。 ブタやトリなどヒト以外の宿主に分布するウイルスもあるが、ヒトに感染するA型インフルエンザウイルスは数10年ごとに突然別の亜型が出現する。これが、新型インフルエンザの登場である。 人々は新型ウイルスに対する免疫がなく、大流行となり多大な健康被害につながる。1918年には新型のスペインかぜ(H1N1)が世界各地で猛威をふるい、全世界での罹患者6億、死亡者は2000~4000 万人にのぼったといわれる。昨今は、トリの高病原性ウイルスA/H5N1が、ヒトの間で新型インフルエンザとして流行するのではと危惧されている。 インフルエンザの臨床症状は、急に現れる発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛などであり、通常の感冒と比較して全身症状が強い。高齢者では呼吸器系合併症により死亡する場合がある。小児では脳症の合併が特に日本で多いとされている。 抗インフルエンザウイルス剤としては、現状ではM2イオンチャンネル阻害薬(アマンタジン)とノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル)が入手可能である。(中野貴司) |
用語 | R&D(研究開発) |
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概要 |
(英語訳:Research and Development) 保健研究開発の潮流は、世界保健総会 World Health Assembly (WHA) の決議を見ると理解しやすい。 2016年5月の WHA では、23号決議 (WHA69.23「研究開発に関する専門家諮問作業部会:資金調達と調整」の報告のフォローアップ) でR&D に言及している。これは 2013 年の同名の決議 (WHA66.22) に沿ったものである。 全ての人が過不足なく医薬品を使用するためには、適正な R&Dが重要である。そのためには高価な医薬品のみでなく安価な医薬品を開発し、先進国で問題となる疾患のみならず、開発途上国で影響の大きい疾患も研究する必要がある。 このような R&D の不均衡を避けるための組織が「保健研究開発 グローバル・オブザーバトリー (Global Observatory on Health R&D)*1」である。そのウェブサイトでは、人口統計や研究資金など、様々なデータが得られる。これによって、それぞれの地域や疾患に対して、適切な研究開発が行われているかというモニタリングが出来る。 しかし、R&D の公平性は必ずしも保たれているとは言えず、例えば、主に低所得国および低・中所得国で問題となっているマラリアと結核は、保健研究開発に関するグローバルファンドの 1% が費やされているに過ぎない*2。資金の確保とのその配分は、現在グローバルヘルスが抱える大きな課題である。(神作麗) *1 : http://www.who.int/research-observatory/ *2 : http://www.thelancet.com/pdfs/journals/lancet/PIIS... |
用語 | アジアインフラ投資銀行 |
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概要 |
(英語訳:AIIB, Asia Infrastructure Investment Bank) アジア地域の相互接続性及び経済統合並びに既存の多国間開発銀行との協力を理念として中国が主導して2013年に設立が提唱され、2016年1月に開業した国際開発金融機関。本部は中国の北京。初代総裁は世界銀行(WB)やアジア開発銀行(ADB)での勤務経験がある金立群(Jin Liqun)が2016年1月から5年間の任期で選任された。 創設時は57か国であったメンバーは、2018年10月時点で87か国(手続き中を含む)となっているが、ADBを主導する日本と米国は加盟していない。2018年10月現在で中国は約31.0%を出資し、議決権は約26.6%を占めている。議決権が2番目に多いのはインドの約7.6%、アジア域外加盟国全体では約25.0%である。 2016年6月に最初の事業として、バングラデシュの電力改善融資及び3件の協調融資案件の総額約5億ドルが承諾されて以降貸出しが展開され、2017年末までに23件が承諾されている。(平岡久和) |
用語 | Unmet Need |
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概要 |
"need"の定義は、「プロフェッショナルの視点から捉えた、ある対象集団の課題」である。したがって"unmet need"は、「課題があるにもかかわらず、それが解決されない状態である」ことを記述的、定性的、あるいは定量的に示す。つまり、対象集団の"need"が確定してはじめて"unmet need"を示すことができる。 "need"と"unmet need"の考え方は、どの保健医療サービスにも適用することができる。本項では、一例として母性保健で用いられる"unmet obstetric need"を例にとって解説する。 ベルギー・アントワープ熱帯医学研究所に事務局を置くUnmet Obstetric Need Networkは、妊産婦死亡低減のための政策決定およびプログラム策定等に資する臨床疫学研究を世界各国で実施し、その系統的解析を行うことで、公衆衛生学的知見を集積・活用する目的で設立された。ここで"need"は「妊産婦死亡に至る重篤な合併症を発症した妊産婦のうち、救命のために帝王切開などの外科的医療介入を要する事態」と定義し、その発生率は全分娩のおよそ1.1-1.3%と推定されている。 ある地域・期間を設定した場合、その条件下での分娩数は推計が可能である。また、その地域からアクセス可能な産科医療施設で調査をすることで、当該期間中に対象地域に居住する妊産婦に対して実施された帝王切開などの医療介入数、およびその適応疾患名を調査し集計することができる。したがって出産数の一定割合(1.1-1.3%)を"need"、実施された医療介入数を"met need"とすることで、外科的医療介入が必要であったにもかかわらず、その利用ができなかった妊産婦数を"unmet need"として計算することができる。今回の文脈では、重症合併症を有したにも関わらず、救命のための外科的手段が受けられなかった妊産婦、すなわち把握することができなかった妊産婦死亡数の代替指標として用いることができる。 妊産婦死亡率は一般的に国という地理単位でしか推計できず、またその経時的変化を有意に検出することが難しい。一方で上述のunmet obstetric need指標は、より数が少ない対象集団の数年間の推移を観察することができ、また推定死亡を県・郡別に示すことができるため、政策決定、プログラム策定およびモニタリング・評価に用いやすいという特徴がある。(松井三明) |