国際保健用語集

用語 熱帯病研究訓練特別計画
概要 (英語訳:TDR: The Special Programme for Research and Training in Tropical Diseases)

TDRは、世界保健機関(WHO)の組織として、国連児童基金(UNICEF)国連開発計画(UNDP)世界銀行(WB)が共同スポンサーとなって、開発途上国に蔓延するマラリア、住血吸虫症、フィラリア症(リンパ系フィラリア症、オンコセルカ症)、ハンセン氏病、トリパノソーマ症及びリーシュマニア症の6疾患に焦点を合わせ、研究開発や教育訓練を行う事業として1975年に設立された。近年では、TDRの研究開発は、貧しい人びとの居住する地域や国家の公衆衛生に関する制度を総合的により広く検討し、住血吸虫症、結核デング熱なども含めた、いわゆる「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases:NTDs)」の予防・診断・治療に関する事業を行っている。一方、TDRは自らの研究施設や研究者を持たないので、各国の保健省をはじめとする政府機関、公的な研究施設や大学研究機関、製薬企業やNGOなどの官民のパートナーシップを繋ぐネットワークオーガナイザーとしての役割が主要業務といえる。(狩野繁之)
用語 災害時迅速評価
概要 (英訳 Rapid Assessment、もしくはRapid Needs Assessment)

災害時のニーズ・アセスメントは、災害対応を成功させるために不可欠である。その目的は、第一に対応の優先順位の決定と計画策定のためであり、第二に、外部の援助者に対して災害の程度を知らせる目的もある。迅速評価では、災害状況をレポートし、初期対応として最適なものを提言する。その情報としては、心象、具体的な数、事実が含まれ、時間や場所を特定でき、特定の目的に対して意味があるときに、有益な情報となる。緊急対応の優先順位としては、まず災害を被った生命を助けることであり、次いで、生命維持のために必要な飲み水、衛生、十分な食料、適切な医療援助、シェルター(住居や衣服)、燃料などが挙げられる。また、肉体的暴力や攻撃などから特に難民や国内避難民を含む被災民を守り、さらには、心理的、社会的なストレスから被災者を守らなければならない。(明石秀親)
用語 渡航医学
概要 rainman.gif?u_id=53462&sid=118.240.119.42.1622684476146940&revisit=1&target=doc&article_id=2182287&cid=1599&scid=1946&no_cache=393091&vinterval=3&vcount=156&r=https%3A%2F%2Fseesaawiki.jp%2Fw%2Fjaih%2Fl%2F%3Fp%3D2%26order%3Dlastupdate%26on_desc%3D0
(英語訳:Travel Medicine)
 
渡航医学とは「国際間の人の移動にともなう健康問題や疾病を扱う医学」で、旅行医学とも呼ばれている。渡航医学の対象者には、自国から外国へ向かう「アウトバウンド渡航者」と、外国から自国を訪問する「インバウンド渡航者」の2つがある。日本を中心に考えれば、アウトバウンドは海外旅行者、海外出張者、駐在員、留学生、インバウンドは訪日外国人や在日外国人という位置づけになる。欧米諸国では渡航医学の専門医療施設であるトラベルクリニックが数多く設置されているが、日本でも2000年代より、経済のグローバル化や海外旅行ブームとともに、その数が増えつつある。

渡航医学があつかう健康問題としては、自然環境の変化による疾病(気候による疾病、航空機内の疾病、時差症候群、高山病など)や衛生環境の変化による感染症がその代表的なものである。さらに長期滞在者にとっては、生活習慣病メンタルヘルス不全も大きな健康問題となる。また、滞在先での医療機関の受診や医療費の支払いも重要な課題である。

トラベルクリニックでは、こうした健康問題を未然に防ぐ予防対策に重点がおかれる。出国前には健康指導や現地医療情報の提供を行い、必要に応じて健康診断を実施する。ワクチン接種も感染症予防のために重要な対策である。また、帰国後の有症者への診療もトラベルクリニックの業務に含まれる。

国内のトラベルクリニックの所在情報は、検疫所や日本渡航医学会のホームページから検索することができる。(濱田篤郎)
用語 沖縄感染症対策イニシアティブ
概要 (英語訳 :Okinawa Infectious Diseases Initiative)

2000年7月の九州・沖縄サミットにおいて、日本は議長国として開発途上国の感染症問題を主要議題の一つとして取り上げ、日本の政府開発援助(ODA)で2000年度から2004年度までの5年間に総額30億ドルを目途とする包括的な感染症対策支援を行う「沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)」を発表した。このIDIにおける感染症対策の主な方針は、1)途上国の主体的取り組み(オーナーシップ)の強化、2)人材育成、3)市民社会組織、援助国、国際機関との連携、4)南南協力、5)コミュニティ・レベルでの公衆衛生の推進、の5項目である。主な支援内容としては、1)HIV/AIDS(若年層やハイリスク・グループへの予防啓発活動、自発的検査とカウンセリングの普及、検査・診断技術の強化、エイズ遺児のケア)、2)結核(人材育成、DOTS治療の推進)、3)マラリア・寄生虫(薬剤含浸蚊帳の使用促進、ギニア・ワーム根絶支援、国際寄生虫対策(橋本イニシアチブ)センター(タイ・ガーナ・ケニア)での人材育成)、4)ポリオ(ワクチン接種などによるポリオ根絶支援)、5)疾病を超えた保健医療体制の整備(安全な水の供給、プライマリーヘルスケアの充実など)、の5項目である。日本がこの感染症問題への取り組みの重要性を国際社会に訴えたことが契機となって、広く国際社会一般の関心が喚起され、2001年の国連エイズ特別総会やジェノバサミットでの議論を経て、2002年には、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金:The Global Fund to fight AIDS, Tuberculosis and Malaria」の設立に至った。(狩野繁之)
用語 汎米保健機構/WHOアメリカ事務局
概要 (英語訳:PAHO, Pan American Health Organization)

PAHO(汎米保健機構)は、WHO(世界保健機構)のアメリカ地域事務局であり、南米アメリカ大陸の住民の健康と生活状況の改善を目的に活動を実施している。その原則は、限られた資源のもと、効率的に公共の保健医療サービスを住民に届ける事であり、近年、再興新興感染症のみならず、生活習慣病や癌疾患への対策にも目を向けるようになっている。歴史的には、1902年にアメリカ大陸におけるペストなどの感染症対策を地域として取る事を目的に11カ国が集まり、The Pan American Sanitary Bureau (PASB)として設立された。WHO本部より40年以上の長い歴史を持っており、他の地域事務所と違い、WPRO、AFRO、EMRO、CEAROなどように地域事務所という名称を用いていない。

WHO本部とは別の独自の活動も多く、特に災害対策分野での対策、活動は秀でており、対策の為の様々なマニュアルを発行している。また、会議で主に用いられる言語はスペイン語である。 PAHO本部は、アメリカ合衆国のワシントンDCにあり、27カ国に国事務所(Country Office)をもち、多くの国において、第二保健省とも称されることもあり、国の保健政策、またその実施に大きな影響を持っている。(仲佐保)