国際保健用語集

用語 世界銀行
概要

(英語訳 :The World Bank)

1944年のブレトンウッズ会議でIMF(国際通貨基金)とともにIBRD(国際復興開発銀行)が創設された。世界銀行は独自の規約を持つ国連の特別機関であり、世界最大の援助機関である。世界銀行は一般にIBRD(国際復興開発銀行)とIDA(国際開発協会)を意味する。これに姉妹機関であるIFC(国際金融公社)、MIGA(多数国間投資保証機関)、ICSID(投資紛争解決国際センター)をあわせて世界銀行グループと呼ぶ。本部はワシントンにある。

IBRD(国際復興開発銀行)の当初の目的は、戦争破壊からの復興と開発途上国における生産設備および生産資源の開発であった。最近は、開発途上国の貧困緩和と持続的成長のための支援を目的としている。

IBRDとIDAは各国のマクロ経済調査などの各種調査を行い、国別支援戦略を決定し、支援の重点分野を決定している。その後、借入国政府や他の援助機関との対話を行いつつ、具体的な支援プログラム・プロジェクトを決定している。案件の実施は借入国自身が行い、IBRDとIDAはこれら事業が円滑に実施されるようモニタリングを行っている。2018年7月現在189カ国が加盟している。

IDAは準商業ベースの条件での借入が困難な貧困途上国に対して、より緩和された条件で融資を行うことを目的としている。IBRDの事業資金は市場からの資金調達により行われており、IDAの融資のための事業資金は、先進国からの出資金、IBRDの純益の移転などにより行われている。世界銀行グループの5つの機関はその管理上、共通の事業所を使用しており、世界銀行の総裁に対して責任を負う。(杉下智彦)

用語 微量栄養素
概要

(英語訳 : Micronutrient) 

微量栄養素とは、微量ながらも人の発達や代謝機能を適切に維持するために必要な栄養素であるビタミン、ミネラル(無機質)を指す。ビタミンはさらに脂溶性(ビタミンA、D、E、Kの4種類)と水溶性(ビタミンB1、B2、B6、B12、パントテン酸、葉酸、ナイアシン、ビオチン、ビタミンCの9種類)に分類される。

ビタミンは、タンパク質、糖質、脂質がエネルギーに変換される際の代謝サイクルに必要不可欠な栄養素であると共に、それぞれが異なる身体機能維持に作用して体を健康な状態に保っている。

ミネラルは、生体を構成する主要4元素(酸素、炭素、水素、窒素)以外の元素の総称で、必須ミネラルは16種類である(カルシウム、リン、カリウム、硫黄、塩素、ナトリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、クロム、ヨウ素、セレン、モリブデン、コバルト)。

微量栄養素が長期的に不足すると、欠乏症と呼ばれる健康障害を引き起こす。WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)では、年齢、性別ごとの成長に必要、且つ健康維持に必要な微量栄養素の必要摂取量を定めると共に、過剰摂取による健康障害を予防するための許容上限摂取量を設定している。また、WHOは世界の微量栄養素欠乏症情報システム(Vitamin and Mineral Nutrition Information System)を有し、国・地域別の微量栄養素摂取状況や欠乏症有病率などの情報を提供している。(水元芳)

用語 保健システム強化
概要

(英語訳:Health system strengthening)

保健システムは、健康に寄与する要因を改善して健康を増進・維持し、必要な人々に適切な疾病治療を行い、保健医療サービスを必要とする人々すべてに適切に提供するために必要な組織とその活動である。保健システムの目的は人々の健康が向上し健康格差が改善し、同時に住民が財政面で巨額な医療支出から守られることであり、そのために行政・財政や人材、医薬品、資機材、施設などを整備・拡充する取り組みが保健システム強化である。

疾病対策などの各プログラムが各々別々に取り組むことによる重複したシステム構築や、部分的な最適化では全体を最適化できないという教訓から、全体的な最適化の重要性に基づいて、保健システム強化の重要性が提唱された。

保健システムとその強化に関する共通理解を促進し優先課題を整理する目的で、WHO(世界保健機関)は2007年に保健システム強化戦略のための統一枠組み(6つのビルディング・ブロック)(→参照:冒頭の図をクリックすると拡大)を提唱し、この枠組みに照らして課題に対処し保健システムを強化して持続性のある成果の達成を目指した。保健システムは、適切な予算とエビデンスに基づいた保健政策と計画に裏打ちされ、質の良い教育を受け動機づけられた保健人材が適切に配置されていることや維持管理された施設・設備、質が担保された医薬品・資器材と技術が調和することで人々の保健サービスへのアクセスが改善されカバレージが広がるとともに、サービスの質と安全性が担保される。

同時に、感染症の流行や緊急事態などのグローバルな保健脅威に対応できる弾力性のあるシステムであることも重要である。(江上由里子)

用語 識字率
概要

(英語訳 :literacy rate ) 

成人の識字率と言った場合、15歳以上で読み書きできる者の比率を指すことが多い。実際には、識字・非識字の定義は様々である。文字を読んで理解し書き記すことができる能力のことを指すだけでない。自己の姓名を記し得る者、いわゆる自署率を識字率としている場合もあれば、情報リテラシー、コンピュータ・リテラシー、統計リテラシーといった新しい識字の概念を含めて識字と表現する場合もある。

日本では、成人の識字率は近年公的に調査されておらず、初等・中等教育の就学率が代替データとして示されている。平成27年度に公表された文部科学省による実態調査によると、外国籍など様々な背景により夜間中学やボランティアなどによって運営されている識字教室に通っている生徒が相当数存在し、不登校等により十分な教育を受けないまま中学を卒業している、いわゆる「形式卒業者」も含まれていることが報告されている。

世界的には、ユネスコのほか、ユニセフ世界銀行など国際機関が各国政府機関やNGO等が連携し、万人が初等教育を受けられるよう対策に取り組んでいる。ユネスコのGlobal Education Monitoring (GEM) レポート2017/8によると、直近の推計データで世界の大人の識字率は86%で、7.50億人が識字スキルを欠いていると報告している。(白山芳久)

用語 キャパシティ・ディベロップメント
概要

(英語訳 : CD, Capacity Development) 

キャパシティ・ディベロップメント(CD)の概念化・理論化に最も早くから取り組んでいる国際機関の一つである国連開発計画(UNDP)は、キャパシティを「個人・組織・社会が、期待される役割を果たし、問題を解決し、目標を設定してそれを達成する、自立発展的な能力」、CDを「個人・組織・社会がキャパシティを獲得し、高め、維持していく経時的な過程」と定義している。また、日本政府の援助機関であり、被援助国のCDを重視する国際協力機構(JICA)によると、CDとは「途上国の課題対処能力が、個人、組織、社会などの複数のレベルの総体として向上していくプロセス」である。

このように、CDの定義にはいくつかのバリエーションが見られるが、多くに共通するのは、被援助国自身の自立的な問題解決能力の獲得・向上・維持(主体性・自立性)に焦点を当て、個人、組織、制度・社会という複数のレベルにおける総合的な能力向上(複層性・包括性)を重視する視点である。

なお、キャパシティ・ビルディング(Capacity Building)については、CDとほぼ同義で用いられることもあるが、?個人または組織における個別的能力向上に限定した概念、?能力向上を促す外からの介入行為に焦点を当てた概念、?単発的な能力向上に焦点を当てた概念として、包括性、自発性、継続性を重視するCDと区別して用いられることもある。(瀧澤郁雄)