国際保健用語集
用語 | ユーザーフィー |
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概要 |
(英訳:User fees) 国際保健の分野では、ユーザーフィーとは、患者やその家族が直接医療機関に支払う診療費を指す。 途上国において医療コストを賄うに当たって、外部からの援助に頼るだけでなく、自分の国でも何らかの財政基盤を作ろうとするとき、現在考えられている方法としては、最終的には先進諸国と同様に保険(Insurance)制度の構築を目指す場合が多い。 しかしながら実際には、途上国では人々の貧困の割合が多く、掛け金である保険料を支払えなかったり、自分が健康であると感じているのに保険料を支払う必要を感じていなかったり、あるいはインフラストラクチャーが整っていないなど、保険制度の導入が難しい途上国も多い。 これに対してユーザーフィー制度は、取り合えず利用者から診療コストを徴収しようという制度で、通常、診療費の徴収に当たっては、保健医療サービスへのアクセスのための経済的な障壁を取り除くため、貧困者を同定して、貧困者保護のための「支払い免除(Exemption)」の制度を同時に導入することが重要である。 しかしながら、患者の状況を医療施設の職員がよくわからない場合や患者の言うことをどこまで信じられるのかなど、時に貧困者の認定は困難である。貧困者の認定をその患者の住む地域の首長などに認定してもらうなどの制度を取り入れる場合もあるが、その場合でも時に選挙の見返りや、診療費が浮いた場合のキックバックなど不正が起こる可能性も否定できない。 さらに、お金を利用者から直接受け取る医療機関の取り分の率(Retention rate)が少ないと、医療機関での料金徴収が進まなかったり、あるいは、診療費収入からの収入の一部をそこに働く職員の給与補填に当てる場合も多いが、その場合、職員へのお金の実入りが少なくなる貧困者の認定を渋るなど、診療費制度の導入もあまりうまくいっていない事例も多いが、必ずしもすべてがうまくいっていないわけではない。(明石秀親) |
用語 | プリシード・プロシードモデル |
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概要 |
(英語訳:PRECEDE-PROCEED Model) 米国、カナダを中心に、世界各地でよく用いられているヘルスプロモーションや保健プログラムの企画・評価モデルである。PRECEDE-PROCEEDモデルは以下の段階からなる。 第1段階:社会アセスメント:対象集団が自分自身のニーズやQOLをどう考えているのかを知る段階。 第2段階a:疫学アセスメント:健康目的を具体的に特定する段階。 第2段階b:行動・環境アセスメント:健康問題の原因となっている行動要因と環境要因を特定する段階。重要性と変わりやすさによって要因をしぼり、行動目的あるいは環境目的を作成する。 第3段階:教育/エコロジカル・アセスメント:行動・環境目的を達成させるために、具体的に変えていかなくてはならない要因を特定する段階。要因は準備要因、強化要因、実現要因の3つのカテゴリーにわけられる。 第4段階:運営・政策アセスメント:プログラムに必要な予算や人材などの資源とプログラム実施の際の障害などを明らかにする。現行の政策、法規制、組織内での促進要因や障害要因なども明らかにする。 第5~8段階:実施と評価:プログラムの実施段階では、さまざまな介入策を組み合わせていく。評価の視点は最初の段階からもったほうがよい。第4段階までに適切な指標を作ることによって、後の評価が簡単になる。 実施がある程度すすんだところでプロセス評価を行う。事業に投入した内容、実施段階での諸活動、プログラム関係者の反応などを評価する。次は影響評価である。第2b、第3段階で設定した行動・環境目的と、準備要因、実現要因、強化要因の分析結果に基づいて得られた諸目的が、どの程度達成されたかを評価する。 最後に結果評価である。第1,第2a段階で設定したQOLに指標と健康目的を評価する。 Precede-Proceedモデルはあまりにも包括的すぎて、難しいという側面もある。しかしながら、このモデルの概要を知っておくことは、国際保健領域におけるヘルスプロモーション活動実践のためにも重要である。(神馬征峰) |
用語 | ヘルスシステム |
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概要 |
(英語訳 : Health System) ヘルスシステムはヘルスケアシステムとも呼ばれ、人々に保健医療サービスを提供するために必要な資源、組織、財政およびマネジメントを組み合わせた複合的な活動とされる。また、その目的のために割り当てられた資源を用いて、具体的なヘルスプロモーション、疾病予防、疾病治療および機能回復サービスを人々に提供するために組織されたアレンジメントをヘルスシステムという。 WHOではヘルスシステムを、第一の目的が健康の増進、回復、維持であるようなすべての活動を含むものと定義し、その中に含まれる活動として、 (1)公的なヘルスサービス、 (2)伝統的治療師による活動、 (3)医薬品の使用、 (4)疾病の家庭治療、 (5)ヘルスプロモーション、疾病予防および健康改善のための公衆衛生活動、 (6)健康教育、 を挙げている。 ヘルスシステムの核となる活動は、先進国、途上国を問わず、さまざまな種類のプログラム形成であり、これは資源、すなわち人材、施設、必要物品および知識の複合体の活用に基づいて行われ、そこから人々に保健医療サービスが提供される。また、資源の活用、プログラム形成および保健サービス提供のすべての面において、経済支援とマネジメントの両面からサポートが必要である。 人々の保健医療に対するニーズへの対応は、このようなヘルスシステムのプロセスを通じて行われ、その結果一定の健康水準がもたらされることになる。 現在、途上国のヘルスシステムが直面する主要課題として、 (1)保健医療分野で働く人材の不足による保健医療労働力の危機、 (2)劣悪な保健医療情報システム、 (3)不十分な保健財政、 (4)公平性に向けたヘルスシステムの構築 が挙げられている。これらの課題に対応するために、さまざまな形のヘルスセクターリフォームが実施されている。(中野博行) |
用語 | インフルエンザ |
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概要 |
(英語訳:Influenza) 原因となるインフルエンザウイルスにはA・B・Cの3つの型があるが、ヒトで流行するのはA型とB型である。 A型インフルエンザウイルス表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、これらの型の様々な組み合わせにより、ウイルスの抗原性が決まる。 ブタやトリなどヒト以外の宿主に分布するウイルスもあるが、ヒトに感染するA型インフルエンザウイルスは数10年ごとに突然別の亜型が出現する。これが、新型インフルエンザの登場である。 人々は新型ウイルスに対する免疫がなく、大流行となり多大な健康被害につながる。1918年には新型のスペインかぜ(H1N1)が世界各地で猛威をふるい、全世界での罹患者6億、死亡者は2000~4000 万人にのぼったといわれる。昨今は、トリの高病原性ウイルスA/H5N1が、ヒトの間で新型インフルエンザとして流行するのではと危惧されている。 インフルエンザの臨床症状は、急に現れる発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛などであり、通常の感冒と比較して全身症状が強い。高齢者では呼吸器系合併症により死亡する場合がある。小児では脳症の合併が特に日本で多いとされている。 抗インフルエンザウイルス剤としては、現状ではM2イオンチャンネル阻害薬(アマンタジン)とノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル)が入手可能である。(中野貴司) |
用語 | R&D(研究開発) |
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概要 |
(英語訳:Research and Development) 保健研究開発の潮流は、世界保健総会 World Health Assembly (WHA) の決議を見ると理解しやすい。 2016年5月の WHA では、23号決議 (WHA69.23「研究開発に関する専門家諮問作業部会:資金調達と調整」の報告のフォローアップ) でR&D に言及している。これは 2013 年の同名の決議 (WHA66.22) に沿ったものである。 全ての人が過不足なく医薬品を使用するためには、適正な R&Dが重要である。そのためには高価な医薬品のみでなく安価な医薬品を開発し、先進国で問題となる疾患のみならず、開発途上国で影響の大きい疾患も研究する必要がある。 このような R&D の不均衡を避けるための組織が「保健研究開発 グローバル・オブザーバトリー (Global Observatory on Health R&D)*1」である。そのウェブサイトでは、人口統計や研究資金など、様々なデータが得られる。これによって、それぞれの地域や疾患に対して、適切な研究開発が行われているかというモニタリングが出来る。 しかし、R&D の公平性は必ずしも保たれているとは言えず、例えば、主に低所得国および低・中所得国で問題となっているマラリアと結核は、保健研究開発に関するグローバルファンドの 1% が費やされているに過ぎない*2。資金の確保とのその配分は、現在グローバルヘルスが抱える大きな課題である。(神作麗) *1 : http://www.who.int/research-observatory/ *2 : http://www.thelancet.com/pdfs/journals/lancet/PIIS... |