国際保健用語集
用語 | 汎米保健機構/WHOアメリカ事務局 |
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概要 |
(英語訳:PAHO, Pan American Health Organization) PAHO(汎米保健機構)は、WHO(世界保健機構)のアメリカ地域事務局であり、南米アメリカ大陸の住民の健康と生活状況の改善を目的に活動を実施している。その原則は、限られた資源のもと、効率的に公共の保健医療サービスを住民に届ける事であり、近年、再興・新興感染症のみならず、生活習慣病や癌疾患への対策にも目を向けるようになっている。歴史的には、1902年にアメリカ大陸におけるペストなどの感染症対策を地域として取る事を目的に11カ国が集まり、The Pan American Sanitary Bureau (PASB)として設立された。WHO本部より40年以上の長い歴史を持っており、他の地域事務所と違い、WPRO、AFRO、EMRO、CEAROなどように地域事務所という名称を用いていない。 WHO本部とは別の独自の活動も多く、特に災害対策分野での対策、活動は秀でており、対策の為の様々なマニュアルを発行している。また、会議で主に用いられる言語はスペイン語である。 PAHO本部は、アメリカ合衆国のワシントンDCにあり、27カ国に国事務所(Country Office)をもち、多くの国において、第二保健省とも称されることもあり、国の保健政策、またその実施に大きな影響を持っている。(仲佐保) |
用語 | FGM |
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概要 | →女性器切除 |
用語 | WTO |
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概要 | →世界貿易機関 |
用語 | 非政府組織 |
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概要 |
(英語訳:Non-governmental Organization) 1945 年、国際連合の発足の後、国連憲章第10章「経済社会理事会」・第71条において、政府と異なる立場で国連との協議資格をもつ市民組織としてNGOという用語が使われはじめた。故・室靖教授によると、世界の援助の歴史を見ると、NGOによる援助は政府開発援助(ODA)よりずっと早くからおこなわれてきた。たとえば、セーブ・ザ・チルドレン・ファンド(SCF-UK)は第一次世界大戦末期に援助活動を始めたのに対し、ODAの起源はトルーマン大統領による1949年の「ポイント・フォア計画」が最初という。日本でNGOの語が広く流通するようになったのは、インドシナ難民救援活動が本格化した1980年代以降。日本はその意味でNGO後進国だった。平成7年の阪神淡路大震災での救援活動、平成10年の特定非営利活動促進法制定が、NGOの認知と活動に弾みをつけた。 JANIC(国際協力NGOセンター)によると、国際協力NGOとは、「海外・国内を問わず、地球規模の課題(開発・人権・平和・環境・緊急救援など)に取り組む非政府・非営利の市民組織」と定義される。JANICのNGOダイレクトリー(2005年版)には、286団体が紹介されているが、うち保健・医療分野(事業の重複あり)は114団体と、教育分野についで多い。最近では、エイズ、MDG(ミレニアム開発目標)、地雷やクラスター爆弾禁止、女性の人権、地球温暖化対策など、いわゆるグローバル・イッシューに取り組む、国境を越えた市民連携として、NGOよりも、Civil Society Organization(CSO:市民社会組織)という用語がよく使われるようになってきた。NGOがCSOを構成する重要なアクターであることは間違いない。(本田徹) |
用語 | NGO |
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概要 | →非政府組織 |
用語 | 参加型農村調査 |
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概要 |
(英語訳:PRA, Participatory Rural Appraisal) 近年、プロジェクトの立案や評価に住民の参加の必要性が認識されるようになり、チェンバースらが提唱した参加型調査手法の一つ。他にも、RRA(Rural Rapid Appraisal:迅速農村調査)、PLA(Participatory Learning and Action:参加による学習と行動)などの参加型調査手法がある。開発援助プロジェクトの多くが専門家の主導により実施されてきたことに対する批判から生まれ、住民がプロジェクトの企画立案、実施、評価にいたるすべての過程において、主体的に参加するべきであるという参加型開発(Participatory Development)の理念に基づいている。これらの参加型調査手法においては、外部者の役割は、地域住民の学びのプロセスを手助け(ファシリテート)することにある。 近年は、国際機関、ドナー機関、NGOなどが参加型手法を用いてプロジェクトの立案や評価を行うことが多くなった。しかし、どのように「参加型」を謳ってみても、一定の資金と期間を限定したプロジェクトを実施するという外部機関の意志と、伝統と文化の中で生きてきた地域住民の行動様式や時間軸の間には大きなギャップが存在する。参加型手法の限界性を認識した上で、使用すべき調査法であると思われる。(中村安秀) |
用語 | 国連人道問題調整事務所 |
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概要 |
(英訳 UNOCHA United Nations, Office for the Coordination of Humanitarian Affairs) 通称はOCHAと呼ばれる。1992年に設置された国連人道問題局(UNDHA:Department of Humanitarian Affairs)が、1998年に改組され、多発する複合災害(Complex emergencies)や、自然災害に対する国連の人道援助活動能力の強化と、人道NGOなどとの連携調整を行う。以前、各国連機関が個別に提出していたConsolidated Appealなど、あらゆる緊急事態に対する人道支援活動の調整や、政策策定やその提案などを行っているが、あくまで実践機関ではなく、調整機関である。(明石秀親、喜多悦子) |
用語 | IPCC |
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概要 | →気候変動に関する政府間パネル |
用語 | エイズ |
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概要 | →HIV/AIDS |
用語 | SARS |
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概要 | →重症急性呼吸器症候群 |
用語 | カイロ会議 |
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概要 | →国際人口開発会議 |
用語 | GAVI |
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概要 | →世界ワクチン免疫同盟 |
用語 | 安全な母性 |
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概要 |
(英語訳:Safe Motherhood) 「安全な母性」とは、妊娠・出産時にすべての女性が、安全で健康的な状態にいられるために必要なケアを受けられる権利を有するという考え方である。世界では1年間に約50万人が妊産・出産に関連した原因がもとで死亡しており、その大半は開発途上国で起きている。その要因には、住民の妊産婦の健康に関する意識の低さ、非熟練者による分娩介助、緊急産科ケアサービスの不足、産科ケアの質の低さ、危険な人工妊娠中絶などがあり、これらが社会、文化、政治的な背景の中で相互に関連し生じている。1987年ナイロビで「Safe Motherhood Initiative」が発表され、100ヶ国以上の政府、専門機関、NGOなどがこれに賛同し「安全な母性」を確保するためのプログラムを展開している。プログラム内容には、思春期の若者のためのリプロダクティブヘルスに関するサービスの提供、訓練された熟練者による安全な妊娠・出産のケア、緊急産科ケア体制の整備、家族計画に関するサービスの提供、危険な中絶の予防ならびに中絶後のケアなどがあり、単に妊娠・出産自体に注目するのではなく、ライフサイクルを通した女性の保健、栄養、福祉、地域社会における女性の地位や教育レベルの向上などを含めた取り組みが行われている。国の状況により「安全な母性」に関する課題は異なり、開発途上国では周産期死亡が大きな課題となっている一方で、先進国では出産における医療の過剰介入などが問題となっている。その違いを理解しつつ、「安全な母性」は世界的な共通課題として認知されている(渡邊聡子) |
用語 | PAHO |
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概要 | →汎米保健機構/WHOアメリカ事務局 |
用語 | IEC |
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概要 | →行動変容のためのコミュニケーション |
用語 | 行動変容のためのコミュニケーション |
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概要 |
(英語訳:IEC, Information, Education, and Communication: IEC BCC, Behavior Change Communication) 情報・教育・コミュニケーション(Information, education, and communication:IEC)とは、 サービス利用者に対して特定の情報を伝達する方法である。サービス利用者が理解を深めて行動変化することを目指して、サービス提供側が活動を展開するということに焦点を当てている。例えば妊婦検診を広めることを目的とする事業では、情報の送り手である保健省が、受け手である妊婦に対して、TVやラジオでの宣伝や街頭ポスター、保健センターなどでの指導など、様々なチャンネルを通じて、妊婦検診の日時/場所といった情報を伝えると同時に、なぜ妊婦検診が必要なのかについて理解を深めさせ、実際に妊婦検診へ行くように働きかけることを意味する。 一方、行動変容のためのコミュニケーション(Behavior change communication:BCC)では、サービス利用者が、長い間培ってきた行動や生活パターンを、より望ましいものに変えるということに焦点を当てている。例えば、コンドームの使用や禁煙などである。行動変容を促すには、知識のみならず、行動変容がその人に望ましい成果をもたらせるのだと気づかせること、さらには、その人自身が行動変容できるのだという自信を持たせることが重要とされている。具体的例として、カウンセリング、メディアキャンペーン、法制度の整備などがある。BCCとIECは類似点も多いが、厳密には異なる点もある。そのため、IEC/BCCと並列標記される場合と、別々に標記される場合とがある。(和田知代) |
用語 | BCC |
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概要 | →行動変容のためのコミュニケーション |
用語 | ラロンド報告 |
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概要 |
(英語訳:Lalonde Report) カナダの保健福祉省大臣(minister of national health and welfare)であったMarc Lalondeが1974年に発表した報告書「カナダ国民の健康に関する新しい考え方(A new perspective on the health of Canadians)」を、彼の名を冠してラロンド報告と呼ぶ。 報告書は、健康を決定する要因は生物学的要因のみではなく、環境要因、ライフスタイルそして保健医療サービスも含まれると指摘した。それゆえ保健医療サービスだけへの医療費支出が必ずしも健康改善に直結するとは限らず、環境やライフスタイルの変容への投資も必要であると論じた。 従来、健康は生物医学的モデルで説明されるような単一病因に規定されていると捉えられることが一般的であったが、報告書の公表以降、社会環境も含む多くの要因が健康に影響を与えていると考えられるようになった。 例えば、1978年WHOが提唱したプライマリヘルスケアに関するアルマ・アタ宣言や、1986年のWHOによるヘルスプロモーションに関するオタワ憲章は、ラロンド報告に触発された包括的な健康観を基調としている。 この報告によって、保健政策では健康の維持向上には狭義のヘルスケアの範囲を超えた取組みが必要であると強調されるようになった。(湯浅資之) |
用語 | FGD |
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概要 | →フォーカス・グループ・ディスカッション |
用語 | 生活習慣病 |
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概要 |
(英語訳:Noncommunicable Diseases;NCDs /Chronic Diseases/Lifestyle-related Disease) 脳卒中や癌、心疾患、糖尿病、高血圧症、動脈硬化など、その発症や進行に、食生活や運動、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関係するとされる疾病の総称。従来は、加齢に伴って増加することから「成人病」と呼ばれてきたが、発症時期が低年齢化していることや、予防のためには生活習慣が重要であるとする立場から、1997年、厚生省(当時)は新しい名称を導入した。これに伴い、疾病の早期発見・早期治療といった二次予防中心の対策から、生活習慣の見直しや支援的な環境づくりによる発症の予防といった一次予防中心の対策が重視されるようになった。 国際的には非感染性疾患(Noncommunicable Diseases;NCDs)、慢性疾患(Chronic Diseases)と呼ばれ、WHOは、全死亡のうち270万は果物と野菜の摂取不足、190万は運動不足に起因しているとして、2004年に「食事、身体活動、健康に関する世界戦略Global Strategy on Diet, Physical Activity and Health (DPAS).」を採択した。 加盟国政府や国際機関、市民集団、NGO、民間セクターなどの関係者に、健康的な食事や身体活動などのライフスタイルを促進するための国家政策、計画、プログラムの実施を促進するよう呼びかけ、それらの実施・運営支援のために、データベースの整備や、モニタリング・評価の枠組み、身体活動を増やすポピュレーションベースアプローチのガイド、適切な野菜・果物の生産・消費のためのより効果的な介入、職場における非感染性疾患対策などに関する資料を提供している。先進国の問題と思われがちであるが、糖尿病による死亡の80%は、中・低所得国で起こっており、途上国にとっても深刻な問題である。(西田美佐) |
用語 | マラスムス |
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概要 | →クワシオコール・マラスムス |
用語 | HMS |
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概要 | →保健医療情報システム |
用語 | HMIS |
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概要 | →保健医療情報システム |
用語 | SBA |
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概要 | →専門技能者 |
用語 | MMR |
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概要 | →妊産婦死亡率 |
用語 | MMR |
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概要 | →妊産婦死亡率 |
用語 | 産科ろう孔 |
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概要 | →フィスチュラ |
用語 | RBM |
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概要 | →ロールバクマラリア |
用語 | USAID |
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概要 | →米国国際開発庁 |
用語 | ORS |
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概要 | →経口補液療法 |
用語 | 経口補液療法 |
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概要 |
(英語訳 : ORT, Oral Rehydration Therapy) 経口補液療法とは、下痢症により引き起こされる脱水を治療する手段である。 歴史は1940年代までさかのぼり、大量の水様性下痢により急速に脱水に陥るコレラに対する治療として最初に用いられた。途上国では、病院の設備が十分でなかったり医薬品が入手できないという事情により経静脈輸液治療が実施できない場合は多い。 さらには、手技の未熟さや経験不足のため、急速な輸液による心不全や静脈ルートからの感染など経静脈輸液に伴うリスクが大きい。このような現場で多くの子どもたちを救ってきたのは、水、糖分、塩分を一定の割合で溶かした経口的に補給される溶液であった。1975年にはWHOとUNICEFが統一した組成の経口補液療法用の糖塩分溶液(Oral Rehydration Salts, Oral Rehydration Solution, ORS)を奨励するようになった。その後、病態に応じたナトリウム濃度など組成成分の調整、穀物をベースとしたORT、栄養価や吸湿性についても継続して検討されている。また、ORTは下痢症の治療であるとともに「飲食」という日常の生活にきわめて密着しているということを忘れてはならない。 住民たちに浸透し普及するためには、現地における受容性、食生活や離乳食習慣に配慮し、文化人類学的な側面を検討する必要がある。 |
用語 | 安全な母性プログラム/イニシアチブ |
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概要 |
(英語訳: Safe Motherhood Programme / Initiative) Safe Motherhood Initiative (SMI)は、1987年にケニアのナイロビで開催された International Conference on Better Health for Women and Children through Family Planningにおいて提唱された、女性の安全な妊娠、出産を目的としたイニシアチブである。UNFPA, UNDP, UNICEF?, WHO, World Bank, NGOなど10機関が共同で実施しており、2000年までに妊産婦死亡率を半分にすることを目標に掲げ、家族計画、地域での妊産婦ケア、緊急時のケア、女性の地位向上などを主要な活動としていた。SMIは各国政府、NGO、女性団体などを巻き込んだ世界的なパートナーシップへと広がっていった。 その後、妊産婦の主要な死因である産後の出血、遷延分娩、子癇 、産褥熱、人工妊娠中絶の合併症の5疾患に焦点をあて、専門家(Skilled Birth Attendant: SBA)による分娩、助産師教育、必須産科ケア(Essential Obstetric Care: EOC、特に産科救急Emergency Obstetric Care)、などのプログラムに焦点があてられるようになった。2005年からは、新生児ケアを強調して、MNCH (maternal, newborn and child health)という概念を唱え、また同年、Making Pregnancy SaferというプログラムをSMIの一部として立ち上げ、質の高い産科医療をタイムリーに提供することで、妊産婦と新生児の死亡を削減することに力をいれている。(柳澤理子) |
用語 | 地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク |
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概要 |
(英語訳 : Global outbreak alert and respondr network) 病原体はダイナミックに変異し、速やかに増殖して新しい環境や宿主に柔軟に適応する能力を持つ。 これらの生物学的特性に加え、人類の生活圏の拡張は未知の病原体との遭遇機会を提供し、交通手段の発達は迅速で長距離の病原体の移動を可能にした。このような病原体の拡散による感染症大流行に対応するため、2000年にWHOは地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワークGOARN: Global Outbreak Alert and Response Networkを構築した。 そのシステムでは既存のネットワークを活用して、情報・経験・技術の国際間での共有を目指す。新しい感染症流行を系統的に情報収集し、流行の規模と重大さを科学的に迅速に確認し、確認した事実はネットワークを介して全世界に伝達し、必要に応じて国際協調して支援して、大流行による被害を最小限に防ぐサーベイランスの仕組みである。 毎年100カ国以上から200件以上の感染症流行の情報が収集され、GOARNが対応を判断する。国際的な対応が必要となる感染症は、1)未知の病原体の可能性がある、2)期待値より異常に罹患率や死亡率が高い、3)国境を越えて隣国に波及する、4)人間や物の交流によって隣国に運ばれる、5)流行当該国の対応する能力を越えている、6)事故や故意に拡散されている、などである。SARSや鳥インフルエンザでGOARNの対応能力が示された。 |
用語 | 経済協力開発機構 |
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概要 |
(英語訳 : Organization for Economic Cooperation and Development) 欧州経済復興促進のため1948年に発足した欧州経済協力機構(OEEC)が改組され、61年9月、経済協力開発機構(OECD)として発足。事務局はフランスの首都パリ。OECDの目的は、経済成長、開発途上国援助、貿易の拡大にあり、目的達成のために加盟国相互間の情報交換、コンサルテーション、共同研究と協力を行う。近年雇用問題、多国籍間の投資協定の策定、ウルグアイ・ラウンド後の貿易問題、規制緩和などに取り組んでいる。2003年時点の加盟国は30カ国(ほかに準加盟国としてユーゴスラビア)。当初は先進国クラブとよばれたが、メキシコ、韓国、東欧諸国の加盟により新たな特色を打ち出すべく模索中である。 最高機関は閣僚理事会と常駐代表会議から成る理事会。理事会は、14カ国から成る執行委員会(この内アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、日本、カナダの7カ国は常任)を選出、全加盟国が国際経済の重要問題を審議する新執行委員会を設置する。下部機構に経済政策委員会、貿易開発委員会、開発援助委員会(DAC)の3大委員会をはじめ、合計35の委員会がおかれている。 |
用語 | ヨード欠乏症 |
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概要 |
(英語訳 : IDD / Iodine deficiency disorders) ヨード欠乏症はヨード摂取の欠乏によって生じる甲状腺機能低下症であり、脳細胞の機能へのダメージによる知的発育遅滞の最もリスクのある原因の一つであり、特に途上国を中心にクレチン症、脳細胞の機能障害、甲状腺腫などにより苦しんでいる人々がいる。世界の30%以上の人々がヨード欠乏のリスクを有するとみられ、また甲状腺腫の経験をもつ人の数は約7億5000万人以上、なんらかの脳障害をうけている人が4300万人いると推定されている。 ヨード欠乏はヨード油の直接的経口投与および皮下注入による補給(Supplementation)、食塩のヨード添加(Fortification)などの方法によって改善することが可能である。食塩へのヨード添加が最も一般的な方法で、この手法は全ての地域で増加し、2002年の時点で途上国の66%以上の人々はヨード添加塩を摂取しているとされている。(石川みどり) |
用語 | NTD |
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概要 | →顧みられない熱帯病 |
用語 | 顧みられない熱帯病 |
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概要 |
(英語訳: Neglected Tropical Disease) 3大感染症(ATM:エイズ、結核、マラリア)以外の慢性的に流行している14の重要な寄生虫、細菌感染症をいう。これらは3大感染症のように死亡数は多くないために注視されてこなかった。しかしながらアジア、アフリカを中心とした途上国では極めて多くの人間が感染しており人間の生活の質に大きく影響している疾患である。世界的には熱帯地域、貧困層を中心に10億人以上がなんらかのNTDにり患していると推定されている。WHOを中心とした熱帯病対策に関連した機関、ドナーはこれらの疾患を、NTD;顧みられない熱帯病としてまとめ対策に取り組むこととなった。WHO本部ではエイズ、結核、マラリア部門とならんでNTD部門が発足し2007年4月にはNTD国際会議が開催されるにいたった。近年のこれらの動きを作り出したのは、1997年のG8サミット(バーミンガム)において橋本首相(当時)が中心となりG8各国が世界の寄生虫対策に取り組む必要性を宣言(橋本イニシアチブ)したことから始まっていることは国際的に認知されることころである。現在NTD対策は、同じ薬剤にて数種の疾患が治療できることから、集団治療についてのインテグレーションを行うことが基本的戦略となっている。例えば、アルベンダゾールは土壌伝搬性寄生虫症にもフィラリア症の治療にも有効である。さらに近年ではベクター対策におけるインテグレーションや社会啓蒙活動も対策のコンポーネントの重要な要素として含またことにより、より総合的対策戦略がつくられつつある。(小林潤) |
用語 | CMR |
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概要 | →粗死亡率 |
用語 | DFID |
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概要 | →英国国際開発省 |
用語 | CIDA |
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概要 | →カナダ国際開発庁 |
用語 | ミレニアム開発目標 |
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概要 |
(英訳:MDGs, Millennium Development Goals) 2000年9月、189カ国の首脳が出席した国連ミレニアム・サミットでの合意をもとに設定された国際社会共通の開発目標。 これは、1990年代に多くの国際会議やサミットで提唱された開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとしてまとめたもので、2015年までに各国が達成すべき8目標を定めている。 8つの目標とは、 1)極度の貧困と飢餓の撲滅、 2)普遍的初等教育の達成、 3)ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上、 4)乳幼児死亡率の削減、 5)妊産婦の健康の改善、 6)HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止、 7)環境の持続可能性の確保、 8)開発のためのグローバル・パートナーシップの推進、 である。 過去の開発援助の経験から、成果を重視する動きが生まれ、ミレニアム開発目標では達成期限と具体的な数値目標が設定されている。 2008年1月15日には数値目標の内容が改訂され、保健医療分野と直接に関連している項目では、リプロダクティブ・ヘルスへの普遍的アクセスの達成と、2010年までに必要に応じたHIV/エイズ治療への普遍的アクセスの達成などが新たに加えられた。 ミレニアム開発目標は、援助国が開発途上国を側面で支えること(パートナーシップ)とともに、開発途上国が自ら責任を持って開発に取り組むこと(オーナーシップ)を重視している。 また、ミレニアム開発目標は分野ごとの開発目標を示しているが、貧困やジェンダーなどの分野横断的な視点に基づいた取り組みも必要である。 (池上清子) |
用語 | フィラリア症 |
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概要 |
(英語訳:Lymphatic Filariasis) フィラリアは、リンパ浮腫をおこし象皮病などの生活の質に大きく影響する疾患であり、2000年には世界で1億2千万人が感染していた。アルベンダゾールとDECもしくはイベルメクチンによるMDA: Mass drug administration (集団治療)が対策に著効することが明らかになってから、世界的な制圧プログラムが動きだした。2000年にはPublich Private Partnership (公的機関―民間パートナーシップ)のもとにGlobal Alliance to Eliminate Lymphatic Filariasisが作られこの動きは加速している。なかでも太平洋島礁各国が参加しているPacELF: Pacific programme for the Elimination of Lymphatic Filariasisでは大きな効果を得て、パプアニューギニアを除く各国で新規のフィラリア症患者はほとんど見られないところまできている。これはWHOを中心に、日本政府、日本人専門家、青年海外協力隊の支援によるところが大きく、高く評価されている。現在、フィラリア症はNTD: Neglected Tropical Diseases対策の一環として捕えられ、今後、他熱帯病対策とのインテグレーションによって対策が進行すると考えられる。(小林潤) |
用語 | 国際疾病分類 |
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概要 |
(英語訳:ICD, International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems) 正式には、International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems 疾病及び関連保健問題の国際統計分類の事である。 異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈及び比較を行うため、世界保健機関憲章に基づき、世界保健機関(WHO)が作成した分類である。起源としては、1950年代に死因(Cause of Mortality)のリストとしてはじめられたものであり、1893年に国際統計協会(the International Statistical Institute)が使用するようになり、約10年ごとに改定が行われちた。死因だけではなく疾病原因(Cause of Morbidity)を含む第6版が出版された1948年に、WHOが責任機関として引き継ぐこととなった。 最新の分類は、ICDの第10回目の修正版として、1990年の第43回世界保健総会において採択されたものであり、ICD-10と呼ばれている。現在、我が国では、一部改正の勧告であるICD-10(2003)に準拠した「疾病、傷害及び死因分類」を作成し、統計法に基づく統計調査に使用されるほか、医学的分類として医療機関における診療録の管理等に活用されている。(仲佐保) |
用語 | 下痢症 |
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概要 |
(英語訳: Diarrhoeal Diseases) 臨床経過から急性下痢症と慢性下痢症に分類される。急性下痢症は急に発症し持続が2週間以内のもので、細菌やウイルスによる感染性下痢症が多く、経口補液療法(ORT)が有効である。慢性下痢症は2週間以上続く下痢で、ORTの効果に乏しく予後不良で、感染性因子以外に宿主免疫能や栄養状態の関与が考えられている。細菌性下痢症の中で赤痢とコレラは、適切な抗菌薬投与により予後や排菌期間の改善が期待できる。赤痢に対してはナリジクス酸やキノロン系が効果的であるが、耐性化がきわめて早い。コレラはテトラサイクリン系が有効であるが、小児にはマクロライド系を用いる。コレラ患者では、激しい下痢や嘔吐により身体から大量の水分と電解質が失われるため、急速に脱水が進行し時には循環虚脱に陥る。だからこそ脱水の治療であるORTが著効を示す疾患でもある。ウイルス性下痢症の原因として、ロタウイルス、ノロウイルス、腸管アデノウイルスなどがある。中でもロタウイルスは頻度が高く、脱水の程度も強い。ロタウイルス感染症には先進国の子どもたちも頻繁に罹患するが、輸液療法など治療法の向上により死亡例は少ない。一方途上国では、多くの子どもたちが本疾患により命を落としている。近年欧米諸国で認可された改良ロタウイルスワクチンの、途上国における有用性を評価することは、国際保健における大切な課題である。(中野貴司) |
用語 | ヘルスセクターリフォーム |
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概要 |
(英語訳 : Health Sector Reform / HSR ) HSRは、「保健セクターの効率性、公平性、効果を向上させるための持続的かつ目的のある変革」と定義されている。1980年代末になり、個々の vertical program の有効性に限界が指摘され、また、構造調整政策などの影響もあり、保健医療分野においては財源の逼迫は大きな課題であった。1990年代初期には、多くのドナーや国際機関が途上国の保健医療分野の包括的長期開発戦略の策定を援助の対象とした。 一方、同時期は、HSRは途上国だけではなく、先進国でも重要な課題であり、それぞれに様々な試みが行われていた。世界銀行は、途上国のヘルスシステムを分析し、世界開発報告「健康への投資」(1993)で、抜本的な改革に必要な一連の社会改革を提唱し、その綿密さと名声によって瞬く間に世界中の保健セクター改革の宣言文となった。この中で、疾病の負担の減少につながる進歩を妨げ、健康問題への新たな取り組みを妨害しているとして、「不適切な配分」、「不公平」、「非効率」、「医療コストの激増」の4つの欠陥を特定し、これらを是正するための処方箋として以下の政策目標を掲げている。 1)家庭の健康増進を可能にする環境作り、 2)保健への政府投資の改善、 3)民間セクターの関与の促進。 これらの政策目標は、保健省を再編する、公的医療サービスに利用者負担を導入する、健康保険制度を設置あるいは拡大する、地方/県政府レベルへ分権化する、公的医療サービスを民営化する等の方法論に凝縮されている。 HSRは、しばらくの間、保健医療分野の国際協力を席巻したが、策定された開発戦略に沿って各ドナーによる援助が調整された国はわずかである。 保健医療分野における潮流は、Sector reformへの協力に加えて、Sector Wide Approach (SWAP) やSector Investment Program (SIP)等のSector Program Approachという新しいプロセスにおける試みが行われつつある。 |
用語 | HSR |
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概要 | →ヘルスセクターリフォーム |
用語 | ユニセフ |
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概要 | →国連児童基金 |
用語 | タンパク・エネルギー栄養失調症 |
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概要 |
(英語訳 : Protein Energy Malnutrition) タンパク質エネルギー欠乏症は生命に必要な主要栄養素が不足する状態であり、死亡原因になりやすい。アフリカを中心に全世界で4億人が苦しんでいると言われている。通常5歳未満の子どもが最も深刻な影響を受けるが、それより年長の子どもや成人が冒される危険性も高い。 タンパク質エネルギー欠乏症はマラスムス(Marasmus)、クワシオコール (Kwashiorkor)、マラスミッククワシオコール(Marasmic kwashiorkor)に分けられる。 マラスムスは長期間のエネルギーおよびタンパク質両方の不足による低体重で、肩、腕、尻、腿が骨と皮しかない重度の低栄養状態(やせ)である。いわゆる”old man face(老人のような顔)”、”baggy pants(尻の皮膚がたれてだぶだぶのパンツのよう)”の特徴がある。その他の症状として、空腹(hunger)、萎れた様相(wizened appearance)、落ち着きがなく興奮状態、食欲がない、髪が薄いか全くない等がみられる。 クワシオコールは1~4歳に多く診られる。エネルギーに比してタンパク質摂取が不足した状態であり浮腫が診られるのが大きな特徴である。蛋白合成ができないための浮腫により体重は不変かむしろ増加することがあり、太っているように見えることもある。その他の症状として脱色したような髪の色、皮膚病”flaky-paint(肌の色の部分が薄い色になる)”、無表情、陰気、過剰反応、食べる意欲がない等がある。 マラスミッククワシオコールはマラスムスとクワシオコールの両者が重なった症状で低体重かつ浮腫が診られる。 タンパク質エネルギー欠乏症に対する一般的な治療は2フェーズからなる。初期段階としての短期的治療と食料援助による注意深いモニタリング、その後の長期的段階としてのリハビリテーションと再発予防である。WHOとユニセフではPEMの対策として完全母乳と適切な補助食の普及を図るためのIYCF(Infant and Young Child Feeding)グローバル戦略を途上国に推奨している。(石川みどり) |
用語 | アジア開発銀行 |
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概要 |
(英語訳:ADB, Asian Development Bank) |
用語 | KAP調査 |
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概要 |
(英語訳:KAP (Knowledge, Attitudes and Practices) survey) |
用語 | スケールアップ |
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概要 |
(英語訳:Scale up) これ自体が特別な用語ではないが、2006年頃からエイズ対策などのプログラムの中で汎用される言葉である。日本語では「拡大」とか「展開」と訳されていることが多い。 政府があるプログラムを開始する際に、ある一部の地域でパイロットとしてプログラムを開始し、パイロット終了後にパイロットを評価し、その後の全国展開の段階を「scale up phase」と呼ぶことがある。また、このような地理的な「スケールアップ」以外に、例えば、病院レベルのみで実施されていたエイズ治療を、保健所やコミュニティーレベルでも実施しようとするときも、「スケールアップ」と呼ぶことがある。 エイズ対策は、一部のパイロット地域や限られた施設でのプログラムの成功例は多くあるが、全ての住民にプログラムでの医療サービスが行き届くようにすることが一番の難しさとも言われている。一方、国連・WHOはエイズ対策として2010年までに誰もがエイズ予防・ケア・治療へのアクセスを持つことを目指した「Universal Access」を打ち出しており、最近「スケールアップ」の言葉が多くの国で使用されるようになった。(垣本和宏) |
用語 | 地理情報システム |
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概要 |
(英語訳:GIS, Geographic Information Systems) GISは、デジタル化された地図データや位置情報を持つさまざまなデータを統合的に扱い、データの作成、視覚化、保存、利用、管理する情報システムそのものを意味してきた。データは地図上に表示されるので、解析対象の分布や密度、空間検索や空間分析の結果を視覚的に把握することができる。我が国では、1995年の阪神淡路大震災での復興支援事業を契機に、空間的思考や意思決定を支援する新しいツールとして幅広く認知されるようになった。今日では、地理情報に固有な問題を幅広く対象とし、地理情報を系統的に処理する方法論を研究する新しい学問領域(地理情報科学 Geographical Information Science)として知られる。 保健医療分野におけるGISの利用は、疫学情報の視覚化(疾病地図)、疾病の地域集積性の検出、疾病の地域リスク要因の検討、感染症媒介生物の生態解析、保健医療サービスの計画・評価、保健医療情報のインターネット配信など多岐に渡る。地理空間的視点から疫学研究に取り組む空間疫学(Spatial Epidemiology)は、GISと親和性が高い。 センサスやサーベイランスにGISを導入する事例が増えており、GPS(Global Positioning System)で測位した位置情報と調査データを連結させて、疾病対策などに活用されている。広域観測が可能な地球観測衛星から得られる植物活性、土地被覆分類、地形情報、大気情報、海面温度などの種々のリモートセンシングデータは、定量的かつ面的なもので、患者や感染症媒介生物の地理情報と組み合わせて、疫学分析に活用されている。(谷村晋) |
用語 | 咀嚼 |
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概要 |
(英語訳:Mastication) 食物を口に入れ、粉砕し唾液と混和し嚥下できるような食塊(bolus)を作る過程を咀嚼と言う。 咀嚼は上下顎の歯牙、咀嚼筋、唾液腺、舌(味覚)や口腔粘膜や歯根膜の感覚器などが関与する総合運動機能である。歯科医療の供給が脆弱な途上国の住民にとって、歯牙が溶解する齲蝕(むし歯)や歯槽骨が溶解する歯周病は共に硬組織疾患で自然治癒が不可能である。その結果、咀嚼機能が低下し摂食障害を招きQOLに影響を及ぼす。 咀嚼機能を評価するには、良く噛めたどうかを主観的に評価する方法、現在歯数や喪失歯数から評価する方法、噛み合わせの面積や咬合力や顎運動により評価する方法、咀嚼された試料の溶出度や粉砕度(粒度分布)から咀嚼能力を求める評価法など多くの方法がある。しかし、咀嚼は咬断、粉砕、臼摩など複雑な運動様式を総合した機能であり客観的に一つの方法で評価することは困難である。途上国で比較的簡易に咀嚼機能を評価する方法としては現在歯数や喪失歯数からもとめる方法が薦められる。(中村修一) |
用語 | GOARN |
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概要 | →地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク |
用語 | CPI |
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概要 | →地域歯周病指数 |
用語 | 国立国際医療センター |
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概要 | →国立国際医療研究センター |
用語 | NCGM |
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概要 | →国立国際医療研究センター |
用語 | 熱帯病研究訓練特別計画 |
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概要 |
(英語訳:TDR: The Special Programme for Research and Training in Tropical Diseases) TDRは、世界保健機関(WHO)の組織として、国連児童基金(UNICEF)、国連開発計画(UNDP)、世界銀行(WB)が共同スポンサーとなって、開発途上国に蔓延するマラリア、住血吸虫症、フィラリア症(リンパ系フィラリア症、オンコセルカ症)、ハンセン氏病、トリパノソーマ症及びリーシュマニア症の6疾患に焦点を合わせ、研究開発や教育訓練を行う事業として1975年に設立された。近年では、TDRの研究開発は、貧しい人びとの居住する地域や国家の公衆衛生に関する制度を総合的により広く検討し、住血吸虫症、結核、デング熱なども含めた、いわゆる「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases:NTDs)」の予防・診断・治療に関する事業を行っている。一方、TDRは自らの研究施設や研究者を持たないので、各国の保健省をはじめとする政府機関、公的な研究施設や大学研究機関、製薬企業やNGOなどの官民のパートナーシップを繋ぐネットワークオーガナイザーとしての役割が主要業務といえる。(狩野繁之) |
用語 | 専門技能者 |
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概要 |
(英語訳:Skilled Birth Attendant) SBAとは専門の技能を持つ分娩介助者のことをいう。 医師、助産師、看護師等のように、正常な妊娠・出産・産褥期において、その管理に必要な熟練した技術を修得した者であり、社会的に認められ、妊産婦や新生児の異常時の管理、緊急移送など、ヘルスプロフェッショナルとして公認された者である。 これに対しTBA(Traditional Birth Attendant)とは伝統的産婆のことをいう。WHO(世界保健機関)は、TBAとは専門的訓練を受けていないが、伝統的に、しかも自立して地域で妊娠・出産・産後の世話をしている者と言及している。 WHOはSBAの立会いの下での出産を推奨しているが、開発途上国ではSBAの立会いの下での出産は少なく、世界平均の62%を下回る国がアフリカ、アジアを中心に37か国も見られる。SBA立会いの下での出産ができていない妊産婦は、産前・産後のケアも十分に受けられていない。 WHOは妊産婦死亡の減少に向けて、専門技能者SBAの立会いを推奨し、医師、助産師、看護師の役割を明確にしている。また、TBAは出産の介助を行うのではなく、妊娠・産後のケアや相談、SBAへの妊産婦の紹介、異常時の紹介等が主な役割であるとしている。 TBAでも高等教育を受け、保健省等による公的訓練を受けた場合は介助が可能としているが、いかなる場合もSBAと連携を取りながら実施することを推奨している。(丹野かほる) |
用語 | HPI |
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概要 | →人間貧困指数 |
用語 | 青年海外協力隊 |
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概要 |
(英語訳:JOCV, Japan Overseas Cooperative Volunteers) 1965年にわが国政府の事業として始まり、1974年に発足した国際協力事業団(現独立行政法人国際協力機構:JICA)に受け継がれた事業で、開発途上国の人々のために自分の能力や経験を活かしてみたいという満20歳から満39歳までの若者支援事業である。青年海外協力隊は現地の人々と共に暮し、同じ言葉を話しながら、その国の人造り、国造りに協力する「草の根レベルのボランティア」と言える。ラオスへの初派遣以来40年間で82ケ国(アジア、アフリカ、中近東、中南米、大洋州、東欧)へ計30,000人余り(2008年1月現在)の隊員が派遣され、現在も約2,500人が派遣されている。派遣期間は原則として2年間である。対象職種は農林水産業、加工、保守操作、土木建築、保健衛生、教育文化、スポーツ、計画・行政の8部門、約120職種にわたる。青年海外協力隊員は公募され、選考を経て、65日間の派遣前訓練を実施した後、任国へ派遣される。保健医療分野では、歯科医師、薬剤師、看護師、助産師、保健師、臨床検査技師、言語療法士、診療放射線技師、歯科衛生士、理学療法士、作業療法士、栄養士、公衆衛生、エイズ対策、感染症対策など多くの職種が派遣されている。(坂本 真理子) |
用語 | IHR |
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概要 | →国際保健規約 |
用語 | グローバルヘルス |
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概要 |
(英訳:Global Health) 保健医療問題が国境を越えて拡がる事が多くなってきた。発展途上国、工業国にかかわらず国際保健医療の問題が発生して健康格差が生じている。 これらの問題の実態を明らかにして解決方法を探り対策を講じる必要性が増している。今までインターナショナルヘルスが一般に使用されてきたが、地球規模の問題は国境の概念を超えるので用語にもグローバルヘルスが導入、使用され始めている。 交通運輸の革命的発展がこれらの進行を促進している。国際政治の世界的展開にも関わりグローバルヘルス問題はますます関心を集める様になっている。地球環境問題の影響の拡がりも大きな要因である。世界の保健医療問題を世界規模で対応するのは国連の世界保健機関(WHO)であるが、各国共に関心が増大しODA, 財団などNGOも積極的に乗り出している。 グローバルヘルスで対象となる分野は極めて広いが、従来からの懸案として挙がっているのは感染症、母子保健、栄養不足問題などインターナショナルヘルスと同様であるが、難民の保健問題、糖尿病など栄養異常問題、生殖医学、生命倫理などを取り入れる立場もある。感染症問題ではエイズ、結核、マラリア(ATM)が三大感染症として大きく取り上げられているが、その他にも生命に大きく関わる下痢症、呼吸器感染症などに支援がなされている。 ワクチンで予防できる感染症は世界規模で対策が進められていて天然痘の根絶成功いらいポリオ、麻疹などに進展が期待されている。インフルエンザ、SARSなども地球規模(Global)の対策が必須である。如何にして対応するかが国際的な競争の中で研究、実行されている。(石井 明) |
用語 | 西太平洋地域事務所 |
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概要 |
(英語訳:WPRO, Western Pacific Regional Office) WPRO(西太平洋地域事務局)は、WHO(世界保健機構)の西太平洋地域の代表として、フィリピンのマニラに地域事務所を持ち、西は中国、南はニュージーランド、東は太平洋の37の国・地域に事務所を有する。人口数では、世界の三分の一の16億を超える。目的は、WHOのミッションである世界のすべての人々の肉体的、精神的及び社会的な健康を得るために、あらゆる公衆衛生問題における西太平洋地域における対応を行うことである。 近年の主な活動は、はしかとB型肝炎を中心とした拡大予防接種計画、マラリア、結核、エイズを中心とした感染症対策、新興・再興感染症対策、特に新型インフルエンザ流行に備えての緊急対策に重点をおき、世界保健規則(IHR)が発効した2007年からは、これに基づき、この地域のすべての国々がこれらの疾患の流行に対しての検知対応する最低限の能力を持つ事を目的に、アジア太平洋地域における新興感染症対策5カ年活動計画が作成した。 そのほか、小児保健、リプロダクティブヘルス、非感染症疾患対策、緊急人道援助等、幅広い活動を行っている。さらに保健システム強化のためのキャパシティビルディングにも力を入れている。 2000年から2008年まで、日本の尾身 茂氏が事務局長を勤めていた。(仲佐保) |
用語 | 狂犬病 |
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概要 |
(英語訳:Rabies) 狂犬病ウイルスはイヌ以外にも多数の野生動物が保有し、これらによる咬傷、稀には噴霧気道感染により感染する。全世界では、毎年数万人が狂犬病によって死亡しているといわれ、アジア地域での発生が最も多い。 わが国では2006年、30数年ぶりに2名の患者が報告されたが、フィリピンでの受傷であった。感染から発症までの潜伏期間は個々の症例で異なるが、一般的には1~2カ月である。発熱、頭痛、倦怠感、筋痛などの感冒様症状ではじまり、咬傷部位の疼痛やその周辺の知覚異常、筋の攣縮を伴う。中枢神経症状は運動過多、興奮、不安狂躁から始まり、錯乱、幻覚、攻撃性、恐水発作等の筋痙攣を呈し、最終的には昏睡状態から呼吸停止で死にいたる。狂犬病は一度発症すれば、致死率はほぼ100%である。 狂犬病が疑われるイヌ、ネコおよび野生動物にかまれたり、ひっかかれたりした場合、まず傷口を石鹸と水でよく洗い流し、医療機関を受診する。必要に応じて、狂犬病ワクチン(曝露後免疫)・抗狂犬病ガンマグロブリンを投与する。 狂犬病は一旦発症すれば特異的治療法が無いので、できるだけ早期にワクチンとガンマグロブリンで対処する必要があるが、国内では抗狂犬病免疫グロブリン製剤は入手できない。予防目的でのワクチン接種(曝露前免疫)も有効である。(中野貴司) |
用語 | 急性呼吸器感染症 |
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概要 |
(英語訳 : ARI, Acute Respiratory Infections) 急性呼吸器感染症(ARI)の中で特に肺炎は、症状が重く死亡率も高いので早期発見と適切な治療が大切である。しかし途上国においては、レントゲン検査が実施できるとは限らない。 そこで呼吸数と陥没呼吸の有無により、ARIを?上気道炎、?軽症肺炎、?重症肺炎、に分類し対処する。 “咳”のみが症状の場合は上気道炎として対症療法を行い、抗菌薬は投与しない。ただし、A群溶連菌感染症や中耳炎に対しては抗菌薬を考慮する。 “咳”と“多呼吸”を認める場合は肺炎である。1分間の正常呼吸回数は年齢によって異なり、低月齢乳児では生理的に呼吸数が多い。 “多呼吸”の判定基準は、2ヶ月未満:60回/分以上、2ヶ月以上1歳未満:50回/分以上、1歳以上5歳未満:40回/分以上である。 「軽症肺炎」の患者には、外来で抗菌薬を投与する。“陥没呼吸”を認めれば、入院治療の必要な「重症肺炎」である。 意識障害や経口摂取不良など“危険な臨床徴候danger signs”に注意することも大切である。 用いる抗菌薬は、ペニシリンが基本薬剤となる。治療開始後48時間で効果を評価し、現状の治療を継続するのか変更するのかを検討する。 低出生体重、栄養不良、母親の知識不足などは児のARI罹患や重症化の危険因子であり、ARI対策として母子保健の向上や教育啓発活動、IMCIの実践が有用である。(中野貴司) |
用語 | 学校保健 |
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概要 |
(英語訳 : School Health) 現在学校保健の途上国支援の主流は包括的学校保健となっている。WHOはこの包括的学校保健をコンセプト化してHealth Promoting Schoolというヘルスプロモーションを基盤とした戦略を打ち出した。 他にもUNICEF等各ドナーが包括的学校保健について独自の戦略を打ち出していたが、2000年にFRESH(Focusing Resources on Effective School Health)として各開発パートナーが同意した戦略として統合されている。戦略は以下の4つのコンポーネントを統合的に行うものとなっている。1)学校保健に関連したポリシー 2)安全な水と環境 3)健康教育 4)学校を基盤としたヘルス、栄養のサービス。援助する側からは見逃されやすいものとして「学校保健に関連したポリシー」であるが、これは自発的な発展を促すには必要不可欠なコンポーネントとなっている。 学校がそれぞれのポリシーをもち自発的学校保健活動を展開し、さらに学童それぞれがポリシーをもち学校保健活動に主体的に取り組むことで継続性のある学校保健が展開できるのである。Health Promoting Schoolには上記4つのコンポーネントとは別に独立したコンポーネントとして「地域との連携」をあげられていたが、FRESHでは地域との連携はすべてのコンポーネントに重要であるとされている。つまり学校から地域にポリシーや環境改善、健康教育を発信でき、逆に地域住民が学校保健に参画することによってより効果的かつ継続的に学校保健活動が展開できることになる。 現在包括的学校保健は、感染症対策における健康教育のアプローチとしても注視されソーシャルワクチンの一つともいわれている。また包括的学校保健はヘルスプロモーションの一環としても重視され、途上国保健開発の新しいアプローチとして取り上げられるにいたっている。(小林潤) |
用語 | ユーザーフィー |
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概要 |
(英訳:User fees) 国際保健の分野では、ユーザーフィーとは、患者やその家族が直接医療機関に支払う診療費を指す。 途上国において医療コストを賄うに当たって、外部からの援助に頼るだけでなく、自分の国でも何らかの財政基盤を作ろうとするとき、現在考えられている方法としては、最終的には先進諸国と同様に保険(Insurance)制度の構築を目指す場合が多い。 しかしながら実際には、途上国では人々の貧困の割合が多く、掛け金である保険料を支払えなかったり、自分が健康であると感じているのに保険料を支払う必要を感じていなかったり、あるいはインフラストラクチャーが整っていないなど、保険制度の導入が難しい途上国も多い。 これに対してユーザーフィー制度は、取り合えず利用者から診療コストを徴収しようという制度で、通常、診療費の徴収に当たっては、保健医療サービスへのアクセスのための経済的な障壁を取り除くため、貧困者を同定して、貧困者保護のための「支払い免除(Exemption)」の制度を同時に導入することが重要である。 しかしながら、患者の状況を医療施設の職員がよくわからない場合や患者の言うことをどこまで信じられるのかなど、時に貧困者の認定は困難である。貧困者の認定をその患者の住む地域の首長などに認定してもらうなどの制度を取り入れる場合もあるが、その場合でも時に選挙の見返りや、診療費が浮いた場合のキックバックなど不正が起こる可能性も否定できない。 さらに、お金を利用者から直接受け取る医療機関の取り分の率(Retention rate)が少ないと、医療機関での料金徴収が進まなかったり、あるいは、診療費収入からの収入の一部をそこに働く職員の給与補填に当てる場合も多いが、その場合、職員へのお金の実入りが少なくなる貧困者の認定を渋るなど、診療費制度の導入もあまりうまくいっていない事例も多いが、必ずしもすべてがうまくいっていないわけではない。(明石秀親) |
用語 | プリシード・プロシードモデル |
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概要 |
(英語訳:PRECEDE-PROCEED Model) 米国、カナダを中心に、世界各地でよく用いられているヘルスプロモーションや保健プログラムの企画・評価モデルである。PRECEDE-PROCEEDモデルは以下の段階からなる。 第1段階:社会アセスメント:対象集団が自分自身のニーズやQOLをどう考えているのかを知る段階。 第2段階a:疫学アセスメント:健康目的を具体的に特定する段階。 第2段階b:行動・環境アセスメント:健康問題の原因となっている行動要因と環境要因を特定する段階。重要性と変わりやすさによって要因をしぼり、行動目的あるいは環境目的を作成する。 第3段階:教育/エコロジカル・アセスメント:行動・環境目的を達成させるために、具体的に変えていかなくてはならない要因を特定する段階。要因は準備要因、強化要因、実現要因の3つのカテゴリーにわけられる。 第4段階:運営・政策アセスメント:プログラムに必要な予算や人材などの資源とプログラム実施の際の障害などを明らかにする。現行の政策、法規制、組織内での促進要因や障害要因なども明らかにする。 第5~8段階:実施と評価:プログラムの実施段階では、さまざまな介入策を組み合わせていく。評価の視点は最初の段階からもったほうがよい。第4段階までに適切な指標を作ることによって、後の評価が簡単になる。 実施がある程度すすんだところでプロセス評価を行う。事業に投入した内容、実施段階での諸活動、プログラム関係者の反応などを評価する。次は影響評価である。第2b、第3段階で設定した行動・環境目的と、準備要因、実現要因、強化要因の分析結果に基づいて得られた諸目的が、どの程度達成されたかを評価する。 最後に結果評価である。第1,第2a段階で設定したQOLに指標と健康目的を評価する。 Precede-Proceedモデルはあまりにも包括的すぎて、難しいという側面もある。しかしながら、このモデルの概要を知っておくことは、国際保健領域におけるヘルスプロモーション活動実践のためにも重要である。(神馬征峰) |
用語 | ヘルスシステム |
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概要 |
(英語訳 : Health System) ヘルスシステムはヘルスケアシステムとも呼ばれ、人々に保健医療サービスを提供するために必要な資源、組織、財政およびマネジメントを組み合わせた複合的な活動とされる。また、その目的のために割り当てられた資源を用いて、具体的なヘルスプロモーション、疾病予防、疾病治療および機能回復サービスを人々に提供するために組織されたアレンジメントをヘルスシステムという。 WHOではヘルスシステムを、第一の目的が健康の増進、回復、維持であるようなすべての活動を含むものと定義し、その中に含まれる活動として、 (1)公的なヘルスサービス、 (2)伝統的治療師による活動、 (3)医薬品の使用、 (4)疾病の家庭治療、 (5)ヘルスプロモーション、疾病予防および健康改善のための公衆衛生活動、 (6)健康教育、 を挙げている。 ヘルスシステムの核となる活動は、先進国、途上国を問わず、さまざまな種類のプログラム形成であり、これは資源、すなわち人材、施設、必要物品および知識の複合体の活用に基づいて行われ、そこから人々に保健医療サービスが提供される。また、資源の活用、プログラム形成および保健サービス提供のすべての面において、経済支援とマネジメントの両面からサポートが必要である。 人々の保健医療に対するニーズへの対応は、このようなヘルスシステムのプロセスを通じて行われ、その結果一定の健康水準がもたらされることになる。 現在、途上国のヘルスシステムが直面する主要課題として、 (1)保健医療分野で働く人材の不足による保健医療労働力の危機、 (2)劣悪な保健医療情報システム、 (3)不十分な保健財政、 (4)公平性に向けたヘルスシステムの構築 が挙げられている。これらの課題に対応するために、さまざまな形のヘルスセクターリフォームが実施されている。(中野博行) |
用語 | インフルエンザ |
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概要 |
(英語訳:Influenza) 原因となるインフルエンザウイルスにはA・B・Cの3つの型があるが、ヒトで流行するのはA型とB型である。 A型インフルエンザウイルス表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、これらの型の様々な組み合わせにより、ウイルスの抗原性が決まる。 ブタやトリなどヒト以外の宿主に分布するウイルスもあるが、ヒトに感染するA型インフルエンザウイルスは数10年ごとに突然別の亜型が出現する。これが、新型インフルエンザの登場である。 人々は新型ウイルスに対する免疫がなく、大流行となり多大な健康被害につながる。1918年には新型のスペインかぜ(H1N1)が世界各地で猛威をふるい、全世界での罹患者6億、死亡者は2000~4000 万人にのぼったといわれる。昨今は、トリの高病原性ウイルスA/H5N1が、ヒトの間で新型インフルエンザとして流行するのではと危惧されている。 インフルエンザの臨床症状は、急に現れる発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛などであり、通常の感冒と比較して全身症状が強い。高齢者では呼吸器系合併症により死亡する場合がある。小児では脳症の合併が特に日本で多いとされている。 抗インフルエンザウイルス剤としては、現状ではM2イオンチャンネル阻害薬(アマンタジン)とノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル)が入手可能である。(中野貴司) |
用語 | R&D(研究開発) |
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概要 |
(英語訳:Research and Development) 保健研究開発の潮流は、世界保健総会 World Health Assembly (WHA) の決議を見ると理解しやすい。 2016年5月の WHA では、23号決議 (WHA69.23「研究開発に関する専門家諮問作業部会:資金調達と調整」の報告のフォローアップ) でR&D に言及している。これは 2013 年の同名の決議 (WHA66.22) に沿ったものである。 全ての人が過不足なく医薬品を使用するためには、適正な R&Dが重要である。そのためには高価な医薬品のみでなく安価な医薬品を開発し、先進国で問題となる疾患のみならず、開発途上国で影響の大きい疾患も研究する必要がある。 このような R&D の不均衡を避けるための組織が「保健研究開発 グローバル・オブザーバトリー (Global Observatory on Health R&D)*1」である。そのウェブサイトでは、人口統計や研究資金など、様々なデータが得られる。これによって、それぞれの地域や疾患に対して、適切な研究開発が行われているかというモニタリングが出来る。 しかし、R&D の公平性は必ずしも保たれているとは言えず、例えば、主に低所得国および低・中所得国で問題となっているマラリアと結核は、保健研究開発に関するグローバルファンドの 1% が費やされているに過ぎない*2。資金の確保とのその配分は、現在グローバルヘルスが抱える大きな課題である。(神作麗) *1 : http://www.who.int/research-observatory/ *2 : http://www.thelancet.com/pdfs/journals/lancet/PIIS... |
用語 | アジアインフラ投資銀行 |
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概要 |
(英語訳:AIIB, Asia Infrastructure Investment Bank) アジア地域の相互接続性及び経済統合並びに既存の多国間開発銀行との協力を理念として中国が主導して2013年に設立が提唱され、2016年1月に開業した国際開発金融機関。本部は中国の北京。初代総裁は世界銀行(WB)やアジア開発銀行(ADB)での勤務経験がある金立群(Jin Liqun)が2016年1月から5年間の任期で選任された。 創設時は57か国であったメンバーは、2018年10月時点で87か国(手続き中を含む)となっているが、ADBを主導する日本と米国は加盟していない。2018年10月現在で中国は約31.0%を出資し、議決権は約26.6%を占めている。議決権が2番目に多いのはインドの約7.6%、アジア域外加盟国全体では約25.0%である。 2016年6月に最初の事業として、バングラデシュの電力改善融資及び3件の協調融資案件の総額約5億ドルが承諾されて以降貸出しが展開され、2017年末までに23件が承諾されている。(平岡久和) |
用語 | Unmet Need |
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概要 |
"need"の定義は、「プロフェッショナルの視点から捉えた、ある対象集団の課題」である。したがって"unmet need"は、「課題があるにもかかわらず、それが解決されない状態である」ことを記述的、定性的、あるいは定量的に示す。つまり、対象集団の"need"が確定してはじめて"unmet need"を示すことができる。 "need"と"unmet need"の考え方は、どの保健医療サービスにも適用することができる。本項では、一例として母性保健で用いられる"unmet obstetric need"を例にとって解説する。 ベルギー・アントワープ熱帯医学研究所に事務局を置くUnmet Obstetric Need Networkは、妊産婦死亡低減のための政策決定およびプログラム策定等に資する臨床疫学研究を世界各国で実施し、その系統的解析を行うことで、公衆衛生学的知見を集積・活用する目的で設立された。ここで"need"は「妊産婦死亡に至る重篤な合併症を発症した妊産婦のうち、救命のために帝王切開などの外科的医療介入を要する事態」と定義し、その発生率は全分娩のおよそ1.1-1.3%と推定されている。 ある地域・期間を設定した場合、その条件下での分娩数は推計が可能である。また、その地域からアクセス可能な産科医療施設で調査をすることで、当該期間中に対象地域に居住する妊産婦に対して実施された帝王切開などの医療介入数、およびその適応疾患名を調査し集計することができる。したがって出産数の一定割合(1.1-1.3%)を"need"、実施された医療介入数を"met need"とすることで、外科的医療介入が必要であったにもかかわらず、その利用ができなかった妊産婦数を"unmet need"として計算することができる。今回の文脈では、重症合併症を有したにも関わらず、救命のための外科的手段が受けられなかった妊産婦、すなわち把握することができなかった妊産婦死亡数の代替指標として用いることができる。 妊産婦死亡率は一般的に国という地理単位でしか推計できず、またその経時的変化を有意に検出することが難しい。一方で上述のunmet obstetric need指標は、より数が少ない対象集団の数年間の推移を観察することができ、また推定死亡を県・郡別に示すことができるため、政策決定、プログラム策定およびモニタリング・評価に用いやすいという特徴がある。(松井三明) |
用語 | カナダグローバル連携省 |
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概要 |
(英語訳:Global Affairs Canada) カナダにおける国際協力の窓口機関であったカナダ国際開発庁(Canadian International Development Agency: CIDA)が、外務国際貿易省(Department of Foreign Affairs and International Trade: DFAIT)と2013年に統合されて外 務 貿 易 開 発 省(Department of Foreign Affairs, Trade and Development: DFATD)となった後、更に改組されて設立された、国際開発大臣のもとで開発について取り組むカナダの政府開発援助の主要な実施機関。全実施機関の*1約53.4億カナダドル(2016~17予算年度)のうち、約39.1億カナダドル(約73.2 %)がGlobal Affairs Canadaを通じて提供されている。 カナダ全体では、アフリカへの協力が中心となっており、2016年のODAは34%を占め、アジア(大洋州含む)の18%と続いている。二国間で見ると、2016年はアフガニスタン、エチオピア、マリの順で多くの支援を行った。分野別では保健分野に対しての協力は二国間協力総額の約20.4%を占めている。さらに、カナダの知見と組織の活用も積極的に進めており、2016年の二国間ODAのうち、市民社会組織(CSOs)を通じた協力が28.9%を占めている。(平岡久和) |
用語 | グローバルエイジング |
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概要 |
(英語訳 : Global Ageing) 国連の人口推計によれば、2015年の世界人口において65歳以上人口が占める割合は8.3%であるが、この割合は2050年にはほぼ倍の15.8%に上昇する。世界全域で高齢人口割合は上昇するが、いまだ低いアフリカ地域においても、高齢者数に注目すると、2010年から2030年にかけて高齢者数は倍増し、アジアやラテンアメリカと同様の伸びを示す。人口高齢化は、出生率・死亡率の低下、若者の移出といった要因によりもたらされる。死亡率が低下した長寿社会が高齢社会であり、それは祝福すべきことであるが、低すぎる出生率、多すぎる若者の移出は社会の存続をおびやかすものである。保健分野に注目すれば、高齢化により慢性疾患が増加し医療費の増大をもたらすが、さらに低・中所得国では早すぎる人口高齢化により、感染性疾患と慢性疾患のいずれもが蔓延する二重負担(Double Burden)状態となっており、保健システムの拡充が求められる。2002年にスペイン・マドリッドで開催された高齢者問題世界会議(国連主催)では、世界全域における高齢化に対し、活動的な高齢化(Active Ageing)の推進をはじめ、高齢者の活発な社会参加と開発、環境整備を謳っている。(林玲子) |
用語 | フィスチュラ |
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概要 |
(英語訳: Fistula) 産科瘻孔とは、腟壁を貫通して、膀胱、尿道、または直腸と腟との間が慢性的につながった状態を指す。 2015年時点で200万人を越える女性が罹患しており、さらに年間5~10万人に新規発生していると推定されている。その発生地域はアジア、アフリカの開発途上国が大半を占める。 発症の主要因は分娩遷延・分娩停止である。また危険な人工妊娠中絶の合併症、性的暴行の結果としても瘻孔は生じうる。 分娩時によって瘻孔が生じるメカニズムは、胎児の頭が腟壁および周囲の臓器を長時間圧迫することによって血流が阻害され、組織に壊死が生じることによる。分娩遷延・停止の要因として重要なのは「児頭骨盤不均衡」である。これは児頭が相対的に骨産道より大きいため、通過障害が起きる状態を指す。物理的な通過が完全に困難であれば、時間の経過と共に子宮破裂が発生し、最終的には母児共に落命する。 若年妊娠では、身体の成長が不充分であるために骨盤の大きさも十分ではなく、児頭骨盤不均衡を発症しやすくなる。したがって第1次予防として、適切な避妊法の利用、初婚年齢を一定以上に引き上げるなどの方策を講じる必要がある。 第2次予防の方策は、児頭骨盤不均衡の早期診断と治療である。分娩遷延が疑われる場合は速やかにその病態を把握し、必要に応じて高次医療機関へ搬送し急速遂娩(吸引・鉗子分娩、または帝王切開)の処置を行わなくてはならない。そのためには、分娩時に病態を把握することができる介助者が立ち会うこと、緊急時の搬送手段が確保しやすいことが必要である。 いったん産科瘻孔が発生してしまうと自然治癒は困難である。持続的な尿・便失禁のために清潔を保つことが難しく、自尊感情が低下し、家族・社会からも阻害されてしまう。また慢性的な感染、腎盂腎炎などの上行性尿路を繰り返す。 しかし外科的処置により80-95%の産科瘻孔は閉鎖可能である。よって、適切な治療手段を提供できる医療体制を構築すること、阻害されている女性に情報が届き、医療にアクセスできることなどの対策を行うことが必要である。(松井三明) |
用語 | エンデミック、エピデミック、パンデミック |
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概要 |
(英語訳:Endemic, Epidemic, Pandemic) エンデミック、エピデミック、パンデミックはいずれも疾病の罹患状況(流行状況)を疫学的に説明する用語であり、違いを理解しておくことが重要である。これらは流行規模の違いがあり、地域的規模なものはエンデミック、中規模なものはエピデミック、そして大規模で広範囲にわたるものがパンデミックである。 エンデミックは、一定の地域または対象人口において、ある疾患が、継続的(慢性的)に発生している状況を意味する。たとえば風土病と言われるものがこのエンデミックにあたる。 エピデミックは、ある地域または対象人口において、ある疾患で、通常より多数の罹患が一定期間に急に発生する状況を意味する。その地域や対象人口に今まで存在しなかったまたは過去に存在していたが最近は曝露することが少なかった病原体が外部から流入すること、つまり集団免疫が成立していない状況で生じることが多い。突然生じるため、予測が困難なことが多いが、早期に状況を察知するシステムを確立し、察知した場合には早期に対策を講じることで、拡大を防ぎ、社会への影響を軽減することができる。 パンデミックは、エピデミックとなった疾患が、ある地域、国、大陸を超えて広範囲で同時期に流行し、大多数の人々がその疾患を罹患する状況を意味する。疾患によっては多数の死者を出す場合もある。パンデミックについてもエピデミックと同様に、国際的にその状況を早期に察知し、対策を講じる必要があり、世界保健機関(WHO)を中心に、各国政府、自治体、経済産業団体などが行動計画を作成し、パンデミックに備えている。(宮野真輔) |
用語 | エンパワメント |
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概要 |
(英語訳:Empowerment) エンパワメントは、一般に個人や社会集団が当事者のニーズや関心を表明し、意思決定に参加する手段を講ずることによって、当事者のニーズが満たされるような政治的、社会的、文化的行動を起こすことができるようになることを意味する。個人のエンパワメントでは、たとえば健康を事例とすると、自分の健康に関する意思決定ができ、健康の保持増進のために自分の生活をコントロールする能力を身につけることに該当する。一方、コミュニティ・エンパワメントでは、コミュニティに属する人々が集団として行動し、自分たちの健康やQOLに関わる要因に対して自発的に調整することに該当する。エンパワメントは、ヘルスプロモーションを達成するための重要な方略でもある。人々は、外部者からエンパワーされるのではなく、自分が本来もっている力を用いて自らをエンパワーするのであり、外部者はそのプロセスを促進するファシリテーター、触媒、あるいは伴走者としての役割を果たす。(柳澤理子) |
用語 | ヘルスセンター・ヘルスポスト |
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概要 |
(英語訳: Health Center/Health Post) ヘルスセンターはコミュニティーに設置され、住民に近い公的保健医療施設である。住民に各種疾病予防のためのサービス(予防接種、妊産婦健診)や健康教育、および基本的な治療面での保健医療サービスを提供する。名称、配置される人員、機能、設置基準などは国によって異なり、医師が常駐し入院設備を有して24時間機能する施設、看護師のみの配置で限られた時間のみ機能している施設、分娩サービスの有無などさまざまである。国の縦割りプログラムを一手に引き受けて住民にサービス提供する場でもあり、保健スタッフは多岐にわたる業務に追われる。 ヘルスポストは一般的にはヘルスセンターの下に配置され、さらに簡便な施設である。通常医師は配置されず、国によっては保健スタッフの常駐がなく管轄のヘルスセンターから予防接種などの場合に保健スタッフが派遣されるといった体制をとる所もある。 ヘルスセンター・ヘルスポストはいずれも住民に最も身近な医療機関であり、国により人口5000人~3万人に一箇所といった割合で設置される。それでも人口密度の低い地方ではそこまでのアクセスは非常に悪く、また、保健人材の配置が足りない、基本的な医薬品が届いていないといった課題が起こりうるため、住民に利用されないケースも散見される。また、上位レベルの医療機関とのリファラルシステムの構築が、ヘルスセンター機能を活性化するために不可欠である。(江上由里子) |
用語 | リファラルシステム |
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概要 |
(英語訳:Referral System) リファラルシステムは患者紹介とは医療機関を受診した患者の診療を他の医療機関に依頼することで、診療所・保健センター・地域の一次病院などの医療機関では診療できないより高度な医療行為が必要になるときや重症患者、専門外の疾患が疑われる場合、高次医療機関へ紹介・搬送して診療することで「患者紹介システム」や「病診連携システム」とも呼ばれる。なお、緊急時、対応不可能な際に患者を搬送することはこのリファラルシステムとは性質を異にする。 一方、治療により回復期に入った患者には地域の身近な医療機関を紹介し、患者はそこで回復支援やリハビリを受けて復帰を測る。このように、地元の医療機関の方が通院に適切な場合や、その患者の紹介もと出会った医療機関に再び紹介することをカウンターリファラル(逆紹介)と言う。地域の医療機関から大病院への「紹介」、大病院から地域の医療機関への「逆紹介」が円滑に行われることで、中小の医療機関と大病院が各々の役割を効果的に果たすことが期待される。 日本では2015年の医療保険制度改革により近年、大病院に地域の診療所との連携を進めるなどの責務が規定され、紹介状なしで受診する場合、通常の初診料に加え別途5000円(歯科は3000円)以上の特別料金を徴収するようになった。他の医療機関を受診するよう大病院から紹介を受けても患者が引き続き大病院の受診を希望する場合は、再診でも特別の料金がかかる。患者の高次病院への集中を防ぐという点でも一定の効果を挙げている。 開発途上国においても各レベルの医療機関の基準を設定し、機能分化と紹介の仕組みが作られているが、現実には医療資源の不足や患者の希望から、上位の医療機関を直接受診する患者が多く、リファラルシステムは制度として構築されていても適切に機能していない場合が少なくない。 リファラルシステムでは、患者紹介に加えその機能を地域・コミュニティーにまで広げ、人々が医療サービスにアクセスできる体制や情報・知識・技術の伝達までを含めた広義のリファラルシステムを考えることでUHC達成への貢献が期待される。(江上由里子) |
用語 | 英国国際開発省 |
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概要 |
(英語訳:DFID, Department for International Development) 英国の開発協力を中心的に担う組織として、1997年に設立され、アフリカ、アジア及び中東に対する支援を中心とした援助機関。英国の全ODA(2017年)139.3億ポンドであるが(GNI比0.7%を実現している)、その72.5%がDFIDを通じて供与されている。 優先課題(Strategic Objectives)は、「世界的平和・安全・ガバナンスの強化」、「危機に対する強靭性や対応力の強化」、「世界的繁栄の推進」、「極度の貧困への対応と最も脆弱な人びとへの支援」、「英国援助の資金に見合う価値と透明性の向上」の5つを掲げている。 英国ODAは62.4%が二国間協力(2017年)で、DFIDを通じた二国間協力のうち主要な協力相手先はアフリカ(25.9億ポンド:二国間協力の58.6%)であり、次いでアジア(15.7億ポンド:35.5%)と大部分を占めている。 保健分野は、2016年の二国間協力では人道支援、政府・市民社会についで、10.4億ポンド(12.2%)と3番目に大きい支援分野となっている。(平岡久和) |
用語 | 開発援助委員会 |
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概要 |
(英語訳: DAC, Development Assistance Committee) 世界の経済開発や福祉の向上のための政策を推進する経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)において、経済開発や関係する政策の推進を行う役割を持つ専門委員会として1961年に設置された。アジアからの日本及び韓国を含む30メンバー(29か国とEU)が加盟し、開発分野に係る基準や規範の設定やモニタリングに取り組んでいる。 ODAの定義設定やDAC 援助受取国・地域リスト(DAC List of ODA Recipients)の作成など開発援助に関する基準・規範設定、開発協力報告書(Development Co_operation Report)の発行などのODAに係る統計の管理、開発援助相互レビュー(Peer Review of Development Co-operation)の推進による開発援助の改善、DAC賞(DAC Prize)の設置による優良事例の共有などを具体的に行っている。(平岡久和) |
用語 | 国際人口開発会議 |
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概要 |
(英訳:ICPD, International Conference on Population and Development) 1994年、179カ国の代表が出席してエジプトのカイロで開催された国連主催の会議。リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康および権利)の推進が、今後の人口政策の大きな柱となることが合意された国際会議である。このため、人口政策の焦点がそれまでの国レベルの人口数(マクロの視点)から個人レベルの健康促進(ミクロの視点)、特に女性の健康保障やエンパワーメントに大きくシフトした。また、人口問題と開発問題が密接に関連し、相互に影響しあうという考え方が国際的な共通認識となった。これを受けて、国連の経済社会理事会の下に置かれた人口委員会も、人口開発委員会と名称を改めた。さらに国際開発枠組み(MDGsやSDGsなど)の中でも、明確に位置づけられた。開催地の名前をとって、「カイロ会議」とも呼ばれる。会議の具体的な目標の焦点は、「普遍的な教育の提供」、「乳幼児及び妊産婦死亡率の削減」、「2015年までに、家族計画、介助者のもとでの出産、HIV/エイズを含めた性感染症の予防や思春期保健を含めたリプロダクティブ・ヘルスケアへの普遍的アクセスの確立」である。 20年間の「行動計画」を採択し、各国はこの行動計画に沿って人口問題対策を進めた。5年ごとに、ICPD+5、ICPD+10、ICPD+15、ICPD+20として、見直しを実施した。この20年間で、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康および権利)は、セクシュアルをつけることで、より広範な健康と権利を指すように、変化している。(池上清子) |
用語 | 国立国際医療研究センター |
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概要 |
(英語訳:NCGM, National Center for Global Health and Medicine) 国立国際医療研究センターの前身は、1929年に設置された陸軍の病院である。戦後に厚生省の最初の国立病院として東京第一病院となり、その後、国立病院医療センターと改称、1986年には、国際協力への医療者を派遣する事を目的に国際医療協力部を設置し、1993年には国際医療協力を旨としたナショナルセンター 国立国際医療センターとなった。地球上の全人類が悩まされている疾病の克服と健康の増進に貢献している。センターには、約50名の国際協力専任の医療者(医師32名、看護・助産師13名、薬剤師1名、検査技師1名)をかかえる国際医療協力局、全専門科を網羅するベッド数800の病院、国際保健や感染症などの研究を行っている研究所、人材育成を行う看護大学校を持ち、日本における国際保健の中核施設として位置づけられている。現在、WHOなどの国連機関、10を超える世界中の国々へ、医師、看護師らの医療従事者を派遣し、母子保健、感染症、保健システム分野において、国際医療協力を実施している。2015年には、研究開発法人国立国際医療研究センターと名称が変わり、研究開発を行うとともに、日本における国際保健分野における政策提言、人材育成、情報発信、国際保健ネットワークの核となっている。(仲佐保) |
用語 | 安全な妊娠イニシアティブ |
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概要 |
(英語訳 : Making Pregnancy Safer Initiative) 安全な妊娠イニシアティブはWHOが進める母児の死亡率減少を目指した主導であり、安全な母性イニシアティブ(Safe Motherhood Initiative)を発展させたものである。安全な母性イニシアティブは、1987年にケニアで開催された「家族計画を通じた女性と子供のよりよい健康に関する国際会議」(International Conference on Better Health for Women and Children through Family Planning)において提唱された、女性の安全な妊娠、出産を目的としたものである。UNFPA,UNDP, UNICEF, WHO, World Bank, NGOなど10機関が共同で実施し、家族計画、妊婦健診、清潔で安全な分娩介助、必須産科ケア(Essential Obstetric Care: EOC)などを主要な活動として取り組んできた。 その後、2000年にミレニアム開発目標の1つに妊産婦の健康改善が盛り込まれるようになると、安全な母性イニシアティブを進めるためのより具体的な戦略として、WHOは”Making Pregnancy Safer”を掲げた。この安全な妊娠イニシアティブは、安全な母性イニシアティブと同様、妊娠・分娩・新生児のリプロダクティブ・ヘルス・ライツに焦点をあてているが、より妊産婦と乳児の死亡削減に有効な、エビデンスに基づいた介入を実施しようとするものである。(柳澤理子) |
用語 | 国連開発計画 |
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概要 |
(英語訳: UNDP, United Nations Development Programme) 国連システムの中で、国連総会と国連・経済社会理事会の管轄下にある開発に関する中心的な組織で、約170か国を対象に貧困の撲滅や不平等の削減などのために、政策立案、リーダーシップ能力の醸成や能力強化の支援を進めている。国レベルにおいては、当該国の開発に関する国連システムの調整機関として、国連内の意見調整と相手国の優先課題の調整を図っている。本部は米国のニューヨーク。 支援分野としては、ミレニアム開発目標に引き続き、持続可能な開発のための2030アジェンダの実現に向け、「持続可能な開発」、「民主的ガバナンスと平和構築」、「気候変動と強靭な社会の構築」に重点を置いた支援に取り組んでいる。 UNDPの資金規模は49.15億ドル(2017年)に上り、各国からの拠出金、多国間協力機関や国際機関から構成されている。使途に最も柔軟性がある通常資金(Regular Resource)は全体の12.5%を占めており、日本は通常資金に対して4番目に大きい拠出国となっている(その他の資金を合わせると総額3.05億ドルで2番目に多い)。 UNDPは「人間開発報告書(Human Development Report)」を毎年発行し、開発に関する重要な課題に焦点を当ててその状況を解説するほか、解決に向けての方策の提案などを図っている。(平岡久和) |
用語 | 国連児童基金 |
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概要 |
(英語訳 : UNICEF, United Nations Children’s Fund) 第二次世界大戦後の子どもに対する食糧、衣料品及び医療などの緊急援助を目的として1946年に国際連合によって国連国際児童緊急基金(United Nations International Children's Emergency Fund: UNICEF)として設立された。1953年の国連総会において常設の機関として改組されたが、略称はUNICEFが継続して用いられている。本部は米国ニューヨークにあり、7つの地域事務所、150以上の国事務所を中心に、190か国・地域での活動が実施されている。ワクチン・医薬品の調達などを行う物資供給センター(Supply Division デンマーク、コペンハーゲン)も整備されている。 2017年の支出実績額(管理費等を含む)は58.35億ドルであった。事業支出(54.49億ドル)の内訳としては保健分野が25.2%(13.8億ドル)、教育分野が22.1%、水と衛生(Water, Sanitation &Hygiene: WASH)分野が18.7%、子どもの保護、栄養といった分野が続く。地域的にはサブサハラアフリカの46.6%(25.4億ドル)で事業支出の約半分を占め、中東・北アフリカ、アジアが続いて多くなっている。 2017年の資金調達は65.77億ドルであったが、政府からの拠出金、国際機関間等公的部門が7割、民間・NGOからの寄付等が3割を占めている。日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)を通じた寄付は1.3億ドルで米国に次いで2番目に多い(日本政府からの拠出は1.7億ドルで政府・政府間機関で7番目)。(平岡久和) |
用語 | 再興感染症 |
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概要 |
(英語訳 : re-emerging infectious diseases) 「公衆衛生上ほとんど問題とならない程度まで患者が減少した後、ふたたび流行し患者数が増加した、または将来的に再び問題となる可能性がある感染症」と定義されている。これまで知られていなかった新しい感染症(新興感染症; emerging infectious disease)と対比して使われることが多い。 感染症が再興する原因は様々であるが、個々の例において原因を特定することは難しい。渡り鳥によるウイルス運搬(ウエストナイル脳炎)、保菌者の高齢化(結核)、抗微生物薬の不適切な使用(多剤耐性菌)などは特異的な原因といえるが、交通網の発達、都市化に伴う人口密度の上昇、気候変動など非特異的な環境要因も再興感染症の登場に寄与しているといわれている。 近年の日本では、デング熱(2014年、ヒトスジシマカが東京の代々木公園を中心に媒介)、麻疹(2016年、関西空港におけるウイルスの拡散)、風疹(2012~2013年に流行し45例の先天性風疹症候群、2018年9月現在患者数が急増中)、結核、梅毒などがあり、世界的にはマラリアが大きな問題となっている。国際化が進む現代において病原微生物は日々国境を越え、再興感染症はどの国においても現実的なリスクになっている。再興感染症の把握、予防、制圧には、国際保健規則などによる緊密な国際協力が必要である。(蜂矢正彦) |
用語 | 在日外国人 |
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概要 |
(英語訳 : Foreigners Living in Japan) この言葉に関する明確な定義はない。しかし、この言葉は社会一般に定着しており、日本に在住する外国人の総称として考えられる。この言葉の概念には、「日本に定住している外国人」という要素も含まれている。定住性を表す言葉として「定住外国人」がある。これは概ね5年以上の居住者を指す。在日外国人に関する表現は、その対象者の生活基盤実態を考慮して表現されている。行政の報告書では「外国籍住民」「外国籍市民」「在住外国人」の表記が多く、NGO/NPOのレポート等では短期滞在者を含めた「滞日外国人」の表記がみられる。 日本における外国人には、「出入国管理及び難民認定法」によって在留資格が定められており、法務省入国管理局では、「出入国管理及び難民認定法」上の在留資格をもって、三カ月以上日本に在留する外国人「中長期在留者及び特別永住者」を「在留外国人」と定義している。また、2012年7月には、「住民基本台帳法の一部を改正する法律」が施行され、日本人と同様に、「外国人住民」も住民基本台帳法の適用対象となった。 1980年代前半まで、在日外国人の大半は歴史的背景を持つ朝鮮半島出身の在日韓国・朝鮮人であった。その人口構成は日本人同様に高齢化、少子化が急激に進んでいる。一方、1980年代後半以降、東南アジア、南米出身の人口が急増し、在日外国人の国籍(出身地)、人種、文化等が多様化している。移住者の人口構成は、20歳代から30歳代の生産年齢人口に集中し、定住化・永住化傾向がみられる。2005年以降、在日外国人人口は200万人を超えている。日本社会における多文化共生社会の実現、在日外国人の法的人権保障の確立が社会的課題となっている。 (李節子) |
用語 | 産間調節 |
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概要 |
(英語訳: Birth Spacing) 出産間隔が短いと母体への負担が大きく、また十分な授乳期間や育児時間が確保できないことで子供への影響も大きい。特に産後1年以内の妊娠は、母児ともにリスクが高く、早産、低出生体重、胎内発育不全などのリスクが高くなると言われている。出産間隔を24か月以上あけると5歳未満児死亡が13%、36か月あけると25%減少するという。このため出産間隔をあけることが推奨され、これをbirth spacingと呼ぶ。 家族計画(Family Planning)が家族のサイズ、すなわち子どもの数を調整する志向を持つのに対し、産間調節は出産間隔をあけるという点を強調する。子供の人数を制限するという考え方が好まれない文化では、birth spacingという表現を選択的に使う場合もある。しかし、産間調節は家族計画の一部であり、家族計画を達成する手段である。WHOではPostpartum Family Planning (PPFP)の重要性を強調しており、産後に次の出産までの間隔をあけるよう指導することを強調しているが、PPHPにおいても産間調節という概念は重要である。(柳澤理子) |
用語 | 新生児ケア |
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概要 |
(英語訳 : Neonatal Care, Newborn Care) 出生時より28日間の子どもを「新生児」と呼び、生後1週間以内を「早期新生児」、それ以後を「後期新生児」と区別する。子宮外という新環境に適応しなくてはならない新生児期は、人生の中で最も生命が危険に晒される時期である。産科と小児科の領域の狭間で十分あるいは適正なケアが受けられずに死亡してしまう児も多い。新生児ケアの対象は、?出生直後の全ての児、?治療的介入を必要とする病的新生児・低出生体重児、であり、その状態および予後は、出生前の胎児期とも密接に関連する。 新生児の主要死亡原因は、未熟性、仮死、肺炎や髄膜炎等の感染症であり、死亡の多くは出生後24時間以内に起こる*1。各症候に対して効果的な介入の根拠が既に複数示されており、介入パッケージの普及で予防可能な死亡の減少が期待できる*2。しかし開発途上国では医学的介入だけでなく、種々の課題(自宅出生、保健医療施設へのアクセスの困難さ、受診した施設の水や電気等の未整備・適切なスキルを身につけたスタッフの不足、等)に同時に取り組むことが不可欠である。さらに自宅やコミュニティーで新生児を継続的にケアできる家族や保健ボランティアの役割も重視されている。 2015年に世界で死亡した5才未満の子ども590万人中、約46%(270万人)を新生児が占めた*3。子どもの死亡数減少に伴う新生児死亡の割合の相対的上昇により、新生児ケアに対する国際社会の関心は徐々に高まってきた。2014年に発表された「全ての新生児のための行動計画」では、世界の新生児死亡率を2035年までに出生1000対10以下に削減するという目標が掲げられている。(岩本あづさ) |
用語 | 世界的なアウトブレイクに対する警戒と対応ネットワーク |
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概要 |
(英語訳:GOARN, Global Outbreak Alert and Response Network) 世界的なアウトブレイクに対する警戒と対応ネットワークは、国際的に重要となる公衆衛生危機を探知し、評価し、対応するための適切な資源や専門家を確保するため、2000年に、WHO(世界保健機関)とパートナーが設立した国際的なネットワーク。世界中の様々な国立公衆衛生機関、病院、保健省、教育研究機関、研究機関やそのネットワーク、UNICEFやUNHCR等の国連機関や国際赤十字・赤新月社連盟等の国際機関、非政府組織(NGO)等、多くののパートナーが加盟している。設立以降、様々な感染症アウトブレイクにおいて、当該国に対する包括的な支援を行っている。GOARNに加盟メンバーは、各々独立した組織・機関であり、GOARNはWHOの下部組織ではないが、WHOにおける感染症危機管理の実務力(Operational arm)として認識されている。2005年に国際保健規則(IHR)が改正され、改正IHRに基づくWHOの国際的な健康危機管理対応において大きな役割を果たしている。(中島一敏) |
用語 | 世界貿易機関 |
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概要 |
(英語訳: WTO , World Trade Organization) 1995年に国家間の貿易に関する制度を取り扱うために設置された国際機関。本部はスイスのジュネーブにあり、加盟国は2016年7月現在で164か国。WTO協定(WTO設立協定及びその附属協定)では、物品やサービスの貿易に関する協定のほか、知的財産権(Intellectual Property: IP)の貿易に関する協定(通称TRIPs協定)などの国際的規則が定められている。 保健分野においてはWHO(世界保健機関)との緊密な連携を保っており、例えば医薬品やワクチン、医療機材などに関する特許などの知的財産権、FAO(国連食糧農業機関)も含めたコーデックス規格(Codex)と関連した食品安全措置などでの関係がある。(平岡久和) |
用語 | 精神保健 |
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概要 |
(英語訳:Mental Health and Well-being) WHO(世界保健機関)は、精神保健を「個人が、それぞれの可能性を実現し、日々の通常のストレスに対処でき、生産的かつ有意義に働くことができ、自身のコミュニティに貢献することができるようなウェルビーイングの状態」としている。WHOの健康の定義(1946)や国際人権規約が定める健康権(1966)にも精神保健が含まれている。国際行動計画である「包括的メンタルヘルスアクションプラン2013-2020」(WHO、2013)では、国際疾病分類ICD-10の「精神および行動の障害」を精神疾患と捉え、うつ病、双極性感情障害、統合失調症、不安障害、認知症、物質使用障害、知的障害、自閉症を含む児童期および青年期に通常発症する発達および行動の障害、自殺やてんかん等を含む。WHOは、精神疾患の生涯有病率を4人に1人、精神保健への$1の投資が$4の利益を生むとしている。青年女子の死因1位が自殺であること等を踏まえ、国連「持続可能な開発目標(SDGs)」(2015)では 、目標3に「精神保健及び福祉」の促進(ターゲット3.4)及び薬物・アルコール等「物質乱用の防止・治療」の強化(3.5)が含まれ、国際の優先事項となった。国連障害者権利条約(2006)にも、身体的及び感覚的機能障害と共に精神的及び知的機能障害が含まれている。今後は、従来の医学モデルに代わる障害者権利条約の社会モデルに基づき、地域における分野横断的で統合的なアプローチによる、精神障害のある人々の人権保護・促進及びウェルビーイングの向上が急務である。(井筒節・堤敦朗) |
用語 | 避妊法/避妊法の種類 |
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概要 |
(英語訳:Contraceptive method/Kinds of contraceptive method) 妊娠と避妊の定義は、国、地域、宗教、時代などにより異なるが、本稿では妊娠は「受精卵が着床することで成立」し、避妊法とは「妊娠の成立を阻害する方法」と定義する。 自然な状態でのヒトの妊娠成立は、視床下部-脳下垂体-卵巣系のホルモン分泌による卵の成熟と排卵、性交渉による精子の卵管への移動、精子の卵への侵入による受精、受精卵が子宮内に移動し内膜へ着床する、という経過をたどる。よって、この過程のいずれかを阻害すれば避妊を行うことが可能となる。 健康な男女が避妊をせずに標準的な性交渉を持つ場合、85%が1年以内に妊娠するとされている。よって避妊法の有効率は、年間の妊娠成立率で評価できる。 一方、避妊法は古典的方法と現代的方法に分けることができる。古典的方法としては、排卵周辺期に性交を行わない(周期法)、腟内に射精しない(性交中断法)などがある。いずれを完璧に行っても年間3-5%が妊娠する。これらの方法は、しばしば不完全に実施される可能性が高く、25-27%程度が妊娠してしまうと推計されている。 現代的方法として以下の方法(カッコ内はメカニズム)がある。ホルモン剤(排卵または着床を抑制、子宮頸管の粘液変化により精子の侵入を抑制)は経口薬、注射あるいは皮下埋め込み型の徐放剤が利用できる。経口薬は毎日服用する必要があるが、徐放剤では注射で3ヶ月、皮下埋め込み型で3年間効果が持続する。年間妊娠率は0.05-0.3%である。 子宮内避妊具(Intra-uterine device: IUD、着床または精子の受精能抑制)は、清潔操作を行い子宮内に挿入する必要があるため、一定の技術、器具、施設を必要とすることが、その普及を阻害する。年間妊娠率は0.2-0.6%である。 コンドーム(精液の腟内侵入を防ぐ)の年間妊娠率は2%程度と他の方法に比べて高くなるが、性感染症の予防手段としても有効である。 またいわゆる永久避妊法として、男性では精管、女性では卵管を外科的に結紮・切除する方法がある。(松井三明) |
用語 | 複合災害 |
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概要 |
(英訳:CHE, Complex (humanitarian) emergencies) Toole M(1995)は、 Complex emergencyを種々の要因、暴動や民族的色合いを持った紛争、内戦といった緊急で、食糧不足や大規模な住民移動が重なり、多くの犠牲者を出す状況と定義した。その後、Goodhan(1999)やBurkle F(2004)らは、政治的あるいは経済的要因にも注目している。国際赤十字によると、自然災害と人為的災害といった複雑な要因が組み合わさり、権威の失墜という背景に言及している。 現在WHO(世界保健機関)によると、Complex emergencies are situations of disrupted livelihoods and threats to life produced by warfare, civil disturbance and large-scale movements of people, in which any emergency response has to be conducted in a difficult political and security environment (2002). と定義づけられ、生活の破綻と戦争、市民生活の混乱と大規模な住民移動によって引き起こされた市民の生命の差し迫った状況の中で、緊急対応が政治的にそして安全環境の困難な中実施されなければならない、という緊急対応についても付言している。(高橋宗康) |
用語 | 文化能力 |
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概要 |
(英語訳: Cultural Competence) 文化能力とは、文化背景の異なる対象を理解し、文化的に適切な医療やケアを提供する能力であり、文化についての知識、態度、技術が複雑に統合された資質のことである。単一の共通した定義はないが、具体的には自文化の世界観への気づき、多様な文化に対する適切な態度形成、他民族の社会や文化に関する知識、言語的および非言語的なコミュニケーション能力、文化に即した医療やケアを提供する能力、経済・文化・言語の違いなどに起因する差別や不利益から対象を保護する能力などである。 Campinha-Bacoteは、文化能力について、文化への気づき(cultural awareness)、文化についての知識(cultural knowledge)、文化をアセスメントする技術(cultural skill)、文化との出会い(cultural encounters)、文化を理解したいという願望(cultural desire)という5つのプロセスにより獲得されると提唱した。 文化能力は、個人が獲得するだけでなく、組織も向上させる必要がある。組織の文化能力とは、1)組織の異文化に関する価値観や原則を示し、それらを組織の行動、態度、方針、構造に反映させること、2)組織内の多様性を尊重し、文化能力を自己評価し、構成員の違いによって生じる問題を管理し、組織として異文化に関する知識を蓄え、それを組織が関わるコミュニティに適応すること、3)方針策定、管理、実施、サービス提供に組織の文化方針や価値観を具現化させ、患者、関係者、住民などの参加を促すこと、を含む。 文化能力は、短期間の研修などで身につく知識やノウハウではなく、異文化に対する自分の態度を含むため、時間をかけて発達するものである。(柳澤理子) |
用語 | 米国国際開発庁 |
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概要 |
(英語訳: USAID, United States Agency for International Development) 米国政府において、世界の貧困の終焉、強靭かつ民主的な社会の実現を理念として、ジョン.F. ケネディ大統領時代の1961年に設置された機関。本部はワシントンD.C。 米国の利益の拡大と開発途上国における生活の向上という2つの目的を持つ米国の対外支援政策の実施を行い、100か国以上に支援を提供している。USAIDの事業実績は約131億ドル(2017年)で、保健に対する支出はHIV/エイズ対策を中心に19.4億ドル(約15%)を占めている。 支援分野は、経済成長、民主化と良い統治、人権、グローバルヘルス、食糧安全保障と農業、持続的な環境、教育、紛争予防と復興、人道支援と多岐にわたっている。そのうち、グローバルヘルスに関しては、家族計画、母子保健、マラリア対策や栄養に関する「母と子の死亡の予防」、米国大統領緊急エイズ救援計画(U.S. President's Emergency Plan for AIDS Relief: PEPFAR)の主要実施機関として「HIV/エイズ蔓延のコントロール」、結核対策や顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Disease: NTD)に新興感染症対策を含めた「感染症への対策」の3つの優先戦略事項を掲げている。(平岡久和) |
用語 | 産前健診・妊婦健診 |
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概要 |
(英語訳:ANC, Antenatal Care or Prenatal Care) 妊婦およびその胎児の健康状態や社会経済状況のスクリーニングとケアを行うこと。 一般的なスクリーニング項目は、体重、血圧、腹部(子宮)の計測、胎児心音の聴取、尿検査等である。医師、助産師、および産前健診に必要な技術をもった保健医療職員が妊娠・出産に伴うリスク因子を査定し、リスクの程度に応じた妊娠期の生活指導や出産場所を検討する。途上国では特に、破傷風の予防接種、貧血の予防・治療、HIV 陽性者へのART(抗レトロウィルス療法)、マラリアの予防・治療などの機会として重要である。 その他、栄養、母乳育児、生活習慣や妊娠中の危険な徴候についての指導も行う。産後ケア(Postnatal Care: PNC)とともに周産期死亡率の低減および肯定的な出産体験に不可欠とされ、WHOは妊娠中に最低 8回の産前健診を推奨している。産前健診の実施率(Antenatal Care Coverage: ANC Coverage: 15~49 歳の女性で、妊娠中に少なくとも 1 回、助産専門技能者によるケアを受けた女性の比率)は、妊娠期のヘルスケアへのアクセスと利用に関する指標の1つであり、国・地域で格差があるだけではなく、同国内の居住地や世帯資産によっても大きな格差がある。(小黒道子) |